映画『パピヨン(2017年版)』ネタバレ感想。何故男は残ったのか。

原題:Papillon
2017年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
極限の獄中ドラマ。

パピヨン 映画 2017年版

筋肉大好き! チャーリー・ハナム氏主演!
共演に『ボヘミアン・ラプソディ』にてアカデミー主演男優賞を受賞したラミ・マレック氏という豪華キャスト。
恥ずかしながら1973年版は見たことがなく、『脱獄映画の金字塔』らしいという知識しかないままに劇場入りしてきました。なかなか面白かったので、いずれ前作と原作本にも手を出してみたいと思います。

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あらすじ

パピヨンという通称で知られる金庫破りがいた。
慢心から組織のボスの金に手を出した翌日、殺人の濡れ衣を着せられ逮捕。アリバイがあったにも関わらず、終身刑を言い渡されてしまう。
刑期を過ごす場所はフランス領ギアナにある刑務所。パピヨンは大勢の囚人たちと共に輸送船に乗り込むことになった。
そこに偽札職人のルイ・ドガの姿を見つけた彼は、相手が隠し持っていると噂の大金をあてにし脱獄計画を練ろうとするのだったが、その先には想像以上に過酷な服役生活が待ち受けていたのだった……。

※以下ネタバレを含みます。未見の方は注意。

 

感想

何故か勝手に『ナヴァロンの嵐』系のやってることはシリアス極まりないけど、ちょっとユーモア的なものもあるあんな感じの映画なんじゃろいと想像していました。
チャーリー・ハナム氏だしね。アクションとかね、見ごたえある感じでね。最後は爽快感に溢れた脱獄をかますんだろうさ。的な。

だがしかし。

序盤が終わり、大勢の囚人とともに船の上で最初に迎えた夜。すっかり寝入っていたルイ・ドガは異様な物音で目を覚ます。
誰かが苦しんでいる声。何かを切り裂くようなにぶい音。
何だろうと横を見ると、

隣の囚人が腹を掻っ捌かれて、腸が惜しげもなくはみ出している。

あらやだ、あの子あんなにはみ出ちゃって。
腸は一度出たら腹圧のせいで元に戻すの大変だって『動物のお医者さん』でやって……ぬんぎゃーー!

あっ、これそういう感じの? くすっとか、ふふっとか、そういうユーモア緩和シーン皆無の?
ガチな???

うわーーー。
続く展開もシビアでリアル。それぞれ一芸に長けてるけど一癖も二癖もある囚人たちを一人一人仲間に引き入れ、レッツ脱獄版オーシャンズ11! 

とかそういう映画ではまったくなかった。
どこまでも展開はガチだった。

「脱獄を試みた者は独房に二年。二度目は五年の後、死の島『悪魔島』に流刑となる。そして殺人を犯した者は即死刑」
と所長が最初に言及する通り、やらかしたら即厳罰。閉塞感と絶望感に画面が包まれる中、やめとけばいいのにそれでもパピヨンは自由を求めて脱獄を試みるわけです。やめとけって。胃がキリキリするから。

着いて早々、輸送中の船上で交流のあった仲間が脱走を企てた後に捕縛。しかし逃走の途中で刑吏に手を出し殺害してしまったため、見せしめとして広場で処刑されることに。

その処刑道具がなんとギロチン。

囚人たちが居並ぶ広場の真ん前――誰からもよく見える位置に、今や原始的ともいえる断頭装置がどんと置かれている。処刑される仲間は、言うまでもなくパピヨンの未来。

そして落とされる頭。

うへえ……。
見るにはそれなりの心構えがいる映画でした。実話を基にしているといいますが、現実はもっとひどかったんでしょう。支給された囚人服がものの五分で薄汚れ、汗まみれ泥まみれ汚物まみれの汚い布切れと化していく。
だがまだ一般房にいられる間はよかった。独房がこれまたひどい。
正直周囲の襲撃はないし、一人でのんびりできるし、独房のほうがまだましじゃないかと思ってたんですが、二年間誰とも接触せずに明かりもなく沈黙の中で過ごしたら人は狂いますよね。
おかしな話ですが、囚人にも人権があるんだということをしみじみと感じました。

1973年版を知らないので比較はできませんが、刑務所の悲惨な実態や閉塞感を描くという点では本作は非常によくできていたと思います。
ギロチンに象徴される罪と罰。土地開墾にこき使われる過酷を極める労働。いつ襲われるかわからない弱肉強食の世界。そんな中でも失われることのないパピヨンの自由への渇望と脱獄への意思。

ただ不満なのが、二度目の脱獄で捕まり五年間独房に入れられた後のシーン。最初は光のせいかパピヨンの髪の毛が真っ白に見え、「ああああ、こんなに老けちゃったんだ」とショックだったんですが、外に出てきてみると案外美丈夫っぷりがそのまま。
あれっ、イケメンじゃん。あー、安心した……じゃなくて
そこはもっとよぼよぼになっとらんといかんだろう。五年だぞ。前回の反抗があるし、所長だっていじめにいじめぬいてきただろう。なのにちょっと綺麗すぎやしないか? 五年もろくに風呂に入ってなかったら、身体のどこかにうじが溜まってたっておかしくないし、もっとげっそりしてないといかんだろう、という。

