映画『いつか晴れた日に』ネタバレ感想。分別のありすぎる長女の恋愛にやきもきさせられる。

いつか晴れた日に 恋愛

原題:Sense and Sensibility
1995年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆☆

【一言説明】
当時の相続制度がク●。

いつか晴れた日に

前回の記事に引き続き、恋愛映画強化週間だ! と気合を入れたはいいんですが、よくよく考えると本作は『恋愛』というより『ドラマ』のジャンルではあるまいか……。でもまあそうなると『恋愛』の層がすっかすかになっちゃうし、恋愛でいっかと相成っております。

主演は『ジョニー・イングリッシュ:アナログの逆襲』の首相役エマ・トンプソンさん。彼女の妹役に『ホリデイ』のケイト・ウィンスレットさん。そして英国が生んだ美青年ことヒュー・グラント氏と、ご存じ『ハリー・ポッター』のスネイプ役ことアラン・リックマン氏が出演されています。
個人的に嬉しいのが、『Dr.HOUSE』の名優ヒュー・ローリー氏が出演していらっしゃること。渋面のパーマー氏が非常にいい味を出しているんです。

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あらすじ

地元の名士ダッシュウッド氏が亡くなった。残されたのはダッシュウッド夫人と嫁入り前の三人の娘たち。現代なら彼女たちが遺産相続人になるはずである。
だがなんと。
当時の法では、女性には相続権がないのだった。
青ざめる娘たち。
ダッシュウッド氏にはもう一人、前妻との間にジョンという息子がいるのだが、こいつと妻のファニーは率直に言ってドのつくケチ
法に従い遺産総取りしたのみならず、年間500ポンドだけをこちらに渡すという案の定な結果になったのだった。

長女エリノア「アカン……」
次女マリアンヌ「お先真っ暗」
三女マーガレット「コテージに住めるって! 素敵!」
長女・次女・母「素敵じゃねーよ」

そんな中、エリノアはファニーの弟エドワードと。マリアンヌは移住先で出会った男性ウィロビーとフラグを立てる。
果たして姉妹の行く末やいかに!?

上記の通り、ジェーン・オースティン女史の書き出す時代には女性が財産を相続できる法がなかったようです。『高慢と偏見』においても、父親の遺産相続人は遠縁の親類にあたるコリンズ牧師となっています。

なんつーク●な法律だ。
今の世にあっては許しがたい取り決めも、当時は堂々とまかり通っていた様子。
そんなわけで本作は、結婚適齢期であるエリノアとマリアンヌの恋愛事情に的を当てています。
彼女たちのお相手として前述のエドワードとウィロビーに加え、マリアンヌ側にはさらにブランドン大佐というかなり年上の男性も登場。
このまま上手く行くのかと思いきや……。

※以下ネタバレです。

 

 

まずエリノアサイド。
実はエドワードには婚約者がいることが判明。コテージの持ち主ミドルトン卿の屋敷に招かれた夜、そこでルーシーという女性に出会ったエリノアは、彼女が言った言葉に仰天する。
なんと学生時代、エドワードは下宿先の娘だったルーシーと秘密裏に婚約していたという。

あいつ虫も殺さない顔をしながら、二股かけていやがったのか!?

だがよく考えると直接的にはプロポーズに関するこなど何も言われてないエリノア。厳密に言えば二股ではない。二股ではないが……きいい。
しかもルーシーは押しが強く、「このことは誰にも言ったらアカン」と誓約を結ばせてくるので、真面目なエリノアは以後この件を誰にも相談することができなくなってしまう。性質が悪い。

一方マリアンヌサイド。
いつもと様子の違うウィロビーが、「明日君に大事な話がある」と言ってきたので「これはきたで!!」と胸ときめかせて当日を迎えるも、突然相手がロンドンに帰ってしまう。
ポカーン。
「えっ……どう見てもプロポーズの流れだったじゃん……」

そろいもそろってあと一歩のところで意中の男性が去ってしまった二人の元に、ミドルトン卿の義母ジェニングス夫人からある提案が持ちかけられる。

みんなでロンドンに滞在しましょ!!

渡りに船とはまさにこのこと。
すべてを明らかにするには本人を問い詰めるしかないとなった二人は、ぶすくれるマーガレットを残してロンドンへと足を踏み入れるのであった。
修羅場の予感……!!

