映画『マザーハウス:恐怖の使者』ネタバレ感想。練りに練られた秀逸サスペンス。

マザーハウス 恐怖の使者 映画 サスペンス

原題:La casa del fin de los tiempos
2013年の映画
おすすめ度:☆☆☆

【一言説明】
邦題に騙されてはいけない良質サスペンス。

マザーハウス 恐怖の使者 事故物件

ポスターと邦題から漂うホラー臭。ベネズエラ発の秀逸ホラーで賞を受賞したという謳い文句に『インシディアス』系のオカルトなのかと視聴してみましたが、

これホラーじゃねえな!!

ホラーっていうよりサスペンスではあるまいか。
なんか別のパッケージで真っ黒い口開けた幽霊みたいなおばあさんが映っていたけど……

あれ主役ですよね?

幽霊じゃないよね!!
その切り取り方はどうかなって思いますよ! あろうことか主役を幽霊にミスリードとか! そうまでしてホラーアピールしたいのかおまいらは。
完全に宣伝方法を間違えていると思います。脚本や演出など、とてもよくできたお話なのに、B級ではなくC級ホラーだと思われかねない邦題とポスターが残念無念であります。
ベネズエラの映画ということで、言語はスペイン語。俳優さんたちもなじみのない顔ぶれですが、配役と演技がとてもすばらしかったです。

原題はスペイン語なのでよくわからんのですが、英語版タイトルが『The House at the End of Time』だし、終盤でそんな台詞があったので『時の終わりの家』みたいな意味かと思われます。
少なくとも『恐怖の使者』とかそんな感じではない。

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あらすじ

1981年。夫と長男を殺した罪で、一人の女性が終身刑を言い渡される。
一体何がその家で起こったのか?
夫は妻の指紋が付いた包丁で首の根元を刺され絶命。長男は行方不明のまま死亡扱いとされた。

そして2011年――三十年の時を経て、彼女は再びあの家へと戻って来た。
そこで知るあの日の真実とは……。

※以下ネタバレ。終盤にどんでん返しが来るタイプの映画です。未見の方はあらすじを知らないほうが楽しめますので注意。

 

 

『ホラーじゃない』と書きましたが、最初はちょっとだけホラーチック。

1981年、夜中に突如頬に傷を負って目覚めた女性・ドゥルセ。周囲には割れた鏡が。でもってその中の一番大きな破片を手でむぎゅんと握りしめ、階下へと向かうドゥルセ。

痛いぞ、それ。
手が血まみれになるよ、その持ち方は。

だが有事に細かいことは気にしていられぬ。階下は荒らされ、夫ファン=ホセが首の根元に包丁を刺されて絶命していた。
驚くドゥルセ。そこに地下へ続く扉の向こうから幼い長男レオポルドが現れる。
「誰がやったの? こっちにおいで。母さんが守ってあげるから」という言葉に、躊躇しながらも進み出ようとするレオ。
だがその時、何者かが背後からレオを引っ張り、彼は暗闇の中に消えてしまったのだった……。

そして時は流れ三十年後。夫と長男を殺害した罪で服役していたドゥルセは、高齢になったこともあり、特別な恩赦をもらって以前暮らしていた屋敷に戻される。ただし監視の警官二人が外で見張りに付き、門から外へ出ることは許されない生活だ。

ぶっちゃけ誰がそんな屋敷に戻りたいんだと思いますが、ドゥルセも同じ感想だった模様。
否が応でも過去のことを思い返してしまう彼女。夫を殺し、息子を連れ去った相手は誰だったのか? 思い悩む彼女の前に、三十年前にも感じた不気味な気配がちらつくようになった……。

*********************

非常によくできた映画でした。練られた脚本。無駄のないシーン。
冒頭からして『長男』レオポルドが殺害……ということは、兄弟か姉妹が存在するはずなのに出てきていない。すでに死んだ? それとも逃げ果せた? と観客の興味を引いて、そのままぐいぐい引きずり込んでいく手腕が見事。

