映画『デッド・ドント・ダイ』ネタバレ感想。コメディだけど、きちんとゾンビ。地軸傾く地球の運命やいかに。

デッド・ドント・ダイ 映画 コメディ

原題:The Dead Don’t Die
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆
グロ苦手注意度:☆☆☆

【一言説明】
地軸傾いたらゾンビ出た。

『パターソン』のジム・ジャームッシュ監督の最新作『デッド・ドント・ダイ』を、劇場公開中に滑り込みセーフで見て参りました。

主演は『ゾンビランド』のビル・マーレイ氏と、『パターソン』のアダム・ドライバー氏。
そのほか町の人役に、『コンスタンティン』のティルダ・スウィントンさんと『アメリカン・サイコ』のクロエ・セヴィニーさん、『ファーゴ』のスティーブ・ブシェミ氏に『リーサル・ウェポン』シリーズのダニー・グローヴァー氏など、豪華キャストが出演されています。

余談ですが、先日、群ようこさんの『かもめ食堂』を借りようとして、作者名を『グン』で探していたら発見できず、群ようこさんを扱っていないとか、うちの図書館はモグリだなとつぶやいたら、『ムレ』だったということがありました。すいませんでした。

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あらすじ

「死人は~死なんぜよ~~」
ラジオから流れるレトロな曲に、ロバートソン署長は耳を傾けていた。
「これ、なんかのテーマ曲じゃなかったっけ」
「そうですねえ……何かのテーマ曲でしたねえ」
と答えるは、隣に座るピーターソン巡査である。
「映画?」
「いや、ドラマだったような……」
「何だっけねえ……」
「何でしたかねえ……」

ゾンビ映画(本作)ですよ、署長。

※以下ネタバレ。若干のグロテスクな描写も含みますので、未見の方と苦手な方はご注意を。

 

 

 

 

 

デッド・ドント・ダイ 映画

感想

ドラマか何かのテーマソングかと思いきや、なんと書き下ろしだったという楽曲『The Dead don’t die』。
本作のじゃねーかよ、と盛大な突っ込みを入れるのはきっと野暮ながら、野暮天にならざるを得なかった筆者です。

その人を食ったような内容に、本国では賛否両論あったそうですが、個人的にはめっちゃ面白かったです。
たしかに最初はゾンビも出て来ずに、田舎町センタービルに住む人々=メインとなる登場人物の紹介的映像が延々と続く。その間はこれといった出来事が起こるわけでもなく、若干冗長に感じられるなー……なんつって見ておりました。

その後、満を持してのゾンビ登場。
それまでの展開がゆるかったため、怖さは大したことないんでねーのこれ、と鷹揚に構えていたのが、二番目の犠牲者となったお掃除係の女性が、延々と……そりゃもう延々と苦しげなうめき声を発し続けるもんだから、エグイかエグくないかでいったら、十分エグイほうでした。

ゾンビっぽくないゾンビ映画ながら、なんのかんの、ばったばったとメインが食われ、結局生き残ったのは五人のみ……というシビアさ。
主人公二人(ロバートソン署長とピーターソン巡査)は生き残るのかと期待すれば、結局最後は大量のゾンビに貪り食われて終わるわけで、なんだ……やっぱりゾンビ映画だったよ……とすがすがしい気持ちになりました。
主人公がギャルだったら、多分生き残ってた。

こういうゾンビとかゴジラとかのパニックものは、現実における何がしかの危機感を風刺化したものが多いそうです。
本作では、蘇った死人たちが、死んだ際に一番固執していたものをつぶやきつづけるという設定が存在。それがWi-Fiだったり、シャルドネだったり、サッカーだったりと、心の奥底にある誰にも触れられない大切な何か……では決してないのが、案外人間ってそんなものかもと、妙な説得力があるのが笑えます。だって電波が届かないと、「4G……4G……」と言いつつさ迷うし、その瞬間はほぼ4Gのことしか考えてないもん。身に覚えアリすぎ。

しかも、新しいエネルギーを得ようと北極か南極で何かやる → 地軸傾く → ゾンビ出る、という、ああ……なるほど、あるあ……ねーよ、と言いたくなるスリーコンボ。
二十年前に、『ザ・コア』(アーロン・エッカート氏主演)という、地球の核(コア)の回転が止まって天変地異が起きたので、核に核を撃ち込んで回転を取り戻そうというとんでも映画がありましたが、ある意味そのレベルにまで達しているような気がしないでもないっす。

↓『ザ・コア』。目には目を。核には核を。オスカー女優のヒラリー・スワンクさんも出演中!

