映画『バーバラと心の巨人』ネタバレ感想。少女が本当に守りたかったものとは。

バーバラと心の巨人 映画 ファンタジー

原題:I Kill Giants
2017年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
少女VS巨人。

バーバラと心の巨人 映画

その巨人を倒せるのは、少女だけ――。
……的な話だったと記憶していた『バーバラと心の巨人』。映画館の予告ポスターで見かけ、見よう見ようと思っていたのが、タイミングを逃して今に至っておりました。
が。なんと! Amazon prime Videoにて、週末セール100円の文字! ヒャッホウ、とばかりにレンタルしてみましたよ!

主演のバーバラちゃんには、『死霊館:エンフィールド事件』の次女役、マディソン・ウルフさん。共演に、我らがガモーラことゾーイ・サルダナさんが出演されています。

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あらすじ

世界には、巨人がいる。
頭にはウサギの耳。腰にはルーン文字を刻んだ鞄を提げ、バーバラは今日も対巨人パトロールにいそしんでいた。
電柱にぶら下げた自作の餌や、学校に置いた魔除けの石のおかげで、人々は彼らの存在に気付かずに済んでいる。
「巨人なんてあなたの空想よ」と言う奴らは分かってない。
もしも彼らが襲ってきたら、あっという間にみんな死ぬ。

でも、大丈夫。
世界は終わらない。

何故なら、私が巨人を倒すのだから――。

※以下ネタバレ。何も知らずに見た方が万倍も楽しめる映画です。別作品の『怪物はささやく』についてもネタバレしているため、未見の方はご注意ください。

 

 

 

 

感想

思春期の少女が、巨人と対決する。

――とうコンセプトな本作。日本版はさておき、海外版のポスターを見れば、その趣旨は一目瞭然。

どうです。
なにこれ、超かっけー! ってなりませんでしたか。
まるでゲームのパッケージみたい、って。

それがこのポスターの秀逸なところで、ゲームのパッケージ=中●病すべてはバーバラの妄想? という予測までさせてくれるんですね。

本編でも、まず冒頭で実際に巨人と思しき手を映し、えっ、もしかして巨人は実在する設定なのか……? と一瞬思わせておいてから、バーバラの人となりを映し出し、家庭環境に問題のありそうな思春期の少女=巨人は彼女の妄想、という可能性が高いことを示唆してくる。

まあ可能性というよりは、はっきりと、巨人はバーバラの心の問題を具現化した存在であることを提示していると言っていい。
バーバラが一人でいるときしか巨人は出て来ないし、彼女が目にしていると思っている不思議な現象は、第三者にはまったく見えていないような演出がなされている。

けれど、もしかして、もしかしたら……? と疑うぎりぎりの余地も残してくれているのは事実。
その按配が素晴らしい……と言いたいのですが。

邦題よ。
ネタバレしとるぜよ。
はっきりと、『心の巨人』って言っとるぜよ……!!

これは悪手と言っていいのではあるまいか。
この手の映画というのは、最後まで妄想なのか現実なのか、わからないからいいのであって、最初っから「心の巨人でぇーす」と謳われるのは何かが違うと思うのですが!
「I Kill Giants」=巨人、殺す。
という、原題の潔さを見習いたまへよ!


……まあ邦題はともあれ、とても面白かったです。
バーバラちゃんの行動には、おいおい……とツッコみを入れたくなるところが多々あったわけですが、話が進むにつれて、それが単なる中学二年生的発想から生み出されたのではなく、切実な背景があったからこそ生まれたことが分かってくる。

でもって、最後のタイタンとの決戦。それまで「町を守る」と言っていたバーバラが、ぽろりと漏らした本音。
「母さんは連れて行かせない!」
そうかぁ、と思わず目頭が熱くなりました。

バーバラは、母親を守りたかった。

あそこまでがむしゃらに、自分でも狂ってると認識してしまうほどに、魔除けだの罠だのを張り巡らし、他者が介入できない程熱心に、ひたすらに駆け続けていたのは、病気の母親を巨人=死に連れて行かせないためだったのかと。

何かとても腑に落ちた気がしました。子どもってそういうことをするよな、と。
自分で独自にルールを作り、それを守ることに熱中したりとか、本人にしかわからないことを、とにかく熱心に続けたりする。
そして、続ければ願いが叶うと信じている。

けれど、いざ相対してみれば、最強の巨人タイタンは、母親ではなくバーバラを連れに来たと言う。
「私がお前を倒すのだから、母は助かる」というバーバラに、「助からない」と巨人は答える。
巨人は死のメタファーではなく、母の死に怯え、人生を拒否したバーバラの恐れそのものだったから。
恐れを克服しても、死は遠ざからない――母は助からないのだ。

ここに至り、別作品である『怪物はささやく』を思い出しました。
あちらの主人公は少年ですが、物語の根底にあるのはどちらも同じ。親しい肉親に死が迫り、それを恐れた主人公の心が、自分にしか見えない怪物を作り出す。

