映画『バニシング』ネタバレ感想。消えた孤島の灯台守。百年前の謎解明に挑むサスペンス。

バニシング 映画 2018 サスペンス

原題:Keepers
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆

【一言説明】
何が灯台守に起こったか?

バニシング 映画 2018

孤島の灯台にて、何かが消える……!
と聞いていた映画『バニシング』。
孤島。灯台守。サスペンス……と聞けば、ミステリ好きの血が騒ぐというもの。
TSUTAYAで見つけ、うはうはと小躍りしながら借りて参りました。

主演は美声マッチョメンのジェラルド・バトラー氏。共演に、『猟人日記』のピーター・マラン氏と、Netflixドラマ『セックス・エデュケーション』で活躍中のコナー・スウィンデル氏が出演されています。

余談ですが、ジム・ジャームッシュ監督作品ほか、気になる映画を借りようとTSUTAYAに行きましたら、これがまあ面白いように『取り扱いなし』のオンパレード。おまけに『取り寄せ不可』ときたもんです。
これだから……田舎はよぅ……!
口惜しいことこの上ないですが、いざゾンビハザードが起こったら、田舎すぎてゾンビのゾの字も出ねえ、という利点があるからまあいいかな……と自分を納得させようと思います。

[adchord]
スポンサーリンク

あらすじ

孤島の灯台守。
口にするだけでうら寂しい。けれど責任は重大なお仕事。
外界とは隔絶され、見えるものといえば海ばかり。
あーあ、俺らこんな島嫌だー、と歌うわけにもいかず、今日も光を絶やさず、仕事に励む三人の男たち。

そんな彼らの元に、ある日、一艘の船が流れ着いた。
嵐で座礁したかに見える木彫りのボート。
そこに乘っていたのは、果たして……?

※以下ネタバレです。未見の方注意。

 

 

 

感想

静か……。
思いのほか、静か……。

孤島の灯台守サスペンスと聞いて、想像するドラマの百分の一くらい静かーーーに事の進む本作。夜中に見たせいもあり、序盤は若干の眠気を誘ったりもしたのですが、中盤当たりから緊迫感が増し増しに。

 

1.灯台守の老人・中年・若者の三人トリオの元に、座礁したボートが流れ着く。中に乘っていたのは、一人の男と一つの木箱。
若者代表のドナルドが助けに降りていくと、死んでいるかに見えた男が突如襲いかかってくる。正当防衛ながら、相手を殺してしまうドナルド。

2.なんだよあいつ……と持ち帰った木箱を開けてみれば、中に入っていたのは、なんと金塊。
なるほど、襲ってくるのも納得だ!
  ↓
この金塊どうする?
  ↓
もちろん俺らで山分けさ!

3.金塊ヒャッハー! な雰囲気に浸りそうになるドナルドとジェームズを、最年長のトマスが諫める。
男が金塊を持ってボートに乗っていたということは、誰かがこれを探しているということだ。
だから、島に帰っても一年は生活を変えるな。誰にも金塊のことは話すな。
その間に、信頼できる仲介者を探し、金塊を金に換えよう。
諫めるわりに、やたらと具体的なガメ案を出してくるトマス。
結果、男の遺体は海に沈めることが決定。

4.えっほえっほと遺体を運搬する三人。
ところが、なんとまさかのこのタイミングで、金塊を追って来た奴らが登場。
せめて遺体を沈めてからにしてくれよ。
  ↓
ボロが出そうな年下二人を灯台へ追いやり、一人で上陸してきた男二人組を迎え撃つトマス。

男たち「なんかぁ、この辺にぃ、木箱積んだボートが来なかったですかねえ」
トマス「来たけどぉー、乘ってた人死んでたよぉー」
男たち「うそぉー」
トマス「ほんとぉー」

白々しい芝居を打つ両者。
木箱は遺体と共に、本土へ向かう船に乗せたとすっとぼけるトマス。
半信半疑状態だった追っ手たちだったが、その後心配してやって来たドナルドとジェームズが援護と称して下手をこいたため、疑惑確定。
何しに来たんだね、君たちは。

