映画『バサジャウンの影』ネタバレ感想。雰囲気たっぷりの森で起きる、連続少女殺人事件を追え!

バサジャウンの影 映画 サスペンス

原題:El guardián invisible
2017年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
連続殺人事件+森男の伝説。

バサジャウンの影 映画 チャンチゴリ

今日も今日とてNetflix三昧。先日の『ライフ』に続き、おすすめ一覧に並んでいた『バサジャウンの影』。
スペイン映画? どんなじゃろーと思って説明を読めば、『連続殺人事件』の文字があったため、即再生。森で起きる殺人事件とか、見るなというほうが無理。

スペインの映画なので、俳優さんはなじみのない方ばかり。
それで思い出すのが、同じスペイン産の『マザーハウス:恐怖の使者』。あれはめっちゃ面白いけど、パッケージで損をしているよなあ……としみじみ。
↓非常によくできたサスペンス映画です。間違ってもホラーではないので、気になった方はぜひ。

↓感想はこちら。

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あらすじ

深い深い森の奥で、少女の全裸死体が発見された。しかも、陰部にはクッキーが置いてある。
「やだこれ、私の地元の銘菓『チャンチゴリ』だわ」
田舎町エリソンド生まれにしてエリソンド育ちの刑事アマイアは、元FBI捜査官としての能力と土地勘とを見込まれ、地元町で起きた連続クッキー殺人事件の謎を解くべく、捜査主任として送り込まれることになった。

が。あの町には、いい記憶がない。
それは大人なら誰しも持っている黒歴史……ではなくアマイアの家族にまつわる、実に忌まわしい過去だった……。

※以下ネタバレ。本作はミステリのため、内容を知らないほうが百億倍楽しめます。未見の方ご注意。
そして本作には子どもに対する虐待の要素が含まれるため、苦手な方は閲覧しないでください。

 

 

 

感想

優秀な女性捜査官が、長らく忌避していた地元に帰郷。そこで起きる連続殺人事件の謎を解くうちに、封印した忌まわしい記憶と向き合っていく……という、王道な内容。
が。
その忌まわしい記憶というのが、想像のはるか斜め上……どころか、マッハでぶっ飛ぶレベルに凄まじいため、正直本筋を忘れさせるほどのインパクトを放っているのでございます。

主人公のアマイアは三人姉妹の末っ子。けれど、何故か母親はアマイアにだけつらく当たる。

・背後からぎゅっと抱き着いたら、無言で離れる。
・突然髪の毛をザッパザッパ切られ、挙句に勢い余って額まで切られる。
・寝ていると、「今夜はお前を食べないよ」と邪悪な声でささやかれる。
・綿棒で明確な殺意のもとに殴打 → 小麦粉の山に沈められる。

母ちゃん、怖っ!
母親のインパクトに比べたら、犯人なんてシマリスレベル。よくよく考えると、六年間で八人も殺してるし、被害者は全員年若い少女だし、かなり凶悪だとは思うんですが。
でもやっぱり、アマイアおかんには敵わんのだ。
おまけに、原作小説が三部作の一作目なためか、何故母があのような凶行に走ったのか、本作ではまったく説明されぬまま終わってしまう。
何でじゃい!
そこが一番気になるのだが!?
一人っ子ならまだしも、アマイアは三人姉妹。上二人が男の子で、アマイアだけ女の子……ならまだしも、全員女性。
じゃあなんで彼女だけいじめられたの? という疑問に、まったく答えてくれない本編。

いやん、不親切。

検索してみると、原作の三部作は一作目のみ邦訳されており、残り二部は予定も未定 → つまりは迷宮入り、となりそうな感じなんですが、本作がヒットしていれば、おそらく続編映画が作られる → 映画にておかんの謎が明かされる……という救いの道は残っている。お願いします、本国の人! ぜひ続編を!

