映画『ルイの9番目の人生』ネタバレ感想。1年に1回死にかける、事故頻発少年の謎を解け。

ルイの9番目の人生 映画 サスペンス

原題:The 9th Life of Louis Drax
2016年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
1年に1回死にかける

ルイの9番目の人生 映画

先日見た『クロール -凶暴領域-』が面白く、アレクサンドル・アジャ氏の作品はグロいと思っていたけど、結構イケんでねーのこれ、と親しみを抱く。
  ↓
なんとNetflixにて、氏の過去作『ルイと9番目の人生』が配信になっている。
  ↓
見ないわけがないさ!

主演は『フッド:ザ・ビギニング』のジェイミー・ドーナン氏。共演に、『ドラキュラZERO』のサラ・ガドンさんと『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』のアーロン・ポール氏、TVシリーズ『シカゴ・メッド』のオリヴァー・プラット氏が出演されています。

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あらすじ

猫には九つ、ルイにも九つ。
複数の命を持つという彼ら。

生まれてから年に一度ずつ。異常なほど、生死に関わる事故に遭遇する少年、ルイ
「僕は、事故頻発少年なんだよ」
と語る彼が、迎えた9歳の誕生日に、崖から海へと落下した。

全身の骨という骨の骨折。
脳への損傷。
今度こそ――9つ全部の命を使い果たし、人生を終えたかに見えたルイ。

「……ここはどこ?」
気が付くと、彼は深い水底にいて、側には不気味な海藻のお化け――シーモンスターが浮いていた。

「さあ、お前の人生を振り返ろうじゃないか」

シーモンスターに導かれ、ルイが見出した9つの人生の真実とは……?

※以下ネタバレです。本作はミステリ要素を含むため、未見の方はご注意を。

 

 

 

 

感想

おとぎ話を装った、エグみのあるミステリー。

「僕って事故頻発少年だから」
と言うルイの言葉により、9歳で9回も命の危機に陥った様が語られる本作。
帝王切開=母のお腹を切って誕生 → ベビーベッドにシャンデリアが落ちて全身骨折 → コンセントにフォーク刺して感電 → 窒息、食中毒、異物誤飲、叫び続けて危篤 → 崖から落下。
……というとんでもない経歴が、ファンタジックな演出に乗せて、さらりと映される。

ふんふん、なるほど。
コンセントの事故とかね、幼児あるあるっていうか、目を離した隙にひやっとするやつね。わりとあるよね。
それが、1年に1回。合計9回起こって、最後は崖から落下ってね。

ねーよ。
おかしいだろうよ。
二度なら偶然でも、三度目は故意。
ファンタジーな演出で、何か不思議な理由があって、ルイは不幸な事故に見舞われ続けているのか……? と序盤で思わせておいてからの、次第に明かされていく、おぞましい真実。
これは摩訶不思議なファンタジー物語などではなく、幾度となく命の危機にさらされ、ついには昏睡状態にさせられた少年を巡る、誰かの悪意を暴く話なのだと認識させられる。

では、誰が犯人なのか?
容疑者は父と母。
そして、ルイ自身。

彼の落下事件を調べる刑事は、ルイがこうも頻繁に事故に遭うのは、自傷行為をしているからではないか、という可能性も視野に入れている。
けれど、今のところ、最大の容疑者は父ピーターだ。
彼は、ルイが落下した直後に行方不明になっている。その後に届いた奇妙な警告文は、母ナタリーの言によれば、ピーターが書いたのではないか、とのこと。

……以上のように一応はミスリード要素があるものの、ほとんどの人は、早い段階で真相に気付くのではないでしょうか。
どう考えても、怪しいのは母親。
ルイとは親密な関係で、彼に何かあった際は、いつも献身的に……それこそ天使のように世話をする。
  ↓
ミュンヒハウゼン症候群の症状。
幼少期に親から虐待を受けていたというナタリーは、周囲の関心を引くために、ルイを使って、故意に命に関わる事故を起こしていたのだ。
彼女の側で、彼女の教育を受けて育ったルイは、その思考に洗脳され、やがては母親のために、自ら進んで自分を重篤な状態へ追い込むようになった。

