映画『ハドソン川の奇跡』ネタバレ感想。奇跡の不時着を成功させた英雄=容疑者な超おすすめ作品。

原題:Sully
2016年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆☆

【一言説明】
川に不時着せんでもよかったんでねーの。

ハドソン川の奇跡 映画

数ある飛行機ものの中でも、個人的傑作のリストに入る『ハドソン川の奇跡』が、この度Amazon Prime Videoで無料配信。見つけたときは、文字通りひゃっほうとなりました。

本作は、2009年に実際に起こったUSエアウェイズ1549便不時着水事故を、クリント・イーストウッド氏が映画化。両方のエンジンが停止しながら、乗客乗員含めて全員生還した奇跡の出来事として、ニュースでも取り上げられていた記憶がございます。

主演は名優トム・ハンクス氏。副機長役には『ダークナイト』のアーロン・エッカート氏を迎え、機長の妻役に『トゥルーマン・ショー』のローラ・リニーさんが出演されています。

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あらすじ

鳥よ、鳥。されど、鳥。
ライト兄弟が有人飛行に成功してから早百年超。科学の進歩は目覚ましく、今や数百人を乗せるジャンボジェットが空を行く時代。
けれど、いくら技術が発達しようと、稀に起こってしまうのがバードストライク。翼に備えたエンジンに、不運にも鳥が接触することで起こる事故だ。

副機長「大丈夫ですよ。今日の運勢は、さそり座が一位でした」
機長「最下位は?」
副機長「みずがめ座です」
機長「私はみずがめ座だ」
副機長「」

彼らの嫌な予感は的中する。
どちらか一方ならともかく、まさか両翼のエンジンが同時バードストライク&同時機能停止に陥るとは……。
為五郎でなくとも、びっくりです。

※以下ネタバレ。未見の方はご注意ざんす。

 

 

 

 

感想

この映画、大好きっ! 
飛行機が大の苦手な身としては、墜落する、もしくは墜落しそうになる映画というのは、できれば二度と見たくないと思いがちなんですが、本作はまったくもってウェルカム!
というか、傑作!
何度見たかわかんねーぜってなくらいに、繰り返し視聴しております。

実際の事故が2009年というだけあり、当時の報道を覚えておられる方も多いのではないでしょうか。
NYはラガーディア空港を離陸したUSエアウェイズ1549便が、巡航高度前にバードストライクを受け、両方のエンジンがほぼ同時に停止。空港に引き返すには高度が足りないと判断した機長が、ハドソン川に不時着水させ、乗員乗客全員が助かったという、まさに奇跡のような出来事です。

事実を基にした……とは謳っているものの、実際には映画のように、あからさまに「お前の判断間違ってたんちゃう?」的な扱いは受けなかったというか、事故の調査は形式的なものだったようです。
そりゃそーだ、と思うのですが、これは映画。あくまで映画。
めちゃくちゃ感じの悪い調査委員会の面々が、「なんで川に不時着したの?」「出発地もしくは近隣の空港に着陸できたでしょ」「機械のシミュレーションでは可能だったよ」「君の判断、間違いだったんじゃねーの?」と、鼻持ちならない態度でブイコラ追及してくる。

何のため? と言ったら、そりゃもうあなた。
航空会社と保険会社がタッグを組み、NYはど真ん中のハドソン川に不時着しやがった責任の所在を追求するためだそうです。
ク●めがー。

実際にはそんなことなかったとはいえ、こういう展開を見せられると、「やっぱりなー。会社の上層部と保険会社ってやつはよう……」とものすごく納得してしまいがちなのは、映画の見すぎでしょうか。
過去に感想を書いたものでも、『[リミット]』や『アンストッパブル』などでやらかしてくれてますからね。上の人たちはね。やーね、ってなもんです。

