原題:Taxi Driver
1976年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆
【一言説明】
モヒカン化。
名優ロバート・デ・ニーロ氏主演。監督はかのマーティン・スコセッシ氏。
名作だとは知っていたものの、最後の展開がヒェッ……らしいと聞き、長らく二の足を踏んでいたのが、この度エイヤッと視聴してみました。
映画館行きをしばらく自粛しているため、この機会に、『見るにはエイヤッと気合を入れる必要がある映画』を見ていけたらなと思っております。
あらすじ
ベトナム戦争の帰還兵、トラヴィス・ビックルは不眠症に悩んでいた。
何をしても眠れず、12時間働いた後でも眠れず、ただただタクシーを走らせては、映画館でポルノ鑑賞に浸る日々。
そんな無為な時間は次第にトラヴィスの精神を蝕み、ふとしたきっかけに暴走を開始。
やがては、彼をモヒカン刈りへと導くことになるのだった……。
※以下ネタバレです。のっけから結末に言及しています。未見の方ご注意。
感想
戻ってる!
日常にも戻ってるうえに、髪型まで戻ってる!!
あの衝撃のモヒカンヘッドが……! 次のシーンでは、いつもの髪型に戻ってるってのはどういうことじゃい!
↓こちらのモヒカンがトラヴィスさんだよ!
終盤の展開もさることながら、最後の最後でめちゃくちゃびっくり。
何故におめーーは何事もなかったかのように、タクシー仲間と談笑しとるんじゃい!!
何かこう、予想していたのとは違う意味で震撼している筆者であります……。
たしかにトラヴィスがモヒカン化してからは、ギャースな展開がオンパレード。十分ヒェッとなったわけですが、それにしても、まさか日常がカムバックしてくるとは思わなかったぜ……!
正直、終わった後はぽかーーんだったぜ……!
えっ、この映画、結局何だったんだ……ってな感じに……!
↓
というわけで、二周目にGO!
↓
……。
…………。
結局……何だったんだい……?
一応、トラヴィスのたどった道筋には納得がいくんです。
ベトナム戦争という過酷な環境を生き抜き、いざ帰って来てみれば、職歴なしの厄介者扱い。不眠症のためにタクシードライバーになるしかなく、ひたすら他人の人生を乗せては、他人の待つ場所へと運ぶ日々。
自尊心も向上心も、まっとうな正義感も持ち合わせていた彼は、次第に鬱屈し、どうしようもないほど孤独を深めていく。
ただ、このトラヴィス君。元から人とのコミュニケーションは、あまり得意ではなかった様子。意中の女性を初デートでポルノ映画に連れて行ったり、どう見ても脈のなさそうな販売員にしつこく名前を聞くなど、元々不器用な人間だったのでしょう。
おそらくは故郷の町でももてあまされ気味で、徴兵の声がかかる前に、自分から志願したのではないかと思われます。
望んで戦争に参加したのは、何かを変えられると思っていたから。国のために戦うという大義や経験の中で、自分と、そして世界が変わると信じていた。
ところが。
帰ってみれば、相変わらず世界は生きづらいし、他人との望むような絆も築けない。なんかもうやんなっちまうぜ、となるのは分かる。
↓
だけど、なんでモヒカンだあよ。
センスが前衛的すぎやせんかね。
しかも、当初の標的に選んだのは、まさかの大統領候補。
ベトナム戦争なんぞに手を出し、この腐った生きづらい世の中を作り出した政府の代表的存在……という意味で、やり玉に挙げるのは理解できる……のだが。
多分、彼がパランタイン氏を選んだのは、ほんの少しではあるが彼と接点があった=他者よりも親近感を持てる存在だったから、ではないでしょうか。
映画『ジョーカー』のアーサーも、本作のトラヴィスも、突発的な殺人では、まったく見知らぬ人間を相手にしている。けれど、事前に計画を練った犯行では、どちらも見知った顔を標的に選んでいる。
この辺は、人間に共通する心理なのかもしれません。
殺すなら、赤の他人よりは知った人間を、という。
トラヴィスに至っては、一度は本人をタクシーに乗せ、「このごみ溜めを一掃できるのは、あなたのように力のある人だ」と固く握手までしている。加えて、好意を持ったベッツィが勤める選挙事務所の代表でもある。
もうコイツを●るしかない、的な。
だから、いざ事に及ぼうとして、SPに邪魔され失敗した後は、二番手の見知った相手=アイリスを囲う悪人たちの元へと乗り込んでいく。
とんだとばっちりと思わないでもないけど、まあ悪いことやっとるんだから、しゃーないよね!