なまじマッチョでイケメンなのがよくなかった。

演じるハナム氏はこのために17kgも減量したと聞きますが、骨格がしっかりしててねー。たしかに肋骨浮き出て腹との落差がげっそりしてたんだけど、なんかまだ健康そうなんですよね。そこが残念。

ただ主役二人の演技は素晴らしかったし、すべてを諦めかけたところからの脱出の流れは感動的でした。
ルイ・ドガが残ったのは、脚が悪く飛び降りる自信がなかった……のは事実でしょうが、おそらく脱獄の際に殺人を犯してしまった&生い立ちがパピヨンと決定的に違うから、というのが大きな理由。
幼少期に虐待を受けていたドガは、パピヨンが教師の息子だということに驚愕する。まっとうな子供時代を送ったのに、こんな場所にいる彼に憤りを覚えた様子がうかがえる。
お前ここにいちゃだめじゃねーか。俺たちとは違う人種じゃねーか、と。
ハメられたとはいえ、身から出た錆だったのも事実。悪事に手を染めるのが必然だった自分とは違い、本当なら綺麗な身でいられたのに、馬鹿をやらかしてこんな場所に転落してきた。とんだ大馬鹿野郎だ。

「教師の息子がこんなところで何をしている?」

この一言にドガの気持ちが込められています。
妻に裏切られ、正当防衛とはいえ人を殺してしまったドガは、悪魔島で静かな孤独の中にいることに安らぎを見出してしまった。けれどパピヨンは違う。どんなひどい目に遭っても、いつも前を向き常に自由を求めてきた。それは肯定された子ども時代を過ごしたからだ。
五歳まで愛されて育った子どもは、自己肯定感が強固になると聞きます。困難の中にあっても、常に自分自身に対して希望を胸に抱くことができる。
だからパピヨンは海に飛び込み、ドガは残った。
パピヨンが自由を手にしたことで、ドガも残りの人生を生きていける。この先どんなことが起こるかはわからないけれど、きっとパピヨンという希望は胸に残り続けるのではないか。

ラストシーンの海がとても美しい作品でした。

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人物紹介

●パピヨン
本名アンリ・シャリエール。『パピヨン』の通称を持つ金庫破りの名手。
ボスに渡す盗品の宝石をくすねたことがばれた翌朝、組織が犯した殺人の罪を着せられ、終身刑を言い渡された。

マッチョ。
何故金庫破りがこんなにマッチョなんだ……。先生、金庫開けるのに筋肉って必要ありますか? 下手な用心棒よりよっぽど強そうなんですが。

マッチョな筋肉は刑務所収監後も大活躍する。主にドガを狙うやつらをぼっこぼこ。
脱獄プランは慎重に練らなくちゃね……と思ったら、性悪な刑吏がドガを鞭で打ち始めたため、成り行きで第一回目の脱獄を実行する羽目になってて笑った。
でもって秒で捕まる
いやいや、これを1カウントとするのはちょっと気の毒ではあるまいか……。
だが幸い誰も死人が出なかったため、ギロチンの刑は免れた。死人さえ出なければいいのでしょうか。案外鷹揚な規則です。
その後は二年間独房に入れられる。狭い中やることもないし辛ぇわ……とへこんでいたら、差し入れの水の中に、ドガがこっそりココナッツの半身を入れてくれることになり、友情の大事さをかみしめる。

だがばれる

所長「犯人言え」→パピ「言わね」→所長「ごはん減らすよ?」→パピ「どうぞどうぞ」→減らされる→所長「言う気になった?」→パピ「言わね」→所長「激おこ! 暗闇にしてやる!」

なんか下手に差し入れしたせいでよりひどいことになった節はあるが、途中ドガの友情があったから二年も耐えきれたと解釈したほうが正しいのだろう。
そして独房から出たあとは心神喪失を演じ、体力的に回復したところで早速脱獄第二弾を実行。せわしない男である。
今度は仲間も三人に増やし、無事にボートに乗って海に出たまではよかったが、なんやかやあって一人が波間に消え、南国っぽいどこかの海岸に難破。気絶していたところを尼僧が救ってくれた……のかと思いきや、もちろん通報済。お迎えに来た警察にとっ捕まる。
だよね。普通脱獄犯は通報するよね。
一応パピヨンは危機意識を持ち、すぐに海岸を離れようとしていたのだが、警察の姿を見てドガを逃がそうと戻ったために捕まったという経緯がある。だがぼーっとしてた他の二人はアホすぎて何やってんだ感。危機意識を持てや。

その後は前述の通り、五年の独房→悪魔島→海流が外に向かって流れる箇所を発見し、いかだとともに海に飛び込んで無事に本土に生還。自由を手に入れる、の流れに。

若干道を外しかけてはいたが、道理は通すし友情には熱いし、応援したくなること必至の好人物。荒くれ者多数の刑務所の中ではそう大きい方でもないのだが、鍛え抜かれた肉体でドガを守って無双を繰り広げる。かっけーっす。

