映画『アラジン』実写版ネタバレ感想。男性版シンデレラ……?

ミュージカル

原題:Aladdin
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆

【一言説明】
ジャスミンのソロパート追加。

アラジン 実写

ディズニーの普及の名作、『アラジン』の実写版。ウィル・スミス氏が青かったり辮髪だったり、歌ったり踊ったりの二時間弱。しかも監督がガイ・リッチーさんとあっては、見に行かないわけにはいくまいよ! というわけで、字幕版にて鑑賞してきました。

ジーニー役には前述のウィル・スミス氏。主人公アラジンには今作で大抜擢されたメナ・マスード氏。ジャスミンには『パワー・レンジャー』のピンク役がキュートだったナオミ・スコットさんです。

ちなみにエンドクレジット後に映像はないから、トイレに行きたくなった人は早めに席を立っても大丈夫だで!

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あらすじ

海と砂漠に挟まれた国アグラバー。そこに暮らす青年アラジンは、猿のアブーを相棒に貧しいながらもたくましく日々を生き抜いていた。
そんなある日。アラジンは一人の女性を窃盗の容疑から救う。名前はダリア。王宮に勤める侍女だという。聡明で勇敢な彼女に惹かれ、こっそり夜の王宮に忍び込んだアラジンは、そこでダリアが実は王女ジャスミン本人だという事実を知る。
絶望的な身分の違い。法律で王女の夫となるのは王子のみと決められているのだ。

落ち込むアラジンを国務大臣のジャファーが誘拐し、魔法の洞窟の前へと連れて来る。
「中に一つのランプがある。何の変哲もないランプだ」
それを取って来いと命じるジャファー。
恐る恐る洞窟へと踏み入れるアラジン。そこには彼の人生を一変させる出会いが待っていた……。


物語は1992年版とほぼ同じ。ジャファーが若くなっていたり、ダリアというジャスミン付きの侍女が新しく登場したりと違いはあれど、ざっくりとした流れはアニメ版に沿っています。
歌はジャスミンのソロパート『Speechless』が追加に。

ガイ・リッチー監督だけあって、物語はテンポよく緩急を交えてとんとん進む。登場人物たちも旧版をベースに現代風な味付けがされており、特にジーニーとアラジン、ジャスミンの好感度の高さは見ていて気持ちがいいくらいでした。
アニメ版を知らない子どもたちは、ロビン・ウィリアムズ氏のジーニーではなく、ウィル・スミス氏のジーニーを見て育っていくんだなあ……としみじみ。
ディズニーが好きな人もそうでない人も、家族で安心して見られる映画です。

感想

※以下ネタバレ。未見の方はご注意を。

 

 

映画としては面白い。それはたしかだ。けれど『シンデレラ』『美女と野獣』然り。本作も旧作を超えたとは言えない上に、なんともいえないもやもやを感じた。

というのも、本作を見る前にWebでこんな記事を見た。
「幼い少女が不満を述べた。どうしてジャスミンは誰かに新しい世界に連れて行ってもらわなければならないの? 彼女は自分の力で見に行けるわ、と」。
記事の少女は王子様を待つお姫様の構図に怒りを覚えたわけだ。

旧版から時代は変わり、人々の思想も変化した。『アナと雪の女王』『モアナと伝説の海』などに象徴されるように、最早王女は王子を待たなくていいし、自分から世界に飛び出す人物として描かれる。ジャスミンも例外ではない。
彼女はただの王女ではなく、国王の後継者=国を治める者としての未来を見据えている。だが王妃を暗殺によって失った国王は臆病になり、王女を王宮に閉じ込め、彼女の意見に耳を閉ざしている。
しかし窮地に陥るに至り、ジャスミンは高潔さと聡明さを発揮し、弁舌によってジャファーの傘下に下ろうとした兵長を説得してみせる。その姿に心を打たれた国王は、彼女を女性として軽視していた自身の価値観を恥じ、ジャスミンを正式に後継者として認めるのだった。

