映画『残された者 -北の極地-』ネタバレ感想。極寒の地に閉じ込められた、一人+αのサバイバル劇。

残された者 -北の極地- ドラマ

原題:Arctic
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
北極サバイバル。

残された者 -北の極地-

『北欧の至宝』と称されるマッツ・ミケルセン氏主演の激渋サバイバル映画『残された者 -北の極地-』。公開当時は都合がつかず、DVDになったら見るか……となっていたのが、この度TSUTAYAの準新作百円にてレンタル。
やはりこの作品は冬に見るのが正解なのデス……とよくわからん主張を引っさげ、視聴した次第です。

本作は登場人物がわずが三人というあっぱれな構成。他にホッキョクグマ役で白熊君が出演されています。

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あらすじ

毎日まいにち ぼくは雪原の 上で凍えて 嫌になっちゃうよ。
そんな歌を口ずさみつつ、けれど喧嘩する店のおじさんも、飛び込める温度の海もないまま、ひたすらに救難信号を発し続ける男、オボァガード
時々熊にはいじめられるし、たまには魚以外も食べたいのだが、いつまで経っても救助のきゅの字も見えてこない。

「温泉とか、入りてぇなあ……」
遭難してから数十日後。
思わずつぶやいたオボァガードの耳に、ついに待ち望んだ機械音が聞こえてきたのだったが……。

※以下ネタバレです。未見の方はご注意。

 

 

 

感想

面白い。
登場人物はわずかに三人。しかも、うち一人はすでに仏という状態で、全編通して活動しているのはミケルセン氏演じるオボァガードのみというこの渋さ。
しかも、冒頭でオボァガードはすでに遭難後数十日が経過しており、彼がこの地に囚われることになった事故は直接描かないという神演出
無駄という無駄を徹底的に省き、台詞も省き、ただひたすら、一人の男が生きて帰るまでの姿を書く、その姿勢。
タイトルも、原題は『Arctic』=北極、ですからね。ド直球さに惚れた次第です。

大まかな流れは以下。

1.雪原に座り、キイコキイコと救難信号装置を手動で動かす男、オボァガード。地面にSOSの文字を刻み、釣り糸にかかった魚で精をつけるも、待てど暮らせど救助は来ない。
俺……このままここで雪像になんのかな……。いや、その前に熊に食われるか。先日、近所で見かけたし。

2.そんなある日、ようやく救難信号に反応が返ってくる。
え、嘘、来た?
  ↓
バラバラと鳴り響くヘリの音。そして荒天の中、空から降りて来る文明の利器。
やったぜ! これで母国に帰れるぞ!
文字通り、ヘリの前に躍り出るオボァガード。
  ↓
だが、様子のおかしいヘリコプター。
一向に着陸せず、ぷらぷら浮いていると思ったら……ドーン!
なんと、荒ぶる天候に流されて、雪原に墜落してしまった。
ミイラ取りがミイラってお前。

3.慌てて機体に駆け寄るも、パイロットは頭が☆☆☆して、中にある☆☆☆が丸見え=即死。
だが、隣に乘っていた女性はまだ息がある。
墜落の衝撃で腹がぱっくり☆☆☆しているが、機内にあった救急キットのホッチキスで傷口をぱっちん=ぬんぎゃー=意識がなくてよかったね……とかそういう問題じゃねーわ。かなりの重傷だぞこれ。
  ↓
ヘリ内にある役に立ちそうな資材をかき集め、付属のソリに女性を乗せて、自分の陣地まで取って返したオボァガード。手に入ったガスボンベに火をつけ、何十日ぶりかの暖を取る。
はー、生き返る……。
どれどれ、ヘリから持ってきた非常食のカップ麺を一口……。最初の一袋は、勢い余って生でむさぼり食ってしまったけれど、やっぱりカップ麺はアツアツで食べてこそだよね。
『南極料理人』で、カップ麺を作ったら中心にどうしても芯が残るってやってたけど、それが何だ。何日ぶりの炭水化物だと思ってんだ。
  ↓
もちろん独り占めするわけではなく、横たわる女性にもわけてあげるオボァガード。しかも彼女のためには、きちんと付属のフォークで麺を口に運んで挙げるオボァガード。
自分は相変わらずナイフで飯食ってるというのに、紳士が過ぎるオボァガード。
「君を探して、すぐに救助が来るさ」

4.来る気配のない救助。
ク●がーーーー!

