映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』ネタバレ感想。地球では、いつもどこかで夜が明ける。

ナイト・オン・ザ・プラネット 映画 ドラマ

原題:Night on Earth
1991年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
夜のタクシーオムニバス。

ナイト・オン・ザ・プラネット 映画

『パターソン』で初めて出会ってから、これが三作目となるジム・ジャームッシュ監督の作品『ナイト・オン・ザ・プラネット』。
題名から察するに、夜を舞台にした物語のよう。

出演に、『ストレンジャー・シングス』のウィノナ・ライダーさんと、『グロリア』のジーナ・ローランズさん。『13F』のアーミン・ミューラー=スタール氏と『ライフ・イズ・ビューティフル』のロベルト・ベニーニ氏など、豪華キャストが勢ぞろいです。

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あらすじ

夜のしじまを、タクシーが行く。
ある者はロサンゼルス。ある者はニューヨーク。そしてまた、ある者は花の都で。

ローマのタクシーが、大柄な神父を降ろしているとき、ヘルシンキでは、三人の泥酔した男たちがタクシーに乗り込む。

そう。
僕たちは、夜をリレーしているのだ。

……と言ってみたかっただけなので、どこかで聞いたフレーズだなとか、著作権大丈夫なのかとか、深くは追及せんで下さい。

※以下ネタバレです。未見の方ご注意。

 

 

 

 

感想

ロサンゼルスとニューヨーク、パリにローマ、そしてヘルシンキ。
五つの大都市を舞台に、経度から経度へと、夜をリレーして進む五本のオムニバス。
最初はそんなこととはつゆ知らず、少女と熟女が出て来たけれど、これはどーいう方向で進むのかね、と見ておりました。するとまあ、タクシー内で繰り広げられる、運転手と乗客たちのやり取りがが面白いのです。

ほんの一瞬。
乗車から、目的地へ着くまでのわずかな時間。
それまで縁もゆかりもない他人同士だった人々が、ほんの数十分だけ密接となるこの瞬間。
おそらくは、降りたらこの先二度と会わない。
だからこそ、深く踏み込んだ話をぽろりと漏らす。
タクシーって、なんとも不思議な乗り物だなあ、としみじみ。

個人的イメージですが、ベテランのタクシー運転手さんって、どことなく『駅』に似た雰囲気がありますね。
大勢の人が行き交うけれど、あくまで中継地点で、目的地ではない。けれど、数えきれない『誰か』の人生が詰まっている。そんなイメージ。

本作然り、『コラテラル』や『タクシー・ドライバー』然り。タクシーには、昼よりも夜が似合う。
内から見つめる外の景色は、次々と通り過ぎるほかの『誰か』の景色なわけで、特に真夜中のタクシーは、無人で無音。誰もが自分のねぐらに帰った後の、空洞となった町を行くわけで、孤独もひとしお。けれど、一つ向こうの壁の先には、人々の秘密が満ちているような、なんともワクワクした気配を感じます。

いやあ、ジム・ジャームッシュ監督、いいなあ。
これはおかわりいってしまうなあ。

各話紹介

●ロサンゼルス
ウィノナ・ライダーさん演じる若い運転手と、空港で乗り込んできた映画のキャスティング・ディレクターとのやり取り。
この運転手コーキーちゃんがめちゃめちゃかわいくて、運転するのに背が足りないため、座席に電話帳を敷いて嵩上げしているという。
しかも、たばこをスパスパ、ガムをくちゃくちゃ。いざ本腰を入れて話そうとするや、口の中のガムをドアに貼ってインターバルというざっくり度合。
これにはローランズさん演じるヴィクトリアも苦笑いながら、物おじしない強気な彼女の魅力に目をつけ、「映画に出てみない?」と提案する。「今探している役柄に、あなたがぴったりなの」と。
そこで、コーキーが首を縦に振れば凡作だったが、あいにく彼女には確固たる人生設計があった。
「この町にいる女の子は、誰もが映画スターになりたがっているのよ?」
「そうね。他の子たちはね。でも、それは私の人生じゃない
ときっぱり断るコーキーちゃん。
何気に映画史に残る名ヒロインではないかってなくらいに超かわいい。
でもって、彼女の主張に理解を示し、電話に向かって「お黙り」というヴィクトリアも実に子気味よい。
各自、電話しながらの出会いもおしゃれで、借りてよかったわー、と思った一編でした。
良い映画に、古いという言葉は存在しないんですね。

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●ニューヨーク
東ドイツからの移民ヘルムートと、肌の色故にタクシーに乗せてもらえない男ヨーヨーとの心温まる一編。
人種のるつぼたるニューヨークの片隅で、新米ドライバーとその客として出会った二人。
免許が認められたのが謎という、ヘルムートの下手くそ走りを見かねたヨーヨーは、自分が運転することを申し出、二人は奇妙なドライブへと出発。
「お前の名前、”ヘルメット”じゃん」
「あんんたの名前はおもちゃと同じ」
とやいのやいの言いつつ、心通わせる二人。
タクシーがなかったら、絶対に出会うはずのなかった二人。
見かけによらず、情に厚い男ヨーヨーと、妻も子供もなく、東ドイツから逃げてきたという男ヘルムート。
二人の関係が今後発展するのかどうかは不明ながら、ヨーヨー宅を後にしたヘルムートの目に映る、見知らぬ町ニューヨークの景色こそ、この話が最も語りたかったものなんだろうなあとしみじみ。

