映画『1917 命をかけた伝令』ネタバレ感想。すべてはラストランのために。

1917 命をかけた伝令 ドラマ

原題:1917
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆

【一言説明】
ワンカットで綴られる戦場の一日。

1917 命をかけた伝令 映画

胃腸炎で横たわること一週間。
驚異のワンカット映像だの、アカデミー本命だの、噂はすれども姿は見えず……状態だったのが、ようやく鑑賞の運びとなりました。

主演はイギリス出身俳優のジョージ・マッケイ氏とディーン=チャールズ・チャップマン氏というフレッシュさ。でもってベテラン陣にはコリン・ファース氏、マーク・ストロング氏、ベネディクト・カンバーバッチ氏という超豪華顔ぶれです。

※エンドクレジット後に映像はありませんでした。長さも二時間と大したことはないけど、コーラをがぶ飲みすると、トイレに駆け込む羽目になるから注意だぜ。

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あらすじ

第一次大戦真っ只中のヨーロッパ。
連合軍はエリンモア将軍の元に、戦局を左右する重大な情報が舞い込んだ。

後退と見せかけて撤退したドイツ軍は、戦力を大幅に増強。敵を待ちかまえているのだという。
このまま明日の攻撃が実行されれば、連合軍側が壊滅的打撃を受けるのは明白。何とか前線に攻撃中止の命令を出さなければならない。
だが、電話線はすべて破壊された。
ならば、どうするのか――?

将軍の元に、二人の若き兵士が呼び出された。
ブレイクスコフィールド
明日の朝までに攻撃中止を伝えるべく、彼らは命をかけて走り始めたのだった……。

※以下ネタバレです。未見の方注意。



 

感想

ワンカット! 
本当にワンカット!
……に、見える。
もちろん119分全部をワンカットで撮ったわけはないので(もし撮ってたら喜んで奥歯の詰め物を差し出します。差し出してどうするんだとは聞くな)、シークエンスごとを巧妙につないでいるんだろうなと思うのですが。
見ている方にとっては、そんな裏方的技術はまったく関係ないわけで。戦場の丸一日を、ほぼ途切れることなくその場で体験しているような、臨場感あふれる演出に脱帽でございました。

ジョジョ・ラビットに続いての戦争映画ですが、こちらの舞台は連合国側。しかも味方の全滅を防ぐために命をかける兵士が主役とあって、どちらかと言えば上向きの気持ちで見ることができました。
ところどころツッコみつつね。
なんというか、戦争ものにツッコみを入れる余地はないだろう……と思っていたんですが、本作はその限りではなかったようです。

まず中盤の初めあたりで、いきなり人数が一人減る。
しかもブレイクが。
えっ、そっち? って思わず言ってしまいました。
ブレイク氏とスコフィールド氏だったら、どちらかというと主役顔をしているのはブレイク氏だったんですが、まさかのスコ氏が生き残るんかい、という。
テレビで流れた予告編を一度目にした限りでは、なんか伝令は二人そろって戦地を走っていたような気がしたんですが……そんなことはなかった。まさかのブレイク氏早期脱落。
しかも理由が、親切心が裏目どころか一回転して表目になったくらいのドイツ兵この野郎状態。
たしかによく考えると、戦場での振舞いとしてはあちらの兵士の方が正しいのでしょうが(祖国のために一人でも敵を減らす……というより、よくも撃ち落としやがったなこの野郎の精神か)、それにしたってあんなに深く刺されているとは思わず。
てっきり服の上からすぱっと切られたくらいで、多少血が出たけどノーカンだで~的に思っていたら、まさかの死亡。若いのに……。
家族の写真をポケットに入れているのが、また悲しい。
きっと戦場に行った兵士は、どちらの軍勢もほぼ全員が持ってたんだろうなあ……ということに気付くとこれまた切ない。

そして、突如現れる絞りたての牛乳。
一体誰が絞ったんだい、これ?
いささか唐突に見える牛乳の出現に正直とまどいました。家がめちゃくちゃに破壊され、納屋もボロボロ。牛は放し飼い。なのに、わりとフレッシュな絞ったばかりの牛乳がバケツに残されている。
最初は付近に地雷でも埋められているのかなと思ったんですが、そんなこともなく。
飲み尽くした水の替わりに、水筒に牛乳を詰めるスコフィールド上等兵。
まさか戦地で牛乳が手に入るなんてなあ……とその場は流していたら、橋を越えてたどり着いた町の中で、赤ん坊を抱えた女性と遭遇。
スコフィールドが好意で置いていこうとした食料を、「この子は食べられないわ。ミルクしか飲めないの」と断る女性。
……ミルク?
  
