映画『ブラック・クランズマン』ネタバレ感想。憎悪はどこに行きつくか。

原題:BlacKkKlansman
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
潜入方法が一見無茶そうだが実話。

ブラック・クランズマン 映画

白人至上主義団体クー・クラックス・クラン(KKK)。誰しも名前を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。団体名は知らずとも、三角形の白い頭巾をかぶった人……と言えば、「ああ……」と合点が行くほどインパクトのあるビジュアル。
頭巾被った人=団員は『クランズマン』と呼ばれる。つまりブラック・クランズマン=黒人の団員となり、「えっ、お前……」と題名からしてすさまじい吸引力を放っている。
いやいやいや、それって大丈夫なの? 自身を排除しようとする団体に潜入って、まず入団からして無理ゲーじゃないの? ……あっ、頭巾被るから平気なのか! と早合点して劇場入りしたところ、「まったくそんなことはなかったぜ!!」な潜入方法が展開されたため、恥じ入ることとなった筆者でした。いやん。

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製作を『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール氏が務め、主演はデンゼル・ワシントン氏のご子息ジョン・デヴィッド・ワシントンさんと『スター・ウォーズ』シリーズのベン・ソロことアダム・ドライバーさんが務めております。

あらすじ

時は1970年代のアメリカ。
「マイノリティ大募集!」の文字に惹かれ、コロラドスプリングス初の黒人警官となったロン・ストールワース君。最初は資料室に回され、差別主義を隠そうともしない同僚たちの相手にうんざりしていた。
ところがある日、ブラックパンサー党への潜入員として抜擢されたことをきっかけに、新たに情報部に配属される。初めてのデスクでふと手に取った新聞。そこに載っていた『KKK』のメンバー募集記事。単なる思い付きで記事の番号宛てに電話をかけたロンは、とっさに演じた白人レイシストの役が相手に大うけし、なんと団員との面会の約束を取り付けてしまうのだった。
情報部メンバー「面会って……えっ、どうやって……?」
前代未聞の潜入作戦、ここに開幕!

※以下ネタバレとなります。

 

憂慮していた潜入方法ですが、ロンはまず情報部の同僚フリップ君に協力を取り付けます。曰く、「俺=電話担当、お前=実働担当」。ロンが電話で色々と約束を取り付け、フリップが実際の現場に出向く=ばれない!
ばれないの!?
……ばれないものなんですね。
ロンは純正英語と黒人英語を使い分けられると豪語しており、実際にKKKの幹部デビッド・デュークをして「君の発音は完璧だ」と言わしめています。彼には美しい発音ができるのは白人のみという思い込みがあるからなのでしょう。声だけしか聞こえない電話なら、肌の色は関係ないからです。ロン頭いいな!
実際、毎日会っている人間でもない限り、電話口の声というのは案外判別できないもの。オレオレ詐欺なんてものが横行してた時期もありましたし……。
たまに「あれ、声違くない?」と言われはするものの、取って付けたような「風邪で……」の一言にて納得。KKKがチョロすぎるのか、それとも思い込みが強すぎるのかは謎。

そんなこんなで数か月の間、事実が発覚することもなく、ついにロン=フリップはKKKの正式な入団の日を迎えることとなる――。

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感想

全編を通して軽快な空気は流れてはいるものの、これはとても怒っている人が撮った映画なんだなと感じました。
映画で描かれている差別は監督のスパイク・リー氏が実際に体験したものだろうし、一見笑えるシーンも実は怒りを隠してわざとコメディ色に仕上げているのでは……と思うと素直に受け取れない。
きっとこれを作った人は過去も現在もずっと怒っており、そしておそらく未来にも怒りを感じているのではないでしょうか。『ホワイトパワー』と『ブラックパワー』が交わる道は見えないが、潜入班には様々な人種を配置し、映画としては希望を残して終わりとした。
島国に暮らす日本人には真に迫るものでない”差別”ですが、ひとたび海を越えればそこには厳しい現実が待っている。それに打ちのめされるのか、戦士として身構えるのか、それとも”知らない”からこそ鷹揚に対応するのか、選択は自らに任されているということですね。

何はともあれ映画としては、とても面白かったです。いつ潜入捜査がばれるのかというハラハラ感がすごかった。

では、人物紹介と所感など。

●ロン
本作の主人公。潜入捜査なのにうっかり本名を口走ってしまう憎めない好男子。
カッティングが見事なのだろうか? 彼のアフロのフォルムが完璧すぎるほど完璧であるが故に、時々帽子を被っているようにしか見えず、「リアル空条丈太郎や……!」ってなった(↓表紙の人。Amazonより)。


情報部では一番の新人であるにも関わらず、作戦を指揮するとなったら先輩相手にもガンガン行く。その厚かましさすら感じるバイタリティーを分けてほしい。
若干高めではあるがかなりのイケボイスであり、口先三寸でKKKの心を掌握する様は見ていて気持ちがよいくらいだ。
フリップに「お前は実際には潜入しないからいいよな」と言われるが、無線で彼がピンチに陥りそうだと判断したら、急きょ石を投げこんで援護してみたり、何故かデュークの警護についてKKKのパーティに参加する羽目になったりと結構苦労している。

