映画『アンストッパブル』ネタバレ感想。人はヒーローになれる。

アンストッパブル 映画 アクション

原題: Unstoppable
2010年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆☆

【一言説明】
列車が止まらない。

アンストッパブル

タイトル通り止まらない列車を止める映画。ただそれだけ。なのにめちゃくちゃ面白い。

アメリカはオハイオ州ワルブリッジで起きたCSX8888暴走事故(クリックでwikipediaへ)を元にしている。実際に列車が停止したのは、致命的なカーブよりたった二キロ手前だったというから驚きだ。連結に挑戦した機関士の男性は妻に「愛してるよ」と電話をかけ、返事を待たずに切った……という胸にグッとくるエピソードがあるそうな。いいですね、いいですねえ。

さて、本作で列車を止めるのは、世界に名だたる名優デンゼル・ワシントン氏とクリス・パイン氏のコンビ。彼らの上司役に映画『レント』ミミ役のロザリオ・ドーソンさん。通信士役にTVドラマ『PERSON of INTEREST 犯罪予知ユニット 』のファスコ役ケヴィン・チャップマン氏が出演されています。

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あらすじ

その日はいつもと変わらないはずだった。
職場に生意気な若造が入ってきたり、娘の誕生日をうっかり忘れたりはしたけれど、普段と同じ時間に業務を終え、無事に帰宅するはずだった。

ところが同時刻――ベテラン機関士フランクと新米車掌ウィルがスタントンの町を後にした頃、線路のはるか向こう側で無人の列車が走行を開始した。機関士二人のミスによりエアーブレーキが外れたまま、人を乗せずに発車した列車は次第に速度を上げていく。

止める手段もないまま、暴走列車と化す機関車777号。
このままでは『スタントンの大曲り』と呼ばれる急カーブで脱線し、未曾有の大事故が起きるのは目に見えている。

誰が列車を止めるのか――?
万策が尽きたと絶望する鉄道会社の指令室に、一つの無線が入った。
「俺たちはまだ本線にいる」――と。

※以下ネタバレ。未見の方注意。

 

大事件が起こったとき、誰がそれを解決するのか?
現実世界にスーパーヒーローは登場しない。鉄の超人も蜘蛛姿の少年も、助けに現れてはくれない。
じゃあ誰が立ち上がるのか?

普通の人たちだ。
ほんの少しの勇気を持った懸命な人々が、事態を収拾するために立ち上がるのだ。

本作でその役目を担うのはフランクとウィルだ。予定よりも貨車を多くつないでしまったために、たまたま本線に残っていた男たち。
あわやというところで二人の乗った1206号は暴走列車とすれ違う。ほんの一瞬の間だが、ベテラン機関士フランクは最後尾の貨車の連結器が開いているのを見逃さなかった。
「貨車を切り離そう。そんでこの1206号であいつを追いかけ、後部から連結し、引っ張って停車させるんだ」
このとんでもない作戦にウィルは鼻白む。
「自殺行為だ!」
だが誰かが止めなければ、列車はこのままスタントンで大事故を起こす。ウィルとフランクの大切な家族も暮らしているあの町で。

立ち上がる二人の男たち。
あらゆる手を尽くしながらもすべての作戦が失敗し、ついには死者まで出してしまう鉄道会社。
フランクとウィルの決死の作戦は果たして成功するのか?
その頃、暴走列車は『スタントンの大曲り』まで後数十キロの地点に迫っていた……。

感想


熱い! 鉄道をめぐるドラマが熱い!

決して安泰とは言い難い現状の男二人。
フランクは妻に先立たれ、会話の端に悲しみをにじませる。娘の誕生日を忘れて怒られる上に、会社からは一か月以上も前に解雇を言い渡されている。
ウィルはウィルで嫉妬のあまり妻と知人を銃で脅すという馬鹿な真似をし、裁判所から接近禁止令を受けている。
そんな二人が故郷の危機に人知れず立ち上がるのだから、熱くないわけがないのだ。

いやー、この映画、大好きです!!!
無骨とも表現できる一本筋の通ったシンプルな筋道。何度も挟まれる超ローアングルからのド迫力の列車通過シーン。これがぎゅぎゅっと空気を引き締めつつ、とんとんテンポよく進んでの98分、あっという間!