↓ 
持ってるじゃん!
という流れに、思わずRPGのキーアイテムを思い出した次第です。
なるほどねー。あの一見不自然にも感じたミルクは、ここで生きてくるのねー。赤ちゃんにはミルク必要だもんねー。ほーーん。

そして本作のもう一つの目玉ともいうべき、ベテラン俳優陣。
スタートのエリンモア将軍がコリン・ファース氏。そして農場で牛乳をゲットした後に、町の前まで車で乗せてくれたザ・中継地点ことスミス大尉がマーク・ストロング氏。
ということは、素直に考えて目的地がカンバーバッチ氏であることは明白……だったんですが、そこに至るまでの工程がハラハラしすぎて、いざ氏が出てきてみるとめっちゃびっくりしました。
なるほどー、よくできてる!
しかもまあ、最終目的地のカンバーバッチ氏ことマッケンジー大佐の憎たらしいこと、憎たらしいこと。氏の演技力も相まって、報われた気が百パーしない超絶嫌な奴と化していたのがなんか最高でした。

そしてなんといっても、ようやく前線に到着したスコフィールドが見せた、大佐にたどり着くまでのラストラン。
一貫して貫いたワンカットの手法は、すべてこのラストランを映すためにあったと言っても過言ではないほどの素晴らしさ。
敵軍目指して縦に飛び出して行く味方兵の間を、たった一人横に突っ走っていくスコフィールド上等兵。
何度も横から飛び出て来る兵士たちと衝突し、そのたびにコロッコロ、犬のように地面に転がってしまう上等兵。
けれど決して立ち止まらない。
奥から手前に移動しながら映し続けるカメラ目指して、まさにその瞬間のすべてをかけ、走り続ける上等兵の姿。
映画館じゃなかったら、「うぉーーっ」て叫んでた。

草原に立つ木に始まり、木に終わる。
一日。たった一日しか経っていない。
けれど、今はすべてが変わってしまった中で映されるスコフィールドの顔。それを眺めつつ迎えるエンドクレジットには、いまだそこに先ほどの草原が広がり続けているような、不思議ですっとした気持ちになりました。

間違いなく、見るべき映画だと思います。
面白かったです。

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人物紹介

●トム・ブレイク
地図に明るいという理由で、伝令に抜擢された兵士。まだ年若く、冗談も言う陽気な性格。
兄が明日攻撃予定の前線にいるため、指令を受けた後はスコフィールドの制止も聞かずに走り始める。
危険な塹壕の中を恐れず進むなど勇敢さを見せ、スコフィールドががれきに埋まった際にはあきらめずに彼を救い出し、無事に出口まで導くというファインプレーを見せる。
だが農場に墜落した戦闘機から敵兵を救い出した際、介抱してやろうとしたところを相手に刺され、そのままスコフィールドの腕の中で息を引き取った。
戦場に同情は禁物……なのかもしれないが、その道義心あってこその人柄であり、家族と母を思い遣った最期には、本当に惜しい青年を亡くしたと涙を禁じ得ない。
まさかこんなに早く死ぬとは思わなかったが、本人だってそう思っていただろう。

●ウィリアム・スコフィールド
ブレイクの友人。指令を受けに行く前、「誰か一人選んで来い」と言われたブレイクがとっさに彼を選んだ。曰く、「後方でおいしいものでも食べられる任務かと思った」とのこと。
まさか最前線に二人で走って行けと言われるとは、そりゃ夢にも思いませんよ。
とんでもない死地に巻き込まれた……と思ったら、相棒が早々に死んでしまった。そのため、残りの道のりを彼はたった一人で、文字通り命を懸けて突っ走らざるを得なくなる。
おそらくブレイクが非業の死を遂げなかったら、彼が大佐の元にたどり着けていたかは怪しい。あの陽気な相棒がいてこその、走り。ラストラン。
有刺鉄線で左手を傷つけたり、しかもその手を死体の――よりによってぽっかり空いた傷口に突っ込んでみたり、鼠のせいで爆風に巻き込まれてみたり、牛乳を見つけてみたり……と死亡フラグを積み上げていたように見えたのだが、ブレイク死亡によりフラグを全うするわけにはいかなくなってしまった。
町についた後、照明弾の不確かな明かりの中、向こうから近付いてくる人影を互いにぼーっと見つめていた……と思ったら、「あっ、お前敵じゃね?」「えっ、敵? やべっ」みたいなやり取りが始まったのには正直笑った……ようで背筋がうすら寒い。
サッカーの試合みたいに一目で敵味方が視認できるならともかく、実際の戦場ではこういうことがままあったのだろうなあ……と思うと、そのリアルさにぞっとしてしまう。
何より、相手を敵だと認識したあとの「さあ殺すぞ」感が狂気の沙汰で、戦争の異様さがにじみ出るシーンとなっている。

