映画『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』ネタバレ感想。前作と違って今回は面白い。

スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム 映画 アクション

原題:Spider-Man: Far From Home
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
過ぎた科学は魔法と同じ

※以下ネタバレです。未見の方は注意。
 『アベンジャーズ:エンド・ゲーム』もネタバレしています。

本作は本編が終わってもエンドクレジットの中間と最後に超重大映像が流れるので、途中で席を立つのは絶対にNGだぜ!

 

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スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム

時系列としては『アベンジャーズ:エンドゲーム』の少し後。人々が復活した混乱が治まり、普段の日常が戻ってきたあたりから開始されます。

前作『スパイダーマン:ホームカミング』に引き続きトム・ホランド氏がスパイダーマンを、ヒロインMJを『グレイテスト・ショーマン』のゼンデイヤさんが務め、他にニック・フューリーことサミュエル・L・ジャクソン氏、新登場のヒーローミステリオをジェイク・ギレンホール氏が演じておられます。

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あらすじ

トニー・スタークがこの世を去ってから数か月後。人々はようやく普通の生活を取り戻そうとしていたが、世間では平和の象徴である『アイアンマン』の後継者が誰になるのかが注目を集めていた。

そんな中、メキシコで巨大な人型の台風のような生き物が確認される。
突然出現し、有象無象を破壊しつくす強大な生物にさしものニック・フューリーも苦戦する。だがそこに球体を頭にかぶった男『ミステリオ』が現れ、謎の生物と戦闘を開始するのだった。

そんな頃、アメリカはニューヨークのクイーンズで、スパイダーマンことピーター・パーカーは科学部主催のヨーロッパ旅行へと胸躍らせていた。異国の地でMJに告白し、見事恋人の座を射止めるのだ。
暴れまわる未確認生物のことなど露程も知らない少年は、意気揚々と旅に出発するのだったが……。

感想

正直なところ、前作『ホーム・カミング』はたいして面白いとは思えませんでした。あくまでMCUシリーズの一部であったことが仇となったのか、ヒーローの単独映画にしてはアイアンマンが出張り過ぎた。彼との実力差が激しすぎて、最早弟子というより完全な下位互換。しかもスーツはトニーに贈られたものとあっては、存在意義はどこにあるのかはなはだ疑問だったわけです。
だから彼がアイアンマンの後継者と目されていることに納得がいかなかった。加えて『エンドゲーム』の出来があまりにも残念だったこともあり、偉大なるアイアンマンの後を継ぐことに苦悩するピーターという図式がまったくピンと来なかった。

だけど本作の蓋を開けてみれば、前作では不調だった高校生ならではの青春具合が魅力的に描かれており、偉大すぎるヒーロー亡き後に重圧を背負わされる少年の苦悩というテーマがぴったりな映画に仕上がっておりました。
なんでこんなに面白さの違いがあるのかなーと思ったんですが、理由は簡単。

アイアンマンがいないから。

前作の船のシーンで散々ピーターが苦戦して崩壊を防いでいた船体を、アイアンマンが現れるとあっという間に修復してしまう。あそこの興ざめ感は半端なかった。アイアンマンがいればいいじゃん、と誰もが思ったはず。
だけどそれは今回描かれるバトンパスのための壮大な犠牲だったんですね。いやー、本作のために映画一本をまるっと捨て扱いにできるとは、さすがハリウッドはスケールが大きいですね。当然、実力差の激しい二人のヒーローを一つの画面に収める危険性に製作者が気づかないわけもなく、あえてのリスクを取っての決断だったのでしょう。