感想

おすすめ中のおすすめである本作。
なんと脚本を担当したのはエリノアを演じるエマ・トンプソンさん。アカデミー賞にて脚色賞を受賞されていらっしゃいます。
それも納得の運びのうまさ。
特にエリノアとエドワードの相思相愛のくせにまったく上手く行かない進まないの恋愛模様にやきもきどころか「おめーらもう紳士淑女の仮面は脱ぎ捨てろや」と叫びたくなるも、二人は骨の髄まで紳士淑女なので面白いくらいにどうにもならんのです。
未見の方にはぜひ見ていただきたいと思います。

以下、人物紹介をば。

●エリノア・ダッシュウッド
本作の主人公。ダッシュウッド家の長女。
絵に描いたような淑女であり、どんな時も自分を制し、度を超すということがない模範的女性。すらりとした立ち姿が美しく、控えめながらも利発で温かみのある人柄がエドワードの心をとらえた。奔放な妹二人がいるから余計に自身を抑制する人格が形成されたと思われます。

ルーシーが「内緒よ」と嘆願した秘密を話すことができず、ロンドンに来た後ももんもんとする。
その後エドワードとルーシーの一件が世間に露見することとなり、ようやく自由に話すことができるようになると、マリアンヌに向かって初めて心情を吐露。ぶっちゃけ「ざけんなこの野郎」ぐらい叫びたい状態だったが、

なんとマリアンヌが先に泣いてしまった。

姉を思ってぽろぽろ涙をこぼす妹を前に爆発した感情は急速にしぼみ、逆に慰めようと彼女を抱きしめる始末。
その時の顔が完全に

「ああもうしゃーねーな」

ってやつである。泣きたいのはこっちだよ……。長女ってこんなに大変なポジションなんですかね。
その後満を持してエドワードが訪ねてくるも、

なんとルーシーもその場にいたため、場は一気に修羅場に。

一人事情を知らないルーシーは無邪気なもんだが、こいつ本当に何も知らないのか? 実は知っててやってるんじゃないか??? という疑問が湧くくらい狙いすましたタイミングである。ルーシー怖っ。

その後再度訪ねてきたエドワードの前でも、自分を押し殺した態度を取り続け、「約束を果たすことは大事です」と答える。その返しが「あなたは何よりの友人だ」という絶望ワード。
こんな脚本を自身の役に課すのを見ると、もしかしてトンプソンさんはマゾッ気があるのでは……と思ってしまう。

そして極め付けがコテージに戻った後、使用人から「フェラースの奥様にお会いしましたよ。新婚だそうで。感じの良い方ですね」の報告。

結婚しちゃったかーーーーー!!!

心情を察してそろそろといなくなる母と妹たち。彼女たちの優しさが身に沁みる……。

からの!!!

大人のかわいらしさが炸裂するラストシーン!!!

いやもう完っっ璧。
なんなんだ、あのかわいらしさは。
最後までもどかしさ満載でやきもきさせられるやり取りでしたが、今までタメにタメてきただけにエリノアが泣いちゃったときの幸福感はたまらないくらいでした。
やー、かわいいな、エリノア。
エドワードの求婚の言葉「That’s my heart is……and always will be……yours」(たぶんこんな)はマジで名セリフです。
どうぞお幸せに!

●エドワード・フェラース
ファニーの弟。姉と違って控えめでおとなしい性格。というかロバートも含めると本当に同じ血が流れているのか怪しいくらい浮いている。周囲からは法律だかなんだかの道を望まれているらしいが、本人は牧師として田舎に教区を持って静かに暮らしたいと思っている。

稀代のぽんちき男。

お前マジでいい加減にしろよと思う言動が多数。湖畔でエリノアに過去の行いを告白しようとした時だって、言い淀んでないでさっさと事実を伝えていれば、あんな生殺し状態に置くことはなかったんです。
しかも中盤はまったく登場しない上に、ようやく現れたと思ったら

