映画『アス』ネタバレ感想。ドッペルゲンガーに襲われる、すべてが意味深なとんでもホラー。ラスト考察あり。

映画 アス ホラー

原題:Us
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆
グロ苦手でもいける度:☆☆☆☆

【一言説明】
そっくりさんが襲ってくるよ。

アス 映画 ジェイソン

使用人ダッシュの怪作『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール氏が監督したホラー『アス』。先日Amazon Prime Videoを視聴中、ふと検索してみれば、なんと無料配信になっているじゃないですか。
なんだよ、もっと早く言ってくれよ。
クッション両手に、いそいそと視聴した次第です。

主演は『それでも夜は明ける』のルピタ・ニョンゴさん。共演に『ブラック・パンサー』のウィンストン・デューク氏が出演されています。

色々とヒェッな展開は起こるものの、グロテスクな描写はほぼほぼなく、若干の血しぶきがボンバヘッするくらいで済んでいるため、そっち系が苦手な人でも大丈夫そうです。

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あらすじ

世界に似た人は三人いる。
とはよく言えど。
その日、アデレードウィルソン家の四人が遭遇したのは、てるってレベルじゃないくらいに酷似した、自分たちのそっくりさんだった。

「そんな……うそ……」
驚愕するアデレード。
「私って……双子だったの?」
「双子じゃねーし」

果たして、彼らの正体と目的は何なのか……。
悪夢の一夜が始まったのだった。

※以下ネタバレです。若干の残虐描写も含むため、未見の方と苦手な方はご注意を。

 

 

 

 

感想

『ゲット・アウト』が面白かったため、期待を大にして挑んだ本作。
冒頭で少女時代のアデレードが、サンタクルーズのビーチにあるミラーハウスに迷い込み、そこで自身にそっくりな少女に出会って驚愕する……という掴み。
その後、成長して家族を得たアデレードが夏の休暇で再びかの地を訪れたその夜、別荘に自分たち一家にうり二つの四人が現れ、彼らと死闘を繰り広げる羽目になる……という展開。

そこまでの下りがものすごく不気味で、これは面白いんでねーの! とテンションが上がりました。
ジョーダン・ピール監督お得意の、あちこちに伏線と考察必須な仕込みをばらまき、謎が謎を呼ぶ展開に、一体このそっくりさんたちの正体はなんぞや? と非常にワクワクしていた……んですが。

着地が若干骨折気味だった。

終盤で明かされる真相に、「……うん?」となったというか、さすがにそれはありえないだろうと急に現実に戻されたというか、M・ナイト・シャマラン監督作品を見た後のアレ的空気に通じるものがあったというか。
リアリティが欠如しすぎていて、最後の最後でノれない結果となりました。

結局のところ、一家を襲ってきたそっくりさんたちは、アメリカの地下空間で暮らしていたクローンだった、というオチで、かつて政府の研究により誕生した彼らは、実験に失敗したためそのまま幽閉、放置されていたのが、しぶとく何世代にもわたって生き延びており、今回、集団で決起して地上への侵攻を開始した……という流れ。
だから、アデレード一家たち以外の人々も当然襲われており、一夜明けて外に出てみると、地上の世界は死屍累々。自身の分身を殺害し終えたクローンたちが手をつなぎ、アメリカ大陸を横断する人間鎖が広がっていた……というところで物語は終了します。

タイトルの『Us』は『わたしたち』以外に、『United States』の意味も含み、監督の意図としては、一部の特権階級によって虐げられている非富裕層の現実=アメリカの現状的なものを描いたそうなんですが。
ちょっとふわふわしすぎていた。
アメリカの地下には膨大な空間が空いていて、そこでクローンたちが暮らしている……はいいにしても、当の昔に破棄されたものを、なんで普通に電気が通ってるんだとか、衣服はどこから入手したのさとか、実験によって地上の人間と魂を共有したクローンはともかく、その後の繁殖によって誕生した子孫も、なんで地上の人と一切合切リンクしてなきゃあかんの? それって最早クローンじゃないんじゃないの? とか、とにかく気になることがありまくり。

魂を共有しているため、本体の行動や思考にクローン側が引きずられる、という設定はうなずけるし、幼いアデレードの回想にて、地上のビーチで映し出される光景の劣化版みたいなものが、地下でも繰り広げられていた……というのはなかなかに不気味(その場にいる人々の配置や、行動などがほぼ同じ。地上でカップルがディナーを食べていれば、地下でカップルのクローンが生のウサギを貪り食っている、など)。

ただ、どうしても寓意的な絵面が前に出過ぎていて、整合性が犠牲になってしまった印象です。
あえてやっているんだろうなとわかってはいても、ミラーハウスの中にあった地下への一方通行のエスカレーターがなんで今も撤去されていないのかと、ツッコんでしまうわが身が悲しい。

