映画『ロケットマン』ネタバレ感想。一人空に飛び立った男が、地上に帰還するまでの物語。

ロケットマン 映画 ミュージカル

原題:Rocketman
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
グラサンで博物館作れる。

映画 ロケットマン

偉大なるミュージシャン、エルトン・ジョン氏の半生を描く伝記映画『ロケットマン』が公開となりました。
エルトン・ジョン氏については『ユア・ソング』が名曲だということを知っている程度だったんですが、『キングスマン:ゴールデン・サークル』での彼の活躍っぷりがまだ記憶に新しく、昨年公開の『ボヘミアン・ラプソディ』も面白かったことから劇場に足を運ぶこととなりました。

始まって驚いたんですが、なんとド直球のミュージカル映画だったんですね。
ワオ!
『ボヘミアン~』みたいに作中でのライブで曲を見せていくスタイルかと思いきや、冒頭より登場人物が歌って舞い踊るいつものアレとなっております。
いいっすねー、ミュージカル大好きな筆者には嬉しい驚きでございました。

主演は『キングスマン』でおなじみタロン・エジャトン氏。作詞を務めるパートナー・バーニー役に『リトル・ダンサー』でデビューを果たしたジェイミー・ベル氏。でもってエルトン氏の母親役に『ジュラシック・ワールド』のブライス・ダラス・ハワードさんがキャスティングされております。豪華ですなあ。

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あらすじ

シャイな少年レジナルド・ドワイトには天賦の才があった。その場で一度聞いただけの曲をピアノで完璧に再現できる耳と記憶力。そして情感豊かな歌声と作曲の才。
エルトン・ジョン』と改名した彼は、一気に大スターの道を駆け上がる。
だがその栄光の影には、深すぎる闇が生まれつつあったのだった……。

※以下ネタバレです。未見の方はご注意。

 

感想

面白かったです!
特に前半は『あばずれさんのお帰り』(なんつータイトルだ)や『土曜の夜は僕の生きがい』など勢いのある曲調が続き、エルトン氏の若さとスターダムにのし上がる華々しさを余すことなく表現してくれます。
特に『土曜の~』はワンカットで撮ったのだとか。夜の移動遊園地×多国籍な若者というエネルギッシュな絵面に圧倒され、レジナルド・ドワイトという人物の生き様に俄然興味が湧いてくる素敵仕様でございました。

そして『ユア・ソング』完成までの下りが神。
てっきり歌詞もジョン氏が書き下ろしているのだとばかり思っていたのですが、作詞は相棒のバーニー・トーピン氏が担当だったんですね。知らんかった。
曲もさることながら、歌詞も天才。そりゃーエルトンも作曲が進みますよ。
二階で身だしなみを整えるバーニーの耳に、自分が書いた歌詞がかつて聞いたことのないほど心に染み入るメロディーに乗って流れて来る。引き込まれるようにして、階段を駆け下りるバーニー。その目に映る、ピアノに向かって今まさに生まれつつある曲を奏でるエルトンの姿。
ひゃーーー!
作詞家にとって、これほど嬉しい体験があるだろうかと。
しかも歴史に残る名曲が、出戻った実家というある種冴えない場所で、ごく親しい人たちしかいない空間で誕生したという事実に、なんというかおごそかな愛がその空間に満ちているのが目に見えるようでした。
出会って意気投合、夜が更けるまで音楽について語り合い、名残惜しそうに地下鉄に消えるバーニーの姿を見送るエルトン。
本当に必要なのは後の成功ではなく、この時代だった。二人の幸福に満ちた音楽との対話時代がなければ、エルトン・ジョンは生まれていなかったのだと感じた次第です。

その後は若くして富と名声を手に入れたエルトンの栄光の陰にある孤独がクローズアップされていくわけですが、まーこれが絢爛豪華。
どこに売ってるんだ、その衣裳。
前半に比べて後半は暗めの展開ですが、その代わり衣装と画面の豪華さが影を覆い隠すようにスケールアップしていきます。ピアノでぐるぐる回りながらのお色直しシーンはまったくもって道化死てるぜ!

そんな目を奪うきらびやかな衣装に囲まれ、豪邸と名声を手に入れたにも関わらず、どこか上滑りな印象を受けるエルトンの生活。普通の靴で氷の上を走ろうとして、ツルツル滑っちゃうみたいな。
大成功してはいるけどバーニーとの仲もすれ違いがちになり、スクリーンに映し出されるエルトンの表情が全然幸せそうじゃなくなってくる。新たにマネージャーとなるジョン・リードとの鮮烈なラブ・シーンがあるんですが、心が通じているという感じがまったくしない。リードが胡散臭すぎる。特にもみあげ。
おそらく大勢の人と出会う機会があるはずなのに、忙しすぎるのか大物になりすぎたのか、本心から気の許せる人がいないというのが悲しい。

終盤、エルトン自身がロケットになって空に飛んでいくシーンが挟まれる。ロケットマン=孤高の人。皆に愛される歌を作り続けるも、自身は遥か遠い空からその歌が世界中で口ずさまれる様を見下ろしている。
天才=孤高であるべき。だからこのまま空に漂っていろって? たった一人で永遠に?

冗談じゃねーぜ!