家族と何かあったのか、故郷に帰りたくない様子だったスコフィールド。だが戦場を文字通り駆け抜けた後は、ひそかに持っていた写真を眺め、何がしかの思いをはせているようである。
戦場にいる以上、明日の保証は何もない。
彼が無事に家族の元へ帰りついたことを祈ろう。

●エリンモア将軍
重要な指令を二人に下す将軍。出番は少ないが、伝令の重要性を主役二人にしっかりと刻み込ませる迫力がパない。
何故か眼帯をしているイメージだったのだが、そんなことはなかった。

●スミス大尉
ブレイクを亡くした後、農場にやってきた別の連隊の大尉。
スコフィールドをトラックに乗せてくれるが、町につながる橋が落ちていたために途中で別れることになった。
マッケンジー大佐は鼻持ちならない奴だという助言をくれたが、有事が過ぎる故に結局そんなことを気にしている暇はなかった。

●マッケンジー大佐
スミス大尉に「意地で戦う人もいる」と評される人物。前線の指揮官。
スコフィールドはとりあえず出会った将校ごとに「攻撃は中止」だと教えるのだが、そこは軍。やはり司令官たる大佐が中止を命じないと、止まるものも止まらないのだった。
最初は突如飛び込んできたスコフィールドの意見に聞く耳を持たなかったが、さすがに将軍からの命令は無視できなかった様子。
演じるカンバーバッチ氏の魅力がさく裂し、月のない晩に刺されそうな性格をしている。

●若い女性
スコフィールドがドイツ兵に追われて逃げ込んだ先にいた若い女性。自分の子でない赤ちゃんとともに隠れ住んでおり、スコフィールドが敵でないとわかると警戒心を解いた。
町は見るも無残に破壊されており、彼女たちの行く末がどうなるのかは定かではない。スコフィールドの残したミルクで、助けが来るまで命をつなぐことができれば幸いだが。

●牛
農場で放し飼いになっていた牛。ご主人はどこかに行ってしまったが、牛には草があれば十分といった感じ。
自分のお乳が、まさか十キロ近く離れた場所で赤子の命を救うとは夢にも思うまい。

●戦闘機に乘ってたドイツ兵
お前ぇぇ!

●森にいた連隊
めっちゃずぶ濡れでハアハア言ってる人がやってきたのに、歌に聴き入っているために誰も注意を払わず。
終わった後で、「あれ、これ誰?」と来るから笑ってしまうやん。

●カメラ
ずーーーっと主人公たちを追いかけ続けるカメラ。
たぶん今のところでつないだのかなーと思う箇所もあれど、どこでどう切り替わったのかわからん箇所もあり、しかもそこを通って主役たちを追うんだー的な動きをしたりと、物語とは別のドラマを生んでいて面白い。
とくに有刺鉄線や林を越え、まったく別の景色の中に飛び込んでいくシーンでは、主人公たちとまさに同じ視界の開け方が経験できて一体感がありました。スコフィールドが町から川に飛び込むシーンでは、「えっ、えっ、足元がない……あっ、川かぁ! ……滝だーーー!」とハラハラしっぱなし。
『スネークアイズ』なども長回しが多かったけれど、本作は徹底して一つながり。ゴイス。

●監督
サム・メンデス氏。『アメリカン・ビューティー』や『007 スカイフォール』など名作が多数。
本作も大変素晴らしかったです。ありがとうございます。

↓Amazon Videoで好評配信中! 君も伝令になってみないか……? ……みないか……。

↓サントラが出ております。ポスターが超かっけーのであります。

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