ジャスミン側から見れば、これは非常にハッピーな物語だ。だが、アラジン側はどうだろう?
映画はとてもよくできていたが、筆者からすればこの話は、女生と男性の立場を入れ替えた『男性版のシンデレラ』にしか見えなかった。

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アラジンは貧しい。この時代、頼れる親と身寄りもなく、孤児として育った青年が身を立てるのは難しいだろう。だから彼は成長しても食べていくのがやっとであり、おそらくは不法に占拠した建物の屋上で、いつか成り上がる夢を見ながら生活している。
以降の展開はシンデレラ――2015年に公開された、実写版『シンデレラ』のエラと重なる。主人公は貧しく、だが美しい心を持っている。身分を隠して出会った王族と恋に落ち、魔法の力によって自分をアピールする場を得、最後には困難を乗り越えて結婚する。
そして王族と結婚したことで、貧困や種々の問題からも解放されることができる。そう、つまりは相手の地位と財力によって自分の問題を解決するのだ。

『シンデレラ』のときも思ったが、それって何か違くないか? エラもアラジンも、まずは自分の力で問題を解決すべきだったのではないだろうか。
二人ともなるほど人間性はすばらしい。殿上人に見初められるほどの資質を磨いた。だから幸福になるのは当然だと言われれば、確かにそうだ。
だが思い出してほしい。序盤のアラジンは、ダリアにもう一度会いたいがために、独力で後宮まで忍び込むほど機転が利いてガッツがあった青年だと。
そんな男が、身分が違いすぎるからといって、王宮を出た後ただとぼとぼ歩いているだけだろうか? 夜毎天幕の穴を通して見上げた星空に、描いていたのは玉の輿の夢? いやいや、そんなわけはない。

ジャスミンに声をかけてもらわなければ、あの後彼はどうしていただろう。
個人的な想像だが、アラジンはきっとそのまま海を渡り、世界を見て自分で道を切り開いただろう。人間に戻ったとはいえ、ジーニーや魔法の絨毯という素晴らしい人脈も手に入れたのだ。彼らを伴って新しい世界を見に行くに違いないはずだ。そこで色々なことを学び、さらに成長した姿でジャスミンの前に戻って来るだろう。

だが悲しいかな、おとぎ話の常として、物語は幸福な結婚に帰結してしまう。
これから繰り広げられるはずだった成長後のアラジンの大冒険も、「はい結婚して幸せになりましたよ!」の一言で幕を下ろされてしまうのだ。
そこが物足りない。
男を立てれば女が霞む。ならばと女を立てたら、今度は男が霞んでしまった……それでは結局進歩がない。件の少女が望むのは、男女の別なく意欲的に進む主人公たちの姿だろう。筆者も同じだ。

いくら名作だろうと、作品は古くなる。今の子どもたちがアニメ版の『美女と野獣』を見たら、映像にも価値観にも古臭さを感じるだろう。王族たるジャスミンは、まるで婿取りの道具扱い。どういうこっちゃとなるのも無理はなく、今回のパワフルなソロパート追加は喜ばしい限りだ。
今の時代にあった新しい古典をと、実写版をラッシュのごとく作り続ける意味も理解できる。だがそこに立ちはだかるのは、めでたしめでたしの終わりが根底にあるおとぎ話という壁だ。
ディズニーはこのおとぎ話と現代の価値観の間で、バランスを取るのに苦労しているように思う。アニメはまだしも、実写となれば血肉を持った人物たちに曖昧さは許されない。
今はまだ成功しているとは言い難い実写リメイクだが、いつの日か現代の価値観とおとぎ話の共存というテーマに、一作の見事な作品によって解決策を提示してくれることを期待している。

