相変わらずのぐずついた空模様ですが、漂う蒸し暑さに真夏の訪れを感じる今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
こちらは、Amazon Prime Videoにて『エリザベス∞エクスペリメント』なる映画を見つけ、「梅雨の憂さ晴らしに見てみっか!」と再生した次第です。
主演は『マッド・マックス:怒りのデス・ロード』のアビー・リー・カーショウさん。共演に、『カレンダー・ガールズ』のキーラン・ハインズ氏と『ウォッチ・メン』のカーラ・グギノさんが出演されています。
[adchord]あらすじ
科学者の夫・ヘンリーに抱きかかえられ、エリザベスは新居となる邸宅へと到着した。
頭脳明晰な夫と、年若く美しい妻。二人はそこで幸せに包まれるはずだった。
――ある日、夫が出張で家を空けるまでは。「いいかい、絶対にこの部屋に入ってはいけないよ。何があっても、絶対にだ」
そう言い残し、いずこかへ出かけていくヘンリー。
残されたエリザベスは首をかしげる。
「絶対に……”ゼッタイに絶対”ってことは、つまり開けろってことよね?」果たして、ドアの向こうにあったものとは……?
※以下ネタバレ。未見の方注意。
感想
なんだコレ。
なんだ……これ。
久々に(というほどでもないかもしれーヌ)、心底なんだこれ……と思う映画を見た気分になりました。
なんだコレ。
そもそもが、邦題からして『∞』というわけわからん単語が入っているし、ポスターを見ると、無限に増殖しちゃったエリザベスちゃんと目が合うという謎仕様。
ならば、彼女のクローンが無限に増殖していく話なのか……と思えば、たった六体しかいないというから、なんだコレ。
↓このたくさんいるかわゆい女子がエリザベスちゃんだよ。
話の展開は、『青ひげ』そのもの。
1.新婚カップルが自宅に帰ってくる。なれそめは、夫が妻に一目ぼれ。これから幸せな結婚生活が始まる……!
自宅にはクレアとオリバーという二人の使用人がいて、何かと面倒を見てくれるので超快適。
2.まだハネムーン期間中なのに、どこぞに出かけて来ると言い出す夫ヘンリー。地下のとあるドアを指さし、「この部屋だけは入ったらアカンよ」と言い残して出発。
3.夫おらん。使用人も消えた。つまらん。
↓
ドア開けちまおうぜ!
4.中は何かの培養施設っぽい。さすがはノーベル賞を取った科学者の夫。どれどれ、何を作っているのかな……?
↓
なんと自分にそっくりな女性が液体の中で眠っていた。
驚くエリザベス。いじった痕跡をそのままに、慌てて部屋を飛び出すも、夫が帰還。
務めて平常心を装うものの、隠しきれてない動揺の影が見え隠れ。
5.「何か私に隠していないか?」
「何も」
「……見たんだろう? あの部屋を」
豹変するヘンリー。逃げ出すエリザベス。
だが出口はすべて電子ロックされ、要塞と化した家からは出られず。
あっという間に、ヘンリーの手にかかって殺されてしまう。
6.数か月後……新たなエリザベスが、新婚の夫ヘンリーとともに邸宅へ帰ってくる。
夫が妻に一目ぼれ。これから幸せな結婚生活が始まる……!
