映画『フォードvsフェラーリ』ネタバレ感想。選手vsスポンサーも盛り込んだ、大迫力のスポーツドラマ。

原題:Ford v Ferrari
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆

【一言説明】
フォードvsフェラーリ & 選手vs企業。

フォードvsフェラーリ 映画

毎年恒例。新年最初に劇場で見る映画によって、その年の映画運を占っております。2020年は『フォードvsフェラーリ』で運試し。
これが大吉と出ましたね!
今年もたくさんの良い映画と出会えそうな予感がいたします。

主演は名優マット・デイモン氏とクリスチャン・ベール氏。レナー兄さんと合わせて、『兄貴』と呼びたい男前お二人。
共演にTVドラマ『アウトランダー』のカトリーナ・バルフさん、『ウォルター少年と、夏の休日』のジョシュ・ルーカス氏です。

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あらすじ

アメリカの大手自動車メーカー、フォード社がレースに参戦を表明。
イタリアの名門フェラーリ社からレースカーのノウハウを学ぼうと、買収を持ちかけた。

上手く行くかに見えた取引。だが、土壇場で手のひらを返す創業者エンツォ
「お前なんぞにフェラーリはやれん!」
怒髪天を衝く勢いのフォード2世
「そうかよ、じゃあ戦争だ!」

かくして、世紀の決戦の火ぶたが切られた。
勝つのはフォードか、フェラーリか?
案外、無名のメーカーが勝利をかっさらうのか?
勝負の行方やいかに?

※以下ネタバレです。未見の方注意。

 

 

感想

めちゃくちゃ面白かったです。
ドラマ部分もさることながら、やはり肝となるレースシーンが素晴らしかったです。
1960年代が舞台とあって、今ほど最先端の車種でもなく、時速もそこまで速くはないじゃろうと高を括っておりました。
けれど、そこは魅せ方。カーチェイスのシーンも、実際は案外低速度で撮っていると聞くし……。というか、みんな似た速度=拮抗する実力同士による競争なら、面白くならんはずがないのです。
ヒャーン、ヒューン、シャーーンッて感じでね!
語彙が少なくてゴメンナサイ。要するに、カーレースの知識が浅くても、手に汗握ったということです。

舞台は、フランスで現在も行われている『ル・マン24時間レース』。
冒頭にて、デイモン氏演じるキャロル・シェルビーが、このレースに優勝したけど心臓を悪化させた……という描写があり、そりゃー24時間ぶっ続けで走ったらそういうことにもなるだろう……とおののいていたんですが、実際には一人がずっと24時間走り続けるわけではないんですね。
だよね。死ぬよね。
さすがに24時間運転しっぱなしとか無理ですわ。どんなアイアンマンレースだよと思いましたわー。
劇中でも、ドライバーは複数人で交代しながら走っていたので、24時間耐久というのは主に車両にかかる言葉なんでしょうか。もちろん休憩を挟みつつとはいえ、結局24時間頑張るドライバーの負担だって、とんでもないでしょうが。
時速三百キロを超え、丸一日走り続ける車体さんには、お疲れさまでは言葉が足りないくらいです。

加えて、レースで使うサーキットは、一周が13キロ程度の距離しかない。作中のマイルズの言葉を借りれば、わずが3分程度で走り切ってしまう長さ。
ということは、24時間×60分÷3……なんだと? 同じコースを480回も走るのかい? ……てなことを劇場で計算してヒェッ。とんでもねえな!

そんな感じで延々と走るわけですが、毎回アクシデントやらなにやらが起こり、長丁場のレースにも関わらず、見ていてまったく飽きません。
そもそもスタートの時点でどうかしている。
レーサーと車がずらっと前後一列に並び、コースの反対側にある車に走って乗り込む。でもって乗った順にスタートするから、当然後続車とぶつかる、もしくは乗り込む前に後続車に轢かれる危険性大という、考えた奴誰だこれ状態。
あまりの危険っぷりに、後の大会では普通のスタート方式に変更されたというから、ですよね。
そのねじの外れっぷりが映画としては映えるというか、ル・マン名物というか……いや、どうだ。盛大にクラッシュし、のっけからリタイアしていたかわいそうなドライバーとかいたけどな! 不憫だな!