……と振り返ってみても、なんで日常が帰ってきちゃったかな、という衝撃は薄れないんですが。
あんだけ撃たれてたじゃん。
四方八歩から銃弾食らってたじゃん。
「殺してやる」おじさんに、しつこくバックアタック食らってたじゃぁーーん!
なのに、何故君はけろりとタクシー仲間に加わっとるのだ。
髪の毛が生えそろっているのだ。
そう思いつつも、トラヴィスがすっきりした顔をしているのは、なんかわかる気がします。
英雄として持ち上げられたうんぬんの前に、なんというか彼の中では、欠けていたものがすこんとハマったというか、世界と自分との整合性がとれたんだろうなあ……と。
だから、ベッツィとも適度な距離を保てる=孤独ではない。
前と同じで一人は一人なんだろうけど、世界の中に自分の居場所を見つけられた身としては、以前ほどがむしゃらに他人とのつながりを求めなくていい……という感じでしょうか。
死んだのは、一応悪人だけだし。
SPとか、新聞に載ったトラヴィスの写真を見て、「アイツやん」と思わなかったのかとか疑問はあれど。
トラヴィスが幸せならいいのだよ。
という結論に至りたいと思います。
めっちゃ面白かったです。
人物紹介
●トラヴィス・ビックル
主人公。不眠症に悩み、12時間働いた後もまったく眠れん……と述懐し、かの24時間耐久ドラマへの出演権を獲得できそうな印象を残す。
演じるデ・ニーロ氏を初めて見たのは、『ヒート』の渋みを増していた頃だったので、『ゴッド・ファーザーⅡ』にて、アル・パチーノ氏共々、めちゃくちゃ若い&イケメンだった頃を拝見し、ヒエェ……となった次第。本作も超イケメンでねーの、これ。
ぶっちゃけm-65フィールドジャケット欲しいっす。鏡の前で「You talkin’ to me?」つって、トラヴィスごっこをやりたいっす。
本作は徹底してトラヴィスに寄り添い、彼のナレーションにて物語が進み、特にタクシーを流して町をさ迷うシーンは、彼の心象風景だったりするそうなんですが、感情移入できるか……というと案外そうでもなく、途中からまったくついていけんことになるからびっくりダヨ。
突如針が振り切れたというより、いきなり爆発して針どっかいったくらいの勢いでとんでもない方向に舵が切られる → トラヴィスが真顔のまま、突然ハードマッチョプログラムを実践し始める → 裸の上半身に、直にホルスターを巻き付ける=絶対肌に食い込んで痛いヤツ、などの行動を取り始めるため、えっ、ちょっ、トラヴィスさーーん? 的にとまどっていたところが、最終的にモヒカン化。
しかも、わざとトラヴィスの顔をしばらく映さないようにするカメラワーク → 映ったらモヒカン化、という心底パネェ演出がなされ、なんでそうなった? という異次元空間に放り込まれる。
↓
からの、アパート無双。
44マグナムが火を噴くどころではなく、首を撃たれるわ、肩を撃たれるわ、「殺してやる」おじさんが出現するわ、おじさんがいつまでも追ってくるわ、血のりがばしゃーってなった中でトラヴィスがにやりと微笑んで、指で銃を撃つ真似をしてああ死んだな……と思うわ、でもって最終的には全部なかったことになったくらい爽やかにトラヴィス君が日常に復帰しているわで、「は……はえぇ?」ってなってる間にエンドクレジットまでが終わってしまった。
有名すぎるポスターには、モヒカンのトラヴィス君が映っているので、いつどういう理由でこうなるんじゃろと思っていたが、あまりにも唐突になったと思ったら戻っているので、やはり人生というのはすべて泡沫の夢なんだなあ……と悟りの心境に至った次第です。
何この映画、最高。
●アイリス
ポスターや当時の反応的にはヒロイン的扱いのような気がするが、個人的意見としては、彼女もトラヴィスの周囲を通り過ぎて行っただけの人間に過ぎないという印象。
彼が助けたかったのは、アイリス個人というよりも、 自分自身だったと思うので、おそらく一年もすれば、トラヴィスは彼女の名前も忘れてしまうのではないかと思われる。
