映画『The Little Stranger』ネタバレ感想。エアーズ家を襲った悲劇の元凶はなんだったか。

原題:The Little Stranger
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言感想】
真相は闇の中。

the little stranger 映画 真相 エアーズ家の沒落

Amazon Prime Videoにて、配信となっていた本作。成人男性が黒い子どもの影と手をつなぐ……という不穏なサムネイル。
同タイトルを検索し、当ブログにお越しになる方がいるようで、よっしゃそれなら見てみるか……と再生ボタンを押した次第。

主演は『スター・ウォーズ:スカイウォーカーの夜明け』にてハックス将軍を演じておられたドーナル・グリーソン氏。エアーズ家の令嬢キャロラインに『刑事ジョン・ルーサー』のアリス役ルース・ウィルソンさん。その弟役に『レヴェナント:蘇りし者』のウィル・ポールター氏が出演されています。

↓ハックス将軍の迷言が詰まった『スカイ・ウォーカーの夜明け』の感想はこちら。

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あらすじ

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり――。
かつては栄華を極めたハンドレッズ領主館
数十年ぶりに館を訪れた医師ファラデーには、子ども時代に参加した園遊会の華やかな記憶があった。
だが時代は変わった。
持ち主のエアーズ家は戦後の財政難に喘ぎ、館は次第にみすぼらしくなっていく。
そこに畳み掛けるように起こる悲劇の数々。
果たして、それは偶然か? それとも誰かの悪意故か?

※以下ネタバレです。未見の方注意。

 

 

 

感想

見終わった後は、頭の中が「???」。
えっ、なんだこれ? 幽霊もの? それとも最後のアレは誰か犯人がいんの? とよくわからない仕様。
仕方がないので、サラ・ウォルターズさんの原作小説『エアーズ家の没落』を読了。
  ↓
やっぱりよくわからん。
原作でも真相は明確には書かれておらず。読者の想像に任せるタイプの小説でした。
ただ解説に一応回答らしきものがあり、原作を読んだ後で映画をもう一度見直してみると、映画は明らかな容疑者を提示する形で作られていることがわかります。なるほどね。

物語は、邦題通りエアーズ家が没落していく様を描いています。

1.十歳のファラデー少年ハンドレッズ領主館を訪れ、美しい屋敷に魅了され、盗みを働いてこっぴどくおかんに怒られる。その後もおかんが亡くなるまで怒られる。
2.成長して医者になったファラデーが再び屋敷を訪れ、戦争で負傷した若き当主ロデリックの治療を開始する。治療費? いらないよ。こっちも論文が書けるし、屋敷に出入りできるし、Win-Winだよ
3.エアーズ家主催のパーティにて、ロデリックの姉キャロライン愛犬ジップが訪問客の娘に怪我をさせてしまい、ワンコは悲しい結末を迎える。嫌がるジップをしつこく追い回した少女も悪いよね!
4.ロデリックが精神に変調をきたし、自室に放火。このままでは屋敷が危険だ。入院させましょう → 入院。
5.屋敷のあちこちで、『S』と書かれた落書きにしてはおびただしすぎる量のサイコな文字が発見される。S=スーザン。それはキャロラインとロデリックが生まれる前に亡くなったエアーズ家の長女の名前だった。
6.ファラデー、キャロラインと婚約。屋敷であなたと暮らしたい。
7.キャロラインの母、エアーズ夫人がスーザンの幽霊が側にいると語り、様子がおかしくなって自殺してしまう。
8.キャロラインがファラデーとの婚約を解消。
「あなたとでは幸せになれない」
「そんなことはない。屋敷に住めれば私は幸せだ!
だが拒否するキャロライン。領主館を売りに出し、自身は外国に移り住むと宣言する。
9.出て行く間近の夜。階上に何者かの気配を感じて様子を見に行ったキャロライン。「あなた!」という言葉を残し、階段から落下して死亡。
10.そして誰もいなくなった。

……というわけで、非常に淡々とした語り口の中、じわじわと悲劇が一族に迫り、まずは犬。そして長男。続いて母。最後は次女……と住人が次々消え失せ、最後には無人の廃墟と化した屋敷だけが残される。
あまりに淡々としているため、何かこう、すべては必然として起こる出来事だった……とすら感じさせる。
作中でキャロラインが、「世界が私たちを必要としなくなったように感じるの」とつぶやくように、ゆっくりと静かに没落し衰退していくエアーズ家。
キャロラインの最期を抜きにすれば、時代の波に負けて自滅していっただけと取れないこともない。ロデリックもエアーズ夫人も、貧窮から精神に変調をきたした結果、ああなったのだと。

が。
原題は『The Little Stranger』=小さな異邦人。
ロデリックが「この家には何かがいる。そして僕たちを嫌っているんだ」と言ったように、何がしかの異物が屋敷に入り込んでいたとみるべきだ。
それは一体誰なのか?

