映画『ブリムストーン』ネタバレ感想。牧師=名物悪役を生んだ怪作。

ブリムストーン 映画 ドラマ

原題:BRIMSTONE
2016年の映画
おすすめ度:☆☆☆
※本作はR15+指定です。よい子は見ちゃだめだよ。

【一言説明】
お茶の間が凍り付く、変態牧師による理不尽物語。

Amazon Prime Videoにて配信のあった映画。
何の前知識もなく、でもダコタちゃんが出ているから見てみよー的なユルい感覚で見たら「Oh……」とならざるを得ませんでした……。
なんぞこれ。

主演は『アイ・アム・サム』などの名子役ダコタ・ファニングさんと『L.A.コンフィデンシャル』のガイ・ピアース氏。主人公の子役時代をエミリア・ジョーンズさんというめんこい女優さんが演じていらっしゃいます。

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あらすじ

アメリカは西部開拓時代。
とある町で年の離れた夫の後妻として暮らす女性・リズは、ある日教会に現れた新任の牧師を見て凍り付く。

その翌晩、リズは家を抜け出して牧師の元へと向かう。手には鋭い刃のついたナイフを持って。
果たして、不気味な牧師は何者なのか。
リズが彼に怯える理由とは――?

※以下、ネタバレ全開です。事実を知らないで見たほうが楽しめるので注意。

 

 

ブリムストーン 映画

本作は四部構成です。
「第1章 啓示 APOCALYPSE」→「第2章 脱出 EXODUS」→「第3章 起源 GENESIS」→「第4章 報復 RETRIBUTION」となっていますが、時系列的に並べると「3章」→「2章」→「1章」→「4章」の順。

まず1章。
年老いた夫と彼の連れ子である長男、実の娘である長女とともに暮らす助産婦のリズ。教会の礼拝に訪れたところ、新任の牧師がやってくる。彼の姿を見て顔をこわばらせるリズ。
その夜、教会で取り上げた死児の父親が銃を持って家にやって来る。あわやというところに牧師が現れ、事なきを得る一家。しかし牧師は去り際リズに「お前の罪を裁くために来た」と言い残し、二人は顔見知りらしいことがわかる。
そして次の晩、リズは牧師を殺しに彼の家まで行くも留守。慌てて家に戻ると夫が納屋で瀕死になっていた。泣く泣く彼を看取ったリズと子どもたちだったが、家に火がかけられ、三人は夫の父親の家を目指してその場を後にする。
それを見送る下手人・牧師。

一体二人の過去に何があったのか……? と思わせたところで、2章から3章へとどんどん時は遡り、彼らの因縁が明かされる構成となっています。
そして過去が判明したところで4章の時系列は1章の直後に戻り、リズと牧師の最終対決が始まります。

二時間半くらいある長い映画なんですが、淡々としているわりに退屈はしません。何でかっていうと、以下感想へ↓

感想

タイトル『BRIMSTONE』の『T』の部分が十字架で表現されていたため、これは信仰に関する映画なんだなと思っていたのですが……。

そんなものが全部吹き飛ぶくらいに牧師がやばかった。

いや……なんか……うん。なんと言っていいやら……ただの変態じゃないですか。なんかこう、牧師っぽいことを言っているようで、結局のところお前若い女性が大好きな変態じゃねーか、という。
ガイ・ピアース氏演じる牧師が明後日の方向に行き過ぎて、話の本筋が迷子になってしまうくらいインパクトがすごいのです。好演どころか怪演というか、演技力の使いどころがおかしいと思うのです。
いやー、もう。『ヴィレッジ』のエイドリアン・ブロディ氏じゃないですが、トラウマレベルのキャラクターもといクリーチャーを作り出してくれましたよ、本作は。ジェイソンやフレディに並ぶくらいの名クリーチャーではないでしょうか。
このおっさんの執念がどろりとねばりつくように底に溜まり、じわじわと主人公を絡めとる様が実に不穏。あまりに度を越したものを前にすると、不快感を抱くよりも前に思考が停止するというか、とにかく後半はツッコみを入れつつ鑑賞しておりました。

まず1章の時点では、牧師はリズの元夫なのかなと思ってたんです。何かの理由で彼の元を飛び出すも、離婚はしてないから重婚=罪扱いなんかいなーと。
それはあながち(牧師の中では)間違ってなかったんですが、1章最後あたりでなんとなく「もしかしてこいつ、父親なんでは……」と不吉な予感が。
その時点ではまだ牧師は妄信的な信者だが単に規律を重んじているだけで、罪人であるリズをまっとうに裁きにきただけ、という可能性もあった。

だが2章。
リズが本名はジョアナといい、少女の頃に何かから逃げ出し、売春宿に拾われて客をとっていたという事実が判明したあたりから嫌な予感が現実味を帯びてくる。
数年が経ち、すっかり今の生活にも慣れてきた頃、一晩宿を貸し切りにしたいという気前のいい客が現れる。誰じゃいと見に行ってみると、なんとあの牧師。余興と見せかけてヴェールで顔を隠し彼の前に立つも、あっさりばれる。でもってようやく見つけたとばかりに感極まる牧師。
あっ……これ父親だ。でもってあかんやつだ……と思ってからの3章。

アカーーーーン!

