映画『ファーゴ』ネタバレ感想。雪に咲く赤い花の正体は。

原題:Fargo
1996年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
無意味な暴力に打ちのめされる。

ファーゴ 映画

コーエン兄弟の代表作として名高い本作。Amazon Prime Videoにて配信されていましたので、視聴の運びとなりました。彼らの作品とは波長が合うものもあれば合わぬものもあり……とまちまちなのですが、今回は評判通り面白かったです。『ノー・カントリー』も大好きです。

主演は『スリー・ビルボード』のフランシス・マクドーマンド女史と『ルーム』のじいじ役ウィリアム・H・メイシーさん。そしてチンピラ二人に『コン・エアー』のガーランド・グリーン役ことスティーブ・ブシェミさんと『プリズン・ブレイク』のアブルッチ役ピーター・ストーメアさんという豪華キャストです。

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あらすじ

アメリカはミネソタ州ミネアポリス。自動車販売店の営業部長として働くジェリー・ランディガードは金銭苦にあえいでいた。早急に現金を手に入れなくては身の破滅――追い詰められた彼はとんでもない作戦を思いつく。

自分の妻を狂言誘拐し、裕福な義父より多額の身代金をせしめよう。

このとんでも作戦に二人のチンピラを雇ったジェリーだったが、いざ実行にあたり事態は思わぬ方向に動き始める。流れるはずのなかった血が流され、ミネソタの白い大地は染められていくのだった……。

※以下、ネタバレ注意。

 

 

ファーゴじゃないんかい! ミネアポリスなんかい!!

そう、この映画。タイトルが『ファーゴ』なのに、実際にファーゴが舞台になったのは冒頭のジェリーと実行犯の二人が落ち合うバーのシーンのみという。あとはジェリーの住むミネアポリスと、三人が犠牲となったブレーナードの雪道でドラマは進むのです。
じゃあなんでタイトルは『ファーゴ』なの? = 監督「ブレーナードより響きがいいから
ワーオ! 実話のふりして実話じゃないし、そのセンス、嫌いじゃないな!

↑Amazonより。『ファーゴ』といえば、これ! 雪の中に倒れている赤い人。てっきり重要人物なんだろうと思っていたら、たまたま犯行現場を通りかかっただけの不運な若者というポジション。めっちゃ怖かっただろう。気の毒に。

彼をこんな目に遭わせた元凶はジェリー君だ。
ジェリーの思惑では、事はもっと簡単に済むはずだったのだろう。身代金の引き渡しは自分が行くはずだったし、妻は無事に帰って来るはずだった。お金も手に入るはずだった。

だが現実はそう上手くはいかない。
そもそもジェリーには物事を自分に都合のいいように見るいう欠点がある。投資の話然り、野心家な義父に横取りされる可能性すら考えておらず、美味しい話を持っていけば、返事一つで大金を貸してくれると思い込んでいる。

彼の見通しはすべてが甘い。自分に甘い。
ちょっとだけならいいだろう。
誰も傷つけなければいいだろう。
金持ちの義父にしてみれば、八万なんて些細な額だ。いいだろう?
究極の自己中。
妻が恐ろしい目に遭うことや、ひょっとしたら命の危険があることも、ジェリーの目には必要悪と映る。大丈夫、大丈夫。妻はほんの数日誘拐されるだけ。終われば無事に帰ってこられる。一週間もすればきっと忘れるさ。

どこまでもどこまでも不都合な事実から目を背け、甘さの地平線を突っ走る彼は、やがて雪崩式に引き起こされる悲劇の連鎖に押しつぶされ、ついには何もかもを捨てて逃げ出さざるを得なくなる
犯罪は暴力を呼び、暴力は悲劇を生み、ジェリーは回避しようとした転落よりも、はるかに深い奈落へと真っ逆さまに落ちていくのであった。

自業自得だな!