元カノと今カノが居合わせた現場ってお前はどんだけタイミングの神様に見放されてんだっていう。

演じるヒュー・グラント氏の名演もあり、彼の立ち姿から歩く姿、どれをとってもぬぼーっという効果音がぴったりのぽんちきぶり。配役が天才過ぎます。

そして最後に何もかもから解放され、ようやく大手を振ってルンルン気分でエリノアを迎えに来るわけですが、そこでもすぐに訪問の目的を言わねーからな、こいつ。
「えっ? まだお聞きでない?」
聞いてませんが?
何を他人事風に言っとるんだ、ばああああか!! どんだけエリノアと観客が気をもんだと思ってるんだ!! ああ、頭引っぱたきたい。

だがそれがエドワード。あくまでマイペース。自分の一言をどれだけエリノアが待ち望んでいたのか知らずに、「ルーシーは弟と結婚したよ。自分はまだだよ」とぽろっと言ってしまうド阿呆。
げに愛すべき特性……愛せるかバーカ!!
お幸せにな!!

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●マリアンヌ・ダッシュウッド
エリノアの妹。情熱が過ぎる次女。原題の『分別と多感』の多感担当。
若さ故なのか本人の性格なのか、ウィロビーと大佐への態度の落差が激しい。

「大佐なの」はひどい。

マジでひどい。
その後もそっけない態度を取ってはジャブやキックをお見舞いし続け、ロンドン滞在時は使用人に対し真夜中に呼びつけてウィロビー宛の手紙を押し付けるなど超わがままな態度が目に付く。
おまえ……。
そもそもウィロビーと出会うきっかけとなったのは、「あの雲を追うのよ!」と叫んだ次の瞬間坂を転がり落ちるというミラクルな行動を取り、足をくじいたから。なんじゃそりゃ。幸い転んだ後しかウィロビーには見えていなかったようなのでセーフだが、彼は上述のように突如彼女の前から去っていく。
その後ロンドンの夜会で再会するも、「君に変な期待を抱かせたら申し訳なかった」と冷たく言われ、おまけに彼の婚約者はいかにも気位の高そうな女性で、マリアンヌを一目見て「田舎臭いわね」と言ってのける。
どう見たってマリアンヌのほうがかわいい系で癒し系。しかも確かにお互いに気持ちはあったと泣くマリアンヌ。
ではなぜかと言うと、実はウィロビー、過去にブランドン大佐が後見を務める女性を妊娠させた挙句に逃亡しており、それが遺産を残してくれるはずだった親戚の耳に入り、彼女が激怒。遺産はやらんとなったため、莫大な持参金付きの女性と婚約せざるを得なくなったのだった。
失意のマリアンヌは地元に戻った後、再び雨の中に出て行って肺炎か何かにかかってパーマー夫妻(ジェニングス夫人の娘)の屋敷に運び込まれる。

もう雨の日は外に出ないほうがいいんじゃないか?

しかしそこで死にかけたのが功を奏したのか(?)、回復後はすっかり老けた毒気が抜けたようになり、ブランドン大佐の愛を受け入れることとなった。

大佐は誠実でいい奴なので喜ばしい結末ではあるが、ウィロビーに対してのような情熱は抱けないのもまた事実。ただマリアンヌ自身が「お金はないけど愛する妻。彼はそれで満足したかしら?」と自問したように、情熱だけでは上手くいかないのが結婚と人生だ。若干の苦みを感じさせつつも、ラストの幸福そうなマリアンヌの笑顔に癒されるのであります。

●ブランドン大佐
マリアンヌを見初める中年男性。忍耐の人。超お金持ち。
原作だと35歳設定だが、本作の大佐はどう見ても四十代。マリアンヌが煙たがる気持ちもわからんでもないが、それにしても終盤間近までかなり不憫な扱いを受けるのでかわいそうになる。
演じるアラン・リックマン氏は『ダイ・ハード』の悪役が記憶に新しかったため、「そいつ何かたくらんでますよーー」と警告を発したいくらいだったのだが、最後までめちゃいい人だった。
ルーシーとの婚約がばれて勘当扱いとなったエドワードのために教区まで提供してくれるし。

マリアンヌが肺炎にかかり、無事回復した後にお礼を述べるシーン。
「大佐……」の呼びかけに、文字通り光の中におずおずと進み出る姿は彼の思いが報われた名場面だ。「ありがとう」と言われ、不器用な笑顔を返し、そっと部屋を去る男の素晴らしさよ。
おそらく彼はマリアンヌの心を射止めることができなくても満足だっただろうし、その後もよき隣人であり続けただろう。
いそいそとマリアンヌのためにピアノを選ぶ姿を想像するとかわいらしいな。
どうぞお幸せに!

