映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』ネタバレ感想。珠玉の名言が詰まった青春映画を痛みとともに。

映画 エイス・グレード ドラマ

原題:Eighth Grade
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆

【一言説明】
バナナは美味いと思います。

エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ

ポスターを見て鑑賞を決めていた本作。
例によって事前情報を調べず、なんか11歳か12歳くらいの女の子がおしゃまに活躍する映画なんじゃろ……と思って見に行ったら、そんなことはなかったぜ。
ミドルスクールの八年生(エイス・グレード)として中学卒業を間近に控えた、13歳の少女の葛藤を描くリアル系の青春ドラマだったことが判明。
おおう……と身構えたものの、これがかなりの良作でございました。

主演はティーンエイジャーど真ん中のエルシー・フィッシャーさん。そして監督さんはなんと元ユーチューバーの方だそうで、若い二人が作った『今』を切り取った空気が、苦みや痛みとともに心に迫る内容となっていました。

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あらすじ

エイス・グレード――ミドル・スクールの最終学年もあと一週間で終わりとなった日。『最も無口だったで賞』を受賞したケイラは、理想と現実のギャップに悩む日々を送っていた。

本当の自分はもっと面白い子。
他人に何を言われてもいい。
ありのままが一番大事……。

けれど配信した動画の再生数はまったく伸びず、友達もできないまま卒業式の日が近づいてくる。

このままでいいの?

意を決したケイラは、学年の人気者ケネディのプール・パーティに参加するのだが……。

※以下ネタバレです。未見の方注意。

 

 

感想

素直に『面白かった』という感想を抱くタイプの映画ではありませんでした。
ドキュメンタリー寄りの作風で、13歳の少女が過ごす八年生最後の一週間に密着して撮った映像という感じ。しかも主人公のケイラがまったくイケてないタイプのため、リア充しかいないパーティに参加したり、年上のお姉さんグループとモールで会ってみたりの行動に始終ハラハラしっぱなし。
当の昔にケイラ世代を卒業した身としては父親の立ち位置に近い感じで見ていたんですが、ああそうだよなー。13歳ってこんな感じだよなーとしみじみ。
もちろん当時はスマホもなく、SNSもなく、日本とアメリカという違いもあるわけですが、描かれているのは普遍的な思春期という『今』。
それまで家族を筆頭とした優しい世界に守られていた子どもたちが、社会という広い世界の入り口に立ち、自分という存在に向き合い始める頃。自分がイケてるのか、イケてないのか、スクールカーストの格差が心にびしばし突き刺さって来る時期。
昔と違うのは、ツイッターやインスタなどのSNSが生まれたときから身近にあること。主人公のケイラも学校ではおとなしい子だが、家に帰れば自身の専用チャンネルにて動画を配信するという、ある意味活発な行動を取っている。

いつもの自分とは違う、本当の自分。

学校で上手く立ち回ることのできないケイラにとって、動画配信は格好の自己表現の場。
彼女は誰かが見てくれることを期待してカメラに語る。

 本当の私はもっと面白い子なの。だから話しかけてくれたら、きっとそれが本当だってわかる。

 チャレンジすることって大事ね。新しい一歩を踏み出さなきゃ、何も変わらない。

 自分に自信を持つのが一番大切。自信があれば、なんだってできる。

見知らぬ誰かにそう話すケイラは、自身も有言実行しようとする。
リア充うごめくプールパーティに参加し、案の定塩対応されるも勇気を出してカラオケを披露してみたり、高校の体験入学で出会った気さくな先輩に呼ばれて彼女の友人たちとモールで交流してみたり。
けれど結局、ケイラを取り巻く世界は何も変わらない。動画の視聴数は伸びないし、自分に自信も持てず、友達もできないまま。
SNSが普及して誰とでも繋がれる世界になったけれど、それは決して魔法のツールというわけじゃない。現実で冴えない子が、突然ネットで人気者になれるわけでもない。
上手く行かない現実に――自分自身に失望し、ケイラはその夜父とともに過去の自分が作ったタイムカプセルの箱を燃やす。