演じるジョディ・フォスターさんは当時13歳だったそうだが、それにしたって色気がパない。ちょっとおバカっぽそうなところといい、最高にサイコーな女性ですな。
●ベッツィ
トラヴィス君を悩殺する美人。選挙事務所で働いている。
本作は1976年の映画だが、彼女は今見ても、ものすごくかわゆいと思うのは筆者だけではないはず。作中で流れるけだるげなメロディがとにかく似合う。
初戦でポルノ映画という悪手を打たれ、その後事務所にて「殺してやる」と叫ばれたにも関わらず、新聞で活躍を読んだ後は、よりを戻してもいいわよ的な空気を流し始めるという、女心とは誠に不可解なものですよ。
「あなたみたいな人、はじめて」というセリフが、トラヴィスを実に端的に語っている。
●スポーツ
売●の斡旋をしているイケナイおじさん。ハーヴェイ・カイテル氏にもあったロン毛時代。
かわゆいアイリスちゃんをだまくらかし、客をとらせる一方で、「世の女は俺を恋人にするべきさ」的なセリフを吐きつつギューコラしたりする。なんぞお前。
そんな世慣れたスポーツ君も、さすがにトラヴィスの劇的イメチェンは見抜けなかった。なんか馴れ馴れしい奴来たな……と警戒し始めたところをズドン。だが死なず、首筋に弾丸を浴びせるも、あえなく2発目で撃沈した。
●殺してやるおじさん
アパートで客の滞在時間を計り、それに応じた料金を徴収するおじさん。
終盤の山場では、突如現れたモヒカン男に右手を撃ち抜かれ、怒りのあまり「殺してやる」を連呼。しつこくしつこくトラヴィスの肩を掴むも、片手が使えないため決定打が打てず、その結果、観客は一体何回の「殺してやる」を聞くことになったであろうか。
超怖い。
やっと彼が静かになったときは、心底ほっとしたのであります。
●メガネのおじさん
間が悪い時に間が悪い場所にいたアイリスのお客。
とっさに応戦しようとしたものの、混戦のうちに命を落とした。
●パランタイン上院議員
次期大統領候補。
トラヴィスのタクシーに乗ったり、テレビで演説したり、最終的に命を狙われるという重要なポジションだが、彼が何を語っていたのかとんと印象に残らんのはなぜなのか。
その後大統領になれたんですかね。
●シークレットサービス
グラサンをかけた渋メン。
隣でにこにこしながら立ってくる奴に話しかけたら、「SPってどうやってなるの?」「仕事って大変?」「銃は何を使ってるの?」と矢継ぎ早に質問を浴びせられ、なんていうか、子供かって言いたくなった。
どう見ても不審者な上に、同じ服装で行っちゃったものだから、さすがはSP。劇的イメチェンにも騙されず、「あのときのアイツだ!」と見事に議員をブロック。悲劇を未然に防ぐ活躍を見せた。
その際のトラヴィス君の逃げ足の速さときたら、二度見たら二度とも「はーーえーーー」と感想を漏らすくらい速かった。
●タクシー仲間
トラヴィス君のタクシー仲間。毛色の違うトラヴィス君を持て余し気味だったが、事件後は打ち解けた様子が伺える。
トラヴィスが悩みを打ち明けたパイセンは、身も蓋もないようで、わりと必要なアドバイスをしていたのではないかと思う。
●強盗に入られた店主
「今月5回目だぞ!」
怒る気持ちはわかるけど、たまたま5回目に強盗に入っちゃった相手が気の毒……でもないか。下手したら死んでたのはこちらの可能性もあったわけだし。
当時の治安の悪さが窺える名セリフ。
●「You talkin’ to me?」
歴代映画の名セリフに選ばれるのも納得の印象深さ。
もちろん筆者も真似してみた。銃がなかったので、ごぼうにしてみた。
●監督
ご存知マーティン・スコセッシ氏。名作は名作と呼ばれるだけあるなあと実感しました。
大変面白かったです。ありがとうございます。
↓豪華コレクターズ・エディションが出てるざます。トラヴィスさんが、かっけーざます。