5.救急セットの消毒液も底をつき、このままでは死ぬことが明らかな女性を前に、ついに決意するオボァガード。
「幸い地図もあるし、ざっくり指で測ったら観測基地はギリ行ける距離だし、いっちょ歩いて目指してみるか!」
わりとかなりざっくりな計測具合だった気もするが、ジリ貧は明らかなため、覚悟を決めて旅立つオボァガード。
  ↓
見渡す限りの雪原の中、黙々と歩を進めていく。
途中、もんのすげー吹雪にあったり、地図にない岸壁を登ろうとしたら、うっかり二度ほど重症の女性を落っことしたり、そんで仕方ないから別ルートを取るも、やっぱりひんでー吹雪に見舞われたり、じゃあ岩の隙間で休憩すっかってなったら、なんと先日見かけた白熊君に襲われたり、そんで彼を照明弾で根限り威嚇し、『人間ヤベェ』と思わせてみたり、色々あった。
  ↓
色々ありすぎて、女性が口から血を流して反応しなくなった。
  ↓
苦渋の決断ながらも、置いていこうとなるオボァガード。
  ↓
数歩離れたところで、なんとこの極寒の中に咲く一輪の花を見つけるオボァガード。
「キレイ……」
花に気を取られた拍子に、地表にぽっかり空いた隙間に落っこちるオボァガード。
  ↓
這々の体で地上に戻るも、右足に重症を負ってしまったオボァガード。
ふと置き去りにした女性を見ると、なんと目を開けて「ハロー」と言葉を紡ぐ。
見捨てようとしてマジすいませんでした。

6.女性の生存に再度奮起し、目的地を目指して根性で歩き始めるオボァガード。
ぶっちゃけ足は重症で、ソリを引きずるのも一苦労。
だが、独りではない。
独りなら、ここまでは来られなかった。
背後の重みは、足かせではなく原動力……って、やっぱちょっと重いわ。
よく見たら、余計なもの入ってるじゃん。ロープとか、金具とか、全部いらねえ! 捨ててやる!
  ↓
急傾斜を登りきったオボァガードの目に、遠くを飛ぶヘリコプターの姿が映る。
「おぉーーい! ここだーー!」
喜び勇んで手をふるオボァガード。
勢い余って服を燃やすオボァガード。
ついでに瀕死の女性にも無理やり参加いただくオボァガード。

  ↓
だが気づかず去るヘリコプター。
ク●がーーーー!

7.気力が尽き、雪原に倒れ伏すオボァガード。
「大丈夫だ」と彼は隣で横たわる女性に声をかける。
「君は独りじゃない」
女性の手を握り、そっと目を閉じるオボァガード。
「独りじゃない」
そこに音が聞こえ、ヘリが着陸する姿が映って物語は幕を閉じる。

……閉じるのだが、問題は、ヘリの登場の仕方である。
希望の潰えた主人公の顔が映り、そこにバラバラと音が聞こえれば、普通ならヘリは上から来るとほとんどの人が思うだろう。
太陽を背に、救いの光とともに降りてくるヘリの姿。
百歩譲って背後から来るとしても、ヘリは主人公の左手にある山脈に消えていったのだから、画面の右上空から来るはず……と予期できる。

なのにこのヘリ、背後左から、突如すっと姿を現すのだ。
作中屈指の感動シーンのはずが、「来たやん」と夜中に思わずツッコむ羽目になった。
なんというか鉄板を避け、あえてさり気なく、感動すぎない演出を持ってきたところに、監督のこだわりというか、本作の魅力が最大限に詰まっているのではないかと思うのですが、それにしたってやっぱりヘリは右から来るのが本当ではないのかね?
そこだけが、激しく気になる筆者であったことをご報告申し上げます。