個人的意見を言えば、最近の映画は長すぎる傾向にありますね。じっくりドラマを描きたい超大作ならともかく、やはり映画は一時間半前後が一番収まりがよろしいのではないでしょうか。
その点、『アンストッパブル』は尺もキャストも面白さも満点以上です。

こういう人的災害映画に必須の『人命よりも会社の損害を重視する無能な上層部』もちゃーんと出てくるし、しかもそいつらの繰り出す策がことごとく失敗。それをフランクが前もって予見してるのが面白い。
ロザリオ・ドーソンさん演じる操車場の主任コニー・フーパーが、脱線機作戦が大失敗したのを受け、「何とかしてあげますよ! あなたのミスをね!」と叫んだ瞬間の爽快さ。

さあ行くぜ!
リストラ中年と新米若手。この二人の手にすべては託された!
二人の雄姿はがっつりTV中継され、町の人々が歓声とともに心強い応援を送ってくれる、さらに盛り上がる!
とにかく面白いので未見の方にはおすすめです。
この手の映画に必須2の『居合わせた人間が超優秀で主役を外部からサポート』もちゃんと踏襲しております。さすが監督、わかってらっしゃる!

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人物紹介

●フランク
ベテラン機関士。美人の娘が二人もいる。しかもフーターズでバイトしているというからけしからん。奥さんを五年前に癌で亡くし、ウィルに「残念だ。本当に残念だ」と語る姿に愛を感じるいぶし銀。
機関車についての知識は伊達ではなく、777号を背後から追って自身の車両に連結し、引っ張り合いっこをして停車させるという大胆な作戦を思いつく。
777号は最新式、1206号は旧式だったために力で負けそうになるが、貸車ごとについているブレーキを手動で動作させることで減速。かつウィルに的確な指示を飛ばすことで『スタントンの大曲り』を無事に乗り切る。
途中で丸太に阻まれはしたものの、『ミッション・インポッシブル』並みに車両の上を駆け抜ける姿はまさにヒーローそのものだ。
事件後は功績をたたえられ、早期解雇は撤回。無事に満期を勤めて退職していった。

余談だが、演じるデンゼル・ワシントン氏が来日した際、着ていたシャツが10年前と同じものだというエピソードが大好きです。本当にいい役者さんですね。

●ウィル
新米車掌。鉄道一族出身のため、若くして車掌の職に就く。当初はフランク含めベテラン陣にやっかみを受けるが、業務をこなすうちに心を通わせていく。
美人の妻が知人に言い寄られていると勘違いし、相手を銃で脅しにいったために妻子を相手に接近禁止令を出されてしまう。脅しに行った相手が警察官だったというとんでもエピソードが本人の口から語られるにあたっては、フランクも「馬鹿じゃねーの」という感想をもらすしかなかった。そりゃお前接近禁止になるわー。馬鹿だわー。

777号との連結で体を張り足を負傷。フランクに車両のブレーキを任され、彼の指示もあって脱線を回避させるという大手柄を上げる。
カーブを過ぎた後は追いかけて来たネッドの車に飛び乗り列車と並走。機を見て777号の運転席に大ジャンプするというアクションを披露。その活躍の甲斐あって無事に停車した。
上層部に反抗したためクビを言い渡されたときに発した「残念だな……この仕事が好きになりかけてたのに」はマジで名言。彼の人となりがわかる実に好感の持てる台詞である。
ちなみにもっさりブリーフ派。クリス・パイン氏なのにもっさりだあよ。

●コニー
操車場の主任を務める女性。ドジっ子機関士二人だけでなく、無能な上司の尻拭いをする羽目になる苦労人。
ストレスのせいか髪の毛を結んだと思ったらほどいたり、また結んで……やっぱほどいて……と忙しい。
777号の積荷に大量の有毒物質が含まれていることを知り、無人の農地で脱線させることを進言するも、人命より会社の損失を優先した上層部に却下される。おそらく初期の時点で脱線機を使えば、彼女の作戦は功を奏しただろう。
「だからそう言ったのに」