レースと物語の目的は、『打倒フェラーリ』であるのは間違いありません。けれど表向きの戦いのほかに、本作はカーレースというスポーツの現場で戦う選手と、そのスポンサーとの闘いも描いています。
腕は超一流だけれど、扱いづらい性格のマイルズ。車両開発に多大な貢献をしたにも関わらず、参入後初めてのル・マンには、レーサーとして出してもらえなかった。
協調性がないのはもちろんですが、一番の理由は、企業イメージを損なう恐れがある――これに尽きる。信念故に、忖度なんて言葉が辞書にないマイルズ。そんな彼は、レースの内でも外でも、上の命令を聞かずに暴走するのでは……と副社長のレオは危惧する。
マイルズが優秀であることを知っているシェルビーは、上層部とマイルズとの板挟みになって苦しむ。中間管理職の性ってやつです。
それでもなんとかマイルズを守り、できるだけ彼の意志を尊重してやろうというシェルビーの姿に、二人の友情や、元レーサーの意地といったものをびしばし感じて、感情移入しまくりなのです。

そしてル・マンの後半。本作のテーマが、単に絶対王者に挑む新参という構図だけではないことがはっきりします。あれだけフォード勢がライバル視し、追い抜くのに苦労していたフェラーリ勢が、全員事故だの車両不備だのでリタイアしてしまうのです。
この時点で、すでに独走状態だったマイルズの勝利は決定的なものに。けれど、まだレース終了まで残り三時間近くある。当然、勝利を確信したマイルズの走りをただ映すだけでは、映画として退屈な出来になってしまう。
ならマイルズは一体何と戦うのか?
  ↓
本作の憎まれ役、レオ・ビーブ副社長とダヨ!
最後は、内側にいた敵との闘いになります。
なんとレオは、「フォード社の三車両を一列に並べ、同時ゴールで紙面を飾ろうぜ!」という、実際に走ってる方からすればふざけんな状態の提案をかましてくる。しかもマイルズは、すでに他と一周差をつけての独走中。なのに速度を落として、後続のフォード車を待てというお達し。

ふざけるな、アフォめ! 

……と叫ぶのは簡単。けれど、ここでシェルビーとマイルズの二人は、結局はレオの言う通りにします。
悩みぬいた末、レオの提案をマイルズに伝えるシェルビー。
彼は言う。「決めるのは君だ」と。
それを鼻で笑い、しばらくは全力でラップを更新することに集中するマイルズ。陽気に鼻歌を歌い、一人も追随するもののいない空間を疾走する。
そこに、ふと予想もしなかった感情が指す――。

王者の孤独か。
独り、道を極める虚しさか。
それとも、『チーム』という、志を同じくする仲間に対して芽生えた喜びか。

少しして、ブレーキを踏むマイルズ。
追いつく後続車。
ガラス越しに、視線を交わし合うレーサー三人。
そして三者は横一列に並び、誰もが予想もできなかったフォード勢同時ゴールという夢のような偉業を達成する。

かっ……かっけえぇぇ……!
マイルズ、超かっけえぇ……!!
からの

まさかのマイルズが二位。
マイルズが二位!

変な声が出ましたね。
まさに、ポカーン。
誰が見ても独走状態で、誰が見てもマイルズが譲ったからこそできた同着ゴール。
三者一列。なんならマイルズの先っちょだけが前に出ていたくらいで通ったゴール。
なのにマイルズは二位。
なんとルールには、同時ゴールの場合は、より後ろの地点からスタートした選手が優位になる……というク●みたいな取り決めがあるそうな。
だから、マイルズよりも後ろからスタートした別の選手が一位=優勝扱い。
しかもレオはそれを知っていたというから、もうマジでこの●●●●と叫んじまったぞ、ブアァァァカ!
つーか観客も、何故マイルズでなく別の奴を持ち上げとるんじゃい! どう見たって優勝はマイルズじゃろがい! 納得いかねえ!
このあたりのシビアさが、ルールという縛りに囚われた、けれどそこが面白いスポーツの醍醐味なんですかね。知らんけど。