めちゃくちゃ面白かったです。

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人物紹介

●オボァガード
主人公。登場時点で遭難幾日後であり、すでに歴戦のサバイバル勇者となっている男。
開始後数十分の間は、彼だけが画面に映るまっとうな人物となるため、黙して語らず……というか、マジでセリフがない。
故に、観客は彼の一挙一動を見て状況を把握するしかないのだが、片足の指が数本ない=壊死済だったり、雪の上に積み上げられた石の山=誰かの墓であったり、雪の中に座ってキイコキイコ=救難信号発してますだったり、石に刻まれたカウントの印=結構な日数を遭難中だったり、とにかく黙した背中が雄弁に語るという激渋さ=これぞ北欧の至宝だぁよ! という感動を見せつけてくれる。
すごいぞミケルセン氏!

箸もフォークもないため、食事はナイフ一本で調理から摂食までを行う。当然、野菜も果物も成らないため、来る日も来る日もメニューは生の魚一色。多分彼は生還したら寿司が大嫌いになっていると思う。救助ヘリ墜落後に食べたラーメンの美味そうなことこの上なしである。

そんな渋い至宝ことオボァガード。彼の名前が判明するのは中盤以降。お手製の地図にて、旗が目印に書き込まれている地点がある。はて、なんぞや? と思っていれば、女性を連れての旅の途中、実際にその場所に立ち寄るため、謎が解ける。
そこには、拠点と同じ石の山が積み上げられており、すっかり雪に埋まった機体の中から、彼自身の身分証を取り出すシーンがある。
つまり、オボァガードが墜落したのはこの旗の地点であり、彼が冒頭から拠点としていた飛行機は、乗ってきたものとは別の機体であることが推察されるのだ。
おそらくは、オボァガードの他に少なくとも一人の乗員がおり、彼もしくは彼女は墜落時に死亡。機体は大半が損壊し、とても拠点とするような有様ではなかったため、周辺を散策し、別の飛行機=オボァガードが拠点としていた機体と見つけたのではないだろうか。
拠点近くにあった誰かの墓は、その時見つけた遺体だったと考えるべきか。
語られないにも程があるのだが、それを全部ちょっとした演出で見せてくれるミケルセン氏と監督は心から只者ではないと申し上げたい。ゴイス。

そんな極限の状況を生き抜いてきたオボァガード君。だが、彼が真にこの状況を抜け出そうとするには何かが欠けていた。
そこに文字通り降ってきたのが件の女性。
独りではなく二人となった彼は、ついにこの生きるだけの日々を抜け出し、生き残るための戦いに、足を踏み出す決意をする……という展開がアツい。
寒いけど。
女性は腹に重症を負っている上に国籍が違うため、満足にコミュニケーションも取れず、後半はほぼ寝ているだけという、言葉は悪いがお荷物状態。彼女がいなければ、もっと楽に目的地まで到達できたのではないか? と思ってしまいがちだが、多分独りではたどり着けなかったのだろう。
オボァガードが立ち上がったのは、彼女を助けるという正義感ではなく、ともに生きることを目指す同胞がいること……とにかく誰か自分ではない別の存在がある、という安心感があったからだろう。
ともかくも、無事に助かってよかったと言いたい。

●女性
オボァガードとは別国籍の若い女性。北極の観測基地に拠点を置く調査グループの一員かと思われる。故郷に幼い子供がおり、家族で写った写真を機内に持ち込んでいた。
おそらく観測目的でヘリコプターを飛ばしていたら、偶然救援信号を受信。オボァガードを発見するが、荒天の影響でそのまま墜落し、腹部に重症を負う。
落っこちた女性側も大惨事だが、見ていたオボァガードの心中も大惨事。
まさか、やっと助かったと思ったその場で墜落するとはね! 天気が悪いなら、地点を記憶してもう一度迎えに来てくれればよかったのにと思わないでもない。
その後、しばらくは拠点に運ばれ、ほかほかヌードルや水を口に運んでもらい看護されるが、当然ながら体調は悪化するばかり。消毒液が尽きたのをきっかけに、オボァガードが奮起することになる。

