映画『THE GUILTY:ギルティ』ネタバレ感想。『音』が想像力を刺激する、一風変わった面白スリラー。ラストの電話考察あり。

THE GUILTY ギルティ 映画 サスペンス

原題:Den skyldige
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
電話で誘拐犯を食い止めろ。

ギルティ 映画 電話

デンマーク発のスリラー『THE GUILTY:ギルティ』。どこぞで面白いという評判を目にし、TSUTAYAにて借りて参りました。
舞台はデンマーク警察の緊急通報指令室。要するに、日本の110にあたる通報を受ける部署。主人公の警察官がその部屋と隣の部屋を行き来すれど、他の場所は一切映さない、移動しないという徹底ぶり。
コリン・ファレル氏の『フォーン・ブース』や、ライアン・レイノルズの『リミット』と同じ、限定された空間のみで話が展開するのアレ=超面白いやつ。

主演はデンマークの俳優さん、ヤコブ・セーターグレン氏。ほぼほぼ彼のお顔を眺め続ける本作ですが、演技上手&よいお顔と声をお持ちなので至福の時間ってなもんですよ。
評判が評判を呼び、アメリカではジェイク・ギレンホール氏でリメイクも決定しているそうですね。ゴイス!

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あらすじ

緊急通報指令室。
そこはデンマーク各地からの通報が相次ぐ、ある意味戦場のような場所。
職員たちは、短い時間で通報の緊急性を見極め、的確に各支所に事態を伝えていく。
そう――24時間戦えますか……?

隣の席の人「24時間いる必要はないね」
アスガー「あっ、そう……」

というわけで、続々と入る通報を振り分けながら交代を待つアスガーだったが、そこに一本の――運命の電話がかかってくるのだった……。

※以下ネタバレ。内容を知らないほうが一億倍楽しめるのでご注意。

 

 

 

感想

面白っ!
こういう限定された場所モノは、下手を打つと一気につまらなくなったりするわけですが、本作はわずか88分という尺でサクサク進む。しかも徹底して指令室の内側しか映さないのも功を奏し、とにかくあっという間に時が過ぎました。
でもって、電話のやり取りのみで主人公アスガーの抱える秘密と闇をじわじわ暴き、たった一時間弱の間で彼の葛藤とその顛末とを観客に納得させてみせるのだから、脚本と構成の上手さに脱帽でございます。
いやー、これだから映画はやめられない!

話の流れとしては、

1.主人公アスガーの元に、イーベンという女性から通報が。彼女は誰かに拉致され、現在車で移動中だという。
2.誘拐事件だ! 
3.イーベンが乘っている車の持ち主は、別れた夫のミゲル。イーベン宅に電話をかけると、娘のマチルデが出る。父と母が弟オリバーの部屋で口論。ナイフを持った父が母とともに出てきて、無理やり車に乗せてどこかに行ったという。弟についていてやれというアスガー。
4.同僚のラシッドに電話をかけるアスガー。現場の警察官だったアスガーは何かをやらかし、指令室に異動になったようだ。そしてその裁判が明日に迫っており、ラシッドはアスガーのために偽証する予定らしい。
きな臭さ最前線のアスガー周辺。
おまわりさん、こいつです……って、アスガーがおまわりさんだったわ、あちゃー。
5.ラシッドに飲酒運転を命じるアスガー。
「二杯飲んだだけなら、いけるな」じゃねーわ。量の問題じゃねーんだわ。
おまわりさん、こいつ……って、そうだった、アスガーがおまわりさんなんだった、あちゃちゃー。
6.イーベン宅に地元の警察が到着。血だらけのマチルダを見て、慌ててオリバーの部屋に行くと、そこには身体にナイフの傷跡を残し、息絶えた赤ん坊が。
「見ていられない」と部屋を後にする警官の言葉が切ない。
7.怒りに燃えるアスガーはミゲルに電話。「人殺しめ、裁きを受けろ!」と叫ぶも、相手は何も言わずに切る。アスガーの怒りモード最高潮。
電話のつながったイーベンに、サイドブレーキを引いて脱出するよう指示。どうなったかわからんまま電話が切れる。
8.「自転車で転んだら膝を怪我した」という電話に、「知 る か」と返して切るアスガー。
おまわりさーーん! って、そうだ、アスガーがおまわりさん(以下略
8.再度イーベンより電話。脱出は失敗。車のトランクに詰め込まれたイーベンに、蓋が開いたら、レンガでミゲルを●れと進言するアスガー。
イーベンがつぶやく。「オリバーはもう大丈夫なのに、何故ミゲルは怒るのか」と。
9.なんだって?
10.「だから、オリバーはもう大丈夫なの。お腹の中に蛇がいて、そのせいで泣いていたから、私が取ってあげたのよ」
11.Oh……。