そんな感じで、真相は残念だったものの、ラストで明かされるどんでん返しは素晴らしかったです。
実はアデレードだと思っていた主人公がクローンで、襲ってきたクローンこそが、本物のアデレードだった。
冒頭のミラーハウスのシーンの続きとして、本物のアデレードは、クローンに首を絞められて気絶 → 地下まで引きずられ、ベッドに手錠で拘束 → その隙にクローンがアデレードに成り代わる → 地下のクローンたちは何の教育も受けていない=言語能力がない=恐怖体験のショックで失語症になったと思われる……という見事な伏線回収。
思えば、両親が精神科医と話している後ろで、様々な動物の人形をアデレードが並べていたシーン。あそこで最後の一体にウサギが置かれるのもさることながら、並べられた動物たちが、まったく分類されずにバラバラだったのも、アデレード=クローンであることの伏線だったんですね。鳥類も哺乳類も、肉食動物も何もかもが入り乱れすぎ。普通に教育を受けた子どもなら、少しは分類しようとするはず。

様々な憶測を呼ぶラストシーンですが、筆者なりの考察を。

●映画ラストまで、アデレードは自分がクローンであることを忘れていたのか?
おそらく答えはイエス。入れ替わった当初は邪悪な笑みを浮かべていたので、その後しばらく記憶はあった。けれど、クローンと本体は魂を共有している → 本体として振舞ううちに、本体の記憶を自分のものと錯覚、成り代わった事実を時と共に忘れた。
で、ラストにて思い出した。

●ジェイソンはもしかしてクローン?
おそらく答えはノー。
ジェイソンとクローンは、大人や姉と比べて行動のシンクロ率が高かった。子供時代に入れ替わったアデレードが、本体とクローンの主従関係を逆転できたように、おそらく幼少期はまだ主従関係が確立されていない=互いの影響を受けやすい。
彼が砂浜で、お城ではなくトンネルを作っていたのも、地下にいるクローンの影響を受けていたからで、これは幼い子供は本体にもクローンにも成りえる=可能性は無限大、という希望を体現してるんでねーの、と勝手に思っております。
多分、クローンの顔に火傷の跡があったのは、本体がライターのマジックを練習していたときに、クローンも地下で火をつけようとして事故った → 火への恐怖心が芽生えたため、去年はできたライターのマジックを本体も忘れた、的な流れではないでしょうか。

●ラストでジェイソンが仮面を被ったのは?
母がクローンであることを理解したうえで、それでも彼にとっての母親は、今目の前にいる彼女だという意思表示。
思えば『13日の金曜日』のジェイソンも、母は連続殺人鬼だったわけで、どれほど他者に対して恐ろしく振舞おうと、自分に向けられる愛情は本物……という、前向きな感じなんじゃないすかね。

全然違うかもしれないけど。

何はともあれ、なかなか面白かったです。

人物紹介

●アデレード(実はレッド)
本作の主人公。少女時代に訪れたミラーハウスで、自身のドッペルゲンガーに出会い、その恐怖に今も悩まされている……。
と見せかけて。
実は盛大にやらかした過去から逃げてただけという、観客もびっくりな真相を披露してくれる。
そりゃ怒るわー。本物のアデレードさん怒るわー。いきなり手錠で拘束されて、この先一生主食は生のウサギだよって言われたら怒るわー。
決起したくもなるわー。

入れ替わった当初は邪悪なアルカイックスマイルの名手で、お母さんに見つかったら、どこでそんなもの覚えて来たの、とこっぴどくどやされるに違いない邪悪さを見せる。
その後、時が経つに従い、次第に己の所業を忘れ去っていたが、クローンたちの襲撃を受けるにあたって、かつての邪悪さが逆戻り。暖炉の火かき棒を手に、次々とクローンたちに手をかける好戦的性格を見せ、ついには本物のアデレードに止めを刺す際、クローン特有の雄たけびをこれでもかと上げてくれる。
怖い。

その後、このクローンウォーズがどうなったのかは定かではないが、生き残った地上組は完全な猛者と化しているため、なんだか殺伐とした空気が流れてそうでうっふん。

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●レッド(実はアデレード)
一家を襲撃してきたクローンたちの長。
アデレードにクリソツな容姿……なのだが。声もさることながら、話し方、怖っ!
何かを押し殺したような、かすれた声でしゃべるので、何もそんな怖さを煽らんでも……と思っていたら、なんと入れ替ったときに首を絞められた後遺症で、そんなホラーな声しか出せなくなったことが判明。そら怒るわー。

文明的な地上から一転、唸り声しか上げない荒ぶる地下世界に取り残されてしまったのだが、とりあえず、誰がどうやって彼女の手錠を外したのか本当に謎。でもって、下り方向しかない地下エスカレーターを、彼女がどうやって駆け上がって来たのか本当に謎。
そもそもが、手錠が外れた時点で地上に戻ってきたらよかったのでは……と思ったのだが、やはりあれか。下りエスカレーターが長すぎて、子供の体力では駆け上がることができなかったんでしょうか。
大人になって体力・気力ともに充実したため、エイヤッつって、駆け上がって来たんでしょうか。
なるほど、だからこのタイミングでの襲撃だったんだな。
と本気で納得しかけたんですが、多分どっか別の場所にも出口があったんだろーね。さすがにね。