ちなみに、タイトルにある『バサジャウン』とは、森に住む伝説の生き物のことだそうで、バスク神話に記載があるようです。
本作は殺人事件ながら、そういった超常的な存在の実存も匂わせており、件のバサジャウン氏は、森での捜査中にちらっ、ちらっと木の陰からこちらを覗いてみたり、森の中で寝こけやがった模倣犯を運び、道路際にエイヤッと転がしておいたり、真犯人を追おうとして、自損事故を起こしちゃうドジっ子アマイアをさりげなく助けてやったりと、要所で存在を匂わせつつも、結局登場はしないという、まさに『バサジャウンの影』を地で行く活躍を見せてくれます。
一応、最後にちらっと後姿っぽいのが映るんですが、叔母さんの証言とだいぶ違うで。どっちかっつったら、雪男じゃねーけ?

何はともあれ、面白かったです。森の雰囲気がグッドざんす。

人物紹介

●アマイア
主人公。元FBI捜査官。実家は地元じゃ有名な製菓メーカー。
幼少時代にひんでー目に遭い、それがきっかけで家を離れていたが、地元エリソンドで起きた連続殺人事件の捜査を任され、仕方なく帰郷。思い出したくもないおかんの記憶に、悪寒がする様を見せつけてくれる。
長女フローラは、彼女が家を捨てて出て行ったこと、施設に入所した母親に面会にも来ないどころか、夫には死んだことにしていたことを責めたてていたが、そりゃそうだろとしか言えんわ。
どこの世界に、自分を殺害しようとした母を介護したいと思う子どもがいるのだ。むしろ、アマイアが真っ当な人物に育ったことにびっくりだ。
家族がアレすぎた分、よほど他の人々に恵まれたんだろうなあ……としみじみ。

そんなアマイアは、捜査官としても超優秀。人使いは荒いが、鋭い分析力と粘り強さを持って、着実に犯人に近づいていく。
彼女が注目したのは、チャンチゴリの成分と、犯行の特殊性。
姉フローラの助言で、チャンチゴリを作った製菓店の候補を絞り、小麦粉を提出させる → 証拠のチャンチゴリと一致するか検査。
また、遺体が死後川で洗われ、身だしなみを整えられた後で、聖母マリアのポーズを取らされていることに注目 → 犯人は、純潔を失う少女に怒りを感じている中年男性 → 過去に類似の事件があるはず → あった。
と順調に行ったところで、義理の兄が被害者の一人と浮気してたわ、実家の製菓店の小麦粉が証拠と一致するわ、とにかく身内に足を引っ張られまくる。
そして極め付けが、犯人=母親がらみ。
マジであのおかんはよう……。

終盤でのVS犯人においては、あわや命の危機となるも、助っ人の登場でからくも救われたアマイア。
最後は妊娠していることも判明し、無事にハッピーエンドを迎える。
でも最後の窓越しの表情といい、まったく解決していない母ちゃん問題といい、まだまだこの先には困難が待っているんだろうな……と感じさせる終わり。続編があってほしいような、ほしくないような……。
いや、やっぱりおかん問題が気になるので、続編作ってください。お願いしゃっす!

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●フローラ
アマイアの姉。長女。
製菓メーカーを継ぎ、母親が施設に入るまでは一人で介護もしていた。そのため長らく未婚だったが、七年前にビクトルと結婚。今は別居中。
母親譲りなのか、苛烈な性格で、数年ぶりに会った妹にも容赦がない。
だが製菓業に対する腕は確かで、遺体に乘っていたチャンチゴリを一口食べただけで、製造日数から何から、詳しいことを言い当ててしまう。
後半の展開から察するに、多分この時、これが自社の『チャンチゴリ』であることに気付いていた。
それを前提に見直してみると、「これは非常に有能な菓子職人が作ったわね」等の台詞がお茶目に感じられるのだが、本人に言えるかといったら、そんな度胸はない。
チャンチゴリがどこにあったかを思うと、彼女が躊躇なく欠片を口にしたときはヒェッとなった。字幕では詳細な場所は書いてなかったんですが、原語ではどうだったんでしょうか。多分、正直に話しても躊躇なく食べただろうなと思うので、そこはかっけーご婦人ですが。