●ウィロビー
雨の中、足をくじいたマリアンヌの前に颯爽と馬で現れ、お姫様抱っこして救出する好男子。に最初は見えた。

だがもみあげが胡散臭かった。

今で言うウェイ系のチャラ男。職業がなんなのかさっぱりわからん。
映画ラストでマリアンヌの結婚式を遠くから見守る姿が一瞬映るが、原作では彼女が病に倒れたときに戻ってきており、後悔の念をエリノアに語る。

色々とアレな感じが目立ってしまったが、マリアンヌに対する愛情は本物であり、大佐が言うようにあの日は本気で婚約するつもりだったとのこと。だが過去のオイタが判明したのもその日だったため、タイミングが最悪という点においてはエドワードとタメを張る。
嫁の尻にしかれそうだが、君は君で幸せになりんしゃい。

●マーガレット
エリノアとマリアンヌの妹。13歳。
年齢的にまだ結婚云々の話は遠くにあり、地図が大好きで海賊ごっこをしたりと夢いっぱいの元気少女。
ただ姉二人の周囲が何かと騒がしく、何かと振り回される。
演じる子役の子がめちゃんこかわいいので、成長した彼女が主役の後日談とかドラマで作っていただきたい。
かわゆい。

●ダッシュウッド夫人
三姉妹の母。夫に先立たれて絶望のコテージ暮らしを送る。
さすがはエリノアを育てただけあり、教養と気品に溢れた好人物だが、若干日和見。
あんだけウィロビーを持ち上げておいてからの「ウィロビーは時々嫌な目をしていたもの」発言には笑った。持参金の用意すらしてやれない娘が三人もいたら、心労がひどかったんだろうけどさ。愛すべきお茶目っぷりだ。

●ジョン&ファニー夫妻
冒頭に登場し、エリノアたちに渡す遺産の額をどんどん下げていく仲良し夫婦。
ファニー的には年の離れたエドワードが相当かわいかったらしく、当初はかわいがっていたルーシー(多分にエリノアたちへの当てつけだろう)が実は弟と婚約していたと知るや、手のひらを返して鬼の形相となる。
だがエドワードはだめでもロバート(次男)ならよいのか。よくわからん。
ルーシーもよくこんな鬼小姑のいる家に嫁に入ろうと思ったな。

●ミドルトン夫妻&ジェニングズ夫人
エリノアたちにコテージを提供し、屋敷にも招いてくれる良き隣人。
だがちょっとぶしつけというか詮索好き。他人の領域に土足で踏み込もうとする人種なので姉妹からは迷惑がられる場面も見られる。根はいい人たちなのだが。
彼らがロンドンに招待してくれたからこそのあれやこれやだが、姉妹は失意の中帰宅する結果となってしまった。

●パーマー夫妻
ジェニングス夫人の娘とその夫。
パーマー夫人は母親似だが、母ほどの毒ッ気はなくまだ付き合いやすそう。そしてやはりとても親切。
夫パーマー氏は眼力鋭く、無口で一見すると怖い人なのだが、実はとても親切かつ気配りのできる好人物。病に倒れたマリアンヌを心配するエリノアを気遣い、快く療養に屋敷を提供してくれる。
だが赤子を抱く姿がいただけない。
もちっと嬉しそうな顔しんしゃいよ。自分の子供じゃろがい。

●ルーシー
エドワードの婚約者。ジェニングス夫人の屋敷に招かれていた。
「お友達ができてよかった」と言ってエリノアにすり寄って来るが、そのすべてが傷をえぐってくるため性質が悪い。
エドワードが勘当されるや、弟のロバートに乗り換えるあたり、やはり底意地は悪いようである。

●使用人さん
真夜中でも容赦なく起こされ、マリアンヌに「手紙届けてきて」と無言で押し付けられ、非常に迷惑顔ながらも従わざるを得ず、働くことの大変さを教えてくれる。
大丈夫、きっといいことがあるよ。

●監督
アン・リーさん。『グリーン・デスティニー』や『ブロークバック・マウンテン』など数々の名作を生みだした方。
いやー、本当に面白い映画をありがとうございます!

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↓原作小説。合わせて読むと面白いです。

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