●フリップ
潜入作戦のもう一人のキーパーソン。ユダヤ人であるが民族意識は低く、白人との違いを特に意識したことはなかったが、ロンの代理としてKKKの人間と接触するうちに、否が応でもユダヤ人としての自分を意識していくことになる。これも本作の問題提起の一つだろう。
ロンとは別の魅力を持ってKKKの人心を掌握し、短期間で支部長に推薦されるまでになる。だがちょっとうっかりさん。打ち合わせしたことを忘れてぽろっとボロを出しそうになるが、すぐさま取り繕うあたり非常に機転が利く。さすがは潜入捜査の先輩といったところか。
ただ気になるのが彼のお行儀の悪さだ。上司がいる部屋でソファに寝そべっていたり、目の前で尊大に足を組んでみたり、向こうの人はおおらかじゃのう……とおじいちゃんみたいな感想になる。
演じるアダム・ドライバー氏は、『スター・ウォーズ』時点では役の性質もあり「ああ、うん……」な感じだったのだが、『ローガン・ラッキー』しかり、本作しかり、地元のあんちゃんっぽい扮装をすると最高に感じがよいですね。いいですね。ファンになったぜ!

●パトリス
黒人学生連合の会長を務める本作のヒロイン。ロンのガールフレンドになる。ふわっふわのアフロが似合いすぎるほど似合うかわいらしい女性だが、アフロの中には頑固で熱烈なパワーが満ちまくっている。
ロンとは心を通わせたものの、彼が警察組織に所属することについては最後まで否定的だった。作中では差別的な白人警官を一人摘発しているが、それで彼女を取り巻く環境が変わるわけではないというのがなんとも……である。
KKKの鼻つまみ者であるフェリックスに目をつけられ、終盤で爆弾テロの標的となりかけるが、郵便受けがたまたま爆弾の入らないサイズであったために難を逃れた。わが身に起こったら……と思うと、正直ぞっとする話である。無事に済んで心底ほっとしている。

●フェリックス
KKK団の団員。排他的意識が大層強く、団の中でももてあまされ気味。新顔のフリップにやたらと絡み、地下に呼び出して嘘発見器にかけようとしたり、果ては彼が割礼を受けていないかどうか確認しようとする困ったちゃん。
「いい加減にしろよ」と仲間にいなされてはいるものの、実際にフリップはユダヤ人だったのだから、彼の勘は正しかったと言えよう。だが誰も真面目に耳を貸してくれないのは、いかに普段の行いが大事であるかという教訓かもしれない。
終盤、妻を使ってブラックパンサー党の集会に爆弾テロをしかけようとする。妻が爆弾をしかけ、後から現場に行ったフェリックス他仲間二人が爆破スイッチを押すという手筈だった。
だが会場は警備が手厚く断念。代わりにパトリスを狙うが、前述の理由で郵便受けではなく彼女の車にしかけたところを、急行したロンに取り押さえられそうになる。ところがそこに登場した警官二人により、黒人が白人女性を襲おうとしていると誤解され、事態は悪化。ロンと妻たちがもみあっている隙に、何も知らないフェリックスたちが車でパトリス宅に接近。郵便受けにしかけてあると思い込んでいるため、パトリスの車の横を通った際にスイッチを押し、自分たちも爆発に巻き込まれて死亡してしまった。
ほんの十数メートル離れたところに妻がいたのに、パトリス宅しか見ていなかったために命を落とす。視野の狭さを皮肉った展開だ。妻は妻でロンを糾弾することに熱中してしまい、フェリックスの車が近づいてきたことに気付いていない。彼女が危険を知らせることができたら、おそらく誰も死なない結果に変わっていただろう。行き過ぎた憎悪の行く末を暗示している。

●デビット・デューク
KKKの幹部。ロンを白人だと太鼓判を押し、受話器の向こうで笑われるという間抜けな人物として描かれる。
思えばKKKという団体は、めちゃくちゃ潜入捜査しやすそうだ。その極端な思想故に、人員さえ適切ならば同胞を装うのは簡単なのかもしれない。
本作はブラックスプロイテーションとしての手法を逆手に取って作り手の主張を伝えるもののようだが、一番最後にあの映像が入ったからこそ、映画がぎゅぎゅぎゅっと極限まで引き締まった気がする。ラスト、ロンとパトリスの視線の先で燃え上がる十字架の炎は、現在まで続き、さらに未来にも燃え盛ることが暗示されているようである。

●監督
スパイク・リーさん。『マルコムX』などで有名だそうだが、wikipediaを見ると彼の作品をまったく見ていないことに衝撃を受けた。すいません、もっと勉強してきます。
2018年のアカデミー授賞式で『グリーン・ブック』の受賞に腹を立てたという逸話がある。『グリーン……』のほうは、主役二人の心の交流を主にして差別を描く手法だから、あくまで映画的な表現に抑えられたのは仕方ないのではないかと思う。ただ、筆者はどちらも面白かったですよ。ありがとうございます。

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↓実話を基にしているとのこと。以下が原作小説です。