映画『ジョジョ・ラビット』ネタバレ感想。少年よ、踊るのだ。

ジョジョ・ラビット 映画 ドラマ

原題:Jojo Rabbit
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
少年が主役でも、人は死ぬ。

ジョジョ・ラビット イマジナリーフレンド

少年ジョジョの空想の友人はヒトラー総統、というとんでもな設定を引っ提げた本作。映画館で一度予告編を見たのみ、という前知識で鑑賞して参りました。

ヒトラー役には監督も務めるタイカ・ワイティティ氏。『マイティ・ソー:バトルロイヤル』を撮ったお方だそうですね。
そして主人公ジョジョの母親役に、『ブラック・ウィドウ』のスカーレット・ヨハンソンさん。ジョジョを鍛えるコーチ役に、『スリー・ビルボード』のサム・ロックウェル氏という豪華キャストが勢ぞろい。贅沢至極な108分でございます。

※エンドクレジット後に映像はないよ。

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あらすじ

十歳のジョジョは、ナチスの親衛隊に入ることを夢見る少年だった。
空想の友人はヒトラー総統。寝室には親衛隊のロゴと総統の写真が飾ってある。
そんなある日、ジョジョは二階で不審な物音を耳にする。
出所は亡くなった姉インガの部屋で、もしや幽霊? と緊張するジョジョ。
しかしそこにいたのは、彼が憎むべき敵であるユダヤ人の少女エルサだった……。

※以下ネタバレです。未見の方注意。

 

 

感想

インパクト大な空想の友人に始まり、ビートルズやデヴィッド・ボウイの曲に乗せて、軽快に物語を紡いでいく『ジョジョ・ラビット』。
幼い少年たちが訓練場で熱心に戦争の真似ごとをしてみたり、本物の爆弾を投げる練習をしてみたり、他民族への憎悪を口をそろえて肯定してみたり。
ほとんど全編をコメディタッチで描いてはいるものの、正直言って笑えない。
もちろん製作側の意図としては、わざと振り切った演出で描いているし、観客は次々と繰り出されるありえない絵面を笑い飛ばすのが正しいのでしょう。
でもなあ……って、身構えちゃうんですよね。この後には、必ず笑うことのできない出来事が起こるんだって。

そして当然のように予感は現実となり、ジョジョの母ロージーが死んでしまう。
このシーンは、本当に上手な監督さんなんだなあと感心しました。事前にダンスのステップを踏むロージーの足だけが何度も映るようにし、彼女の靴の形や色を観客に教え込む。
そして秘密警察の追撃を見事機転で交わした……と思わせた後で、町に出たジョジョの横にぶら下がる母の靴。
序盤でロージーがジョジョと二人、街中の絞首台を遠くから眺めるシーンが映るんですが、やっぱりなあ……やっぱりこうなったか……と、ただただ悲しくて仕方がなかった。

ピンクの象と同じように、人の死なない戦争映画は存在しない。

例えば2017年の『ウィンストン・チャーチル:ヒトラーから世界を救った男』のように、ナチスと闘う側の映画であれば、これほどの悲壮感は前面に出ない。むしろ暴虐に屈せず奮起するという人間の肯定的な面が強調されるため、最後は幾分かは明るい気持ちで終わることができる。
けれど本作や『戦場のピアニスト』、『シンドラーのリスト』のように東側を舞台にした作品になると、途端に降りかかる悲劇は約束されたものとなり、ただただ積み上げられる人の死に声もないほど打ちのめされてしまう。
愚か、と言い切るにはむご過ぎる行為の数々を前にし、彼らと同じ人間であるという罪の意識が、恥となって心のどこかを責め苛むからかもしれない。

母を処刑によって失ったジョジョは、長い間彼女の亡骸の前に座り込み、動かなかった。
十歳という年齢を考えると、少し大人びたというか落ち着きすぎた行動ではないかと感じるところもあった。あまりに静かに涙を流し、泣きわめいたり、誰かを責めたりといった言動が一切ない。
つまりは受け止めた証なのかと、胸を突かれたような気持ちになった。
母はドイツ解放を謳ったために処刑された――何一つ『当然の結果』ではないはずの行為を、十歳の少年が理解して反抗もしないのだ。

なんだこりゃ、悲しすぎるじゃないか……と思える物語の中に、救いの光は確かにある。
一つはエルサ。母ロージーが家に匿い、ジョジョが彼女を見つけたことにより、次第に絆を深めていくユダヤ人の少女だ。
互いの親を亡くした後で、それでも終戦を迎えた町にて、思うままにステップを踏み始める姿は力強い。もしかすると、収容所に連れていかれたエルサの両親は生き残っているかもしれないが……。
奇妙な縁で出会った二人が、家族として終戦の世を生き抜き、最後には愛する人々に囲まれて笑っていられればなと思う。