そんな姉御。なんと犯人が彼女の夫であることが判明。
チャンチゴリや、捜査状況をモンテスからひそかに受け取っていたことなどから、アマイアよりも前に、事実に気付いていた節が伺える。
最後はアマイアを襲おうとする夫の身体に、容赦なく銃弾をぶち込むというヒェッな活躍を見せる。
アマイアを助けるためだったかというと、そうでもない。
不始末は自分で処理するタイプなんだろう。

●ロサウラ
アマイアの姉。次女。
フローラ姉と違い、優しいお姉ちゃん。フレディという男性と結婚している。
製菓業生まれのため、お菓子作りは得意なようで、工場から持ち帰った小麦粉でお菓子作りをしていたりする。
そのため一時期は容疑者リストに挙がったが、どう見ても怪しさにおいてはフローラのほうが上なので、彼女を疑った人は少ないのではないでしょうか。
一見事件と無関係……かと思えば、被害者の一人がなんと夫の浮気相手という、なんというか男運のない姉妹じゃのう……と思ってしまった。アマイアは別だが。

●アマイア母
荒ぶるおかん。
回想も相当にひどいが、いざ施設のベッドでアマイアが対峙してみれば、初っ端の言葉が「ク●女」。しかも拘束されるに至った経緯が、看護師を襲って食い破った●を●●ていた……というから、『年月は万人を丸くするわけではない』という事実を噛みしめるほかない。
憎悪を劣化させるどころか、発酵かつ進化させるとか、腹ん中マジでブラックホール。
ビクトルは定期的に彼女を見舞っていたというが、なんかこう、女性の穢れに対する蘊蓄とか、そういったもので意気投合してたんでしょうか。そのせいでアマイアをいじめていたのでしょうか。ようわからん。

そして、後半で叔母さんとアマイアが熱中していたタロット占いにて、アマイアを破滅させようと追ってくる悪魔というのは、もちろんこのおかん以外の何者でもない。
「あなたの骨が狙いよ」 → 『悪魔のカード』のコンボ → モンテス班がバサジャウンの巣と思しき場所で見つけた骨から、タロットの悪魔はバサジャウンを指していた……のかと思いきや。
やっぱりおかんだよね。
多分続編があったら大暴れ。

●ビクトル
フローラの夫。アマイアの義兄。犯人。
奥さんの苛烈さに隠れ、わりと影が薄いおんちゃんだが、やってることはかなり劣悪。結婚前から殺人を犯していた=アマイア母に出会う前だろうから、殺人は彼女に教唆されたわけではないのがわかる。
多分アマイア母と出会った → 思想を強めた → 例のチャンチゴリを置くという儀式的要素を思いついた、的感じかと思われます。

バイク乗りとして遠方に行く傍ら、現地で出会った少女を手にかけ、自分の殺人衝動を満たしていた。
だがフローラとの結婚を機に、心が満たされる → 七年間の空白期間 → 別居をきっかけに、再び殺人衝動が目覚める、という変遷をたどる。
バサジャウンの存在や、アマイアおかん、魔女のくるみなどの超自然的ギミックがあるため混乱しやすいが、彼のやっていることは、純粋にサイコな連続殺人鬼そのもの。地獄で会おうぜ、ベイビー。

●ヨナス
捜査官。アマイアの部下。
人使いの荒い上司の酷使にも耐え、過去の類似事件を洗い出すというグッジョブ度合を見せる → 褒められる → すぐに山のような新しい仕事を与えられる → 働く、のスパイラル。
笑顔で社畜という言葉を贈りたい。
だが、さすが腹心の部下。過去の新聞記事の写真から、アマイアとは別ルートで犯人=ビクトルの結論にたどり着く。
とてもできる子、TDK! ぜひ続編でも活躍してほしい。