アイアンマンの後継にふさわしいヒーローって、スパイダーマン以外にもいるのでは? と最初は思ったのですが、キャプテン・アメリカは引退してしまったし、ソーはそもそも別惑星の人だし、ドクター・ストレンジは悟りの道、キャプテン・マーベルは忙しすぎ。加えて人々が求めるのは、もっとアイコニック的なヒーローだという点がポイント。地球に常駐し、一般大衆にも親しみやすく、かつ実力もあるヒーロー。
前者二つは満たしていけど、実力という点でピーターには自信がない。けど、彼はまだたったの16歳。トニーだって16の頃はまだまだ初々しかっただろうし、経験もなければカリスマ性だって発展途上だったでしょう。心技体そろった大人の男と比べたら、見劣りして当然なんです。
そして師匠が出て来た場合、普通は話の途中で死んでしまうか、もしくは実力で乗り越えていくかが描かれるべきだったのにが、相手がアイアンマンだからそれも無理だった。

だけど今回は師匠が死んだ。

通常は一本でやるべきところを、インフィニティ・ウォーも含めると数本に渡って描いたから、前半が面白みに欠けるのも仕方なかった。
満を持しての面白さ爆発。
なるほど、よくできてるじゃんと思った次第です。

やはりですね、ヒロインがゼンデイヤさんというのが最高の選択だったんではないでしょうか。彼女とピーターのやり取りがめちゃくちゃかわいい。青春している。前作でぱっとしなかった高校生活が今作で華やかに開花したことで、スパイダーマンの特性である『青春もの』というジャンルが百二十パーセント活かされたんです。
必死に正体を隠そうとしてみたり、自腹でプレゼント買ってみたり、その気ならプライベート・ジェットに乗れるのにバスでみんなと移動してみたり。親愛なる隣人スパイダーマン。最高じゃないですか。

そして本作では新ヒーロー『ミステリオ』がお目見え。頭に金魚鉢被ったような素敵なビジュアル。……それ前見えてんの? 見えてるとしたら、どういう原理なんだ?? 例によって細けぇことは……と言いたくなったその時、とんでもない種明かしが披露されます。

な、なんだってー!? ヴィランなんか、お前!

スパイダーマンは映画でしか追ってないのでコミックにはまったく詳しくないんですが、まあなんとなくエレメンタルズじゃ敵として弱いから、キャスト的にもミステリオさんが本作のヴィランなんかいなと思ってはいたんですが……(ウソデハナイ。ミステリオかっけーとか思ってない)。

それにしても特殊効果ってお前……。

なんかこう、種明かしされると一気に馬鹿馬鹿しいというか、盛大な興ざめ感が襲ってきました。
ミステリオの正体は、無数のSFX装置によって作られた映像でできていたということ。もやもやが詰まった球体部分や両手から出す緑の光線もすべて機械を使ったバーチャルリアリティによって作り出されており、つまりはハリボテ。
地球を襲ってきたエレメンタルズももちろんSFX。無数のドローンが怪物の形に展開して動いており、各々がパーツごとに映像を照射し続けることで一体の巨大な敵の姿を作り出していたというわけです。
ピーターがくらっていた攻撃は実際にはドローンが繰り出したもの。

技術力がパない。

ミステリオことクエンティン・ベック氏含め、別場所で映像と攻撃を操作していた彼のチームはすべてスターク・インダストリーズを追われた元社員たち。トニーにお前らの技術はすげーけど、思想がやばいから解雇ね、と言われて恨みに思っていたそう。技術の基礎はスターク社で培われたものというから納得です。
いやー、アイアンマンだって要は科学力の粋を集めて作った人造の機械なわけだし、科学を突き詰めれば魔法と同じってのは言い得て妙ですね。

そんな虚像のヒーローを、高校生の敵として持ってきたのは中々にエグい。一時期はアイアンマンの面影すら見た相手なのに、実ははったりばかりの卑小な存在でした……という現実を突きつけられるとは、制作陣もひどいことをします。

けれど相手がミステリオだったからこそ、ピーターの意識が変わったのもまた事実。虚像を見せることで、彼の中のヒーロー感というものが明確に固まったのではないでしょうか。
ヒーローは虚像じゃない。
自らを犠牲にしても、人々のために立ち上がる人間は確かにいる。
在りし日のトニーのように、ヒーローはここにいるのだと。誰かが知らしめなくてはいけないのだ。

いいじゃないですか、スパイダーマン。
個人的にサム・ライミ版が至高(特に2)なんですが、トム・ホランド氏版も好きになりました。

無事にミステリオを倒してニューヨークに帰って来たスパイダーマン。晴れて両思いになったMJと浮かれていたら、とんでもないことが……。

ミステリオが今際の際に録画した映像が、彼のチームによって編集され、全世界に流されるという事態に。
正義のヒーロー・ミステリオを殺害したのはスパイダーマン。しかもその正体はピーター・パーカーであるとご丁寧に写真付きで報道されたからさあ大変。

これは三作目があるね!!