5.一度は引き下がったものの、闇に乗じて島に再上陸した追っ手二人。
なんやかやの死闘の末、彼らを殺してしまったジェームズとドナルド。
ほっと一息ついたのもつかの間、誰かが窓の外から見ている。
  ↓
やつらの仲間だな!?
アドレナリン全開のジェームズが、勢い余って相手を殺してしまう。
  ↓
なんと、灯台守の交代要員の一人・チャーリーだった。
なんでこんなところにいるのか謎ながら、罪なき人間を殺したことで、ジェームズの精神の均衡が崩れてしまう。

6.ジェームズおじさんが大暴走。
アカン感じにうっほうっほとそこいらをうろつき始める。
  ↓
ドナルド「このままじゃ、彼のせいで僕らの罪が露見するぞ」
なんとかしたいが、何せ相手は腐ってもジェラルド・バトラー氏なため、ひょろ男のドナルドと老人のトマスでは分が悪い。
  ↓
ドナルド「あいつを置いて逃げよう!」
ジェームズ「何か言ったか?」
ドナルド「ヒェー、聞かれてた!」

7.錯乱し、ドナルドを殺したジェームズ。続いてトマスも手にかけようとするが、そこは年の功で、逆に相手を気絶させる。
  ↓
翌朝、正気に返ったジェームズとともに、船に乘ってドナルドの遺体を海に捨てるトマス。このまま、金塊を持って行方をくらませよう……。
だが、罪の意識に苛まれるジェームズは、自ら海に入り死を望む。
自殺を手伝うトマス。
  ↓
ただ一人、船上に残される老人。
果たしてこの船は、どこに進んでいくのか……。

 

というわけで、何が『バニシング』するのかといったら、三人の灯台守が消えるという話だった本作。
誠に遺憾ながら、初見時に冒頭のテロップを見逃したせいで、筆者は終盤に来るまで何がバニシング対象なのかさっぱりわかりませんでした。

『バニシング』 → あれかな。ミステリだし、狭い島の中で三人のうちの一人が忽然と消えて、その謎を解いていく感じかな。 → なるほど。金塊が消えて、三人が疑心暗鬼になるというやつか? → 追っ手が死んだ……そうか、人としての良心がバニシングっていうオチだな! → 灯台守が消える話だった。
見返すと、冒頭で『スコットランドの孤島から、三人の灯台守が姿を消した。これは、事実に基づく物語である』とフツーに書いてありました。
もっと早く言って。
というか、原題は『Keepers』=灯台守なんだから、わざわざ『消失』とかにせんでもよかったんではあるまいか。

先に『静かだった』と書きましたが、孤島という外界から隔絶された空間で浮き彫りになる彼らの孤独を描き出すには、やはりこの静けさが抜群にマッチしていたと思うので、これはこれで面白かったです。
水平思考推理のゲームで、『男が逃げたら大勢の人が死んだ』という問題があり、その答えが『男は灯台守だった』=孤独に耐えられず職務放棄した、という内容でした。当時はんなアホなと思いましたが、本作を見ると、逃げ出したくなるのもわかるような気がいたします。
スマホもNetflixもなしに、6週間はキツいわー。

派手な演出はないものの、孤島の灯台という特殊な舞台を存分に生かし、百年前の事件に解答をつけようという試みがナイス。実際は何があったのか解明されていないとはいえ、いかにもありそうな展開が想像力を刺激いたします。
 基になった事件 → 『フラナン諸島の謎』(Wikipediaに飛びます)

[adchord]

人物紹介

●ジェームズ
中年代表。三人の灯台守のうちの一人。
妻子持ちで、かわゆい娘と息子が一人ずつ、本土でおとんの帰りを待っている。
だが生活は豊かではないらしく、突如降って湧いた金塊を前に、「これで大金持ちだぜ!」と満面の笑顔を見せる=いつものバトラー氏らしさが鳴りをひそめる
普段の正義漢マッチョぶりはどこへやら。本作のバトラー氏は、ぽちゃっとした髭ぼーぼーの、どこにでもいそうな中年男性。加えて善悪の観念もゆるゆるで、金塊を前にしたときのテンションだだ上がりぶりは、お前ほんとうにバトラー氏かよとツッコみたいレベル。
なのに、体力・腕力はいつものバトラー氏なので、錯乱した際の脅威っぷりがマジで怖い。
トマスとドナルドでは止められーヌ。
「はいやっ、はいやっ!」とかわゆいわんこを無意味に威嚇してみたり、礼拝堂に引きこもってみたり、ぼへぇーーーっと霧笛を鳴らしてみたりと、超迷惑。