誕生日のピクニックで、化学薬品入りのキャンディを持参してきたナタリー。
「飴を食べる?」とルイに勧めたところ、「俺が先だ」とピーターが手を伸ばしてきたため、断固拒否。
「なんだ? 中に何か入っているのか?」とキャンディを取り上げようとしたピーターを振り切り、崖の側まで逃げたところ、もみ合っているうちに彼を突き落としてしまう。
ルイはともかく、ピーターを殺す気など全くなかったナタリー。
ショックを受けた彼女は、息子のほうを見て手を伸ばす。
「こっちへ来て、ルイ」
いつも通り、母親の思惑に気付くルイ。
彼は別に、崖から飛び降りようとは思ってなかった。ただ母の言葉の真意を読み取り、彼女の言葉と逆の行動を取るのが正解だと気づいたに過ぎない。

五歩下がり、六歩目もあると思った。
だがなかった。
その結果、ルイは崖から落下して、9回目の人生から――辛いことばかりの人生から、ようやく解放されそうになったのだ。

本作はミステリー調ではあるものの、犯人探しに重きを置いているわけではなく、むしろ真実が明るみになる過程が重要なのだという印象を受けました。
2歳になったハムスターを自ら手にかけ、「想定した寿命を越した命には、飼い主が処分する権利(処分権)がある」と話し、なんつーサイコパスだと思わせておいて、実はそんな人生が辛いと感じる、ごく普通の少年だったことがわかる終盤。
虐待される子どもは、それでも他者から親をかばう、という行動そのままに、けれど父とは血のつながりを越えて、真実の絆で結ばれていたルイ。
彼が父親=シーモンスターの励ましを受け、自ら昏睡状態より目を覚ます姿で終わる最後は、前向きな感動に満たされていたと思います。

『クロール -凶暴領域-』もそうでしたが、どれほど過酷な出来事が畳みかけても、人は必ずそこから立ち上がるという……多分そんなメッセージがあるんじゃないかと思うんですが、とても面白かったです。

人物紹介

●パスカル
昏睡状態に陥ったルイの担当医。
稀代のアフォ。
タイトル・ロールのルイを差し置いて、何故彼がトップバッターなのかと言えば、多分本作の一応の主役にして探偵役。
でもってアフォ。
なんかもう、アフォが突き抜けてアフォすぎて、鑑賞中に五回くらい真顔で「アフォなの?」と言ってしまったくらいにアフォ。
演じるジェイミー・ドーナン氏は、大変魅力的な俳優さんで、昏睡状態のルイを助けるべく、全力を尽くす医師という役に多大な魅力を与えていることながら、悲しいことに役がアフォ。

事件の担当刑事も、同僚も、ピーターの母も、ついには昏睡状態のルイでさえ、「ナタリーの見た目に騙されんじゃねーぞ」と警告してくれるにも関わらず、しかも既婚者であるにも関わらず、一見儚げで、献身的に息子の看病してます、なナタリーと不貞を働いてしまうという失態を犯す。
妻がいる場所で堂々とナタリーに見とれる、から始まり、庭での同情キッスはまだ許せるとして(いやどうだ?)、シャワー上がりのナタリーに言い寄られての院内アーン☆は「馬鹿なの?」という感想しか出てこんかったぞお前。
職場で何やってんだ、お前。

そして極め付けが、その結末。
ナタリーの所業が発覚し、精神病院に入れられた彼女を見舞いにパスカルがやって来る → 窓の外を眺めるナタリー → 振り返った彼女のお腹は、臨月間近に膨らんでいた……。
だからやめろって言ったのになあぁぁ!