マーク「何を燃やしているんだ?」
ケイラ「私の夢と希望よ」
マーク「……それを燃やしてしまっていいのかい?」

父の問いにうなずくケイラ。
彼女は言う。
こんな娘でごめんなさい。父さんは私に失望したでしょう、と。

そして繰り出される珠玉の名言。
それまで強い言葉は言わずにケイラを見守り続けていたマークが、戸惑いながらも話す言葉がまさに宝石。

お前に失望したことなんかない。
お前がいるから、勇気が持てる。
お前を見て父さんが悲しむとしたら、お前が置かれた状況が悲しいのであって、決してお前自身に対してじゃない。

まさにそれ。
ぼっちだとか、リア充じゃないとか、そんなことはどうでもいいんです。
ただその状況に置かれた子どもが辛い思いをしているんじゃないかと、それだけが心配なんです。

いい映画だなあと思いました。親の気持ちも詰まっているし、子供の気持ちも詰まっているし、親子で会話できる内容が素晴らしい。

そして父マークの心のこもった言葉を受けて、ケイラは気づく。
自分が語り掛けていたのは、カメラの向こうにいる誰かじゃない。
自分自身になのだと。
他でもない自分に向かって、エールを贈り続けてきたのだと。

結局のところ、自分の価値を決めるのは自分自身に他ならない。
ドラマ『SEX AND THE CITY』にて、エイデンのプロポーズを断ったキャリーが自身の悪評を耳にした際、「自分が何を気にしていたのかといえば、悪い評判が立つことではなく、それを聞いた自分自身がどう思うかということだった」と独白している。
怖いのは、他人が自分をどう語るかではない。自分が自分をどう語るかだ。

何かが決定的に変わったわけではない。結局ケネディにもエイデンにも認められることのないまま、中学生活は終わりを迎えた。
けれどケイラの心には光が灯っている。
高校生活に不安はある。
親友はできるか? 彼氏はできるか? 楽しくやっていけるのか?
どうなるにせよ、それが自分だ。だから大丈夫。『今』を生きて、『未来』に進もう。

見ていて楽しい映画ではない。
痛くて苦くて悲しみも含む。
誰だって間の悪い思いをしたことはあるだろうし、ケイラのふとした苦境にそれを思い出して身をよじることもあるかもしれない。
けれどこの映画に満ちているのは紛れもなく幸福であり、強さであり、目の前に伸びる確かな未来への希望なのだ。

もう「グッチー!」て言う年でもないけど、見終わった後はきっと言いたくなる。
グッチー!

未見の方はぜひ!

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人物紹介

●ケイラ
主人公。思春期真っ盛りの13歳。
冒頭の動画は微妙に画像が荒くなんでじゃいと思っていたら、少ない画素数では見えなかった顔中のニキビが通常のカメラに戻るとはっきり見えるという演出になっておりました。
演じる役者さんはめんこいのだが、ニキビや絶妙なダサさを誇る服などでスクールカースト底辺にいる冴えない女子を見事に演出しています。プールパーティではぽっちゃり体型にワンピースの水着を合わせてくるけど、そこはあえてセパレートにしたほうがよかったのではないだろうか。そのほうがきっとかわいいぞ。

バナナ嫌い。
件の果物にてごにょごにょの練習をしようとしていたところに父親が入ってきたため、仕方なく「バナナ好きになったの」と口に含むも、結局飲み込めなくて吐き出すくらい嫌い。挙句に「嫌いよ、満足!?」と叫んで父ちゃんにバナナを投げつけてくるので、とんでもなく理不尽。そういえば前回はスマホをぶん投げていたし、とりあえず”父ちゃん来たら投げとけ”が合言葉。

そんなケイラにも友人ができる。プールパーティで出会ったケネディの従兄ゲイブだ。
互いに友達慣れしていない二人の会合の様子はどこかシュールなのだが、帰り道の車内にて「楽しかったか?」という父の問いに返すケイラの笑みがすべてを語っているのでこちらも幸せになった。