そして両主人公は、どちらも同じ結末をたどる。
母の死を受け入れ、自分の人生に目を向ける――悲しみの先に、温かな感動が待っている。

一見風変わりですが、描かれていたのは実に普遍的な、親の死と残された子供の成長というテーマでした。何よりバーバラとその友達のソフィアがめんこいし、二人の友情に胸がキュンコラきた次第であります。
面白かったです。

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人物紹介

●バーバラ
絶賛中二病中の主人公。大ぶりの眼鏡にバニーヘッド、デニムのジャケットという特徴のある出で立ち。バニーは守護霊への敬意を表しているそうな。
眼鏡の下の素顔はめちゃくちゃかわゆいのだが、それを補って余りある個性的な行動から、学校では変人扱いをされている。
例として、
・自宅付近の電信柱などに、巨人の餌として生ゴミをぶら下げる。
・森の巨人を捕まえると称し、振り子式の罠を仕掛ける。
・廃車置き場にある列車の側面に、ペンキでルーン文字をでっかく描く。
・自身で調合した謎の液体を、巨人の餌と称してあちこちに塗りたくる
など。
生ゴミは臭いし、罠は一般人がかかったらどうすんじゃってな危険なものだし、廃車とはいえ落書きはアカンし、どう見ても有害そうなキノコの苔を調合するし、全体的に害はないとはいえ、電柱登ったら危ないよ?

他にも、
「私が巨人を見つけて、捕まえ、殺すのよ」
「私に近づくと怪我をするわ」
「私が選ばれし者なら……死だって遠ざけられる」
等々、かつて中学二年生的症状に襲われたことのある人なら、なにがしかの記憶を刺激されそうな台詞をぽんぽん吐いてくるので、あちゃーと思わないこともない。
が。
普段は自室ではなく、地下室を居住区にしていること。二階に何かがあるらしきこと。親が不在で、年の離れた姉が世話をしていること……などから、その行動の裏には、彼女の深い苦悩があることがわかってくる。

実は、バーバラの母は不治の病に伏せっており、階段を上った先の部屋で療養している。
最強の武器の名前、コヴレスキーは、『フィリーズ』に100年前に在籍していた同名の野球選手が、『ジャイアンツ』=巨人を相手に、試合ですばらしい活躍を披露しことに由来している。
この下りは、なるほど、と膝を打ってしまった。日本にだって『ジャイアンツ』は存在するのだし、気づいてしかるべしだった……と思うと若干悔しいデス。

で、結局巨人は実在したのか、というと。
個人的には、した方に一票。
本作は、いるかいないのかのグレーゾーンが実にうまく描かれていて、バーバラ一人のときは、森はとても深く神秘的に見えるけれど、ソフィアと一緒の時は、道路をトラックが横切っていくなど、途端に現実に返るような映し方をしています。
さらにゲームショップの裏手や、廃車場の決戦でも、結局は巨人たちとの決着がついた後にしか、ソフィアはやってこない=目にすることはない。
けれど、その途中。森の中で、ソフィアは巨大な足跡を目にしている。
おそらくはバーバラの言うとおり、普通の人の目には、巨人たちは竜巻や地震などの自然災害としてしか映らない。
最後のタイタンとの決戦も、一般人には竜巻による嵐としかとらえられなかったけれど、あれはバーバラの心が呼び寄せたからこそ起こったのであり、そして彼女が打ち勝ったからこそ、たいした被害もなく収まったのだと思われます。
ソフィアは巨人に対して半信半疑だったが、バーバラの事情に触れるにつれ、彼女に共感した=だから足跡が見えたのではないでしょうか。

結局、母の死を回避することはできなかったけれど、最後は悲しみを乗り越えてのハッピーエンド。
穏やかな海上で見ると、タイタンさんは恐ろしくもなく男前でねーのって話です。
幸あれ!

●ソフィア
イギリスから来た転校生。バーバラの近所に住んでいるのか、通学バスの乗り場が同じ。そのため、以前から彼女に興味を持っていた模様。
ところが、勇気を出して話しかけてみれば、ファーストコンタクトはかなりの塩対応。
それでもめげずに交流を深めるソフィアちゃんは、バーバラに負けず劣らずマインドパンクス。
巨人についての話はめちゃくちゃ怖いし、森の巨人を牽制するのに付き合って、と学校を抜け出したかと思えば、突如事故死した子鹿の腹を突き出すし、何もよりによってこの子を友達にせんでもよくね? と正直思ったりもするのだが、「あなたが安全なように」と二人で雷神トールの誓いを立てる姿には、これぞ腹心の友ってやつさ、と涙を禁じ得ませんでした。ええのう、ええのう。