●ガルビン
鉄道会社の運行部長。コニーの上司。
彼女の作戦を却下し、元軍人の社員をヘリコプターを使って暴走列車に降ろそうとして怪我させてみたり、フランクの友人を乗せた機関車を暴走列車の前に走らせたら事故って彼を死なせてみたり、最後は仕方ねーから脱線させろと実行したらてんで歯が立たなかったり……とかわいそうになるほどの無能ぶりを晒す。
一応弁護するとガルビン氏はただの中間管理職であり、リスクを嫌う上層部の言うことを聞いてはいはい言ってたらこうなったのだ。まあ彼自身の傲慢っぷりも少なからず関係しているだろうが、上と下との板挟みは大変ねって話。
しかも事件の後は責任を取らされてクビになるからかわいそうになる。頑張れ、ガルビン。負けるな、ガルビン!!

●デューイ
諸悪の根源。始まりの太っちょ。

おまわりさん、こいつです。

やめろって言われたのに機関車から降りて、ポイントを切り替えてから戻ろうとしたら案の定間に合わなかった人。
別に体型で差別するわけじゃないが、本当にどうしていけると思ったんだ、おまいは。無理じゃん。遅いじゃん。速くないじゃん!! 「あーっ」とばかりに無人で走る列車を見送る姿に悲しみが滲む。多分。その後、ネッド相手に逆ぎれをかましてた気がするが。
そんな彼だがかわいそうに針のむしろだっただろうなと思う訳です。解決するまで気が気じゃなかったでしょう。その心労を思えば、許してやりんしゃいってなります。
事件後は解雇され飲食業界に転職したとのこと。大丈夫、君はきっと輝ける。そう、ケン●ッキーならね。

●ギリース
デューイのどじっ子仲間。エアブレーキが外れているのを知りながら、惰性ゆえに繋ぎ直さなかった人。繋いでさえいれば、外部からブレーキを操作できたそうな。
デューイと同じく固唾を飲んでフランクとウィルの活躍を見守っていた。

●ネッド
コニーと同じ操車場に務める溶接主任。行きつけのダイナーでウェイトレスにやんごとなきお話をするのを日課としている。
黄色いグラサンに末広がりのジーンズ、しかもポニーテールと言う理解の及ばないスタイルだが、仕事はできる様子。
当初777号の通過予定地点で待ち伏せるもとっくに通り過ぎた後だった。デューイとギリースの罵倒にも負けず、その後はずっと車で777号を追い続けていた。それが結果としてウィルたちの役に立ったので彼も素晴らしい功労者だ。

●バニー
操車場に務める通信士。コニーと共に777号の行方を追う。
目立った活躍が描かれる訳ではないが、彼とその同僚たちも作戦成功の立役者だ。

●ワーナー
事件当日、子供達相手に開かれるはずだった鉄道教室の講師として連邦鉄道局より派遣されてくる。
すでに事件が発生しており、それどころではないコニーに塩対応をされる。だが幅広い知識によってフランクたちに助言を与え、それが『大曲り』攻略の要となったので大変なグッジョブ度合い。こういう地味なんだけど実は有能なキャラクターって大好きです。

●子供たち
鉄道教室に参加中の子供達。序盤で何も知らずに暴走列車と同じ線路に乗っており、あわやのところですれ違う。機関士はめちゃくちゃ肝を冷やしていたが、「わー、大迫力ー」とばかりに無邪気に目で追う子供たちが無事で本当によかった。

●ドーナツ
鉄道教室で子供たちに配られるはずだったドーナツたち。何気に美味しそう。
ま、当然バニーたちの口に入ったよね。

●ジャッド・スチュワート
本作唯一の犠牲者。フランクの友人でベテランの機関士。
ガルビンの指示により、暴走列車の前に機関車を走らせ、前から押すことで停車させようとした。だが力負けしてしまい、線路から押し出される形で脱線、炎上事故に巻き込まれて命を落とす。
この人さえ……この人さえ無事であったなら……!! ガルビンのバカー!

●監督
これが遺作となったトニー・スコット氏。『トップ・ガン』『ビバリー・ヒルズ・コップ2』など、素晴らしい作品をありがとうございます。

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