だめだこいつ……。
2章までは謎という名のアドバンテージがあり、まだミステリアスと言えた牧師が、一転してクリーチャー化したのがこの章。馬鹿というか、みみっちいというか、とにかく急に株を下げまくった印象です。

主人公ジョアナはオランダ系移民で、件の牧師は実父。信仰心に厚く、つつましい母親と三人で養豚しつつ暮らしていた。けれど夫は厳格と言えば聞こえはいいが、聖書を自分の都合のいいように解釈し、家のことはみんな妻に押し付け、何かにつけて精神的虐待を繰り返すクズ野郎。当然夜の生活も拒まれてしまい、もんもんとしている様子。

奥さんの部屋の前で「妻の肉体は夫の所有なのだから、その務めを果たせ」と言っているシーンがあるんですが、切実すぎて変な笑いが出てしまう。すました顔で正当性を主張しているが、にじみ出る必死さに哀愁が……なんて思ってたら、初潮が来た実の娘が美しいことに気が付いた途端、「娘の成長が早いのは天の意思だ」とのたまい目の色を変えるからさあ大変。
さすがにそれはアカンと思った妻=母親が夜の務めを果たそうとすると、娘にロックオンした夫はそれを拒む。

夫婦の営み=神聖な行為を拒否した妻は不信心者=天に選ばれた自分の相手にはふさわしくない。だからこそ天は娘の成長を早め、初潮を迎えた=女として我が前にお与えになった。つまりは彼女を娶れということ……

んなわけがあるか。

馬あぁぁぁぁ鹿!
お前、マジでぶぁーーーか!!

腹立たしいことこの上ないが、性質が悪いのは上記の主張を牧師が心から信じて口にしていること。そしてこのダメオヤジの都合のいい自己解釈はまだまだ続く。思いとどまるよう進言した妻に口枷をつけ、なんと教会の礼拝に出席させたのだ。
この苛烈なほどの虐待を受け、しかも実の娘に「そんな目に遭うなら死を選ぶ」とささやかれた妻は、その場で首を吊って自殺してしまう。さしもの牧師も己の行いを顧みるかと思えば、

よっしゃーーー! これで邪魔者がいなくなった!

と大喜びで早速ジョアナと婚姻を結ぼうとする始末。
……ダメだ……こいつ……。

一応、ジョアナが豚小屋に匿っていたアウトロー、キット・ハリントン氏が助けてくれようとするのですが、あっさり返り討ちにされてしまい、牧師の悲願は達成されてしまう。そしてたまらず逃げ出すジョアナ→2章の展開に。

性暴力に程度の差はないと思いますが、親からの虐待ほど反吐が出るものはないと個人的には思います。安全であるはずの家庭で、逃げよう道のない保護者から。胸が悪くなるの言葉では済まされない。
ジョアナもその母親もとっとと逃げればいいのにと感じるのは、この恵まれた現代だからでしょう。フィクションならともかく、現実の開拓時代では女性が男性の庇護なくして生きるのは無理に等しかったはず。だからこそ逃亡の道を選んだジョアナの傷の深さがうかがい知れるわけですが。

重い展開にも関わらず、それを受け止めつつ先に進めるのは、牧師の徹底したクズっぷりが逆に滑稽さを呼び込んでいるからだったかもしれません。
何せ2章の最後で首をナイフで掻っ捌かれているにも関わらず、1章で普通にジョアナの前に登場しますからね。普通死ぬやん。

信仰の話かと思ってそうでないように思える本作ですが、殺人を犯した人物には罰があるというのが一貫しています。
3章でアウトローが絶対的優位の位置からあっさり負けて殺されてしまったのは、彼が身の危険を感じたからとはいえ仲間を殺してしまったから。
牧師は度し難いクズですが、一応信仰の力に守られてはいる。2章、3章では少なくとも自分から殺人は犯していない。本物のリズを殺したのはナイフで左目を裂かれたからだから、正当防衛が成り立つといえば成り立つ。だから首を深く切られたように見えても生き残ったのでしょう。

けれど1章で、初めて彼は殺意を持って自分から人を殺します。ジョアナの夫と、その息子。そして夫の父親。
それまで天は自分の味方だと話していた牧師が、一転して「自分は天に見捨てられた存在だ」と語るのがその証拠ではないでしょうか。だからこそジョアナの投げた炎に身を焼かれ、今度こそ銃によって命を失った。

そしてジョアナも2章の最後で明確な殺意を持って牧師を襲っている。だから本物のリズの犯した売春宿の主人を殺した罪を被って処刑されることになってしまった。

最後のジョアナの微笑みについては、初めて自分の意思で運命を選択できたことに対する満足の笑みではないかと筆者は思っております。あるいは彼女の娘が願った通りのことを思い浮かべて逝ったのかもしれません。
すべては天のみぞ知る。