一見、終始振り回されているように見えたソフィアちゃんですが、それでもバーバラに対する友情は本物で、嵐が来る中、必死に友を探し回り、ようやく見つけたと思ったら、海を見つめて「来た……!」と言われ、「足が痛いなら隠れていて!」の台詞におとなしく従ったりと、何かしらのものは感じ取っていた様子。
でもさすがに、嵐の海に親友が消えたときは度肝を抜かれただろうなあ。二人が無事でよかったざんす。

●カレン
バーバラの姉。金融業に勤め、母の看病から弟妹の世話まで一人でこなす苦労者。
本当に苦労がパないので、あんたはすごいと言ってやりたい。
毎日の残業に加え、学校からの突然の呼び出しに、突拍子もない妹のフォロー、食事作り、おそらくは家計も一人で支えているであろう心労と、老け込まないのが不思議なくらいだ。
なのに、「もっと妹と会話しなくちゃね」と自らを省みるなど、とにかく金色のハートの持ち主。
若くして母を失ったことは悲劇だが、その後は彼女を中心に、再出発がなされるであろう。幸せにおなりよー。

●バーバラ兄
姉ちゃんが苦労してるのに、おめーはよーーー! ゲームばっかしてよぉーーー!
おそらくはバーバラと数歳違いで、母親のこともあり、自分でもどうしていいのかわからないんだろうけれども、それにしたってもちっとなんか行動のしようがあるじゃろがい!
金のハートな人物が多い中で、なんというか、かんというかなのだ。

●バーバラの母
おそらくは末期の癌か何か。病院では手の施しようがなく、最後の時を過ごすために、自宅で療養しているのだと思われる。
病身のため、ずっと二階で眠っているのだが、母の死を恐れるバーバラは、タイタンと対決するまで部屋を訪ねることができなかった。なんとも辛い時間だったことだろう。
けれど、最後はようやく側に来てくれたバーバラと二人、仲良く寄り添って親子の時を過ごせた。彼女の眠りが、どうか安らかでありますように。

●モル先生
バーバラの学校にやってきた心理士。
おそらく随一の問題児として報告されていたバーバラと真っ先に接触を試みるが、かなりの苦戦を強いられる。
たとえ手を出されたとしても、穏やかに話し合おうとする人柄には心を打たれる、誠に素敵な女性。
彼女の人柄に影響されてか、「巨人は憎しみそのもの……かけがえのない人を奪い去ってしまう」とバーバラも本音を吐露。
次第に追い込まれて行く彼女を心配し、嵐が襲来したときは身体を張って探し出し、説得しようとした。
おそらくソフィアとモル先生なしには、バーバラはタイタンに打ち勝つことができなかっただろう。すばらしい二人だ。

●巨人
北欧神話に由来する巨人たち。
天と地との間にただ一人生み出され、孤独から我が身を引き裂いて分身をつくったとされる。
「え、天と地は、結婚もせずに産んじゃったの?」というソフィアのツッコミが冴え渡る。そこは気にせんでよかよ。

森の巨人や氷の巨人、山の巨人など、多数の種類がいるようだが、バーバラの語りでは、とても恐ろしいことになっていた。特に山の巨人はアカン。

中でも最凶の巨人タイタンは、実に凶悪そうな印象を抱いたのだが、バーバラを前にした語り口は男前そのもの。
さすが生と死と、孤独とを知る存在は違いますわ-。かっけーっすわー。

●コヴレスキー
バーバラが有する最強の武器。巨人を産んだ最初の巨人、ウルのあごから削り出されたという。
なんでそれを一介の女子中学生が持っとるんじゃい、というツッコミは野暮なのだ。
普段はピンクのポーチに封印されており、開けるとゴゴゴ……という演出とともに、赤く光り出すという素敵使用。
が、不良とはいえ、同じ女子生徒を相手に取り出されようとしたときは、さすがにポテンシャルを引き出すことはせず、ちっこい木でできたハンマーのミニチュアとして登場。
「なんで……?」とバーバラは言うものの、そりゃ女子相手に使ったらアカンからでしょーが。察しろ。

そして、タイタンとの決戦時。満を持してポーチから現れたのは……想像の五倍くらいエグい、まさに『戦鎚』と呼ぶにふさわしい凶悪武器。
その一撃は、触れ込み通り、最強の巨人タイタンをも一撃で沈めるほど。

って、これをテイラーに振るおうとしていたバーバラは反省すべきだと思う。
ガールよ、暴力はイクナイのだ。

●モル先生の夫
モル先生の自宅を訪ねてきたバーバラに優しくしようとするも、「その子も死ぬ。みんな死ぬのよ!」と言われて走り去られる。
気持ちはわかるけど、それはアカンぜよ。

●ソフィアの飼い犬
パパ……!

●監督
アンダース・ウォルター氏。
大変面白かったです。ありがとうございます。次回作をお待ちしております。

↓原作本があるよ!

↓『怪物はささやく』も好評配信中。こちらも面白いのだす。

↓原作も読み応えあり。挿絵が最高なのです。

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