原作と違い、映画には、ずばり答えがある。
ファラデー少年だ。
本作の最後は、玄関ホールから出て行く大人のファラデーを、階上から少年のファラデーが見下ろすというワケワカメなシーンで終わる。
……?
……????
まさにこれがあったからこその、脳内「???」スパイラルだったのだが、よく見直してみると約一名、本音を隠しきれていない男がいる。
ファラデー君だ。
屋敷の住人に悲劇が起こるのは、必ずファラデーが何がしかのストレスを受けた時なのだ。
ジップの場合は、キャロラインに言い寄る男が現れたとき。画面は意味深にこわばった表情のファラデーに照準を当て、その直後、何かに怯えたジップが少女にかみついてしまう。
ロデリックの場合は、敷地を切り売りすることに猛反対したファラデーに、彼が「あんたが口を出すことじゃない」と辛辣な言葉を投げた夜のことだった。

もう完全にこいつじゃん。

小説を読むとよくわかるのだが、ファラデーの領主館と上流階級というものに対する執着とコンプレックスには並々ならぬものがある。
初めて館を訪れた当時、十歳だった彼は、屋敷の美しさにすっかり魅了されてしまった。そしてこっそりと入り込んだ内部でどんぐりの飾りを盗み、そこを母親に見つかってこっぴどくしかられる。しかもその場面を、自身が写真に写るのを邪魔したスーザンに見られてしまうという憂き目に遭う。
おそらくはこの瞬間に、少年の悪意が屋敷に憑りついたのだろう。

華やかな上流階級に魅せられ、憧れ、けれど決してその一員になることは許されない存在。紳士でありたいと願い鏡の前に立つも、借りて来た服を着た異物として映るファラデー。
鏡というのは、霊的な力を媒介すると考えられている。
あの日、館に入り込んだ異物として少女の前でかいた恥が――領主館に対する執着と悪意が、鏡を通してその場に取り込まれてしまったのだろう。
悪意はその晩スーザンに憑りつき、病気という形で彼女の命を奪っている。
その後も戦争による館の衰退を後押しし、そして第二の『the little stranger』となるベティによって、大人になったファラデーが再び屋敷に招き入れられ、悲劇の第二幕が開いた……。

最期の晩に階上でキャロラインが見たものは、ファラデー少年の姿だったと想像できる。
「あなた!」という叫びは、「あなただったのね」という意味合いでもあり、「あなた、何をするつもり?」という怯えの言葉でもあった。
最後の大人ファラデーを見送る少年ファラデーの視線は、キャロラインの最期を見取った時と同じものなのだ。
怖ッ。
やはりミステリというよりはホラー枠ではあるまいか……となった次第です。

※ちなみに上記の解釈はあくまで映画版に対するものであり、原作では犯人はいかようにも取れる内容になっています。
中でもキャロラインの語るポルターガイスト説がお気に入り。超心理学の研究では、ポルターガイストの起こる家には必ず思春期の少年か少女がいるという結果も報告されているそうで、その場合はやっぱりベティが物を動かした張本人なのかしらん、とも思えたり。
でもやっぱり最後の一文を読むと、お前じゃねーかってなる。
見たはずのないキャロラインの最期の表情を詳細に思い描くことができたり、なんのかんのと悲劇が起こった際には領主館の近くにいましたー的な文章が書いてあったりとか(エアーズ夫人の部屋の鍵が落ちてた場所とか)、示唆するものは多いのですが、個人的には映画の示す真相に一票を投じたい。
大人ファラデーは無実だけれども、有罪。これが一番しっくりくる解釈でした。

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人物紹介

●ファラデー
ふとしたきっかけで、ハンドレッズ領主館を再訪することになった中年医師。
領主館大好き人間。
ロデリックの足を治療するため何度も館を訪れるうちに、住人の――主にキャロラインの信頼を得ていく。
が。演じるドーナル・グリーソン氏の端正な美貌が、作り込んだ髪型とヒゲのおかげでマイナス方面に働き、非常に酷薄そうというか、キャロライン<<<<<領主館であろうことが容易に察せられる。
映画的には、彼の負の感情に影響された少年ファラデーの悪意が住人に牙をむいている=大人ファラデーは認識してない=イノセンス……なのだが(最後は感づいていたと思われるが)、「あなたと結婚しても幸せにはなれないわ」というキャロラインの言葉には、全力で同意したくなる。

