法廷……そこは国家の秩序と規範を人々に知らしめる、この上なく厳粛な場所。裁く者と裁かれる者。畏怖すら抱く扉の奥では、今まさに誰かの運命を決する一世一代のドラマが繰り広げられているのである。
さて今回は、そんな法廷を舞台とした映画のおすすめ三作品をご紹介します。
真実は! コメディだ!!
※以下、ネタバレを含みます。
[adchord]ア・フュー・グッドメン
原題:A Few Good Men
1992年の映画
法廷度:☆☆☆☆
【一言説明】
ラスト十数分の法廷劇。
ジャック・ニコルソン氏の存在感……!! トムを差し置いて、まさかの! センター!!
名作すぎる名作。おすすめというか名作そろえただけじゃねーのって話ですが、法廷と聞いてこれは外せんだろう……!
タイトルの『A Few Good Men』ですが、ここの”Good”は”優秀な”という意味で、小数の優秀な男たち=海兵隊を表しているものと思われます。もしくは軍隊という巨大組織にたった三人の少数精鋭で挑むトム達のことを含んでいるかも、です。
主演はみんな大好きトム・クルーズ氏。ヒロインは『ゴースト/ニューヨークの幻』でおなじみのデミ・ムーアさん。そして敵役に『恋愛小説家』の名優ジャック・ニコルソン氏を迎えております。
あらすじ
時は冷戦時代。キューバにある米海軍基地内にてサンディアゴ一等兵が死亡した。下手人はドーソン上等兵とダウニー一等兵の二人。彼らは就寝しようとしたサンディアゴの部屋に突如押し入り、相手を拘束。薬品を塗ったさるぐつわをかませ、そのまま朝まで放置したのだった。結果、サンディアゴは肺出血を起こし帰らぬ人となってしまった……。
ドーソンたちは主張する。自分は上官からコードRを命じられ実行しただけであり、殺意はなかったと。コードRとは、隊の規律と士気を乱す落ちこぼれの隊員に科される暴力的制裁のことだ。
だが、コードRのことなど知らん。彼らは私怨で制裁を加えたのだと主張する上層部。
窮地に陥ったドーソンたちを救うのは、今回が初の裁判となるダニエル・キャフィ中尉だった……。
感想
若い! トムが若い!! お肌ぴっちぴち!!!
そして若い故に暑苦しい!!!!
いつもの笑顔が歯の白さ三割増しで迫ってくるため、若干暑苦しいご面相となっております。いや、かっこいいんだけど……なんていうか若造ゆえの青臭さが先立ってしまうというか、個人的に四十代あたりのトムが一番かっけーと思います。
●ダニエル・キャフィ中尉
ドーソンたちの主任弁護人となる主人公。ハーバード卒で父親が司法長官という超おぼっちゃん。いわゆるホワイトカラー。軽さと傲慢さを併せ持ち、そこが魅力的ぃな性格。ジェセップ大佐にゴミ虫みたいに嫌われるが、まあわかる気がします。
最初は裁判よりもソフトボールに熱中する姿勢を見せ、司法取引にほいほい応じようとする軽さをかもす。だが関係者に会って話を聞くうちに、大佐が超いけ好かないから事件そのものに疑問を感じるようになり、最後まで戦い抜く方針へと変更する。
たとえぽっと出の若造であろうと、階級が上なら敬わねばならぬのが軍隊。当初ドーソンたちには「ウェイ系の馬鹿が来た」と思われていたが、今回の裁判を通じて人間的にうんと成長したため、最後には彼らより本心からの敬礼を受ける。
アクションばかりに出ていてあれだが、クルーズ氏はかなりな演技上手男。終盤のジェセップ大佐との直接対決は、本作きっての見どころシーン。大迫力です。括目すべし。
●ジョアン・ギャロウェイ少佐
弁護団の一員。ダニエルの上司。大事な時に彼の尻を引っぱたき、裁判への熱意を引き出す使命に燃える女性。というか、彼女がいなかったらダニエルは冒頭で取引に応じてしまっていただろう。グッジョブです。
演じるデミ・ムーアさんがかわいすぎるため、まったく軍人に見えないのが玉に瑕。正直アイドルが軍服着てるような……いやいや、かわいいからイーンダヨ!
ダニエルと二人、ハンマーでカニを叩き割って食べるシーンは最高にトレンディ。なんつーか、妙な食べ方をするもんだね!