そしてもう一つはクレンツェンドルフ大尉だ。
初っ端のキャンプにて教官として登場し、最高にイっちゃった姿で全編を駆け抜けた男。
一見すると狂信的ナチスの一員のように見えるが、実はこの戦争自体を馬鹿馬鹿しい喜劇と捉えているのではないかと思える節が多々ある。
何より副官のフィンケルとの間には特別なものがあるようにも見受けられ、同性愛者を否定している国家側の意志とは、はなから反りが合わなかったのだろう。
彼はジョジョの母ロージーを善人と認め、亡くなった姉インガに成りすまそうとしたエルサのミスを見逃している。そして最後の市街地での戦いにおいては、自身がデザインした非常に馬鹿馬鹿しい軍服に身を包むという、冗談のような行為に出る。
おそらく、大尉はごく普通の人だった。ロージーのように国家に反抗する勇気もないが、彼らの主義主張を妄信するわけでもない。けれでも結局は上の言う通りに行動するしかない――そんな自分を恥じる気持ちもあったのではないか。だから大抵は酒で自分をごまかしている。
けれどジョジョに危険が迫ったときは、自身の中の勇気を奮い起こして行動した――善人でもないし、悪人でもない。本当に普通の、どこにでもいる人だった。

最後に彼はアメリカ軍の兵からジョジョを救い、自身は処刑されてしまうのだが、ここで敵方であるアメリカ側を特にヒーローとして描かなかったのは素晴らしい。
勝利を確実にし、本来ならば捕虜として扱うべき敗軍の兵を、彼らは一か所に集めて銃殺してしまう。しかも大尉が助けなければ、ただ敵側の軍服を着ていたという理由だけで、わずか十歳のジョジョすら撃ち殺そうとした。
戦争には善も悪もない。
そんな言葉を噛みしめるシーンだと思う。

『ジョジョ・ラビット』は間違いなく名作だと言っていい映画でした。
何より、スカーレット・ヨハンソンさんは最高だ!
面白かったです。

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人物紹介

●ジョジョ
本作の主人公。十歳の少年。
ヒトラー総統を空想の友達とするナイスボーイ。
訓練先のキャンプにて、かわゆいうさぎの命を守ろうとしたことから、『ジョジョ・ラビット』=臆病者というあだ名をつけられる。
ウサギを守ろうとしたのは最高だが、逃がすなら足元に置くのではなく、遠くに放り投げたら助かったんじゃ……と地団太踏みたくなるのが最高に子ども。うさぎはかわいがるべきなのだ、馬鹿共め!
投げた爆弾が跳ね返って大怪我を負い、そのため学校も休学。他の少年たちのように戦役に就かずにすんでいる。

空想の友人を見ればわかる通り、頭の中はナチス一色。綺麗に洗脳されていたのだが、母が二階に匿っていたユダヤ人の少女エルサと出会ったことで、徐々に認識を改めていく。
エルサから『リルケ』について聞けばいそいそと図書館に出向いて調べもの。バレバレの代筆を「えっへん」とばかりに読み上げたり、お腹の中の蝶にびっくりしたりと、めちゃんこかわゆいボーイ
そのため、後半に襲った悲劇の落差がひどい。
母親を処刑したのに息子を放置していたのは、エルサが姉のインガを演じたからだろうか……? おそらく子どもたちは危険なし、と判断されたのだと思うが、配給とかそういうのはどうなっていたのでしょうか。ゴミ箱から拾ったにんじんは確実にまずそうだし、エルサがいなかったら生きられなかっただろう。

終戦直後は、エルサと離れたくないがために「ドイツが勝ったよ」とうそをつき、その報復にビンタを受けた。
でも結局は彼女のために、恋心を抑えて外へ連れ出す姿勢が男前。さすがロージーの教育が生きている。
どうぞ二人で強く生き抜いてほしい。

●ロージー
ジョジョの母親。麗しのヨハンソンさんがその魅力を余すところなく発揮し、強さと弱さを兼ね備えた非常にチャーミングな女性となっている。
従軍で留守にしている父親に代わり、女手一つで息子をたくましく温かく育てている。
だがその裏で、ドイツ解放を謳うビラをまいたりと反戦行動を続け、エルサを死んだ娘の部屋に匿っていた。

秘密警察が自宅に来た時点では死亡していなかった……と思うので、おそらく決め手はジョジョの「母さんは毎日帰りが遅い」だったのかな……と思うとなんかもう目がうばぁーーってことになる。

男装する際の、潔すぎる灰塗りたくりが非常にかっけー。
冒頭のクレジット時点で「and」ってなってたから、なんか嫌な予感はしたが、それにしたってロージーは最高だで……!!