だが愛称が『パピ』はかわいすぎるだろ。パピ、って呼ばれてこれが出てきたらビビるだろ。

●ルイ・ドガ
偽の国債を発行し、どんちゃらお金を儲けていた偽札職人。絵が上手。
当初は「自分の身は自分で守るぜ」と豪語しており、眠るときは刑吏の目の前の檻付近なら大事は起きないよと高をくくって眠りに落ちたら、隣の奴が腹を掻っ捌かれた。無法者どもを甘く見ていた。
心底縮み上がった彼はパピヨンの申し出を受け入れることにしたが、あくまで「考えを改めた」という体で泣きついたわけではないアピールをする姿が好印象。いいですね、嫌いじゃないですね、そういうところ。

パピヨンの知り合いがギロチンにかけられ、なんとその死体を運ばされることになる。泣きたい
だが実際に泣いたら刑吏が鞭で打ってきて、それをかばったパピヨンが独房行きになってしまった。
正直死んだと思いました。
あの荒くれものの中でこいつがどうやってパピヨンなしで二年も生き抜くんだと思っていたら、なんとココナッツの差し入れをしてくれるので無事なのがわかりほっと一息。どうやら持前の頭の良さが所長の目に留まりお気に入りになった様子。その後は安全な医療室勤務となり、上手く立ち回っていたようです。さすが偽札職人はしたたかですな。

その後早速脱獄計画を実施したパピヨンについていくも高いところから飛び降り損ねて骨折。しかも海に出た後にパピヨンを守るため、襲ってきた囚人をナイフで刺殺してしまい、そのショックか難破先の海岸でぼーっとする。
捕まって刑務所に送り返された後は、当然ながら所長の怒りを買って問答無用で悪魔島に送られ、五年の間パピヨンが来るのを待っていた。
だが悪魔島はその環境から見張りもなく、いるのは絶望して無気力になる人間ばかりなので逆に安全。わりかし好きなことができる様子。壁に絵を描きまくって悠々自適風に生きていた。

パピヨンとはここで別れることになったが、ドガ自身は終身刑ではなさそうなので、多分ちゃんと刑期を終えて余生は刑務所外で過ごせたのではないかと想像しております。
演じるラミ・マレック氏の力もあり、非常に魅力的なキャラクターになってましたね。死にそうで死なないところとかね。

よく考えると、作中の約三分の二を尻の穴に異物を入れた状態で過ごしている
ひゃー。

●所長
刑務所の責任者。法によって無法地帯を取り締まる。
二年の独房入りの際、いきなりおいしそうなチキンスープを持ってやって来るから、どうしたんだ心の雪解けかと思ったら、ココナッツ差し入れの犯人を聞き出しちゃろという下心ありなだけだった。そうかー、そうだよなー。
悪い人でも好い人でもない印象。もちっとこいつを悪役っぽく描いてくれたらお話が引き締まってよかったのではあるまいか。

●副所長
嫌なやつ。妻の兄弟だかがドガの偽札で被害にあったため、主役二人を目の敵にしてくる。

●ジュロ
船でパピヨンと顔見知りになり、島到着後足を折ったふりをして医務室行きとなる。でもってその日のうちに早速脱獄。
だが逃亡途中で刑吏を殺害してしまったため、晴れてギロチン行きとなり、この場の過酷さを囚人と観客に知らしめる役割を負った。
あっ、ふーん……ギロチンってそういう流れで首をはめてね、ごろーんってなる頭をあらかじめ置いたかごに入れるって合理的……いらねーよ、そんな知識!
ひょうきんな奴だったのに……。

●セリエ
元海軍だかにいた荒くれもの。脱獄第二弾にてボートを確保する要員で仲間となる。
だが前々からドガを嫌っており、ボートが沈みそうな原因をドガのせいだと決めつけ彼を海に落とそうとする。
どう見てもあんたが一番重いだろ。
守ろうとしたパピヨンが劣勢となったため、ドガ自身によって殺害され海の藻屑と消える。

●マチュレット
繊細な感じの美少年。殺人の罪を犯して捕まったらしい。刑務所でその容姿はアカンと思っていたら案の定アカン。刑務所ものというと湧いて出るあーいう輩はほんっと恐怖でしかない。
門の鍵を手に入れるために脱獄仲間となる。ボートが漂着後、島のジモピーと仲良く海岸で遊ぶ。いや、逃げろよ。案の定やって来た警察に見つかり、逃げようと抵抗したため銃殺された。気の毒。

●ネネット
パピヨンの恋人。めっちゃ美人だが冒頭にしか登場せず。
愛情深そうだったが、「俺を忘れろ」の言葉通り忘れるしかなかったんだろうなあと思うと切ない。

 

どうでもいいことですが、googleで『パピヨン』のみで画像検索すると、それはもうかわゆい姿が画面いっぱいに表示されるのですがこれじゃない
めんこくはあるのだが。

↓Amazonn Video にて好評配信中。ハナム氏の筋肉美がゴイス。

↓スティーブン・マックィーン版もあるでよ。見比べて見るのもまた一興。

↓原作小説。硬派じゃのう。