結局、まずい結末を約束された主人公二人は別として、物質主義に染まりまくった大人たちは全滅。
助かったのは、矯正施設にいた若者(大人から物質を取り上げられている)三人と、物質を捨てて森で暮らす老人一人、そして地球外生命体というチョイス。
終盤のメタ的台詞といい、人を選びそうな内容ですが、眼鏡をかけたアダム・ドライバー氏を拝むだけでも十分に価値があるので、気になっている方がいたらぜひ。
多分まだ劇場でやっている……と思うヨ。

人物紹介

●クリフ・ロバートソン
センタービル警察署の署長。警察署といっても、職員は三人だけ。非常にこじんまりとしており、入ってすぐに留置場が目の前という、逃亡には好立地の間取りがナイス。

始終とぼけたような、困ったような表情を浮かべているものの、変化した日照時間に困惑したり、ゾンビの真っただ中でテーマソングを流しやがった部下に怒ったりと、反応は至極真っ当。
おそらくは過去最悪の猟奇事件だったであろう、ダイナーのあり様には途方に暮れたような様子を見せるものの、留置場の遺体と背中合わせで一夜を過ごしたり、墓場の決戦ではショットガンをワイルドにぶっ放したりと、最高にイカしたおじさま。やはりビル・マーレイ氏は名優であります。

死にそうで、死ななそうで、やっぱり死なないんじゃないかなあ……と淡い期待を抱いていたけど、『まずい結末になる』のフラグをきっちり回収して死んでしまった。残念至極。
蘇り後は、果たしてなんとつぶやくのであろうか。

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●ロニー・ピーターソン
センタービル警察署に勤める巡査。ロバートソンの部下。
眼鏡属性だが、大柄でマッチョという、そっち方向が好きな方にはたまらないキャラ。
序盤は、車通勤の同僚ミンディに「送ろうか?」と聞いたり、愛車が真っ赤なスマートフォーツークーペだったりと、若干のポンチキ要素を醸していた。
ところが、いざダイナーでの事件が発生してみれば、「ゾンビの仕業じゃないすか?」の爆弾発言を皮切りに、対ゾンビ行動=頭部切断を率先して行ったり、遺体の横に落ちてたCDを勝手に持ち帰ったり、無数の死者の取り巻く車内に閉じ込められてもまったく動じなかったりと、サイコパス街道まっしぐら。
「なんで?」 → 「脚本読んだんで」
あっ、ふーん……。
結局、前述の通りに死んでしまったのだが、彼が話を広げなかったせいで、署長が引退を撤回したのは何でだったのか最後まで分からなかったのだがどうしてくれるんだ。気になっちゃったでしょーが。

●ミンディ
署長とロニーの同僚。警察署の紅一点。三人の中では一番まともな感性をしている。
猟奇的遺体を見て吐いちゃったり、一人でお留守番は嫌ですと言ってみたり、実に愛らしい女性。が、その普通さが祟ってか、墓場でパトカーに閉じ込められた際には、死んだ叔母の姿を見つけて精神の限界が到来。自ら車外へと飛び出し、ゾンビの仲間入りを果たしてしまった。
ロニーとは何がしかのフラグが立っていそうだったのだが、最期は彼の手で情け容赦なく首をはねられてしまう。
「そりゃーないだろ!」という署長の叫びに百パーセント同意したい。あのサイコパスめが。

●ゼルダ・ウィンストン
スウェーデンだかどこかから、最近センタービルに越してきたという葬儀社勤めの女性。プラチナブロンドの長身、かつ日本かぶれというミステリアスな雰囲気をまとい、いざゾンビハザードが起きると、得意の居合抜きでバッタバッタと首をはねまくる作中最強の存在。
遺体の死に化粧が前衛的すぎるセンスだったり、居並ぶ亡者たちにまったく動じなかったり、手を触れずにパソコンを起動したりと、何やらきな臭さを感じ取っていたら……なんと地球外生命体だったことが判明。
署長とロニーが追い詰められた墓場に颯爽と現れ、救世主到来! と喜んだのもつかの間、突如空中に現れた未確認飛行物体に吸い込まれ、地球を後にした。
なんでや。
何しに来たの。観光?
せめて地軸を直してから帰ってプリーズ。

演じるティルダ・スウィントンさんは、いつ見ても性別を超越してかっけーな → wikiを見る → 親しみを込めてバケモノと呼びたい御年。ゴイス。

●ケレイブ
ガソリンスタンドに併設された雑貨店を営む青年。若干というか、オタク趣味を持っており、そのためゾンビ発生後は金物店に逃げ込み、店主のハンクにゾンビの弱点と闘い方を指南する。
入り口に完璧なバリケードを築き、さあ安心……と思ったら、裏口をまったく警戒していなかったために侵入を許し、最期は墓場で署長たちと相対することとなった。
なんで裏を塞がんのだ。
都会から来たヤングガールとの間にフラグを立てたかと思ったが、そんなことはなかった。

●ハンク
金物屋店主。ダイナーの常連で、朝一にコーヒーを飲もうと店を訪れたがゆえに、一か月は肉も食えなさそうな現場を発見するに至った不憫な人。顔見知りの遺体は辛い。
ケレイブと一緒に自身の店に立てこもって善戦。銃を販売していたため、二人でバカスカ撃ちまくる。裏口の存在さえ念頭に置いていたら、一体ずつしか入って来られないバリケードでも築けば、きっと生き残れたのではないかなーとも思う。そもそもセンタービルって人数少なそうだし……土の下の人を足すとどうなるかは知らんけど。