原作においては、少なくともエアーズ夫人とキャロラインの死にはを直接手を下せる立場におり、もし彼が人為的にやったことだとすると、とんでもないサイコパス……という結論が出るのだがどうなんでしょうか。夫人の場合は庭で並んで座っていたときに鍵を奪えたし、キャロラインの場合はそもそも合鍵を持っていたし。
そしてキャロラインに暴言を吐いた後に、すぐ「メンゴメンゴ」ってなるのも、どことなくDV男の気配を漂わせている気がする……おまわりさん、こいつです。

●キャロライン
エアーズ家の次女。
登場時、あまりに普通に台所で家事をしているので、彼女が令嬢の立場にあることにしばらく気が付かなかった。
というか、少年ファラデーが訪れた園遊会を仕切っていた一族とは別の人たちが住んでいるのかなとか思っていたんですが、本人ダッタンデスネ。落差がパない。
出向く先々で「美人でない」と言及される。いや、美人じゃん。演じるルース・ウィルソンさんがとってもチャーミングなので、説得力がないぞ、ちみたち。

犬に続いて、弟、母と次々に大切なものを失くし、ようやく領主館を出ようとした夜に、悲劇に見舞われる。さっさと出て行っていれば……とは思えど、やはり令嬢だからこそのしがらみに囚われていたのだろう。
ようやくこの場所から連れ出してくれる男性が現れた! と思ったら、あんな奴だったし。
ファラデーとの結婚を承諾したのは、多分に打算も含まれていたことが小説を読むとよくわかる。「一緒にここ(領主館)で暮らそう!」と言われたときのキャロラインの心中やいかに、だ。

●ロデリック
キャロラインの弟。エアーズ家の現当主にあたる青年。
大戦時は空軍に所属していたが、爆弾で負傷し、顔と片足に大けがを負った。
彼の足を治療しようとファラデーが館に通い始めたことで、もろもろの悲劇が起きる。
というか、気治療用の器具が昔のもの故に危なっかしく見える。感電とか大丈夫ナンデスカネ。
以前から、屋敷には自分たちに悪意を持った何かが住み着いていると話しているが、相手にしてもらえなかった。そして部屋の物が勝手に動くポルターガイスト現象に悩まされ、ついに自室に火を放ったことで、精神病院に入院させられてしまう。
その後は回復せず、姉亡き後は一般病院に移されたことが語られて終わる。

●エアーズ夫人
キャロラインとロデリックの母。品の良い貴婦人。
かつてファラデーの母親が屋敷で働いていたことを聞き、娘と「あー……」的な視線を交わしたり、ファラデーを前にして「娘の相手にはふさわしくないとオモッテタ」と言及しちゃったり、無意識に煽ってくるタイプ。それがファラデーの神経を逆なでしていたのか、ドイヒな目に遭う。
「娘(スーザンの幽霊)は時々ひどく乱暴になるの」
と言って体の傷の言い訳をするが、それ絶対娘じゃないで。多分良家の子女は人を噛まない。

彼女の死のきっかけとなった『S』の文字だが、屋敷にとりつく何かは彼らの弱点を熟知しており、一番弱い部分を突いてくるのだとキャロラインは語る。彼女の場合はジップであり、母の場合はスーザンだったという。
なんとも性格の悪い……まさに子供の悪意といったところか。

●ジップ
黒い年老いたラブラドール。キャロラインの隣についてまわるめちゃんこかわゆいケナゲンティウス犬だったが、何かに驚いた拍子に女の子に大けがを負わせてしまい、悲しい運命をたどる。正直、小説も映画もその部分は飛ばして見た。
許さんぞ、ファラデー!

●ベティ
館のメイド。初めは屋敷になじめず、仮病を使って家に帰ろうと芝居を打つ。
そのせいでがやってくる事になったので、ある意味元凶。
だがまだ14歳くらいという年齢を考えれば仕方がない。ひどく怖い目に遭ったが無事でよかった。

●監督
アレニー・アブラハムソン氏。『ルーム』を撮ったお方。
淡々とした中にも不思議な魅力があり、とても面白かったです。ありがとうございます。

↓Amazon Videoにて配信中。左の影の女の子はスーザンだと思われる。


↓原作小説『エアーズ家の没落』。ファラデー大先生が大暴走!