ドゥルセの断片的な回想でわかることを順繰りに追っていくと、

五年前に一家が屋敷を買う。しかしファン=ホセは定職に就いておらず、一家は貧しい暮らしを送っている
  ↓
1981年のある日の夜。一人でいるドゥルセの部屋のドアを、誰かが激しくノックする。少しだけドアを開けると、そこから老婆のような手が出てきてドゥルセに掴みかかり、撃退した後にドアを開けるが誰もいない。代わりに子どもの叫び声が聞こえる。
  ↓
まず長男レオポルドの部屋に行くドゥルセ。合鍵がなかったので取りに戻り、中に入ると放心したようなレオポルドが。「何でもない」と答えるレオ。
  ↓
次男のロドリゴは誰かが寝室のドアを開けて入って来たので、怖くてシーツを被る。透けたシーツの向こうから、近付いてくる子供のような人影が見える。ばっとシーツが取られ、叫び声を上げるロドリゴ(これがドゥルセの聞いた叫び声)。
  ↓
ドゥルセがロドリゴの部屋へやってくる。無事だったロドリゴがいるが、「お兄ちゃんにびっくりしただけ」と答える。幽霊ではなくて???
  ↓
翌日警察を呼ぶも、当時不在だった夫は懐疑的。
警察には黙秘していたレオポルドが、昨夜部屋に入ってきたのは見知らぬ女性で、「ロドリゴと遊んではいけない」と言われたこと、「ファン=ホセがレオを殺す」と書かれたメモを渡されたことをドゥルセに教える。
  ↓
友達と一緒に野球をしていた兄弟だったが、レオポルドの打った球がロドリゴの額に当たり、ロドリゴが死んでしまう。
  ↓
悲しむファン=ホセはベッドの下に隠してあった箱から、ドゥルセに当時の恋人が送った手紙を見つける。なんとレオは自分の子ではなく、死んだ恋人の子であることが判明。
  ↓
夜中にファン=ホセが包丁でレオを殺そうと襲ってくる。
事態に気付いたドゥルセが夫を止めようとするも、鏡に頭をぶつけられて気を失う。
  ↓
冒頭のシーンへ。

一方、2011年のドゥルセサイド。

罪人のために数日に一度近所の神父さんがやってきて話を聞いてくれる。
「この屋敷で何があったのですか?」と聞かれるが、ドゥルセ自身も犯人が誰なのかわかっていない。
  ↓
屋敷で何度か白髪の男性を見かけるドゥルセ。しかも彼の手には包丁が握られている。
  ↓
ある日、鏡に血のような文字で「11 11 11 11 11」と書かれているのを発見。神父の指摘によれば、もうすぐ「2011年11月11日」だとのこと。その日に何かが起こるのか……?

そしてラスト数十分で怒涛の謎解き。
実はこの屋敷、表に「三角形の中に目」のエンブレムが飾られており(フリーメイソンとかそんなやつか?)、何がしかの意図があって百年前に作られたことが語られる。その後持ち主が失踪して空き家となった後は政府の所有となり、金銭的に困っている人々に安く売られてきたという。
だが買い手はことごとく行方不明に。でもってまた売り出し→買い手がつく→行方不明→売られるのエンドレスループ。

売るなよ、そんなもん。

まさかささやかな収入を狙った政府の陰謀かと思うところだが、今回はそっちの方向ではなかった。
末尾に1がつく年度の11月11日11時11分11秒(夜中。11時は厳密に言うと23時であって11じゃなくねという意見は却下)に屋敷の中に限って時間が混在し、屋敷が望む場所と時間に望む人物が配置されるというミラクルが起きるのだった。

つまり時計が時を打つと同時に1981年と2011年の時間軸が混在し、1981年のドゥルセの部屋のドアをまず2011年ドゥルセがたたき、自分の部屋に別の人間がおるでーと思った2011年ドゥルセが1981年ドゥルセを襲撃。だが隙間から見ると「あれっ、これ自分やん」と気付いた2011ドゥルセは退散。「もしかして過去にタイムスリップした?」と理解した後、1981年レオポルドの部屋へ。
レオに「自分は未来の母ちゃんだ。これから三日間は絶対にロドリゴと遊んではいけないし、1981年の自分にこのメモを渡して警告しろ」と伝え、「ファン=ホセがレオ殺す」メモを渡して一度は去る。
そこに飛び込んでくる1981年のドゥルセ。2011年ドゥルセはとりあえず地下に退避。
一方1981年11月11日のレオも11時11分11秒に過去に飛び、まだ生きていたロドリゴの部屋にやってくる。シーツを取り除け、弟を抱きしめて「大好きだよ」と伝えるレオ。

観客は涙と鼻水で顔がべったべた。
やめろ、その演出はずるい。

そしてドアから外へ出ると自分の時間軸1981年の11月11日に戻るが、包丁を持ったファン=ホセと鉢合わせし、殺されそうになって階下へ逃げる。

一方1981年で地下へ降りた2011年ドゥルセは、屋敷の中で時折見かけた謎の白髪老人に出会う。
実は彼は2071年から来たレオポルドだった。
彼は母親の手に包丁を握らせ、「あなたがやらなくては」と告げる。そして幼い自分は実父と同じ心臓病にこれから侵され、1981年にいたままでは医療技術が未発達のために死んでしまう。だが2011年なら助ける術がある。だから必ず一緒に連れてきてほしいと言う。