その後は史実通り、試走中の事故でマイルズが亡くなり、どこかしんみりして終わった本作。
ですが見終わった感想は、「ああ、いい映画見たなあ」でした。
マイルズやシェルビーと一緒になって、怒ったり、笑ったり、走ってみたり。そんな気分が味わえる快作でした。
本年度もたくさんの素晴らしい出来事が、皆さんと、もちろん筆者にも待っていますように。おすすめでございます。

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人物紹介

●キャロル・シェルビー
主人公その1。ル・マンで優勝した唯一の米国人だが、心臓の持病により引退。
その後は車を製造する側に回り、数々の名車を世に送り出した。
マイルズの実力を他の誰よりも認めており、彼をル・マンのレーサーとして推すも、一度は上層部の意向に従い見送る羽目に → 結果、惨敗。けれど開発した車の性能が認められ、解雇とはならずに続投。
再びマイルズを雇用しようと謝罪に向かうが、怒ったマイルズの先制パンチをくらい、おっさん二人のポンコツ無迫力バトルへと発展する。
演じる中の人が『ボーン』シリーズのデイモン氏と、『バットマン』のベール氏なのに、何故こんなにもじたばたともみ合うおっさん二人は迫力がないのか、本当に役者さんってゴイスだなと思いました。その気になれば、警官も裸足で逃げ出す大バトルを繰り広げられるのに、二人ともパないっす。

住民もあきれるおっさんバトルの末、マイルズを無事『ル・マン』の舞台へと送り込んだシェルビー。その後も、上の階から役に立たない指示という名の野次だけ送ってくるレオの電話を巧みにかわす。
マジあいつうるせーわ。
けれど最後の「三車両同時フィニッシュ」だけは無視できず、断腸の思いで指示をマイルズへと伝える。同じレーサーとして、相手の心中を誰よりも推し量れたのはシェルビーだったろうと思うと、このシーンは本当に切ない。
しかもいざフィニッシュしてみれば、ご覧の結果だしな!
マイルズが笑ってくれたのが幸いか。
友亡き後は元気を失っていたが、マイルズの息子ピーターとの会話で再び意欲を取り戻し、早速とばかりに大迷惑な危険運転にて帰宅した。一般道路はレース場じゃねーんだわー。
だが、友人を参戦させるために、自分の会社を賭けるくらいの超いい奴。デイモン兄さんはやはり最高ですわー。

●マイルズ
主人公その2。伝説のレーサー。
腕は超一流だが、その分こだわりも強く、周囲との軋轢を招きやすい人物。そのため、シェルビーの依頼でフォード社のレースカー開発に参加するも、もてあまされ気味となる。
閉まらないトランクは叩いて直したり、怒って割ってしまったフロントガラスはガムテで補強してみたり、なんとル・マン本番で運転席のドアが閉まらなくなった際はトンカチでぶっ叩いて直したり、物理という言葉がよく似合う男。というか、ここぞという大舞台で、のっけからドアが閉まらないとかどういうことなんだ一体。それでもきちんと一周するという、さすがの技術と胆力を見せる。

参入後初のル・マンに出られなかったときは、一人整備場でしょんぼり夜明かしするつもりだったりと、案外かわいいところがある上に、嫁さんが超美人。子どももめちゃんこかわいいので、なんだよ勝ち組かよ。

紆余曲折あって出場したル・マンでは、びゅんこら走って周回記録を次々と塗り替えていく。
いかにもライバルっぽいフェラーリのレーサーがいたが、事故に巻き込まれ、あっさりリタイア。
でもって、もう一人のライバルっぽいレーサーとは一周差をつけられており、彼を抜くために、カーブぎりぎりまで減速しないという胆力中の胆力を見せつけ、作中屈指の手に汗シーンを披露。二度目も同じ手に汗かと思いきや、なんでかマシントラブルがあり、あっさりと相手がリタイアしてしまった。