冒頭で突如現れるオレンジ色の悪魔コスチュームに度肝を抜かれたわけですが、あれはエルトンの決意の表れだったんですね。俺は地上に帰るぜっていう。
そして彼は見事自分自身を愛することを受け入れ、復活を果たす。
この流れはすばらしかったですね。
映画はここで終わりを迎えますが、エルトン・ジョン氏の人生の旅はまだまだ続く。いつかまだ伝記映画第二弾なんぞが製作されないかと期待する日々でございます。

個人的に一番好きな曲はライオン・キングの『Can you fell~』なんですが、映画ではその年代まで描かなかったし、おそらく著作権的にも出せないんじゃないのかなとちょっと残念ではありました。同曲のライブ映像ではごくごく落ち着いた服装で弾き語りされていたので、今回のド派手な衣裳にびっくりですよ。すんげー。

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人物紹介

●エルトン
本名レジナルド・ドワイト。神童と言われるまでに音楽の才に満ち、王立音楽院の奨学生となった。
厳格な父親がいたせいか、少年時代は七三分けのきちっとした服装だったが、両親の離婚をきっかけにどんどん斜め上の方向へと突っ走っていく。
冒頭。悪魔姿にて依存症のグループセラピーにご登場。のっけからなんじゃこりゃと思ったんですが、その後映画を通してそこに至るまでの道のりが描かれ、ようやく本編と冒頭がつながった時は「よく決断したな、エルトォォン」としょっぱい液体が両目から流れ出た。だってもうボロボロじゃん。このままじゃ身体によくないじゃん。
更生施設の中で、「素面の自分は無能だったら?」とバーニーに不安を伝えるエルトン。ああ、と思いました。母や祖母が言う通り、本来の彼はシャイな青年。愛されない子ども時代を送ったことで自己肯定感も希薄だった。虚飾にまみれた世界で演奏を続けるには、ドラッグや酒の力を借りないではステージに上がり続ける勇気が持てなかったのかもしれません。バーニーはそんな彼の本当の姿をずっと知っていたんですね。
ジョン氏本人が「生きてるうちに自分の伝記映画を見るのって不思議な気分」とおっしゃっていたそうですが、確かにそんな栄誉に恵まれる人って中々いない。生ける伝説なんですなあ。

●バーニー
作詞の天才。どいつもこいつも一癖ありまくりな登場人物の中にあって唯一の良心となる気のいいやつ。ロン毛。
ジョン氏の曲の大半を彼が作詞しているというから驚き。しかも歌詞がその時々のジョン氏の内面を表していたりするから、友情ここに極まれり。けれどあくまで”友情”だったことがエルトンを苦しめたのでしょうか。
孤独な作曲作業の心強い味方のはずが、「歌が下手だ」という理由で表舞台に立つのはエルトン一人。この辺もやるせない。
彼だって相当収入が入ったと思うんですが、最後まで堅実だったのが好印象です。
ただエンディングのテロップで「エルトンとの間に喧嘩は一度もない」と出てきてたんだけど喧嘩してね? めっちゃしてね?

●エルトン母
脳みそが送ってくる高難易度ミッション『何かの映画に出ていたあの人』。誰だっけーって終盤まで悩んだんですが、ようやくブライス・ダラス・ハワードさんだと気付いてすっきり。黒髪だからわからなかった。
奔放ではあるけれど、音楽の道に進む息子への理解は深いのかと思いきや、後半のドイヒすぎる発言で株が下がりまくり。まあいわゆる毒親っすよね……。
エルトンのファッション・センスは彼女の遺伝でしょうか。

●エルトン父
本当にこんなやついんのかというくらい嫌なおっさん。あまりに嫌な奴なので、薄情に見えて実は彼なりの事情があるのでは……と推し量ろうとしたがそんなことはなかった。再登場してもやっぱりいやな奴だった。

脚本にジョン氏本人も参加しているというし、多少なりとも主観が混じっているのだろう……と思ったら、サインの下りで弁護無用の最高に嫌な奴になった。マジでなんなんだお前。

●エルトン祖母
バーニーと並ぶ映画の良心。孫のピアノの才能に真っ先に気付き、後押ししてくれる。
終盤、エルトンが自身への愛を見つけ出すシーンにも現れるが、当時も彼女が存命だったのかどうかよくわからない。王立音楽院に初めて行ったとき、帰りのバス代を渡してくれたのも彼女だったし、もうちょっとその辺を濃く描いてほしかったのが若干の不満。
そしてエルトン母と並び『何かの映画に出ていたあの人』第二弾でもある。
あの方ですよ、『ブリジット・ジョーンズの日記』でブリジットのお母さんを演じていたジェマ・ジョーンズさん! この方のお顔が大好きなんです。しみじみよい年齢の重ね方をしているなあと思います。

●ジョン・リード
本作きっての嫌な奴。色気ムンムン、エルトンのジャーマネ。
悪役っぽく描かれているので、やっぱり主観が混じって……と思いはすれど、「君が死んでも……」発言は事実なんだろうし、嫌な奴なんだろうなあ。
お金は人を狂わせる麻薬ですね。

●レイ
レコード会社のマネージャー? だと思うイケメン。映画『ライラの冒険』ビリー役のかわいい子役君がめっちゃ素敵に成長しておりました。
てっきり彼がエルトンと恋仲になるんじゃろと思ったのにジョン・リードのほうに行ってしまうからなんでだとなった。
何故ここに必要以上のイケメンを配置した。
リードよりレイじゃろがい。感じいいし。史実だからしゃーないけど。

●監督
デクスター・フレッチャー氏。『ボヘミアン~』でも代打を務めたそうな。
とっても面白かったです。ありがとうございます!

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