2011年ドゥルセはホセを殺害後、涙を呑んで1981年の自分から息子を取り上げる。おそらくレオを同時代に残せば、彼女は罪に問われることもなく無事にいられただろう。代わりに息子は病気で死んでしまうが。

監獄で耐えた三十年の孤独と息子の寿命を秤にかけ、母親は息子の命を取る。
2011年に戻って来たレオは真実を知った神父に連れられ、外の世界へと出て行った。
ドゥルセに残された時間は残り少ない。だがかつてはなかった希望が胸には灯っている。
めでたし、めでたし……。

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感想

果たして本当にめでたしなのか……?
先生、微妙に納得がいきません。何故ってレオは助かったけど、ロドリゴは死んでしまったままだからです。

どうせ助けるなら、弟も助けようよ……!!

2011年ドゥルセはさ、たしかに突然過去に来ちゃったらびっくりして気が動転するだろうけど、過去と同じやり方をしたらロドリゴは助からないってわかってたはずじゃないですかー。単に「ロドリゴと遊ぶな」ではなく、「お前の打った球が額に直撃して弟が死ぬから、一緒に野球だけは絶対にやるな」と具体的に伝えればよかったのでは……。
そもそもロドリゴが死ななければ、レオが実子でないことはファン=ホセにバレないわけだし、防ぐべきはロドリゴの死だったのでは……??? と思わざるを得ない。
屋敷も二人は救えなかったってことなのか。それともロドリゴの死は不幸とはいえ事故だったため、なんでもかんでも介入するわけにはいかず、明らかな殺人事件となるであろうレオのみ救う方向で動いたということでしょうか。
確かに誰彼構わず救ってたらきりがないですしねえ……。
本当は☆四つでいいくらいなんですが、この結末が納得いかないので三つでございます。

子どもは死なせたらアカンぜよ……。

以下人物紹介です。

●ドゥルセ
本作の主人公。頼れるおっかさん。なのにポスターでは幽霊っぽく扱われていたりと扱いがひどい。幽霊じゃねーわよ。

定職につかないホセにぶいこら文句を言っていたが、現代人の感覚からするとあんたが働きんしゃいとなるのでちょっとそこは共感できない。裁縫がお上手らしいし、さっさと外に出て職を見つけたらいいのに。

でもってレオ殺害未遂事件の元凶はこの人なので、なんというか身から出た錆では……と思ってしまう。
レオのせいでロドリゴは死んだわけだし、ホセが怒る気持ちもわからないではない。だが包丁を向けるのはいかんのです。

●レオポルド
長男。今回の騒動はすべて彼が生き延びるためにあった屋敷の采配だった。
弟に初恋の少女を取られてぷんすこしていたが、狙ってやったわけではないのでとてもかわいそう。事故はあらゆる物事が最も不幸なタイミングで折り重なって起きるということでしょうか。
2071年から老人の姿でやってきておかんをサポートするが、2071年に君はあの屋敷に住んでいるのかい……? すでに1981年でオンボロなのに、その後百年経っても健在な屋敷に驚きだ。
最後は親友マリオ=神父に引き取られるのかと思いきや、成長して熟女となったかつての初恋の少女の養子としておさまった模様。なんと言うか……複雑な心境だ。

●ロドリゴ
次男。ある意味長男。なぜこの子は助からなかったのか……!!
兄弟二人、無事ならそれでよかったのに……!!!!

だけどシーツ被ったくらいで幽霊様を欺けると思うなよ。
その拙さが逆に幼さをかもしてなんかもうあああああってなる。子役が可愛かったから余計に助かって欲しかった!!

●ファン=ホセ
一家のおとん。定職に就かず、ごはん代も稼いでこないけど息子を取られるのは我慢がならないというわがままぶりを見せる。
ドゥルセが隠し持っていた手紙を見つけて憤慨するあたり、心当たりはあったらしい。手紙の主は「ホセはいい父親になれるよ」と書いていたがそんなことはなかったぜ!

●神父
2011年にドゥルセの元を訪れる神父さん。孤児院を開いて身寄りのない子を引き取っている。
実は1981年にレオとズッ友を誓い合った少年が成長した姿。額に傷があったから、筆者はてっきり助かったロドリゴだと思っていたのに……残念……!!

●監督
アレハンドロ・イダルゴさん。脚本も執筆したそうな。なんと才能豊かな方でしょう。とてもとても面白かったです。ありがとうございます。

 

最後に一言。

事故物件ってレベルじゃねーぞ!!!

↓Amazon Videoにて配信中。ポスターからは想像もできない良質な世界がすぐそこに……。

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