●サム・ワインバーグ中尉
ダニエルの同僚。弁護団の一員。派手系な二人の陰に隠れてあまり目立たないが、いい仕事をしてくれる。勝ち目がなさそうな闘いでも決してダニエルを見捨てず、効果的に父親の話を引っ張り出して彼を鼓舞する。本作の金のハートを持った人物。
だが演じるケヴィン・ポラック氏はどこかの映画で誰かを裏切っていたような気がしたので、「どうせ裏切るんだろ」と思って見ていたのは内緒。めんご。
●ネイサン・R・ジェセップ大佐
キューバ海軍基地の司令官。基地にでんと構えてソ連の艦隊をにらみつけているそうだが、この目力に威嚇されたらそりゃあんた何も撃てませんがな。
傲慢ではあるが愛国心は本物で、自身が国を守っていると豪語している。その尊大すぎる性格を後にダニエルに利用されることになった。
いやはや、ジャック・ニコルソン氏は名優も名優。ラストの一騎打ちはぜひ見ていただきたい。ニコルソン氏本人が大佐の主張を心から信じているのではないかと感じさせるほどの演技でございました。
●ドーソンとダウニー
冒頭での凶行。なんつー凶悪な奴らだ……とこちらのヘイトを煽ってきたのかと思いきや、実は絶対である上官の命令に従っただけの被害者であることが判明する。本人たちもなぜ自分が裁かれるのか納得がいかない様子。
だがそこを踏まえての、最後のセリフ。ドーソンが混乱するダウニーにかける言葉が、本作きっての涙腺崩壊ポイントです。ハンカチ用意しておくといいざますよ。
評決のとき
原題:A Time to Kill
1996年の映画
法廷度:☆☆☆☆☆
【一言説明】
最終弁論は裁判と本作の華。
↑Amazon Videoにて配信中。
ポスターが『ア・フュー……』とそっくり。この当時は役者さんの顔ドーンが主流だったんですかね。センターの目力がパないのも共通。この吸引力、見てくれよ!
ジョン・グリシャム氏の処女作を原作とした本作。
主演は『インター・ステラー』のマシュー・マコノヒー氏。被告となる父親役には目力百パーセントことサミュエル・L・ジャクソン氏。そんでもって弁護団の助手として我らがサンドラ・ブロック女史が出演されてます。やったぜ、サンドラ姐さんだ!!!
あらすじ
ミシシッピ州のとある町。人種差別が根強く残るこの町で、白人男性二人による十歳の黒人少女への残虐な暴行事件が発生した。かろうじて生き残った少女の告発により、犯人は無事に検挙される。だが過去の事例から二人が無罪となることを察した父・カールは、裁判当日に彼らを自動小銃で撃ち殺してしまう。
過去の縁もあり、カールの弁護を請け負ったジェイクは、KKKにその身を狙われながらも裁判を続行しようとするのだったが……。
感想
少女への行いがあまりにショッキングすぎて言葉をなくす冒頭。こんな鬼畜外道は裁かれてしかるべしと誰もが思う中、なんと無罪になる可能性が高いと判明する。いくら南部だからって、そりゃないぜ……。
絶望に覆われる人々。
だがそれも、父・カールが登場するまでの間だった。
傷ついた娘を抱きかかえ、何事かの決意を胸に家から出てきた男を見た瞬間……。
あっ……死ぬわ……。
と確信しました。
だって父親役がサミュエルなんだもん。
うっそーん、あの二人、サミュエルの娘さんに手を出したの? どんだけ命知らず……というより命いらずなんだ!?
もちろん誰の娘であってもあの所業は許されませんが、さすがはサミュエル。あっという間に犯人二人を制裁してくれます。ぶっちゃけ、ここで終わってもいいんじゃないの〜なんて思うわけですが、そうは問屋が卸さない。法を犯したカールは逮捕され、殺人罪に問われます。
彼を何とかして救うのが、我らが主人公ジェイクの役目。だが前途多難にもほどがります。何せまさかのジャック・バウアーことキーファー・サザーランド氏が犯人の弟役なんですわ。彼ってばチンピラを演じさせたら右に出るものがないほどの、ギザついたハートの持ち主なんです。
実父(ドナルド・サザーランドさん)と共演してるっていうのに、KKK団に入団を果たし、火をつけたり誘拐したり、老人を襲ったりとやりたい放題。自重という言葉を思い出せ、キーファー!!