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人物紹介

●ジョアナ
主人公。町に一人はいる特別な女の子といった感じの美貌を持っていたために、若干13歳にして逃亡中のアウトローに加えて実の父親の関心すら引いてしまった。彼女が外道共の餌食となるのは何も昔に限ったことではなく、現代でも起こりうるのだという警鐘を鳴らしたいんだかなんなんだか、牧師のインパクトがパなすぎてよくわからん。最後は幸せになるのかと思いきや、どこまでもシビアな展開が続き、見ているこっちは顔が渋柿食べたときみたいになった。
肩すごい。

●牧師
本作の顔。どうかしちゃった親父……と言いたいが、多分こいつは生まれたときからどうかしてたんだと思う。
4章でジョアナではなく孫娘に矛先が向かうのは、経産婦=ほかの男に汚された娘は自分の相手にはふさわしくない……んじゃないくて、単に若い方が好きだからじゃねーかっていうとにかく救いようのないじいちゃん。
もう血は流れたかとか聞いてたが、流れてないだろどう見ても年齢的に。年を重ねるとその人の欠点が助長されるというが、最早歯止めをかけるそぶりすらみせないのがいっそすがすがしいくらいです。
2章で首を裂かれたのがよっぽど聞いたのか、1・4章ではまさにホラー映画の悪役張りに神出鬼没な大活躍をするが誰も望んでない。お前はジェイソンか。
問答無用で地獄に行くべし。

●アウトロー
『ゲーム・オブ・スローンズ』のキット・ハリントン氏演じるアウトロー。冒頭でおそらくは砂金をめぐって銃撃され、脚を怪我して仲間とともにジョアナの豚小屋に逃げ込んだ。
13歳のジョアナに請われても手を出さない良識があるが、もう少しジョアナの歳が上ならきっと彼女を連れて逃げてくれただろう。
ポスターによってはでかでかと顔が載っているが、牧師にあっさり返り討ちにされてしまい、女性客を呼び込むための餌だったのかと残念。まああそこで牧師を倒していたら話が進まないから仕方がない。

●ジョアナ母
不憫。だが彼女が自殺したことによって夫のたがが外れてしまったので、ある意味虐待に手を貸したとも言える。牧師だからカトリックではないだろうが、自殺はやはり厳禁なのではないか。
これがアクション映画なら、銃を取って反撃、夫を血祭りにあげただろうになあ……。

●ジョアナ娘
お母さんが肩を一回転させてくれたおかげで、鞭で打たれただけで済んだ。よかった……とはとても言えない傷が残りまくったが、最後は無事に成長して子宝に恵まれ、幸せに暮らしている様子。
おかんが沈んだ湖のそばにある祖父が燃やされた家で暮らせる当たり、本物の女傑は彼女ではなかっただろうか。長生きしんしゃい。

●ジョアナ夫
とんでもないむごい死に方をする不憫な人。まさか牧師があんなだとは誰だって思いませんよ。
「何故だ」という問いに「彼女が愛する者だからだ」という答えが返ってきたが、その一言に込められた昼ドラ風の念は推し量ることすら恐ろしい。

●ジョアナ息子
亡き母を思ってか、後妻のジョアナに反発していた息子。
……だがこのどろどろ具合からして、若いジョアナになんつーか別の意味で関心があって反発してたり……と思わないでもない。多分父親を手にかけた=一人前の男と見なされ、1章では見逃したけれど4章で牧師に狙われてしまったのではないだろうか。
それにしたってこの子を死なせなくてもよかったんじゃないかなああああ!!!

●羊しゃん
別人のせいにされていたけど、下手人は牧師。
動物愛護団体から抗議がきそうだが、大丈夫。どう見てもぬいぐるみです。
洋画にありがちな、生きてる間は本物なのに死んだ途端にどう見ても作り物になるというマジックがここでも発生。その配慮が有難いざーます。

●豚しゃん
止めは!!! 刺そう!!!!

●リズ
売春宿でジョアナが出会った友人。キスは許さんという信条の元に、客に手を出して報復に舌を失う。
本来は彼女が嫁ぐはずだったが、牧師によって殺されてしまったため、ジョアナが成りすまして逃亡した。だがその代償は舌を切り落とすこと。医者に頼んだら「怖いからやだよ」と言われたので自分でやった。文字にして書くとアレだけど実際はぬぎゃーーー

●フランク
売春宿の主人。ドクズ。
リズが宿を抜け出す置き土産として刺殺された。そのことを知らないままリズに成りすましたジョアナは、4章で代わりに報いを受けることになった。
一言言っておいてくれたらよかったのに……。

●村人
1章でジョアナに赤子を殺されたといって激怒した男。その後村を出て別の町で保安官の職に就く。「牧師がよくしてくれた」と言っていたが、あの牧師とは別の牧師だと思う。その彼が保安官事務所でリズの手配書を見つけ、最後にジョアナを逮捕しに来るのですべては天の思し召しということを示唆しているようだが、そんなん知ったことかと言いたくなる。

●監督
マルティン・コールホーヴェンさんというオランダの方だそうです。なんのかんのと面白く見ることができました。ありがとうございます。

最後に一言。

孫を相手にって、正気か、お前。

↓Amazon Videoにて配信中。そのまま振り返って刺しちまえばいいのにと思うポスター。

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