ファンタジーと見せかけてリアル。リアルと見せかけて、若干ファンタジー、という本作。
結局、『ママには手を出すな』という警告文は、就寝中のパスカルをルイが操って書いていたと判明(このへんは若干ファンタジー)。
おそらくルイには、こうなることがわかっていたんでしょう。ナタリーがルイを憎みながらも愛していたように、ルイもまた母を愛しながらも憎んでいた。だからこそ、パスカルを待ちかまえる運命を、客観的に、冷えた視線で見ることができた。
なのに、ホイホイ罠に引っかかるもんだから、あのアフォは。

一応弁護すると、本作には『美しいものは美しい心を持っていると思いがち』、というテーマもあり、パルカスはそれを体現する役目を負った損なキャラクターだったわけで。
行動はアレですが、彼の医師としての資質は素晴らしく、いざルイの状態が悪化した際には、ナタリーを力づくで排除し、安全を確保しようとするプロフェッショナル。
過ちは犯したものの、今後は子供の異父兄となるルイのフォローも含め、より良い未来を築いてくれるはず……と思わせます。
パスカル君に幸あれ。

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●ルイ
本作の真の主役。
冒頭での無邪気なモノローグから一転。カウンセラーの目線から語られる彼は、利発で頭はいいが、言葉のエッジがやたら鋭く、友達はいないし、学校では変人扱いされているなど、多くの問題を抱えた子どもだった。
しかも、カウンセラーに話したことが母親に筒抜けになっていると知るや、報復に脅迫めいた手紙を送るなど、若干サイコ気味で感情移入できにくいな……という印象。
  ↓
すべては母親に正常を狂わされた故であり、自分が悲惨な状況にいることは認識しているものの、他にどうしようもなかった……ということがわかってくる。
からの。
父ピーターとの絆炸裂展開には、同情と共感がうなぎ上りで、ただのかわいい子どもじゃねーか! ってなりました。

終盤までは、真相のミスリードを誘うために、もしかしてピーターは家庭内暴力に訴える悪いおとんではないのか? という要素が強めに描かれているんですね。
けれど、実際に蓋を開けてみれば、彼は自身が死にかけていながらも、シーモンスターと化して、昏睡状態のルイの意識に寄り添う、とんでもいい奴だった。
血のつながりがなくても、ルイを可愛がっていたのは本当で、そしてそんな父を慕うルイの愛情も本物だった。
だからこそ、ルイは最後に昏睡状態という穏やかなゆりかごを自ら抜け出し、現実の――父が死んだ後の、辛く悲しいことも多い世界に、戻ることを決意した。
『俺はいつでもお前の心にいる』という父の言葉を胸にして。
おとーーーーん!

いい話だなあ……。
他が色々とアレだったけれど、最終的にはいい話でした。
大丈夫。これからは素敵なことがいっぱいあるよ!

●ナタリー
ルイの実母。ものすごい美人。かつ儚げ、という言葉がぴったりな雰囲気のある女性。
諸悪の根源。

冒頭で、崖から落ちたルイが病院に運ばれた際には、悲壮感溢れる表情で、全力でルイを心配する様が映される。そのため、ああ、なんて愛情深いお母さんなんだ……という感想を抱いたんです……が。
その後、どんどん状況が思わしくなくなってくる。
バーベキューパーテイの際、パスカルを前にした振舞いに「ん?」となり、直後にやって来た彼の妻に対する振舞いに「???」となり。
既婚者と知りつつ媚びを売る人間が、いいやつなわけねーんだずら。

その後も、他の子も入院している病棟に、無断でハムスターを連れてきたり、病院の庭で「付き合ったのはピーターが一人だけなの……」とアピールしてみたり、いざルイがむっくり起き上がったのを見たときは恐怖で凍り付いてみたり、ルイは☆☆☆されて生まれた子どもなの……と同情を買って☆☆してみたり、おまわりさん、コイツです。
多分ではなく確信ですが、ルイが中途覚醒した際は、駆け寄って明らかに何かしようとしていましたね? 口封じ的な? 
無理やり引き離したパスカルグッジョブだ。

演じるサラ・ガドンさんが非常に美しく、彼女の潤んだ瞳で見つめられたら、たしかにコロッとだまされるのもわかるのですが、他の女性陣がまったく信用していないのが誠に面白かったです。
刑事さんとか、義母さんとか、「あいつが犯人だろ」と言ってるようなもんでしたしねえ。
男って馬鹿ん。