傷が傷だけに仕方がないのだが、出番から終わりまで、終始寝たまま。
吹雪が来ても、熊が来ても、二回も絶壁から落っことされても、はたまたオボァガードがクレパスに落下しても、ひたすら寝たままを貫いてくれる。
というか、彼女を見捨てようとした直後に彼は奈落へ落下して重症を負うため、見殺しにしなくてよかったねと思うべきか、それとも何がしかの怨念を感じるべきか、ちょっと迷う。筆者は後者だと思うな!

だが、そんな静なる様も、ヘリコプターが現れたことによってついに破られ、「彼女もいるぞぉーー!」と叫ぶおっさんに無理やり引っ立てられ、挙げ句揺さぶられるという所業を受ける。
「ここにいるぞぉーーーー!」と叫ぶ必死なオボァ氏には悪いが、マジやめれ。傷が開いたらどうするっちゅーねん。
ただ、そのアピールが効いたのか否か、最後は無事にオボァ氏共々救助ヘリに助けてもらったようなのでよかったね!

●ヘリのパイロット
数少ない登場人物の一人……なのだが、墜落の衝撃で、頭部に受傷。多分ぱっくり☆☆☆した傷から☆☆☆☆☆☆しており、ひと目でこれはもう助からんと判断したオボァ氏により、後に雪の中に埋葬される。
ではオボァガードを絶望に叩き落とした以外、なんの活躍もせんかったのかといえばそうではなく、彼の墓に積み上げられた石の山を見て、そうか、冒頭のあれも誰かの墓だったのかと視聴者に気づかせる役目を負うという快挙を見せる。
本当にこの映画、無駄がなく素晴らしい。

●白熊君
南極にはいないホッキョクグマ君。
オボァガードの拠点付近をエッサホイサをうろつき、彼が仕掛けた罠にかかったお魚さんを食べてしまったりするいたずらっ子。
その後、魚ではなくご本人まで捕食しようとするが、照明弾にびっくりさせられ、極寒の夜の中に消えていった。
これだけ書くと、単なるサバイバル劇のワンスパイス……のようにも思えるが、現在北極は温暖化で氷が溶け、ホッキョクグマの生存環境が壊されているという事実がある。それを踏まえて見ると、なんとも苦味を感じるシーンとなっている。
とりあえず、人間バイヤーって感想になったのは間違いない。

●ヘリの装備
手持ちの備品を使い切ってしまったオボァ氏には、まさに救いの船となる墜落後のヘリ。ソリや救急キッド、マッチに燃料、ヌードル、ロープなど、生き抜くのに必要な機材がぎっしり……って、墜落しなければ文字通り救いの船になってたんだなあ。

●終盤のヘリ
急斜面を登りきったオボァガードの目に飛び込んできた、希望の星。
帰ってこない女性を探していたのか、それとも調査していたのかは定かではないが、文字通り燃え盛るオボァ氏のアピールにも反応せず、思わせぶりに滞空した後、山の向こうに消えていくという絶望ムーブを取るので、一瞬目の前が真っ暗になる。
だが、もちろんそれは演出のため。来るんでしょう? どうぜ、戻って来るんでしょう? という視聴者の期待を別の意味で裏切る方向から、ほんとうに『チャリが画面端から登場した』くらいの自然さですぅっと入ってくるので、本当になんというか、ここ一番の感動をどうしてくれるのであろうか。
せめて右から来いや。

●監督
ジョー・ペナ氏。まだ三十代前半という若さで、この名作。次回作をとてもとても楽しみにしています。
面白い映画をありがとうございます。

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