という、どんでん返しな結末でした。
ミゲルの自宅を調べ、遅まきながら電話を寄越したラシッドによると、ミゲルが目指しているのは精神病院だという。
「うん……ソウダヨネ」と力なく返すアスガーの姿に、「あー……あーあ……」とこちらまで意気消沈する羽目に。
何せミゲルが犯人だと信じて疑わなかったアスガーは、『レンガで殴って突っ走れ』と尾●豊みたいな助言をかましちゃいましたからね。遅ぇーよ、ってね。

それまで義憤に駆られ、独善的に突っ走っていたアスガーは糸が切れたようになり、誘拐事件の裏に隠れていたもう一本の事件――すなわち、自身が起こした少年殺害事件の罪を認め、心の闇と向かい合うことを決めて終わる……。
しかも最後のシーンは、『罪を認めることを決意したアスガーが、誰かに電話をかける姿』で閉められるという、徹底して電話に拘った仕上げ。
職人魂炸裂ですよ、素晴らしい。

一つだけ残った謎としては、このラストの電話の相手が誰なのか、ということですが。
普通に考えると、家を出て行ったというアスガーの奥さん、もしくはラシッド。もしくは大穴として、冒頭でアスガーの罪を告発しようとした記者……が相手かなと思うのですが。
ただ問題は、電話をかける際、アスガーは番号を一つずつプッシュしている』という点。
奥さんなら連絡先に登録がしてあるはずだし、ラシッドや記者なら履歴からリダイヤルすればいい。
とくに記者は一度だけ向こうから電話があっただけで、アスガーが番号を暗記しているわけはない。だから確実に候補から外れる。
そうすると、長く電話がない=直近の履歴に残っていない奥さんの番号なら、空で押せるだろうから、奥さんが有力か? と思うのですが……。
個人的には、裁判に関係する誰か……弁護士ってのは変だろうから、警察の上司にかけたのではないかなと思います。
「わざと撃ちました」もしくは「ラシッドの証言は偽証です」的な告白をしたのでは、と。奥さんにかけるのはその後ではないかな。声を聞いたら、後戻りしたくなりそうだから。

製作側の意図としては、すべては想像に任せる、ということでしょうが。
まさに、『良い映画は想像の余地を残す』を地で行く最後。満足。

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人物紹介

●アスガー
主人公。荒ぶる警察官。
荒ぶりすぎて、善良な一般人の助けを求める電話をブツ切したりする。観客は88分間の尺を、ほぼ彼の顔を眺め続けて終わる。
序盤にて、記者から「明日の裁判に対するあなたの考えが聞きたい」などと不穏な電話がかかってくるなど、何がしかの闇を抱えていることが察せられる。
というか、タイトルが『ギルティ』。
誰がギルティ=有罪かといったら、どう考えても主人公しかいないので、おまわりさん、こいつです……って、ああそうだよ。アスガーがおまわりさんだよ!

イーベンの電話が誘拐事件だと判明してからは、暴走気味にあちこちに電話をかけまくる。
元は現場の警察官であることが察せられ、業を煮やして自ら現場に赴く……のかと思いきや、最後まで『in司令室』で『電話をかける』を貫く。
88分の中で彼がやったことといえば、電話を取る、電話をかける、悪態をつく、席を移動する、日頃の非礼を同僚に詫びる、くらいしかない。なのに88分も間をもたせるのだから、あっぱれ。