●エルサ
ロージーが匿っていた少女。少女特有の可憐さが際立つめちゃんこかわゆい女子。
絵は上手いし、頭の回転は速いし、そりゃジョジョも惚れるってなもんですよ。

ネイサンという婚約者がいたが、実は昨年病死していた。
なのにジョジョがいそいそと「ネイサンから手紙が届いたよ」と言うもんだから、初回は涙に暮れて引きこもってしまった。
ジョジョこの野郎。
だがその無邪気さと、後に見せる気遣いが救いになったのも事実。

ロージーが亡くなった後、部屋に入って来たジョジョにナイフで刺される。
刺した方、受けた方。双方無言のやり取りの中に、悲しみと悔しさがにじむ。

その後、終戦によって無事自由の身となった。
「弟?」と尋ねるジョジョに、「弟よ」と念を入れた声で返すのだが、ワンチャンくらいはあげてやって。年の差七歳ならきっといける……でも当時は結婚早いだろうからな……がんばれ、ジョジョ。

ロージーとの会話の後、壁にかかった虎のタペストリーを見て、「虎とにらめっこしてたじゃん」みたいな顔してるのが最高。

●空想の友人
ユダヤの血を引く監督ご自身が演じているという、ジョジョの空想の友人ヒトラー総統。
登場するほとんどのシーンで最高に弾けており、テンションの天井知らずっぷりに、何がしかの感情を抱く。
エルサとの交流が深まるに連れ、次第に出番が減っていき、ついにはヨーキーがさらりと「あの人自殺したよ」と言うので、ジョジョと一緒になって目を剥いてしまった。マジカヨ。
受け止める側ってこんな気持ちだったんだな……という疑似体験ができたというか、本編に洗脳されてた自分を発見し、この映画すげーってなりました。

最後は怒りのジョジョキックにより、盛大にガラスを割って退場した。さよならだ、総統。

●大尉
本作の名物キャラ。ジョジョが参加したキャンプの教官。
彼の指導する爆弾の投げ方講座にて、ジョジョが誤って大けがを負ったために、ロージーによって怒りの●●パンチを受ける。ドイヒ。
素敵なスイムスーツを披露したり、舞台役者並のひらひら軍服を披露したり、かっちょよく銃を撃つ俺を披露したりと忙しい。

決して善人というわけではないが、何度もジョジョを守ったのは事実。
最後はうすら笑いを浮かべたまま死んだのでは……と個人的には想像している。

●フィンケル
温和そうなクレンツェンドルフ大尉の部下。キャンプにも同行していた。
豚しゃんを連れてこいと言われたのに、養豚家を連れて来ちゃったりとうっかりミスをかます。でもそこが魅力。
大尉との間には通い合うものがあるらしく、最後はド派手な軍服に身を包み、共に市街地を駆け抜けていった。
だが米軍に捕縛された際は大尉一人だったので、おそらくは……。

●ヨーキー
ジョジョの友人。年は一個上。眼鏡をかけたまるぽちゃの少年。
ジョジョに『二番手の親友』扱いされて悲しい顔をする。ドイヒ。でも総統を蹴り飛ばしたあとは、再び一位に返り咲いたと信じている。
怪我を負って自宅療養中のジョジョと一時疎遠になるものの、時折町中で再会すると、いつも何がしかの軍の仕事に従事している。
そして市街地が戦地と化したときには、前線の兵士のためにいそいそと武器を運ぶ真っ最中……と思ったら手が滑って町中でランチャーをぶっ放すという凶行に及ぶ。
でもって、ぽろりと「総統は死んだよ」という別の意味での爆弾も落としていく。嘘やろ。
しかもその時は服の後ろが大きく破れて背中が大きく露出しており、君は一体どんな目に遭ったんだ……とかなり心配になった。
街はひでーことになったが、彼の母親は生きているらしく、ジョジョと別れて意気揚々と母の元へと戻っていった。よかったよかった。

●フロイライン
キャンプで子どもたちを指導する立場にいた女性。愛国心に溢れており、大尉に続いて言動がイってる。
ラストの市街地戦では、おまけのお菓子を配るかのごとく、少年たちに爆弾を持たせて「さあ行け!」と叫んでいた。
さあ行け、じゃあねえよ。

●ゲシュタポ
黒い服を着た怖い人達。中の一人がものすごく背が高く、圧迫感もあってヒェッとなった。
終戦後はアメリカ兵に引っ張られ、大尉と同じ場所に連れられていった。

●うさぎしゃん
Go to ●ell! ってやつだ、バァァカ!

●監督
タイカ・ワイティティ氏。実に才能に溢れたお方。
大変素晴らしい映画でした。次回作も楽しみにしております。ありがとうございます。

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↓サントラが出ております。ジャケットがイケとります。


ジョジョ・ラビットのファンアートという企画があったので描いた一枚。
時間があったら、ヨーキーや大尉を追加したいと思います。

ジョジョ・ラビット 映画

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