乞うご期待、というところで映画は終了です。
いやほんと、どうなるんですか今後の展開。首を長くして次回作を待っております。

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人物紹介

●ピーター・パーカー/スパイダーマン
本作の悩める主人公。
主に悩んでいるのはMJのことだけ。すがすがしいくらいに彼女一択。
一応アイアンマンの後継候補として悩んじゃいるけど、九割MJ一割後継くらいの割合でMJ。すがすがしくて好感が持てるぜ。

イタリアでブラック・ダリアモチーフのペンダントを買い付け、エッフェル塔でMJに渡して告白するつもりだった。
ところがプラハで告白しようとしたら、「スパイダーマンでしょ」と言われたため雰囲気が台無しに。しかも「ずっと見てたのはスパイダーマンだと疑っていたから」と言われて傷つく。
そして傷心のあまり列車に身投げ……したわけではなく、ミステリオの罠にはまっておそらくは新幹線並みの速度で列車にはねられたのだが、打撲程度で済んだ模様。丈夫ってレベルじゃねーぞ!!

ミステリオに騙され、トニー直々にゆだねられたスターク社の技術の粋が詰まった眼鏡「E.D.I.T.H.」を彼に譲ってしまう。まあ、ピーターが使うとせいぜいが恋敵をドローンで抹殺する用途くらいだしな……と思っていたら、ミステリオが実は悪い奴だったため、奪還を余儀なくされる。

それにしても作中でピーターをはめたSFX技術のすごいこと。現実世界の上に完全な別世界を作り出し、視覚で彼を翻弄した。幻術ってすごい。

最後はMJと結ばれてのハッピーエンド……かと思いきや、前述のようにとんでもない禁じ手が使われたため、はよ次作。はよ!!

●ミシェル・“MJ”・ジョーンズ
本作のヒロイン。
陰謀や殺人が大好きな一風変わった女の子。だがその魅力故に科学部内部にファン多数。
一作目から輝きを放っていたが、今作は眩しいまでのヒロインっぷり。かわゆいのう、かわゆいのう。
ピーターの告白未遂では天邪鬼っぷりが発揮されてしまい、スパイダーマンだと思ってたから興味があったと嘘をつく。がっかりするピーターだが、ミステリオ退治後にお互い本心を打ち明け、名実ともに両思いとなった。天晴れ。

ニューヨークに戻ってから、スパイダーマン姿のピーターと街中を文字通り飛び回ってデートする。……いかに運動神経がよかろうと、常人には適応が難しかろう。無茶させやがって……。
三作目でも大活躍してくれると嬉しいぞ!

●クエンティン・ベック/ミステリオ
本作のメインヴィラン。
マルチバース「アース833」から来たと名乗る男性。要は並行世界833番目の地球から来たよってことらしい。そこはエレメンタルズという四大元素火・水・土・風のお化けによって滅亡し、ミステリオだけが時空を超えてピーターたちの地球「アース616」にやって来たとのこと。そこでもエレメンタルズが暴れていたので、「我が地球の仇」とばかりに力を貸してくれることになった。

……という設定。
ミステリオチームのシナリオ担当がこの荒唐無稽の――有体に言えば陳腐極まりないシナリオを考えたそうだが、いい歳をしたおっさんが大真面目にこれを話していたと思うとおかしくなる。

ミステリオを演じていたときは悲壮感のあるヒーローだったのに、カラクリが明かされるや否や、一気に小物臭の漂うヴィランに。
演じるジェイク・ギレンホール氏の演技の上手いこと。見事ピーターをだまくらかし、E.D.I.T.H.を譲ってもらうときに見せた「そんな、ピーターいけないよ」の演技。それまで彼を疑ってなかった人(筆者デハナイ)も「あ、こいつうさんくさい」とピンとくるほど建前感をかもす話しっぷり。
演技上手男!!