●マーク
ケイラのおとん。作中屈指の名言を吐く。
食事中にスマホを手放さない娘に突如「お前はイケてる」と言いだしたり、娘のバナナ嫌いを忘れてバナナを買い続けた挙句スマホに「ケイラはバナナ嫌いダヨ」とメモする羽目になったり、「高校生の友達と夜遊びしてくる」という娘を送る車内でこの世の終わりみたいな顔をしたり、結局心配だから帰らずにこそこそ様子を窺った挙句に「キモい男がいる」呼ばわりされて娘にめっちゃ怒られたりと思春期の敵は親を地で行く男。

だがめちゃくちゃ良い父親でもある。
動画配信してる娘のガッツを認めてくれるし、「夢と希望を燃やすの」と言われヒエッとなるが、なんとか体勢を立て直して名言を吐くし、ぶっちゃけ最高の父ちゃん。

が。
なんでお前は寝る前にケイラを訪ねる際、毎回裸なん?
一応トランクスは履いているが、あれか? 寝るときはマっ裸主義か?
ケイラの部屋のドアを閉めたら、ポーンってトランクス脱ぐんか???
そこだけが解せぬ……。

●ケネディ
母親に強要されケイラをプールパーティに招待したクラスの女子。
短いSNSの文言ですら、「私嫌々お誘いをかけてます」感を満載にしてくる逆できる系女子。
その後、「パーティに招待してくれてありがとう」のお手紙をケイラから直接渡されるも、スマホから目を上げずにガン無視&多分読まずに捨てたという鬼畜外道。
まあね、おうちが超立派だしね。本人イケてるしね。そりゃあお高くとまりもしますよ。
卒業式のシーンにて、意を決したケイラに「手紙の返事もくれないし、私ばっかり感じいい!」と面罵されるも、本人は一ミリも響いてないのがらしい。
だがケイラグッジョブ。ようやく言いたいことが言えたね!

●エイデン
ケイラの意中の男子。
顔はいいし、スポーツも得意。パーティに馴染めず、一人別室にいるケイラにも普通に話しかけてくれるイケメンさを見せるが、年頃の男子らしく頭の中はそっち方面にしか興味がない。
防災訓練にて、突如越境して話しかけてきたケイラにスマホから目を離さず生返事をしていたが、「エッチな画像フォルダを流出させちゃった☆」と言った途端に秒でこっち向くというある意味すがすがしい態度を取るので笑ってしまった。
経験を積んで、名実共にイケメンになる日がきっと来るはず。

●ゲイブ
ケネディの従兄。プールパーティにてリア充に混じり一人潜水の練習をしているという我が道を行く男子。
ケイラと波長が合ったのか、終盤で仲良く友達の会を開く。
序盤はポテトをチンしてなかったり、四種類のポテトソースについて語り合ったりとぎこちなさが見られたが、暗くなるまで遊んだのを見るに中々充実した会合だった様子。
高校→大学に進むにつれて、世界がどんどん開けていくタイプの男子と見ましたね。

●オリヴィア
高校体験入学でケイラとペアになった女子高生。大変気さくで親切。それまで塩対応しかされなかったケイラに初めて親切にしてくれたこともあり、すっかり仲良くなる(ケネディのお母さんもかなり親切だったのだが、親世代のためケイラには刺さらず)。

仲間内の会合にケイラを呼んでくれるが、その帰り道にライリーという男子と二人きりにして帰してしまうというミスを犯す。友人を信じての行動が裏目となった模様。大人びているとはいえまだ高校生だし、そこまでの配慮はできなかったんでしょうねえ。

●ライリー
中学生のケイラに付け込もうとするポンチキ男子。イケると思ったのかもしらんが、それはアカンだろ。

一応拒否された後もそのまま放り出したりせず、きちんと家まで送り届ける良識は持っていた模様。
まあね、なんかね、モテないんだろうなという感じはしたけどね。
「オリヴィアには内緒にして」の言葉に一番ほっとしたのは彼ではなかろうか。
反省しろ、反省。

●スマホ
例によって絶妙なタイミングで入ってきた父親のせいでぶん投げられ、バッキバキに割れた画面。そのまま操作すると手を怪我する可能性があることに本作を見て初めて思い当たったので、お金がなくともとりあえず修理に出した方が良さげ。

●監督
ボー・バーナム氏。16歳でYoutubeにて活躍していた方だそうです。
素晴らしい作品をありがとうございます。次回作も楽しみにしております。

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