そんなこんなで困難を極める公判ですが、あれほど非道な行いをした犯人にも、ちゃんと死を悼んでくれる家族がいる。
「目の前の人間は、たとえ憎かろうが他の誰かの大切な人である」
この映画はそれを描いている。
最後の最後に犯人の母親が、被害者の少女も同じく誰かの大切な人だったこと、彼女の受けた所業がどれほどのものであったかを知り涙するシーンは、本作の大いなる慰めであります。
マコノヒー氏演じるジェイクの最終弁論が素晴らしい、おすすめの一本です。
余談ですが、原告側の検事役でケヴィン・スペイシー氏が出ております。さすが悪役も上手ですわー。
[adchord]エミリー・ローズ
原題:The Exorcism of Emily Rose
2005年の映画
法廷度:☆☆☆
【一言説明】
その死は過失か、運命か。
二作とも正統派な法廷ドラマをご紹介しましたので、三作目は変わり種をいってみます。下記ポスターがどことなくホラーっぽいのは、それもそのはず。悪魔祓いが題材だから。
「えっ、なのになんで法廷もの?」と思ったあなた! 本作はたしかに悪魔祓いが根底にあるのですが、実質はエミリーの死が過失か否かを問う裁判ドラマなんです。弁護士の繰り出す最終弁論が、『評決のとき』並みに胸に沁みるので、未見の方はぜひ見ていただきたいですね。
この映画は実在の事件をもとに製作されております。
エミリー・ローズ役には本作で注目されたジェニファー・カーペンターさん。悪魔祓いを行った神父役には『フル・モンティ』のトム・ウィルキンソンさん。そして弁護士役には『トゥルーマン・ショー』のローラ・リニーさんです。
あらすじ
悪魔祓いの儀式の果てに、エミリー・ローズという女性が死亡した。
事件は話題を呼び、ムーア神父は彼女の死に責任があるとして裁判にかけられてしまう。
悪魔など存在するはずがない。エミリーの症状は統合失調症として説明がつくものであり、適切な治療を施せば死ぬことはなかった。そう主張する原告に対しても、ムーア神父はエミリーには悪魔が憑いていたのだという態度を崩さない。
彼の弁護を引き受けたエリンは、当初は懐疑的な態度を取るのだったが……。
感想
●エミリー・ローズ
ごく普通の女の子だったのに、突如悪魔に憑かれてしまった大学生。白馬の王子ならぬ地獄の王子に見初められるとか、何一つありがたくない展開に涙。
見えない何かにベッドに押し付けられたり、窓の外を見れば悪魔っぽい顔が浮かんでいたり、反り返ってみたり、ロックスターポーズで絶叫したり、ラジバンダリーな目に遭う。
ようやく夢空間みたいな場所で天上の存在と接触できたかと思えば、「あなたが死ぬことで悪魔の存在が証明される=神の存在も証明されるから、人々の信仰心が深まるよ」的な解説をされて「……じゃあもういいわ」ってなった。なんぞそれ。八百万の神々を信仰する日本人にはよくわからん感覚です。助けてくれんのかい。
悪魔憑きのシーンに関しては、黒目エビ反りもそうだが、やはりムーア神父との直接対決・納屋での悪魔祓いシーンが白眉。「1,2,3,4」とひたすら数を数える行為の意味が分かったときは心底ぞっとした。憑きすぎ。
神父の献身の甲斐なく結局死んでしまうのだが、物語は彼女の死から始まったと言っても過言ではない。天上の人もそう明言しとるしなー。まったくなー。
●エリン弁護士
やり手な女性弁護士。ムーア神父の弁護を引き受けてからドえらい目に遭う。
あからさまに悪魔が出てきて「ほあちゃちゃちゃ!」となりはしないが、深夜三時=かのお方の死んだ時間に毎晩きっかり時計が止まり、家の中に不穏な空気がダダ漏れするという現象に見舞われる。このシーンは最高にホラーしているので、背後で音とかするとびくっとする。というか、した。やめーや!
本作では悪魔の存在を「ありかなしか」で言えば最終的に「あり」寄りに描いている。だからムーア神父の献身は本物であり、エミリーを心から助けたくての行動であるのに疑いはないのだが、現実ではこうはいきませんよね。
もし現実で同様の事件が起きたら、それは悪魔憑きではなくて病気のせいだろうし、神父は過失致死だか何かの罪に問われる方に一票を入れるだろう。だが本作はフィクションなので、このエリン弁護士の最終弁論は胸にじーんと来て、聴き入ってしまうこと必須なのです。
●ムーア神父
エミリーの悪魔祓いを担当した神父。演じるトム・ウィルキンソン氏は、筆者的には「羊水の人」である。↓を見てもらえばわかるよ! (映画『フィクサー』。ジョージ・クルーニー氏の魅力が大・炸・裂! Amazon Videoにて配信中)
さて悪魔祓いですが、実行するにはカトリックの総本山・ヴァチカンの許可が必要となります。
「あのーすんません、悪魔祓いしたいんですがー」と申請してから調査が始まり、「やってよし」と許可が出てからようやく実行できるため、待っている間に憑かれた相手が死んでしまう……なんて可能性もざらにある。そのためドラマ版エクソシストでは「許可なんか取ってられるか!」と道を外れた野良エクソシストが誕生したり、『死霊館シリーズ』では一般人であるエド・ウォーレンが「俺がやりまぁす」と言ったりする。どこの世界もお役所は仕事が遅いようです。
今作の焦点は、神父の行った悪魔祓いが合法であるか否かに当てられます。悪魔を信じない人から見れば、彼は病気の少女をだまくらかし、過酷な儀式の果てに死なせてしまった殺人犯そのもの。陪審員たちも当初は同じ思いだったようです。
そんな窮地に落ちいった神父の無罪を、果たしてどうやって勝ち取るのか……というのが映画の見どころ。ムーア神父が実にいいおじいちゃんをしているので、応援したくなること必至です。
以上、おすすめ作品でした。