映画『ゴーストランドの惨劇』ネタバレ感想。姉妹を襲う過酷な運命に目を覆う。キャンディ・カーは不吉の予兆。

ゴーストランドの惨劇 映画 ホラー

原題:GHOSTLAND
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
美人姉妹がひんでー目に遭う。

ゴーストランドの惨劇 映画

新型コロナの影響か、ずーーっと準新作百円セールをやっていなかったジモYA(地元TSUTAYA)が、この度ようやく解禁。うっほっほ、うっほっほとバナナを片手にした大猩々のように浮足立って来店してみれば、あらまあ、長い間に溜まっていた珠玉のラインナップがお出迎え。
そこで見つけたのが、本作『ゴーストランドの惨劇』。
たしか、姉妹だか一家だかが、何者かに何かされてなんとかだった気がしたような……うろ覚えながら、とにかく不穏な印象のポスターが素敵。

主演は『ブリムストーン』のエミリア・ジョーンズさん。彼女の成長した姿に、TVドラマで活躍するクリスタル・リードさん。そしてお母様役に、歌手のミレーヌ・ファルメールさんが出演されています。

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あらすじ

ポリーンとともに、叔母の遺した屋敷に引っ越してきたベスヴェラの姉妹。
期待して足を踏み入れた新居は、良く言って年代物。本音を言えば、超不気味。

そこかしこに転がる人形。壁を埋め尽くす昆虫の標本。
飛び出て来る、しかけ鏡のからくり人形。

「こんな家……出てってやるわ!」

入居当日に叫ぶヴェラ。
だがその背後で、怪しい黒い影が彼女たちの様子を窺っていたのだった……。

※以下ネタバレ。何も知らないで見た方が百倍楽しめるタイプの映画です。そして多少の残酷な描写を含みますので、ご注意ください。

 

 

 

感想

ひどかった。
予想以上に惨劇だった。
15、6歳のうら若き少女たちが、なんでこんな目に遭わんといかんの……? と思わず天を仰ぐ凄惨さ。
でも正直に言うと、めっちゃ面白かったです。

ものすごく悲惨なんだけれど、先が気になって仕方がなく、ホラーとしての怖がらせ方も一級品で、とにかく見ることをやめられない作品でした。

↓おおまかな流れは以下。

1.引っ越し途中の三人の車を、後ろからやってきたピンクのキャンディ・カーが追い越そうとする。車内から、誰かがこちらに向かって手を振っている。
大人しく手を振り返すポリーンとベス。さりげなく中指を立てるヴェラ。お行儀が悪い。

2.途中のドライブインで休憩する一家。
店内からふと外を見ると、先ほど追い越していったはずのピンクのキャンディ・カーが通り過ぎていく。なんか変じゃねと思うも、とりあえず気にしないことにするヴェラ。

3.亡き叔母の家に到着。からくり人形に脅かされたうえに、情緒不安定な妹を優先する母に不満を漏らすヴェラ。
「ベスばっかり。あたしはどうでもいいわけ?」
引っ越し作業のために開け放たれたドアの向こうから、そっと近づいてくるピンクのキャンディ・カー。
ヴェラー、後ろ、後ろ~~!

4.気づかず室内に戻るヴェラ。
つかの間の静寂の後、突如侵入してきた二人組の男に襲われる三人。
巨漢の男にヴェラが引きずられていき、一階へ逃げたベスも、もう一人の男に襲われる。が、そこにポリーンが助けに入り、「今のうちに逃げなさい!」と叫ぶ。
そして死闘の末に相手を刺殺。
母ちゃん強ェー。

5.それから数年後。大人になったベスはホラー作家として成功しており、都会で夫と子どもとともに、満ち足りた生活を送っていた。
そこに突如かかってくるヴェラからの電話。
「お願い、戻ってきて。あいつが来る。助けて、あいつが来る……ぬぎゃあぁー!」