●バサジャウン
森の王、と呼ばれる伝説の神聖な生き物。かつてアマイアの叔母が遭遇し、危うく谷底に落ちるのを助けてもらったことがある。
伝説の……と言うわりに、わりと普通に森にいる。
遺体捜索で大勢がわちゃわちゃしていれば、姿をチラ見せ。通りがかったアマイアが、車から降りて森を見れば口笛を吹く。
案外物見高い性格なのかもしれない。

そんなバサジャウン君。住処らしき洞窟には、山ほどの骨をコレクション。多分森の王として、森で息絶えた生き物の一部を持ち帰って保管しているのだろう。バスク神話を読まないとわからないが、模倣犯に殺害された少女の腕がそのまま残っているので、食べる目的ではないようです。
ビクトルの被害者たちも、遺体に毛がついていた=バサジャウンが触れた形跡が残っているので、寄り添って冥福を祈るとか、そんな感じでしょうか。
とりあえず、悪いものではないようです。

ただ一つ気になったのが、Netflixの字幕だと、『バサジャウン』が『バサハウン』になっていて、「うん? バサハウンってのは、タイトルのバサジャウンとは違うやつなん?」と首をひねったので統一してつかーさい。
てっきりバサハウンの親玉がバサジャウン、もしくはバサハウンの複数形がバサジャウンなのかと誤解したじゃろがい。

●くるみ
アマイア叔母によると、くるみ=魔女の力の象徴=これを憎い相手に持たせると、悪い出来事が起こるらしい。
三人目の被害者、アンネのコートのポケットにも、何個かくるみが詰まっていた。
犯人が詰めた……? と思ったんですが、アマイアが発見したのはアンネの自室。犯人は殺害前後しか接触がないはずなので、じゃあ誰が詰めたのかといえば、多分アンネの友達。彼女の不倫を知っていた、あの女の子が詰めたんでしょうね。自身の恋愛を自慢してくる友人を、疎ましく思っていた節があるし。

雨の中で、犬の前に落ちていたくるみはよくわからんのですが、多分アマイアに危険=悪い力=おかんが迫っていることを示してたと思われます。
そう考えると、アマイアの危機は去ってない気がしますね。三部作ってこれだからやーよ。

●アマイア父
妻と違って人の好さそうなおとん。母に嫌われる娘を思いやり、優しく愛情を注いでいた……ように見えて、綿棒事件の際は、医者の質問に対して「事故の可能性はないのか?」ポンチキな発言をしたりと、こいつダメだ……と思わせる節がある。
まさか妻がそんな……と信じたくなかった気持ちはわからんでもないが、事故なわけあるかよ!
事故で小麦粉に埋没する娘ってなんだ。
回想での登場しかないため、おかんと違って他界している模様。

●バステラス医師
アマイア母が入院している施設の医師。
ビクトルが毎週見舞いに訪れることを告げ、犯人に気づくきっかけを与えるファインプレーと、「お母さんは看護師を襲う際に、憎しみを込めて君の名前を連呼しとったよ」と、いらんことを言う負のプレーを同時にぶちかますという快挙を成し遂げる。
それは告げる必要あったのかい?

●タロットの悪魔
アマイアと叔母のタロット占いにて、一番最後にとっても意味ありげに示されるカード。
でも最初はまったくピンと来なかった。
なんか派手なおっさんが描いてあるけど、これ何のカード? 的な。
悪魔なら、悪魔って言うてつかーさい。タロット通でないとわからんのですよ。

●チャンチゴリ
バスク地方のお菓子で、生地に豚肉が入っているそうな。
英語版wikiの翻訳によると、豚の屠殺時に作られていた……という、知らんでよかった情報を知ることができました。

●監督
フェルナンド・ゴンサレス・モリナ氏。スペインで活躍中のお方。
森の雰囲気が大変素敵で面白かったです。ありがとうございます。

↓原作小説。装丁が素敵。

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