俺たちは薄汚い罪人だ → 罪人は殺さなきゃ。という理論に基づいたのか、ドナルド → トマスの順で手にかけようと迫りくるジェームズ。
怖い。
幸い、トマスに鍋でぶん殴られて我に返ったが、時すでに遅しで、ドナルドに手をかけた後だった。
これはバニシングしてもしゃーねーわー、と納得。
元はといえば、家族のため。けれど欲をかいたのが運の尽き。破滅への道を転げ落ち、最期は自ら海の底へと沈んでいった。
決して悪人だったわけではない。けれど、欲に打ち勝てるほど善人でもなかった。
多分、追っ手がやって来ず、あのまま無事に金塊を持って帰れたとしても、いずれ必ずボロを出しただろうなという印象。せめて彼のしたことが、永久に露見しないままなのが家族にとっては幸いなのかもしれない。

●トマス
三人の灯台守の中では最年長。勤続25年を誇る。そのため一番思慮深く、若年二人が浮ついたときには空気を引き締める役目を負う。
木箱の中身をいち早く一人で確認。金塊が中に入っているのを見て驚愕し、見なかったことにしよう……と蓋を閉めたが、翌日にはお馬鹿二人がヒャッハーしていた。 

かつては結婚していたが、双子を死産した妻が許せず、彼女が病気で危篤になった際にわざと医者を呼ばずに死なせてしまった過去がある。
上記の事情に加え、すでに老齢ということもあり、金塊の魅力には惑わされなかったトマス。けれど、まだまだ未来のあるジェームズとドナルドが馬鹿をやるのを見過ごすことはできず、おそらくは欲のためではなく、彼らのために計画に乘ることになった。
その結果、二人は死に、トマスだけが生き残ったというのは、なんとも皮肉な話。
その後の行く末は想像するしかないのだが、『事実に基づく物語』である以上、トマスは金塊を持って行方をくらましたと考えるべきだろう。
もしも二人の後を追って身投げをすれば、空っぽの船が残されたはずだし、金塊についても世の人々に知られる結果となっていたはず。
金塊は海に捨てたか、もしくは渡った先の見知らぬ土地で、誰にも見つからない場所に隠したか、償いのために慈善活動に利用したか、とにかく自分のために使わなかったことだけは間違いないと思われます。

トマスがバイオリン、ジェームズが鋼鉄のバリトンで、わいわいやっていた夜は遠い昔なのが悲しい。
和やかな食事時に、海賊の拷問話を持ちだしたりしてたけど。
海賊の頭に紐を巻き付け、それを☆☆☆☆すると、☆☆☆☆☆するそうな。まさか後に実践されるとは思わなかったぜ! でも、幸い☆☆☆☆☆しなかったから、セーフだぜ!

●ドナルド
若手かつ新人の灯台守。父親がいないため、不遇を受けて来たことが示唆される。ふざけたり、目上をからかったりと若さ相応のふるまいを見せるが、基本は善人。
彼が崖の下で難破していたボートを見つけたことから、悲劇の幕が開いた。

ロープで崖の下に降りていく → 男に襲われる → 「助けて、二人とも!」 → 「今行くぞ、ドナルド!」 → ちっとも今じゃねえ。このままでは死ぬ! → 石で殴って男を殺害、という流れ。
崖下で今まさに襲われている同僚を前に、崖上でもたつくおじちゃんたちの頼りにならなさがマジでひどい。
ジェラルド・バトラー氏なんだから、崖ぐらい駆け下りて来いよ! とは言えないのが辛いわー。

その後は、人を殺してしまったことに怯えるも、金塊を見て帳消しに。
精神的ダメージをもろに食らったジェームズとは違い、二人目を殺してもわりと平気そうなのは、やはり若さゆえか。
自らの不遇もあって、これなら周囲の奴らを見返してやれると、金塊に一番夢を抱いてしまったと思われる。

