映画『パターソン』ネタバレ感想。驚くほど何も起きない、でも不思議と面白い日常ドラマ。

パターソン 映画 マーヴィン ドラマ

パターソン 映画

Amazon Prime Videoにて、配信となっていた映画『パターソン』。
何々……主演はアダム……ああ、アダム・サンドラー氏ね。ふむふむ、サムネイルがおしゃれだし、これは良作の予感……。
  ↓
アダム・サンドラー氏ではなかった。
アダム・ドライバー氏だった。
悪の帝王相手に、光る刀でズンバラしているほうのアダム氏だった。

そんな勘違いから始まる恋もあるってなもんです。

共演に、『エクソダス:神と王』のゴルシフテ・ファラハニさんと、『死霊館:エンフィールド事件』のスターリング・ジェリンズさん。永瀬正敏さんが出演されていらっしゃいます。

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あらすじ

何気ない日常にこそ、人生は宿る。
バスの運転手として働く傍ら、詩作に励む青年パターソン
ローラ、愛犬マーヴィンら、家族を中心とする日々の中で、彼は過ぎ去る時を一つ一つ切り取り、言葉として、一冊ノートへと刻み込んでいく。

これは、そんな青年の――月曜日から日曜日までを描いた、物語だ。

※以下ネタバレです。

 

 

 

感想

何も起きない。
驚くほど、何も起きない。
カメラは淡々とパターソン青年の朝起きてから夜寝るまでの行動を追い、そこに時折、彼が紡ぎ出す詩の一文を重ねるものの、取り立てて重大な出来事が起こるわけでもなく、実に静かに、だが情感豊かに、一人の詩人の日常を描いていく。

大富豪が死んだり、バスが爆発したり、動く死体が襲ってくることもない。
いわゆる”娯楽”映画的出来事は一切起こらない。
なのに、面白い。
オハイオ印の青いマッチ箱だとか、書き続ける上半身だとか、日常に溢れるごく平凡な言葉を使っているのに、その一語一語が鮮烈に心に刻まれ、何かを問いかけてくる。
こんな映画もあるんだなーと、嬉しい驚きに包まれた次第です。

恥ずかしながら、ジム・ジャームッシュ監督の作品は本作が初見。
素晴らしい監督さんもいたもんだぜ、と思ってwikipediaを見てみれば、ずらりと並ぶ作品リストの、ただの一つも見ていないことにびっくりした反面、今後の楽しみが増えたぜとガッツポーズを取りたくなりました。

2020年6月現在、絶賛公開中の『デッド・ドント・ダイ』も同監督作品。しかもゾンビコメディというじゃないですか。
超見たい。
7月半ばを過ぎても上映していたら、ぜひ劇場に足を運びたいと思います。

さて、本作。
一切の事前情報なしに見たため、どんなジャンルで、どういう方向を目指して進むのかさっぱりわからず。
だから、月曜 → 火曜 → 水曜……と、曜日ごとにほぼ同じルーティーンで繰り返される毎日=実は仮想空間上の出来事だとか、同じように見えて、実は少しずつ違和感が日常を侵食していくループ世界だとか、とにかくいずれ日常をひっくり返す不穏な出来事がやってくるでー! ……と身構えていたんですが、そんなことはなかった。
奥さんのローラが、月だか火だかはカップケーキ屋が夢だと言っていたのに、水曜だかにギタリストになるのが夢よ、と言い出したので、はっ……! あの妻と、この妻は別人!? と驚愕したんですが、そんなことはもちろんなかった。単に、夢多き女性ってだけだった。

そして結局何事も起こらずに、物語は再び月曜日の朝に戻って終了……という。どこまでも穏やかな情景を見て、「人生にこんな息抜きがあってもいいかな……」的な、どこぞの戦い疲れた傭兵みたいな感想を抱いた筆者です。
映画って本当に素晴らしいものですね。

人物紹介

●パターソン
同名の都市に住む青年。市内のバス会社に運転手として勤めている。無口だが穏やかで誠実な人柄ゆえか、人々に好かれて信頼されている様子が伺える。
毎朝六時付近に起床し、眠る妻に挨拶してから一人出勤して行く。
その際の朝食が、いつもミルクに浸したシリアルのみなのだが、男性の中でも大柄なほうに入るパターソン君が、あれだけで足りるのか心配になる
お昼のお弁当もたっぷり量が入っている感じではないし、案外小食なのだろーかと関係ないところが果てしなく気になるのだ。
でもって、夕飯が芽キャベツのパイだった日にはもう……。
「嫌い?」と聞かれ、「おいしいよ」と答えるパターソン君。どう見ても水で飲み下している感がパないところが、気遣いあるあるでふふってなる。

そんな彼の日常はパターン化しており、勤務の合間に詩作に励み、帰宅すると、まずは何故か傾いているポストを直し、妻と夕食を囲み、愛犬の散歩の途中で行きつけのバーに寄る。
同じようで、同じじゃない。金曜日にバスが故障、土曜日には詩作のノートが損傷と、一応事件らしきものは起こるものの、印象に残るのはいつもの日々であり、パターソンが歩く通勤の景色や、そこで出会う人々、交わされる会話など、一つ一つの詳細は覚えていなくても、彼の過ごす時間がいかに豊かであるか――つまりは自分たちの日常が、どれほどかけがえのないものなのか――に思いをはせることとなった。