わけがねーんだずら。
というわけで、禁断の部屋を見たエリザベスは殺され、すぐにまた培養液の中で眠っていた別のクローンエリザベスが花嫁として迎えられる……という展開に。
言われてみれば、『青ひげ』の主人公は、彼の七番目の花嫁だったわけで、オリジナルエリザベス&クローンエリザベス六体を合わせれば、全部で花嫁は七人いるというシンクロ具合。
冒頭の花嫁エリザベスは四番目=彼女と、あともう一人は死ぬ運命なんですね。
四番目ちゃんはあっさり殺されてしまったため、謎を解くのは五番目エリザベスの役目に。
例によって例のごとく、禁断のドアを開けてしまった五番目でしたが、喜々として襲ってきたヘンリーを返り討ちに。
そのまま彼女が屋敷を脱出してハッピーエンド……になっては尺が足らないので、電子ロックが解除できず閉じ込められる → 使用人のオリバーが実はヘンリーのクローンで、オリジナル亡き後は彼によって閉じ込められる → 隙をついて逃げ出そうとしたら、オリバーに言いくるめられた六番目クローンに撃たれて五番目死亡 → 死の間際に、六番目エリザベスに真実を伝える → 開眼した六番目エリザベスが、屋敷を堂々と後にしてエンド。
という。
なんだコレ。
ハッピーエンドではあると思うんです。
『青ひげ』も、元は女性の好奇心=言うこと聞かねー女性に対する戒め、みたいな話ですし、結局最後は自力脱出ではなく、兄ちゃん=男性の手を借りて助けられるという、今の価値観からすると、アフォかお前な展開が満載。
おそらくは、オリジナルと六人のクローンという描き方をされてはいるものの、彼女たち七人は一人の女性と見るべきで、ヘンリーという男性によって、『美しい妻』という役割しか与えられなかった彼女が、自分の力で謎を解き、考え、最後は母と呼ぶべきクレアを前に、自ら別れを告げ、自分の足で外へと出て行く……という、めでたい話だなーとは理解できるんです。
が。
鑑賞後に、本作のジャンルがSFだったということを知り、「ああ……」ってなりました。
SFはなあ……。
SFはなあぁ……。
一番頑張った五番目エリザベスちゃんが殺されちゃって(しかも自分に)、最後の六番目エリザベスちゃんは、クレアの日記を読んだくらいしかやってないってのが、なんちゅーかかんちゅーか。
オリバーもアレだし。
クレアもなんか……ですし。
結局、SFを見た後の、いつもの「SFはなあ……」スパイラルに陥って終わった次第です。
主演のアビー・リーさんのファッションが、かわゆくハイセンスだったことを付け加えておきます。
人物紹介
●エリザベス
赤毛の新妻。オープンカーにて丘の上の邸宅に到着。お姫様抱っこで入室するという、まさに夢のような新婚初夜を迎える。
だがその後、邸宅に一人残され暇を持て余したのか、「開けたらだめだよ」という部屋にあっさり入り、そこで自分のクローンたちを見つけるという衝撃体験をしてしまう。
だって鍵かかってないんだもん。
入ってほしくないなら、鍵くらいかけとけ。
動揺した彼女は、クローンの入ったカプセルが飛び出したまま放置。何食わぬ顔で帰宅した夫を迎えるも、バレる → そりゃバレるさ!
そのまま怒りのヘンリーによって、青龍刀みたいな刀で滅多打ちにされて死亡。
そして新たに迎えられた五番目エリザベスちゃんも、秒で禁断のドアを開ける → なんだこの子 → ヘンリー「それが私のエリザベスさ」 → やかましいわ。
真相らしきものとしては、オリジナルエリザベスが先天的疾患により、若くして死亡。悲観したヘンリーが、彼女のクローンを六体作成。三番目でようやく疾患を取り除くことに成功する。
ところが、記憶の定着がうまく行かなかった三番目は、心身ともに変調をきたし、ヘンリーに殺害されてしまう。
その後、四番目を迎え、記憶も上手く行っているかと思えた矢先、「ただ平穏がほしかっただけ」なはずのヘンリーが、結局はエリザベスを殺すことにロマンと愉悦を感じている、ということが判明。
何がどうなったらそうなるのかさっぱりわからん……といいたいところだが、多分愛しさが過ぎて、彼女の存在すべてを支配したくなったとかそんなSF思考なんちゃうと理解。
ヘンリーを返り討ちにしたときは溜飲が下がったものの、どっこいクローンのオリバーがその役目を引き継いだので、ほんとにもうSFってやつはよう。
その後はなんのかんのあったわけですが、最後は真実の自我に目覚めたエリザベスが新たな門出を迎えてのハッピーエンド、で終わりという。
最後だけなら爽やかな映画でした。
最後だけならな!
エリザベスちゃんの行く手に幸あれだ!