後でwikiを読んでびっくりしたのですが、ヨーヨーの義理の妹さん役の女性は、『デッド・ドント・ダイ』でトラウマ級うめき声をあげていた、ウェイトレス役のロージー・ペレスさんだったんですね。役者さんはゴイスのー。

●パリ
乗客の人種的発言に怒って途中下車させた運転手が、見た目に囚われない盲目の女性を乗せるという一編。
冒頭で下車されられた御客二人は、無事にタクシーを捕まえられたんすかね……と激しく気になる。もしかすると、結構な距離を姦しく歩き、「うるさい!」と窓からゴミでも投げつけられたんではないかと想像。
でもって、盲目の女性の目は、常に黒目が上を向いてほぼ白目になっているんですが、それは役者さんの演技によるものと知って、心底すごいと思いました。

このお話のポイントとしては、冒頭の客二人 → 運転手 → 盲目の女性という方向で、偏見に囚われているところ。
男二人に怒っていたにも関わらず、女性に対して、「君って映画館に行くの?」など、平気で不躾な質問を飛ばす運転手。
確かに、疑問に思っちゃうのは仕方ないけど、言い方ってものがあるだろう……と思えど、洋服をどうやってコーディネートしているのかなとか、自分も色々と考えてしまったので、人のことは言えませんでした。申し訳ない。
彼が最後に事故を起こし、「お前の目は節穴か!」と叫ばれるところでは、にやりとした人も多いはず。
颯爽と去る女性がかっこよいお話でした。

●ローマ
口八丁な運転手と、不幸にも彼の車に乗ってしまった神父の話。
ロベルト・ベニーニ氏の真骨頂。
いやー、もう、このジーノ君がしゃべるしゃべる。
最初に神父さんを乗せたときは、若干遠慮していたのか、慎重にぽつぽつと話しかけていたジーノ君。けれど話すにつれ、次第に興が乗ってきたのか、告解と称していらんことを次々と繰り出してくるから性質が悪い。

お前は神父さんになんてことを……。
とハラハラしていれば、心臓に持病をお持ちだったらしく神父さん。ジーノ君が急ハンドルを切った拍子に、薬がぽろぽろと座席の下にこぼれ、アカーンとなって、次第に反応がなくなる → ん? 大丈夫かい、神父さん? → 神父さーーーん!?
という。
最終的に、ソドムとゴモラもかくやというタクシーの中で、息を引き取ってしまわれた。
お前……。

街中のカップルといい、それまでおしゃれなオムニバス、と思って見ていた茶の間を、加速度的に凍らせる威力を持った一編。
ベンチに座らされた神父さんの目がぱちっと何度も開くのを見て、ああ、これってジャームッシュ監督の持ちネタなんだなと理解したことを付け加えておきます。パチーン。

●ヘルシンキ
不幸自慢大会inタクシー。
凍えるような北の町で、配車依頼を受けた運転手ミカ。
指定された場所に行ってみれば、『人という字は、人と人が支え合ってできている』を地で行く体勢で立つ男三人組が。
モダンダンスと言われても、納得するような見事なバランス。

近所に住むという彼らの自宅に向かう途中、やけ酒を煽ったアキという男の身の上話を聞いてみれば、仕事をクビになったうえ、愛車は事故に遭い、しかも未婚の娘が妊娠し、妻に家を追い出されたとのこと。
ほほう、それは大変……と思ったものの、クビになった原因が何度も遅刻したから、とのこと。
身から出た錆じゃねーか。
あまり……あまり同情できない……。

そして繰り出される運転手ミカの話。
未熟児として生まれた娘が、医者の余命宣告を越して生き続けていた。
どうせ失う命……と諦めていたミカが、やっぱり愛そうと決めたその朝、娘は息を引き取った。
Oh……。
言葉もなく、やがて涙にくれる乗客たち。

おそらく、ミカがこの話を他人にしたのは初めてなんじゃないかな、と思いました。
あまりの腑抜けた不幸話に腹が立ったのか、それとも夜がそうさせたのか。

ヘルシンキ一の不幸者の座を追われたアキへの扱いはドイヒながら、オムニバスの一番最後。夜明け間近の時間帯が、このヘルシンキ編に当てられたのには、きっと意味がある。
ミカに訪れる幸福を祈りつつ、しんみりと、地球を守る夜のリレーは終わりを告げるのでした。

●監督
ジム・ジャームッシュ監督。本作も大変面白かったです。ありがとうございます。

↓Amazon Videoでは現在取り扱いがないようなので、DVDを貼っておきます。たまに「デーブイデー」と発音すると、幸せがあなたに訪れます。

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