『スター・ウォーズ:フォースの覚醒』で初めて見た時はピンと来なかったのですが、アダム・ドライバー氏は実にいい役者さんだなあと、本作を見てしみじみ思いました。

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●ローラ
パターソンの妻。インテリアから洋服、カップケーキまで、黒と白に染め上げる自由な女性。パターソンが勤務中は、毎日何かしらの作業に没頭し、帰宅した夫にその成果を披露することを日課としている。
個性的な性格は料理にまで反映され、『チェダーチーズと芽キャベツのパイ』というなんとも不可思議な料理を生み出した。多分というか絶対まずい。

ローラは非常に楽天的で奔放な女性で、夫とは正反対の性格をしており、この二人はどうやって出会ったんだろうなあ……と不思議に思うのだが、彼らの日常には、互いに対する深い愛情が見え隠れし、それがこの映画をとても幸福かつ面白いものにしているのだと気づかされる。
突拍子もない妻の行動に、不快な顔一つ見せないパターソンはもとより、夫の詩の才能を理解し、彼の作品に心からの敬意を表すローラ。方向性は違えど、二人は共にクリエイターであり、創造性という共通点によって、深く結びついているのだ。
加えて、実は従軍経験があるらしいパターソンのように、一見お気楽に見えるローラにも、何がしかの過去があるのでは……と推察される。
おそらくは人種的な。本人が幼い頃、もしくは両親が移民だったとか、そういう観点での苦労がありそうで、それが今の彼女の人格を形成したのではないのかな、と想像してしまう。

いずれにせよ、黒と白のカップケーキを焼く姿は大変幸せそうで、実にかわいらしい女性である。

●マーヴィン
パターソン家の愛犬。ふごふごと鼻息の荒いブルドッグ君。
パターソンが妻にキスするたびに抗議の声を上げたり、実は毎度ポストを傾けさせているのはコイツが犯人だったり、土曜の夜に留守番させられた腹いせに、詩のノートをズンバラに噛み裂いてしまったりと、もしかしてお前パターソン嫌いなんか、と思うような行動を取る。

多分嫌いというより、ローラのほうによく懐いているということでしょうか。
毎晩散歩には連れてってくれるけど、いつもバーの前で小一時間は待ちぼうけだしぃ。多分というか、雄同士だしぃ。あんなかわいい女性なら、ライバルになって当然なのだ。

でも危ないから、バーの前に放置するのやめーや。マジで。盗まれたらどうするっちゅーねん。

●ドニー
パターソンの同僚。
発車前に詩の世界に没頭しているパターソンを見ては、何やら恨めし気な顔でぽろりと愚痴をこぼしていく。妻の家族がインドからやって来たり、娘のピアノの経費が嵩んだりと、色々と大変なことになっているらしい。
がんばれ、ドニー。負けるな、ドニー。最後は最早愚痴るのも嫌なほどになったみたいだが、明日は暗くとも、きっと明後日あたりは明るくなるぞ。多分。

●ドク
パターソンの行きつけのバーの店主。殿堂入りしたパターソン出身の有名人の写真を、壁に並べてコレクションしている。
突如銃を持った男が暴れ始めても動じる気配も見せず、しかもそれがBB弾仕様の模造品であることを素早く見抜き、「馬鹿め。客を帰しやがって」とのたまうなど、マジかっけーおじさまである。
チェス大会はどうだったのかな。

●エヴェレット
幼馴染のマリーに恋するも、きっぱりフラれてしまう気の毒な青年。
思いつめるあまり、ドクの店でBB弾による自殺未遂の狂言を演じるなど、ちょっとだけストーカー気質。
そういうとこじゃないかなー、と思わないでもない。

お互い失意の者同士、ノートを失くして放浪するパターソンとばったり出会う。
「じゃあ、また会うと思うけど……」と言って別れる姿が小気味良い。

●ラッパー君
パターソンが夜の散歩で出会った詩人。
コインランドリーで、作成途中のラップの歌詞を披露。
強面だが気のいいやつで、マーヴィンにも優しい言葉をかけてくれるいい人。

●レインブーツの少女
帰宅途中のパターソンが出会った詩人の少女。
韻を踏むのは嫌いと言い、自作の詩を披露してくれる。
才能もさることながら、やたらめんこいのう……と思っていたら、『死霊館シリーズ』のジュディ・ウォーレンちゃんだった。素敵な女優さんになる予感。

●大阪から来た旅行者
失意のパターソンが滝の前で出会った詩人。日本の大阪からやって来た。
パターソン出身の詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムゆかりの地を見たいと、足を運んで来たそうな。
「あなたも詩人ですか?」との問いに、「バスの運転手だ」と答えるパターソン。そんな彼に向ける「いやお前、詩人だろ」という目が素敵。
「詩を訳すのは、レインコートを着てシャワーを浴びるようなもの」という名言を残す。

ただ一つ気になるのは、彼が持っていた本の表題が、でっかく『パタースン』って書いてあったことだよ。
そこは『パターソン』で統一したらいいんちゃうちゃう。

●双子
月曜日の朝=冒頭で、ローラが双子の夢を見たと言う。
そのせいなのかなんなのか、毎日最低一組は双子が画面に映される。
パターソンが双子を意識するようになった……のかもしれないが、それにしたって双子多くね?
てっきり、パターソンは不自然すぎるほど双子の出生率が高い町、的な陰謀の展開になるんだと思ったら、そんなことはなかったよ。

●監督
ジム・ジャームッシュ氏。
とても面白い作品をありがとうございます。『デット・ドント・ダイ』を含め、ぜひ他の作品も見てみたいと思います。

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