●ミラー
農場を営む男性。
森に住む世捨て人のボブに鶏を奪われたんじゃ! と騒ぎ立て、署長たちが冒頭で彼の元を訪れる展開を生む。
ダイナーでハンクを前に、白人至上主義を謳った帽子を被ったり、「コーヒーがブラックすぎる」というピリつき発言をしたりと、あまり人好きのする性格ではない。
そのため、一人でゾンビに襲われ、一人でゾンビを撃退し、やっぱり一人でゾンビに貪り食われる……という運命をたどる。
でも最後には墓場で署長にゾンビとして認識してもらったので、よかったねと言え……ないか、別に。

●ダイナーの女性二人
ウェイトレスと、掃除のために訪れていた女性二人。コーヒーを求めてやってきたゾンビ二人に☆☆☆☆される。
翌朝の、中身の☆☆☆☆ぶりもすごいが、掃除係の女性に至っては、画面に映らなくなってもうめき声だけが延々と延々と、延々と流れるという心にくる演出を披露し、コメディだけどゾンビはゾンビという殺伐さを脳裏に刻み込んでくれた。やめてーな。

●都会から来た若者三人
女性一人に男性二人という、最高に今風のナウでヤングな若者軍団。
車に詳しかったり、ケレイブの映画オタクっぷりに対応できたりと、紅一点のゾーイちゃんは激かわだったのだが、モーテルの主人の襲撃を受け、死亡シーンもないまま、次に映った時は遺体になっているという悲劇を迎える。
しかも、サイコパスと化したロニーに首を切られるは、挙句にぶら下げられるわ、CDは取られるは、いいことなし。
まさかゾンビとは思わないもの、しゃーねーんだわー。

●モーテルの主人
若者三人が泊まったモーテルの主人。
夜中に外に出ていたところ、後ろから近付いてきたゾンビ軍団に気付かず、パクッといかれる。
都会にコンプレックスでもあったのか、「クリーブランドめ……」とやっかんでいたら、クリーブランドゾンビになった。
えっ、そんな単純な……?
最後は墓場で主役二人の手にかかって成仏した。

●ゾンビーズ
コーヒーゾンビやギターゾンビ、シャルドネゾンビなど色々といる模様。
土葬の習慣がないのでわからないのだが、コーヒーゾンビのあまりのキマリっぷりに、え、その格好で埋葬されたの……? と度肝を抜かれた。服はともかく、髪もキメッキメですやん。
アメリカはやはり自由の国じゃのーとしみじみ。

●地軸
すべての原因。エネルギーほしさにやらかした人類が、こいつを傾けたせいでゾンビが大発生。世界各地で阿鼻叫喚の地獄になったらしい。
なんで地軸傾くとゾンビ出るん? と疑問に思った方は、お父さんかお母さんに質問しなさいね。多分、電磁波とか磁場とか、それっぽい回答が返ってくるので、それで納得してくださいね。

多分だが、地軸が傾いたせいでゾンビが出たなら、地軸を元に戻せばゾンビが消えるのではなかろーか。おそらく各地のゾンビパニックの裏で、政府が手を回して地軸直し隊を結成している……と思いたいが、自身に原因がある場合はこれっぽっちも認めたくないのが政府というやつのような気がするので、いつまで経っても隊は編成されず、結局ゾンビによって人類は滅亡するのであろうというのが監督の皮肉なんでしょーか。そうでしょーか。

●動物
いち早く、ゾンビの危機を察知して森とか川とか、大自然に逃げ込んだ動物たち。
それは物質主義を捨てれば生き残れるという彼らからのメッセージだったのだが、人類は首をかしげるばかりで、とんとその意図に気付くことなく、ゾンビの餌食となっていくのだった。ぬんぎゃー。

●ボブ
ゼルダに続く生き残り組その2。
時々ナレーションが入るなあ……と思っていたら、なんと彼が担当していたことに最後の最後で気付く。お前かよ。
ミラーからは、鶏を盗んだだの牛を盗んだだの、あらぬ嫌疑をかけられていたが、ラストはゾンビに食われる主役二人を、美味そうにチキン食いながら遠巻きに眺めていた。やっぱりお前じゃねーか。

●矯正所の若者三人
生き残り組その3。物質にまみれた都会組は散ってしまったが、前途ある彼ら三人は無事に生き残ったようだ。
「隠れ家がある」と言って、通りをこそこそ移動して行ったのが最後で、その後はとんとどうなったのか映されない。ゾンビパニックは収束されるのか否か、観客の想像に任されたということでしょうか。知らんけども。

●監督
ジム・ジャームッシュ氏。『パターソン』に続き、面白い作品をありがとうございました。次回作も楽しみにしております。

↓サントラが出ております。ゾンビといえば、やはり土から突き出たこの手ですよね。

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