最後はスパイダーマンとの一騎打ちに負け、E.D.I.T.H.に警告されるもドローンに一斉射撃を許可し、自分が砲弾に巻き込まれて死亡。だが最後っ屁とばかりに死後スパイダーマンの正体をばらす映像を仕掛けておくという根性悪ぶりを披露する。
ある意味スパイダーマン最大の敵ではなかろうか……。

余談ですが、最後の決戦に至るにあたり、なぜか役者さんのお名前を失念し、「あれー、何て名前だっけ。ほらあれ、絶対わかってるのに出てこない……あっ、ザック・エフロン? いや違う。でもザで始まる名前だった気がする」と最後まで出てこずもんもんとしてましたがエンドクレジットでわかりました。ジェイク・ギレンホールさん。ザで始まらんやん。
『ナイトクローラー』のときも思ったけど、病的にひねくれた役を演じさせたら天下一品なお方ですね。

●ニック・フューリー
ご存じアイパッチ長官。シールドの人だと思ってwikiを見たら、『元シールドの長官』と表記あり。あれ、いつシールドは解体されたんでしたっけ……記憶にないな……。

それほど登場の尺はないはずなのに存在感ばっちり。夏休みどころか映画がニック・フューリーに乗っ取られそう。
エンドクレジット最後の映像で、実は本編中の彼は宇宙人が擬態していた姿であり、本人はどこぞの宇宙基地でバカンスしていたことが判明する。
しかし擬態であろうと思考は長官そのもの。作戦参加を断ったピーターに「かまわんよ」と言いながら目が笑ってなかったり、ミステリオの嘘八百を真顔で看破してみたり、

長官怖ぇ……。

となった。
ヒーローが束になってもニック・フューリーには勝てないと思う今日この頃。

●マリア・ヒル
頼れるフューリー氏の片腕。
ロケットランチャー的なものを使い、真顔でドローンを吹っ飛ばしてくれる。
怖い。

●ハッピー
トニーの元運転手。ピーターのお目付け役。
今回はメイおばさんがらみでおいしいシーンが盛りだくさん。大活躍に嬉しい限り。
ピーターに往年のトニーの姿が重なるシーンの視線が優しい。泣ける。
列車にぶっ飛ばされたピーターをオランダの花畑に迎えに行く。お花畑を荒らさないでよねっと心配になったが、ホバリング方式だったのでお花は無事だった。ほっと一息。

●メイおばさん
ピーターのおばさん。
さりげなくスーツをスーツケースに滑り込ませてくれたりと、ティーンエイジャーの保護者特有のいらんことすんなをスクリーン上でも見せつけてくれるキュートな人。
ハッピーとは遊びだったのか……!? さすが熟女はしたたか。

●ネッドとベティ
ピーターの親友ネッドとMJの友人ベティ。
飛行機で隣り合ったことから会話が弾み、カップルに。だが旅行終了と同時に破局。
高校生あるある。

●ブラッド
五年組の一人。成長したらイケメンになっており、MJをめぐってピーターと火花を散らす。
当て馬。
がんばってるけどあまり相手にされてない感じが不憫……きっといい子が見つかるさ!

●ベックの愉快でない仲間たち
非常に有能な集団。その技術力と情熱をまっとうに生かせばいいのに……うん……。
多分そういうとこだぞ、スタークさんに嫌厭されたのは。

●監督
ジョン・ワッツさん。前作に引き続き監督を続投。
青春描写が体操お上手。三作目もぜひ続投を! 大変面白かったです、ありがとうございます!

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↓前作とサム・ライミ監督版。合わせてご覧あれ。

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