で、結局何が『ギルティ』だったのかというと、実はアスガー君、過去に強盗を働いた19歳の少年を正当防衛に見せかけて殺害していた。
「世界から悪いものを取り除きたかった」と語っているので、明確な殺意があったというよりは、少年の抵抗にかっとなったかなにかで、その必要がないのに撃ってしまったんでしょうね。
警察官として、日々繰り返される無意味な暴力を目の当たりにし、鬱憤が溜まっていた。そしてあの日、偶然出向いた強盗の現場で、少年が見せた『悪』に抑えていたものが決壊した……。
アスガーの気持ちは理解できるような気がします。だからって撃ったらいかんけども。
おそらくは有罪で終わる裁判。彼の行く末に思いを馳せながら見るエンドクレジットがほろ苦い。

●イーベン
アスガーの人生を揺るがす電話をかけてきた女性。
当初はナイフを持った夫に無理やり拉致されたのかと思われていたが、実は精神を病んでおり、以前に入院歴もあったことが判明。
自身のしたことをじわじわと理解し、絶望。橋から飛び降りようとする。
だが、アスガーの説得と彼自身の罪の告白を受け、最後は思い直して警察に保護された。
思うに、最初に電話をかけてきたとき、イーベンの中には自首しようという気持ちもあったのではないか。だがアスガーが早合点したことで、罪悪感から誘拐の被害者という立場を喜んで受け入れ、自分の罪に蓋をしてしまったのでは、とも考えられる。
劇中では声しか聞こえないが、きっと美人なんじゃろうと思っていたら美人だった。

●ミゲル
イーベンの元夫。
当初は自身の赤ん坊を殺害し、元妻を誘拐した凶悪犯だと思われていたが、実は行政や周囲が何も助けてくれないことに絶望し、憤怒していた被害者だということがわかる。
その結果がオリバー殺害かと思うと、実にやりきれない。
アスガーの糾弾にも黙して語らずだったことが彼の悲嘆具合を物語っているが、あの時点で真実を話していれば、事件はあっさり解決したのも事実。
おかげで元妻にレンガで殴られる羽目になったよ。

●マチルデ
イーベンとミゲルの第一子。連れて行かれた母を心配する健気な少女。
ミゲルから「オリバーの部屋には行くな」ときつく言いつけられていたが、アスガーの誤った善意により、「弟についていてあげな」と諭され、言うとおりにする → 出迎えられた警察官が仰天する。
まだ六歳ゆえに、弟に起こったことが本当には理解できなかったようなのが幸いか。
だが誰もいない部屋で、物言わぬ弟を必死に抱きしめていたのかと思うと……子供、ダメ。ゼッタイ。

●ラシッド
アスガーの同僚。電話の音声のみで登場。彼と組んで現場に出ていた模様。
そのため、明日の裁判ではアスガーに有利となる証言をすべく、事実を隠して偽証するつもりだった。けれどそのプレッシャーから酒浸りになっている。
イーベン事件の真実を知ったアスガーに「偽証しなくていい」と言われるも、「もう偽証したんですけど?」と怒りの発言をして電話を切る。
たしかにアスガーが罪を認めると、困るのは正当防衛を主張したラシッド。
偽証罪に問われるのは確実だと思うが、その前に飲酒運転で免停になったらいいと思うで。

●アスガーの上司
電話の音声のみで登場。
彼の反応を見るに、日頃からアスガーには義憤にかられて無茶振りをかますくせがあったようだ。
優秀だが、扱いにも困る部下といったところか。

●緊急通報司令室の同僚
「日頃から態度悪くてごめんね」と謝罪される隣の席の人。
態度悪かったんか、お前。
でも許してくれるいい人。
だが、突如始まった『アスガーの告解in緊急通報司令室』にはその場の全員が凍りついていた。
ですよね。正直困りますよね。

●自転車で転んだご婦人
一回目:「今忙しい」
二回目:「酔ってんじゃネーヨ」
でブツ切されるという憂き目に遭った気の毒なご婦人。とにかくもタイミングが悪かった。
膝大丈夫け?

●デンマーク警察
『特捜部Q』といい、本作のアスガーといい、なぜこの国の警察にはこじらせちゃった人々がたくさんいるのでしょうか。
正直ね、もっと見たいですね。いいですね。

●監督
グスタフ・モーラー氏。デンマークで活躍している方のようです。
大変面白い作品でした。次回作も楽しみにしております。ありがとうございます。

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