ベス「ごめん、実家帰るわ」
夫「うん……キヲツケテネ」

6.数年ぶりに実家に戻ったベスを、まったく老ける気配のないバケモノ母ポリーンが出迎え、二人でヴェラの様子を見に行く。
なぜかヴェラは地下室で生活しており、身体は傷だらけで錯乱している様子を見せる。
「姉はまだ、あの夜の悪夢から抜け出せていないのだ」と考えるベス。

7.ヴェラのため、しばらく実家に滞在しようとするベスだったが、朝起きると、鏡に赤い文字で『HELP ME』と書かれていたり、「あの子は妹を欲しがっている」と謎の言葉をポリーンが残したり、不穏な気配が見え隠れする。
そしてある夜、二階のベッドで手錠に繋がれたヴェラを発見。顔にはドギツイ化粧がしてある。
「な……何のプレイ……?」と思ったのもつかの間。
突如何もない空間で、誰かに殴られているかのように、右に左によろめくヴェラ。
パントマイム上手すぎ……というレベルではなく、驚くベスの目の前で、ヴェラの指が変な方向に反った……と思ったら、☆☆☆☆
救急車を呼びに行ったはずのポリーンも外に出たきり帰って来ず、夜明けまで救急車がやって来なくても、気にもせずにそのまま寝入ってしまうベスもなんか変じゃね……? となったところで、種明かしだよ!

  ↓
  ↓

実は5から以降の展開は、母が暴漢に殺されたことで、現実逃避していたベスが見ていた妄想だったことが判明。
「今のうちに逃げなさい!」と叫んだ後、母ポリーンは暴漢の手によって、ベスの目の前で殺害されていたのだった。
今のうちに逃げろ=物理的に距離を取る=ではなく、お得意の妄想の世界に逃げ込もうと判断したベスは、母の幻想を作り出し、逆に暴漢の姿は見えなかったことにして、監禁中の日々をやり過ごしてきたのだった。
マジかよ。

まあ、なんかそんな感じなんじゃねーのと思いつつ、もしそれが現実だったらやだなー、ひどいなーと戦々恐々としていたのが、やっぱり現実ダッタヨと突き付けられた時の絶望感。
監督は鬼か。

『ブリムストーン』でもたいがいな目に遭っていたのに、エミリア・ジョーンズさんは、なんでこんな映画にばかり出るんだい、と聞きたいデス。
やっぱりかわいすぎるのがいかんのか。
ヴェラ役のテイラー・ヒクソンさんもクロエ・グレース・モレッツさんに似てかわいいわ、大人ベス役のクリスタル・リードさんはレイチェル・ワイズさんに激似で激しく美しいわ、ポリーン役のミレーヌ・ファルメールさんは色気がパないわ、こんだけ美女ばかりそろえて、テーマがこれかYO! と叫びたくなった次第。
さすが『マーターズ』を撮った監督さんだけあるわー。件の映画は絶対に見られないけど、ネタバレを読むだけでかなりアレだわー、ってなります。

そして本作は、このどんでん返しがメイン……ではなく。むしろ、正気に返ってからの展開が肝。
何かにつけて逃避する癖のあるベスが、どうやって窮地を脱するのか。はたまた脱することができないのか。
何この映画、面白っ!
万人には勧められませんが(勧めたが最後、お前ってこういう映画が好きなんだな以下略)、最後にはまさかの前向きな展開が待っています。未見の方はぜひ。

人物紹介

●エリザベス
愛称ベス。文学系女子かと思いきや、まさかの逃避系女子だったことが判明するめんこい子。妄想の大人になった自分が、やたら美女すぎないかという意見もあるようだが、あくまで自身のポテンシャルを正当に判断した結果だと、個人的には思うくらいめんこい。
妄想世界の仕事場で、彼女の過去作のポスターがずらっと壁に貼ってあるシーンが。きっとこれは何かの伏線なんだなと目を凝らしてみたのですが、森だの谷だの、ゴーストランドだの、とりあえず場所系のタイトルが大好きなことがわかっただけでした。