果たして、英雄から急転直下、容疑者扱いとなった機長サリー・サレンバーガーの運命やいかに……?
という内容なんですが、構成が見事の一言。
本作は、事故後にサレンバーガー機長ことサリーと副機長のスカイルズ氏が、委員会の調査を受ける合間に、事故当時の回想をまずは外側から、その後コックピット内部から映すという流れで進む。
バードストライクが起こってから、ハドソン川に降りるまでの間に、機長と副機長が実際にはどんな会話をして、どうして不時着するに至ったのか……という点が、最後の最後にしか語られない。
だから、機長を容疑者扱いする委員会の言い分に、もしかして一理あるのか……? と不安になる。
自身を含め、155人もの命を救ったこの二人が、実はNY市民を危険にさらす悪手を取っていたのだろうか、と弱気になって……からの。
大逆転。
これがとんでもなく気持ちがいい。
非常にスカッとするうえに、機長が言う通り、乗員乗客、管制塔職員、そして迅速に救出に来てくれたフェリーの乗員たち、すべての協力があったからこそ、この奇跡は起きたのだ、という感動が待っております。
最後は疑惑に固まった目を捨てて、一転、称賛を送る調査員の人々の対応も爽やか。

クリント・イーストウッド監督とトム・ハンクス氏、そしてアーロン・エッカート氏は最高です。
もう一回見よーっと。

人物紹介

●サリー・サレンバーガー機長
主人公。事故を起こした1549便の機長。全身肝人間。
いくら飛行機歴40年の大ベテランだろうと、両方のエンジンが停止して、あの冷静さを保てるとは規格外が過ぎる。
浸水する機内で、きちんと最後尾まで乗客がいないか見て回ったり、155人全員の生存を確認するまでは気を抜かなかったり、ホテルへの要望が翌日までのドライクリーニング要請だったりと、とにかく男前。
機体がとんでもねーことになっているにも関わらず、乗客の不安を煽るようなアナウンスは一切なく、唯一発したのが「衝撃に備えよ」なんだから、惚れるなって言うほうが無理。

調査委員会から、左のエンジンが機能停止していなかった可能性を示唆されたときは、自信が揺らいだかに見えたが、その後彼らがドヤ顔で提出してきたシミュレーションの結果には、「人為的責任を問うならば、人的要因を考慮すべき」という的確な要望を出し、見事自身の判断に間違いがなかったことを証明してみせた。

まさにヒーローと呼ぶにふさわしい人物に、トム・ハンクス氏をキャスティングしてくるとは、采配が神。
サレンバーガー機長の飛行機になら、安心して乗れる……と言いたいけど、なんかこう運的な関係で、あんま乗りたくないな、と思ったのは内緒ダヨ。

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●ジェフ・スカイルズ副機長
1549の副機長。機長に称賛の声が集まるのは当然だが、この人の冷静っぷりもかなりとんでもない。やはり全身が肝。
機長がハドソン川への着水を決意する横で、彼に代わってQRH(クイック・リファレンス・ハンドブック)を開き、エンジン停止時の手順を着々と、冷静に実行し続ける。
当のハンドブックは、はるかに高度が上の場合を想定していたため、結局すべて実行することはできなかったが、ぎりぎりまで手順を実行 → いざ着水を前にして、「他に方法は?」という問いに、「ありません」と答える潔さ。
大きくなったらパイロットになりたいです。

機長に比べると陽気な言動が目立つキャラ。シミュレーションが失敗するのを見て、笑っちゃってますからね。
「やるなら7月に」は名言。
エッカート氏の魅力がハンパないのだ。

●ローリー・サレンバーガー
機長の奥さん。事故後に夫より電話をもらい、ニュースを見て度肝を抜かれる。
縦に長い日本にいるとピンと来ないが、横に広いアメリカは西と東で時差があるらしい。
NYは夜なのに、電話をもらった奥さんの周囲は明るいという、さすがアメリカはスケールが違うのう。

●調査委員会の面々
ザ・憎まれ役。
世間でどんだけ英雄扱いされようとね、私はね、追及しますからね。というメンズ二人と、重鎮らしき女性一人を中心に構成される。
左のエンジンが動いていた可能性があったこと、あのままラガーディアか近隣の空港に着陸してれば、NY市民を危険にさらすこともなかったこと、機械を使ったシミュレーションでは、どちらも余裕で空港まで飛んでいくことができたことなどを理由に、とんでもない偉業を達成した二人に水をかけまくってくれる。
会社のため、もしくは厳正なる調査のためという精神でやっているのだろうが、よくもそこまで嫌な感じをかもせるもんだよと感心するレベルでゴイス。
故に、大勢の人間が集まる公聴会の場で、人的要因を加味したシミュレーションが失敗した時のカタルシスがパない。
本作がこれほど名作になったのは、憎まれ役側の名演のおかげでもあるので、まったく素晴らしい役者さんたちであります。