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人物紹介

●アラジン
ご存知主人公。アニメ版だと十七歳だったはずだが、本作では年齢がかなり上がっている。若干小柄だけどイケメン。
身寄りがなく、窃盗品を売ることで日々の暮らしを立てているが、冒頭で交換してもらったデーツ一袋は絶対足元見られてるで。というかデーツで人は生きていけるのか? タンパク質と炭水化物は大丈夫か?? と心配になる。

ジャファー曰く黄金のハートの持ち主。彼自身はランプしか触らなかったのに、アブーのせいでとんだとばっちりを受けてしまう。多分洞窟さんはわかってくれてると思うけどね。
アニメ版に比べるとアリパレードの時は自己陶酔度が若干おとなし目。というか照れつつお金をまく姿が好感度高し。国王とのファースト・コンタクトで若干バグるが、後に認められる。結婚後は教養を身につけるのに相当苦労しそうだ。頑張れ。

●ジャスミン
求婚者の王子に「こんなに美しいと思わなかった」と言われるほどキュートな王女様。いや、マジで可愛いっす。大正解っす。歌唱力は随一。
すっかり現代派のプリンセスとなり、女王としてばしばし国を引っ張っていくと思われる。ジャファーとの対決で武力に訴えることもなく、弁舌で勝利を勝ち取るところが実にいい。

気になるのは最初の求婚者の前に現れたピンクのドレス。末広がりがおめでたいにしても、裾が長すぎないか? 登場はいいだろうが、退場が厳しそうだ。王族は他人に尻なんぞ見せないし構わないのか。取り外しがきくようなので、あくまで謁見時の威厳倍増アイテムらしい。

●ジーニー
青いウィル・スミス氏。彼を起用した采配は見事。好感度グンバツジーニーとなった。
魔法はすごいが、あくまで外面だけの模様。アラジンを王子にしたのも見かけだけ、お供はあくまで魔法で作った仮の人々、パレード終了後はどこに格納していたのだろうか。幻なのに飲み食いするとしたら、なんて燃費の悪い迷惑性能だ。
ジャファーが国王になりたいと願った時も、服が変わっただけで周囲の人々の意識は変わらなかった模様。……それって意味あるの? 王子様にしてくれるなら、どこぞの王家の末子にねじ込んでくれるとか、それなら応用効くのになあと思うが、そこまで万能すぎると逆に怖い。やはり制限があるからこその魔法のランプか。

最後はアラジンの願いで人間になり、ランプの呪いから解放される。
しかもジャスミンの侍女ダリアと結婚し、子供も二人設けて大きな船まで購入した模様。さすが元魔神は職歴も優秀だ。

●ジャファー
旧版よりも若返ってイケメンになった。誰得。

「二番目はやだよ。トップがいいよ」と言い続けていたのが伏線に。「あんた二番やろ」と言った部下を井戸の底に蹴り落としていたが、着水音がいつまで経っても聞こえてこないので多分地獄の底とかに通じている。さすがはジャファー様やで!
アラジンの策略にハマり、魔神になることを願ったせいで真鍮製の一軒家に閉じ込められる羽目となる。
一言いいでしょうか。

なんで辮髪にならんの?

●国王
旧版だと国の行く末あかんやろと思うぽんちきおじさんだったが、さすが実写版は有能そう。隣国との戦争の気配すら漂わせてしまう貫禄をかもす。
奥さんが暗殺されてしまったために過保護親父になってしまったが、最後は過ちを正し、娘の自由を尊重できる良きパパンとなる。

●アブーとイアーゴ
可 愛 く ね え な !!!

特にイアーゴ。アブーはアニメの時から正直……。実写の弊害。虎が一番可愛いってなんぞ。

●洞窟さん
毎回思うけど、お腹痛そう……。「うガーッ」って叫んで不届きものを飲み込んでるけど、お腹の痛みに苦しんでいるようにしか聞こえなくて不憫。ジャファーもろくでもないやつ連れてこんでおくれ。

●監督
ガイ・リッチーさん。さすがの手腕。ロマコメもいけるとは幅広い。
面白かったです。ありがとうございます。

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↓サントラもええでー!

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