ヴェラによって妄想の世界から強制帰還した後は、「なんで私を戻したのよ!」とキレたりしたものの、巨漢の遊び道具になった初日に脱走の機会を作り出すという、やればできる子の底力を見せる。
その後、姉と手に手を取って走り続けるも、一向に……一向に、民家も幹線道路も見えてこない。
どんだけ人里離れたところにあったんだよ、あの家は。
おそらくは何時間も走り続け、ようやく車の走る道路が見えたときのうれしさときたら。
しかも、たまたま通りかかったのが地元警察の車で、即座に救援を要請してもらえるとは、なんて運のいい……と思った瞬間、背後から追ってきた暴漢の一人に警察官二人が射殺されてしまうという、やはり運が悪いというより、悪いのは監督の性格じゃないのかとツッコんでしまうくらいの理不尽展開が待ち受けている。
しかも、キャンディ・カーに乗せられて、再びあの家が見えてきた……と思ってからの、妄想世界に逃避する速度の早いこと、早いこと。
絶望するヴェラの横で、一瞬で目が虚ろになったと思ったら、次の瞬間には新作お披露目パーティの会場に逃亡しているので、姉の「えっ、うそ、また……!?」の叫びが胸にくる。

が、この映画。たんに美人姉妹がひたすらひどい目に遭うわけではない。人が逆境に遭った際に見せる、思いがけない強さというものをきちんと描いている。
「現実は残酷よ。それでも戻るの?」という妄想世界の母の問いに、「戻るわ。ヴェラがいるもの」と自分の意思で帰還するベス。
その後は巨漢の手で死にかけるも、からくり人形のファインプレーに助けられ、なんとか暴漢たちに一矢報いることができたベスとヴェラ。
助かった後の救急車で、「君はとても強い子だね」と素直な感想を口にする救命士に、「ええ。私は作家だもの」と答えるベスの力強いことよ。
おそらく、二人は後々まで今回の後遺症に苦しむことになるだろうが、それすらも糧にして、妄想だった未来の姿を本物とすべく、ベスは努力していくんだろうなあ……と希望の持てるエンドでした。
お見事。

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●ヴェラ
ベスの姉。もう一人の主役。
ちょっと個性的な妹をやっかみ、彼女にばかり手を焼く母に寂しさを訴えるめんこい女子。
車内での妹作品絶賛にささくれだっていたのか、キャンディ・カーに中指を立てたのが運の尽き。多分、このポーズがなくても標的にされたと思われるが、後に黒髪の男がやり返してくるので、根には持たれていた模様。
日ごろの行いって大事という教訓……とは言えんか。ひでーしな、あいつら。

母亡き後は、妹と手を取り合って理不尽な暴力と共闘するはずが、秒の早さで妄想世界に逃亡されたため、一人で戦わざるを得なくなる。
「どうして私を戻したのよ」じゃねーわ。「なんで私を一人にしたのよ」って話だわ。
序盤では憎まれ口ばかり叩いていたが、多分妹を守ろうと巨漢の相手を引き受けていたのではないかな……と思うくらいには、思いやりのある少女。
マシュマロくれるし。
逃亡後にとっ捕まり、妹が二度目の逃避に入った際には絶望したが、その後は身を張って助けに来てくれるので、妹強い。

おそらくは、ベスよりもヴェラのほうが後遺症に苦しむと思われるが、そこは姉妹手を取り合い、仲良く再起への道を歩むんだろうと信じております。

●ポリーン
姉妹の母。さすが二人のお母さんだけあり、ドエライ美人。
ヴェラはああ言っていたが、とがった姉も、個性的な妹も、どちらも分け隔てなく愛していたのだろうと思わせるだけに、その後の展開が切ない。
てっきり、一階でベスを助けに現れた時点で妄想なのだろうと思っていたら、助けに来たのは事実だったので、たくましいお母様だ。