●乗員
1549便に乗り込んだ、よく訓練された乗員たち。
バードストライクにも(表向きは)眉一つ動かさず、即座に乗客ベルト着用を指示。指定位置に着いた後は、「身構えて。頭を下げて、姿勢を低く」を声をそろえて繰り返し続ける。
もし万が一この光景に遭遇する羽目になったらと思うと、夜も眠れなくなりそうなくらい怖い。

●乗客
ゴルフだったり、旅行だったり、それぞれが楽しい空の旅を送る気満々で乗り込んだら、どエライ目に遭った人々。
機長たちの活躍で全員が生き残ったわけだが、果たして運がいいのか悪いのかは、個人の判断にゆだねられるところ。

離陸した……と思ったら、エンジンが火を噴いているのが目に入り、直後に停電。電気は復旧したけれど、どんどん機体が落ちていくうえに、乗員が口をそろえて「身構えて」と唱え始め、ようやく機内アナウンスが流れた……と思ったら、「衝撃に備えよ」とくるので絶望に叩き落される。
しかも、浸水する機内から外に出られた……と思ったら、真冬のNYは極寒中の極寒。救命ボートの上でガタガタ震える羽目に。錯乱のあまり川に飛び込んだ乗客も数名おり、心臓麻痺にならなかったのが不思議なくらいです。
幸い、場所が観光船が行き交うハドソン川だったため、すぐさま救助の船が何隻もやって来て、見事全員生還となった。
機長の言う通り、一人でも度を失って輪を乱す人物が現れたら、あれほど迅速に避難はできず、犠牲者が出たかもしれないので、この奇跡は全員が一丸となった結果だからこそ。
本当に無事で何よりです。

●管制官
1549便からの緊急通報を受けた人たち。
川への着水はアカンと繰り返すも、その後ぷっつり交信の途絶えた1549便を相手に絶望の涙を流す。
幅はあるし、水の上だし、着水ってそんなにアカンの? と不思議だったのだが、たまたま着水方向と川の流れが同じ向きだったことと、着水時の機体の角度がすんばらしかっただけで、場合によっては衝撃で機体が分解する恐れがあったそうな。
ヒェッ……。

●ホテルの女性
あなたにならホテルを差し出すわ、と言って熱烈にハグしてくれる若い女性。
さすがは情熱大国アメリカ。役・得!

●カクテル『サリー』
ぶらっと立ち寄ったバーのバーテンが作ってくれた、機長の名を冠するカクテル。
なんかのお酒に、水をぶち込んだだけのような気がしないでもないけれど、酔っぱらいにはバカ受けだった。

●APU
機長が手順を無視して早めに起動してくれたので助かったという補助動力装置。
初回の説明字幕を見逃して、APUってなんじゃいな? と首をかしげていたのが、要するに予備の電源なんですね。
切替が早かったおかげで、機内が停電せずに済んだそうな。ほほーん。

●QRH
前述しましたが、クイック・リファレンス・ハンドブックとのこと。
緊急事態にマニュアルを開き、一つ一つ手順を実行とか、パイロットはチキンハートには務まらない職業です。
「えーと、エンジン停止の項は……」的な? 無理ぃ。

●飛行機
なんであんな重いものが飛ぶんだい? と思ったあなた。
↓の本を読むといいですよ。

揚力がなんたらで、空気抵抗がかんたらで、とにかく浮くようにできてるんだよ、だから怖くないよ。事故の起きる確率は、電車や自動車よりよっぽど低いから安全なんだよ、と書いてある。
そうか、ならば安心……できるか! 怖ぇわ!
事故った際の、個別脱出装置を早よ!

●監督
言わずと知れたクリント・イーストウッド氏。
名作が多すぎて、感無量。本作も大変面白かったです。ありがとうございます。

↓Amazon Videoで大好評配信中。まかり間違っても、こんな状況に遭遇しないことを祈る。

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