●ヘンリー
エリザベスの夫にして、天才ノーベル賞科学者。
専門は遺伝子工学とか多分そんなやつだったと思われるが、よく覚えていない。
何かをこじらせたのか、それとも天才故に常人の理解が及んでいないだけなのか、なんだかよくわからないがとにかく怖ッ。
逃げられたと見せかけて、階段の下から手を出して足を掴むとか、刀振り回して新妻を滅多打ちとか、実はクレアとアーン☆なことになっていたとか、さらりとピアノ弾いたら超上手いとか、とにかく何もかもが癪に障るぜ!
本作が根限りSFしちゃってるのは、ひとえにコイツのせいじゃねーのっていうくらいに、存在がSF。
演じるキーラン・ハインズ氏が超かっけーだけに、不気味さもひとしおで印象深かったデス。
返り討ちにあって、あっさり死んだときは、後で蘇ってくるんじゃねーのと思ったら、クローン(オリバー)として戻ってくるんだから、SFってやつは。
●クレア
ヘンリー宅の美しき使用人A。
……かと思いきや、実はヘンリーと肩を並べるほどの優秀な科学者で、エリザベスのクローン作成に一役買っていた。
ヘンリーには憧れと羨望の混じった複雑な感情を抱いていたようだが、エリザベスに関するあれやこれやを目の当たりにし、なんだかすっかり☆☆☆な気持ちに。
一度は解雇を告げられるも、ヘンリーのあまりのアレっぷりに残ることを決意する。多分。
五番目エリザベスが一人で留守番をした次の日の朝、どうせまた例のドアを開けたために、ヘンリーに殺されとるんじゃろう……とやって来てみれば、なんと五体満足のエリザベスが「夫は部屋で寝ているわ」と彼女を出迎えたもんだから、ショックで失神 → 入院してしまう。
クレアからすれば明白な事実を、しれっとすっとぼけるエリザベスは、なんか子供がいたずらをごまかしとるみたいだなーなんて思って見ておりました。
最後は無事に退院し、門出を迎えるエリザベスを屋敷から見送った。
その後の彼女の行く末については、エリザベスよりも気になっております(彼女のほうが好みとかそういうわけではない)。
●オリバー
盲目の使用人B。ヘンリーの息子。
……と見せかけて、実はヘンリーのクローン。
さすがはクローン。ヘンリーに続いて、本作のSF力を底上げしている。
彼が盲目になったのは、不必要にエリザベスに触れたため、ヘンリーの不興を買ったからだと本人の口から語られる。
おいおい、実の息子に…… → 自分のクローンだった → 業深すぎ。
「君は自由だよ」と言いながら、結局五番目エリザベスを屋敷に閉じ込め、その陰で六番目エリザベスを懐柔するという離れ業を披露。
そのせいで五番目は死ぬことになったので、マジでオリバーもとい、ヘンリーこの野郎。
結局、彼も最期は愛するエリザベスの手にかかって死ぬこととなった。
SFってさ。
SFってさぁ!
●ヘンリーの友達
警察だかなんだか、とにかくヘンリーの知り合いで、時々邸宅を訪ねてくる。
エリザベスの真実について知っており、三番目が逃亡したときは連れ戻したらしい。
ヘンリーではなく、エリザベスが自分を出迎えたために驚く。
でも別にヘンリー殺害がバレたところで、正当防衛であることは明白なので問題ないのでは……と思ったのだが、オリジナルエリザベスはすでに死亡して、きちんと届け出も出されているようなので、死人が殺人を犯した的なことになって、それが世間にバレたら大変だよとはオリバーの弁ながら、よく考えるとやばいのはヘンリーとクレアであって、やっぱりエリザベスを中に閉じ込めるための方便じゃねーかお前ってことになり、SF以下略。
●食卓のケーキ
新婚初夜の食卓が、なぜか山程のケーキとかプティフルールとか、甘いものしか並んでいなかったのが印象的。
メインディッシュは終わり、デザートの時間だったからなのか? それにしたってすごい量なうえに、もしかしてこれ全部クレアが作ったの? すげーー、となりました。
お好みサラダは作れるし、チョコのドリンクも作れるし、さすができる女性は違いますのう。
●監督
セバスチャン・グチエレス氏。ベネズエラの監督さんだそうです。
不思議に面白い映画をありがとうございました。次回作を楽しみにしております。
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