結末は前述の通りですが、原作ではさらに救いようがなく、昏睡したルイをガチで殺そうとした挙句に、最期は山火事だかに巻き込まれて死んでしまった模様です。
☆☆☆は嘘でも、望まぬ妊娠だったんですかね。
正直、下手なホラーに出てくる怪物よりも、よっぽどクリーチャーと化していて怖かったデス。

●ピーター
ルイの父親。実のおとんではなく、ルイが最初に事故に遭った際、ナタリーに助けを求められたのがきっかけで結婚する。
回想シーンを見るに、助けを求められた時点では既婚者
『一人の男と二人の女がいて、男はいつも笑顔のほうではなく、いつも泣いているほうを選んだ』という言葉通り、悲劇のヒロインを演じていたナタリーに心が傾き、略奪婚された過去がある模様。つまりは、パスカル君と同類だったわけだが、その後はナタリーと決別。断腸の思いで別居するも、離婚には至らず。
おそらくは、頻発するルイの事故について疑いを抱いていたと思われ、それがあのピクニックでの喧嘩につながった。

元ボクサーという経歴や、ミスリード的演出から、中盤までは彼が危険な男であるかのように描かれていたが、実際は愛情深い素敵な父親だった。
崖から突き落とされ、洞窟で生死の境を彷徨う間も、シーモンスターとして意識はルイに寄り添い続けていた。
残念ながら、発見が遅れたために死んでしまったが、洞窟の壁に「愛する妻と子供の名前を書いた」と言う通り、彼の家族を思う気持ちは本物だったことがわかる。
おそらくは、ナタリーにも愛情を残していたが故に、薄々おかしいと気づきながらも、疑惑が鈍る原因となっていたのだろう。

昏睡から目覚めたルイの側に、最早実体として寄り添うことはできない。けれど、心は確かに側にいる。
実にあっぱれなおとんであります。

●ピーターの母
ルイのおばあちゃん。
ピーターがルイを突き落とし、失踪したという疑惑をかけられる中、「あの子はそんな子ではない」と頑として主張する、芯の通った女性。
さすがピーターの母、という存在感。
息子の無実を確信していた身からすれば、ナタリーの虚偽の主張は、それこそ横っ面を引っぱたきたいくらい、この野郎と思ったことでしょう。

ルイが昏睡から覚めても、この人がいれば大丈夫。きっと深い愛情を注ぎ、より良き方向に導いてくれると思われます。

●ドクター・ペレーズ
ルイのカウンセリングを担当していた精神科医。
ルイ君は、数々の生意気な言動を放り投げてきたが、それらをすべて笑って受け流せる、さすがの懐を持っている。

処分権の話を聞き、これは家庭環境に問題があると判断したペレーズ医師。ナタリーに確認しようとしたところ、突如激怒され、一方的にカウンセラーを解任されてしまう。
おそらくは、彼が予想以上にルイと信頼関係を築いたことに焦ったのでしょうが、あのまま解任されなければ、今回の悲劇は起きなかっただろうなあ……と思うのでなんともはや。それだけペレーズ氏が優秀だったということか。

●スカッシュ
壁に囲まれた室内で、2名がボールを交互に打ち合う、テニスに似たスポーツ。
洋画だと、弁護士や医者、議員など、カネモッテルーゼな人々が行うスカしたスポーツという印象があるのですが、偏見でしょうか。偏見でしたか。

●監督
アレクサンドル・アジャ氏。ホラー映画でおなじみ。
本作も大変面白かったです。次回作も大変楽しみにしている……のですが、『スペース・アドベンチャー:コブラ』はいつ頃実写化なんでしょうか。
以前に公開されたポスター画像が死ぬほどかっこよすぎて(『コブラ 実写』でgoogle画像検索してみてチョ)、相当期待しているんですけど、頼みますから……早よ!

↓伝説の宇宙海賊、コブラはこちらから。少年ジャンプ版は、筆者も全巻持っております。名作中の名作。

↓スタローン氏は大好きですが、これはコブラ違いなので気を付けあさぁせ!

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