その後は不安定になったジェームズを危惧。彼を置いて逃げようとトマスに訴えるが、運悪くやって来たジェームズに会話を聞かれてしまう。
ジェームズからすれば、彼がボートの男を殺したからこそ、起こった悲劇。同じ殺人犯なのに、なんでお前はけろっとしているのだと憎々しさも増した様子。
トマスを倉庫に閉じ込めた後、ゆらりと近づいてくるジェームズを前に、「えっ、何? 何する気?」としか言えないドナルドがかわいそうでした。
蛇ににらまれた蛙ならぬ、ジェラルド・バトラーに睨まれたヒョロ男ですからね。しかも精神の均衡を崩したね。
無理だわー。

●追っ手二人組
ボートの男と金塊を追って、島に上陸してきた男二人組。
いかにもな荒くれぶり。
すっとぼけるトマスの言をまったく信用しておらず、別の言語で「この盗人が」とやり取りを交わす不穏さをかもす。
一度は船に戻って引き下がるかに見えたが、すぐにまた戻ってきて、海上からこちらに向かって銃をぶっ放してくるという宣戦布告をする。

その後、闇にまみれて上陸。
個別に三人を襲うも、一人は腐ってもバトラー氏ことジェームズが、もう一人は海賊の拷問を実践したドナルドの手によって殺害された。
一見、体格差があるように見えてもですね。3万人を300人で蹴散らそうとした人ですからね。勝てるわけがないんだわー。

彼らの正体については、一切が不明。
外国語を話すのを見るに、どこぞから金品を奪って逃走中とかの犯罪者集団だったのであろうか。追ってきた船の、さらに母船があったのかもしれーヌ。

●ボートの男
「死んでる?」 → 「死んでる」 → 「死んでるのかあー」 → どっこい生きてた。
死んだふりをして様子を窺っていたのか、ドナルドが降りて来たタイミングで意識を取り戻したのかは不明だが、あまりにも突然に暴力に訴えてくるため、ロクな人物ではない様子。
「難破しちゃって」とでも言ってごまかせば、追っ手が来る前に木箱を持って逃げ出せたのではないだろうか。まったく荒くれものというやつは。

●チャーリー
ジェームズが誤って殺してしまった罪なき若者。
正直、初見時は彼が誰だったのかさっぱりわからず。
一瞬、本土に残してきたジェームズの息子かと勘違いし、そりゃジェームズ死ぬわーとひやひやしていたが、そうではなかったようで。
  ↓
見返してみると、ジェームズたちが灯台の島についた際に、入れ替わりで島を後にした、交代の灯台守の一人だった。
その際、一瞬だが、チャーリーの顔がアップで映ったため、何かの意図があるのかなと思ったら、こういうわけだったんですね。
とばっちりで命を奪われ、気の毒としか言いようがないが、何故一人あの島にいたのかほんと不思議。
どうやって、何のために島に戻ってきたんですかね。不必要なことはまったく語られない、だがそれが本作の魅力でもあります。

●ジェド
島で三人を出迎えるかわゆいわんこ。誰か特定の人物の犬ではなく、島で飼われているわんこのようです。
正直、この子が登場したときは心底ざわついた → 追っ手二人が上陸した際、犬の吠え声が響き渡る → ジェドに手をかけたら許さんぞ! と憤るも無事でした。なんだと……あの追っ手二人、案外紳士なのかもしれん。

その後は、錯乱したジェームズおじさんに意味もなく追い立てられ、灯台守がバニシングしたため、一匹で島に取り残される羽目に。
史実だと無人になって十日くらいで人が来たというし、多分トマスが餌と水をたくさん用意していってくれたとは思うのですが。
何故わんこ出したし。

●ジェームズの家族
一家の大黒柱が突然の失踪という悲劇に見舞われる三人。
あまり裕福そうには見えなかったので、その後の生活が心配になりますが、母は強しだから大丈夫でしょう。

●監督
クリストファー・ナイホルム氏。デンマークのお方。本家『The Killing』の製作も務めていらっしゃるそうです。面白い作品をありがとうございます。

↓世紀の『消失』はAmazon Videoで好評配信中。わんこは事なきを得るから安心したって!

タイトルとURLをコピーしました