ラストの地下対決では、火かき棒でぶん殴って来るアデレードを、バレエのステップで華麗に回避。おそらくは、14歳でバレエの道を断念せざるを得なかったアデレード=クローンとしての才能の限界=やっぱりオリジナルのほうが性能が上だで! なシーンだったのかなと思わないでもないけれど、結局は最後にお腹をぶっ刺されて死亡。
冷静に考えると、かなり踏んだり蹴ったりな人生だった気がするので、かわいそうになる。

でも、よくよく考えると、彼女が地下住民を決起させたのは、大義名分があるようで、実際には偽アデレードへの復讐が目的だったかもしれないので、そのあたりはなんとも皮肉。

●ゲイブ
アデレードの夫。本作のコメディリリーフ。
最初のうちこそ、クローン撃退に活躍していたものの、後々は殺る気が荒ぶる妻に押され気味になっていく。
車を誰が運転するか議論した際には、「俺は二人倒しましたー」的な主張をするも、誰も聞いてくれなかった。
とりあえず無事でよかったよ。

●ゾーラ
ウィルソン家の長女。しょっちゅう音楽ばかり聞いている姿が印象的。
初回襲撃時は、怯えて逃げるだけだったが、念願のハンドルを握ったが最後、威風凛々。自身のクローンを故意に跳ね飛ばすという所業を見せる。
ハンドルを持つと性格が変わるタイプ。
彼女に免許は取らせないほうがいいと思うヨ。

地下にさらわれた弟は気になるものの、父と一緒に路上に放置された救急車をゲット。その後はメキシコを目指して走り去って行った。

●ジェイソン
その名にちなんでお面を被っているウィルソン家の長男。
よくしゃべる父とは対照的に、言葉数は少なく、「あの子変よ」と言われたりする、クローン疑惑のある少年。
自身のクローンとは互いに影響を受け合っているようで、自分の動作を相手がそっくり真似するという性質を利用し、炎上する車に後退させて倒すという、よく考えるとドイヒな手柄を上げる。
その直後、潜伏していたレッドに拉致され、地下のロッカーに監禁される。
助けにやって来た母の恐ろしい姿に最初は怯えるものの、出自がなんであれ、母は母で、自分に向ける愛情に偽りなどないことを理解したのか、抱き合って生存を喜んだ……と思いたい。

●ウィルソン家のクローン
レッドとその愉快な家族たち。
地上のアデレードの選択に引きずられ、地下で同じ相手のクローンと結婚、出産したようだが、「あんたの娘はいい子なのに、うちの子は邪悪なスマイル浮かべて生まれてきたよ」と非難轟轟の結果となる。
さすがに産んだ子どもは取り換えてはいないと思うので、もとは本体だったレッドが、元レッドだったアデレードの幼少期にそっくりな笑みを浮かべる娘を生んだというのが、なんとも業の深い設定じゃのう……とエグ味を感じます。
そしてゲイブのクローンは、やっぱりゲイブと同じで目が悪いらしいのですが、それって遺伝的なものなのか後天的なものなのか。設定がアリエネーゼってなってしまう自分が悲しいデス。

●タイラー家
ウィルソン家と交流のある一家。湖の対岸の別荘に滞在している。
同じくクローンたちの襲撃を受け、ほぼ一家同時に全滅してしまう。
別荘の内装を見るに、かなりの富裕層。

●タイラー家のクローン
首尾よく本体たちを殺害に成功……したと思ったら、やってきたウィルソン家に一掃されてしまう。
倒したと思ったら実は死んでなかったり、奇声を上げて飛びかかってきたり、新作のリップを試したり、行動がとってもホラーチックで好感が持てます。

●11:11の人
アデレードの幼少時代にも遭遇。大人になってからビーチを訪れた際、胸から血を流して救急車で運ばれていった。
その後、浜辺で彼のクローンらしき人物が手から血をしたたらせて立っているのをジェイソンが見ているので、早い段階でクローンの襲撃を受けた模様。
地上側から見ると、彼も貧困層に位置していそうなのだが、地下から見れば、報復対象以外の何者でもないらしい。

●ウサギ
地下でぴょんこら跳ねているウサギたち。
冒頭ではケージに入れられていたが、決起した地下人類が地上に出るにあたり、解放してもらった模様。
役割は地下人類の食料。彼らは生で食べていたというが、焼くという概念はなかったんかいな。

●監督
ジョーダン・ピール氏。『ゲット・アウト』といい、本作といい、素晴らしい作品をありがとうございます。次回作もとてもとても楽しみにしております!

↓Amazon Videoにて好評配信中。この恨み、晴らさで置くべきか。

↓『ゲット・アウト』の感想はこちら。じわじわ怖い、違和感ホラー。

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