ちなみに彼が他車両を抜くときは、中継画面で見ているらしいシェルビーが、いちいち「まだだ……」「まだだ……」「今だ」と魂の解説をし、その通りのタイミングでマイルズが抜いていくという、スポーツ漫画にありがちなライバル同士の演出を披露してくれる。
最期は史実通り事故で亡くなり、映画の後味をほろ苦いものにしている。

ちなみに演じるベール氏は、前作の『バイス』で増量した肉体を、本作のために数十キロ単位で落としたそうな。「どうやったの」と尋ねたデイモン氏に、「食わなかったら痩せた」と答えたそうだが、全世界のダイエッターたちがこれを見習えるかといったら、それはまた別のお話。
ベール兄貴はマジパないのう。

●フォード2世
荒ぶるフォード社の社長。
フェラーリのエンツォ社長にしっぺ返しをくらい、「ク●が!」とは叫ばなかったが、激怒して『打倒フェラーリ』を誓った。
マイルズをル・マンから外す副社長の意向に特に反対しなかった。そのため、彼を説得しようとしたシェルビーの手により、地獄のドライブ旅行に連れ出されてしまう。
ようやく止まった車内で泣き笑いのような発作に襲われるも、気絶しなかったのはさすがというところか。

●アイアコッカ
フォード社をレースに算入させた立役者。
若手らしく着眼点もフレッシュなものがあり、「ボンドはフォードには乗らねーんだわ」と発言して社長の興味を引く。
シェルビーにマイルズの手綱を握っているよう進言するなど、中間管理職の性を発揮するが、その後社長になったそうなのであっぱれ。

●レオ
本作の憎まれ役。フォード社の副社長。
破天荒なマイルズを敵視しており、例の三車両同着を目論むなど企業の上層部ってやーね、な対応を繰り出してくるが、そりゃ副社長ともあれば企業イメージを大切にするのも仕方なくはある。
だが、マイルズが二着になるのを知っていての提案は外道。
オマエマジフザケンナ。車のワイパーに、飛んできたバナナが挟まったらいいと思いました。

●モリーとピーター
マイルズの妻子。美人&美少年。
モリーは夫に理解のある妻だが、シェルビーとのへなちょこバトルを酒のつまみにしたり、本心を嘘で取り繕ったマイルズを乗せて暴走運転を繰り広げたりと、かなり荒ぶる系マダム。だがそこがいい。
マイルズを事故で亡くした後は、親子で手を取り合って力強く暮らしている様子。
ラストのシェルビーに向ける視線に、優しさと亡きマイルズへの愛情が見えてじーんとくる。

●エンツォ
フェラーリ社長。荒ぶるおじさま。
質問の答えが気に食わないからと激怒。その際に口走ったイタリア語は字幕表示されない。だが、何言ってるかはわからないけど、盛大に侮辱されてるのはわかるという、外国語あるあるなシーンに仕上がっている。
知らないほうがいい内容なんだろうな。ゴッド・ファーザー的なノリなんだろうな!

●フェラーリのレーサーたち
なんかめっちゃライバルっぽく競ってたけど、一人はマイルズまったく関係ないところでリタイア。もう一人はなんか知らんうちにリタイアしていた。
そんなに出番は多くないにも関わらず、映った際のライバルっぽさはパない。かもすねえ。

●試作中に車につけられたピロピロ
予告編にて、たくさんの紐みたいなやつを車にピロピロつけて走るシーンがあり、シェルビーの「速くなるぞ」という台詞がかぶせられた。なので、「なるほど。あの一見邪魔にしか見えないピロピロによって、空気抵抗がなんちゃらしてかんたらするのだな」と納得して劇場に挑んだところ、あれは走行中に車の重心がどっち方向に傾くかを見る指標であったことが判明。
違うじゃねーか。
知ったかぶりした自分に恥じ入った次第であります。

●監督
ジェームズ・マンゴールド氏。『3時10分、決断のとき』や『LOGAN/ローガン』などを撮っていらっしゃるお方。
本作も大変面白かったです。ありがとうございます。

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