すべてが終わった後、二階の窓から救急車に乗ったベスたちを見送っている姿が映される。
遺体がどうなったかは定かではないが、警察の捜査で発見されるだろう。その後、姉妹に弔われて、ようやくあの家から解放されるんだろうなあ……としみじみ。

でもさ、存外目的地までの距離が遠かったのかもしれないけど、夜中に女性だけで引っ越し作業をするのはやめたほうがいいと思います。
ドアをバーンって開け放したまま、荷物を収めに屋内に入るとか、誰か来たらどうすんじゃいって……誰か来たようだ。

●暴漢二人組
でっかい人と、細っこい人の二人組。かわいいピンクのキャンディ・カーに乘って、一家の後をつけて来る。車の外観を見て、わぁかわいい……と思った人が、中から出て来た相手を見てギャップ萌するかどうかは定かではない。

ベスが読んだ新聞記事を見るに、他にも五件ほど事件を起こしていた模様。
少女を人形化することや、痩せた方は女装していたこと、巨漢の方がののしられる幻影を見たことなどを鑑みるに、彼らには相当悲惨な過去がありそう……なのだが、同情すると思ったら大間違いダヨ!

ハサミで首根っこ刺したのにピンピンしとるし、体力の限界まで走って逃げたのに、フツーに追いつく上に、警察官二人を瞬殺するし、キャンディ・カーは外見だけかと思いきや、中にも本当にキャンディ吊るしてあるし、からくり人形相手に死闘を繰り広げるし、ガッツを出したベスに身体のあちこちの皮膚を☆☆☆☆されるし、トラウマになるから、ほんとやめてー。

ベス優勢 → 劣勢 → 命の危機! からの、現れた警察官にバーンな展開になったときは、本当に心からほっとしました。
これもしかしてバッドエンドあるかもだよ……と思ってた時の絶望感といったら。
こういう監禁系は、外部の第三者が介入した途端、あれほど恐ろしかった暴漢たちが、弱体化というか、無力かつ滑稽な存在に見えてしまうのも、逆に被害者の傷の深さが窺えてなんとも。

もし万が一『ゴーストランドの惨劇2』なんてのがあったら、この二人のオリジンをやるんでしょうか。もしくは、どっこい死んでなかったキャンディ一味、とかになるんでしょうか。
見たくないけど、見たいような……出るなよー。絶対に出るなよー、続編。

●ドライブインの店主
序盤だけの登場かと思いきや、終盤、警察が家に踏み込んだ際に、「うちの店に寄って行ったのよ」と証言している姿が映される。
どれくらいの時間が経過したのか謎だったが、彼女の反応を見るに、襲撃からそれほど経ってはいなかった模様。引っ越し後の様子を見に来るにも、あまりにも人里離れていて、あの子たち来ないわねーくらいの認識だったのだろうか。
というか、あの家スーパーはどこに通う予定だったのだろう。アメリカはスケールが広すぎてのう。

●警察官
命からがら逃げて来た二人を見て、とんでもない目に遭ったことを瞬時に察知。慌てて保護しようとするも、「妹に近寄るんじゃねえ!」と荒ぶるヴェラの剣幕に、中々近寄れなかったかわいそうな人達。
あそこですぐに車内に保護していたら、おそらくは銃撃を回避できていたのでは……と思わないでもない。
姉妹を見つけたのはずいぶん開けた草原だったのだが、後ろから近寄る暴漢に気付けなかったのは、それだけ二人のあり様がひどかったせいか。

●妄想世界の登場人物
夫やインタビュアーなどのメイン人物は、全部叔母宅に置いてあったポスターや写真などを基にベスが作り上げた。
序盤に、ヴェラが「ベスの書いたものを読んだ? あの子、自分が作家としてインタビューされたときの受け答えまで妄想してるのよ」と言っていたので、からくりに気付いた人は多いと思われる。

●監督
パスカル・ロジェ氏。『マーターズ』は見られそうにないですが、『トールマン』はいけそう。多分。
とても面白い作品をありがとうございます。

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