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感想

人物紹介と所感度など。

●ジェリー
すべての元凶。キングオブ馬鹿親父。妻の父親に頭が上がらない。
空伝票を発行し、架空の車を売ったことが取引先にばれそうになり、返金分を工面するために狂言誘拐を計画する。
だが誘拐計画も投資計画もすべての見通しが甘かったため、墓穴を掘る結果となった。最後はモーテルに身を隠していたところを情けない姿で逮捕された。
現実逃避に潜伏するのは勝手だが、その間息子はどうやって過ごしていたのか? 母も祖父も死に、父親は行方不明。今後の行く末が非常に心配だ。

多分ジェリーは人より悪人なわけでも強欲なわけでもない。ただの凡人だ。だが権力を持つ人間がごく近くに存在したのが悲劇だった。身の丈に合わぬ欲はかくべきではないというのが教訓か。
勤務中のシーンで車の塗装についてやたらと言及されるのは、上っ面だけというジェリーの性質を揶揄っているのかもしれない。

●マージ
ブレーナードの警察署長。二か月後に出産を控える妊婦さん。
非常にマイペースだが能力は高く、地元で起きた銃殺事件を追ううちに、着実にジェリー&実行犯へと近づいていく。

畳みかけるように誘拐と陰惨な殺人が起きるため、彼女が出て来たときは正直ほっとした。狂った連中が闊歩する中で、日常を想起させる人物のありがたさときたらだ。
凶悪すぎる犯罪者たちを追うのに、国家権力として一見頼りないと思うのは『ノー・カントリー』と似ている。あちらの保安官は老人だったが、こちらはなんと妊婦だ。死体を見て吐いたのかと思いきや、つわりでしゃがみこんでいたりする。大丈夫なのかしらん……と心配していたが、かなり飄々として事に動じない人柄であり、最後は銃を使っての捕り物を披露してくれる。

犯人は、たかが四万ドルのために六人もの犠牲者を出した。その凶悪な暴力性に胸を痛めつつも、彼女は決して飲み込まれることはない。『ノー・カントリー』の保安官然り、犯罪捜査を職務とできるのは、自らの日常に幸せを見出し、大切にすることを知っている人間だけなのかもしれない。

●カール
ジェリーに依頼され、狂言誘拐を実行する犯人のうちの一人。目撃者たちにことごとく「変な顔」と言われる。通りを雪かきするおっさんにまで「変な顔」扱いだ。だから変な顔ってどんな顔さ!

相棒と比べると穏健派。身代金受け渡しの現場にジェリーでなく彼の義父がやってきたことで動揺。娘と引き換えでないと金は渡さんという強気の姿勢に腹が立ち、義父を銃殺してしまう。

当初八万ドルのはずだった身代金を、ジェリーが彼らに黙って百万ドルに引き上げていたため、カバンの中身を見て仰天する。差額を相棒と山分けせずに独り占めしようとしたため、彼も欲をかき過ぎた故の制裁を受けることになった。
でもさ、一言いいかな。

その目印でわかるか?

GPSもない時代だ。延々と続く雪道に、あーんな小さな赤いスティック刺したところで、風で吹きとんだら終わりではないだろうか。変な意味でハラハラしたが、最後は相棒に斧でバラバラにされて終わりなので、結局どうでもよくなった。
ファーゴのビジター・センターには、彼の足付きで例の粉砕機が展示されているそうです。ブラックだわー、ブラックすぎるわーー。

●ゲア
カールの相棒。無口な大男。
ジェリーの奥方を誘拐中、不審に思って車を止めた警察官の頭を撃って殺害。あまりのことに若干放心気味の相棒をしり目に、たまたま現場を通りかかってしまった車を無言で追跡する。めちゃくちゃ緊迫感のあるシーンだ。
恐怖のあまりか、相手の車はわきに逸れて横転。逃げ出そうとした赤い服の青年を背後から射殺、車内に取り残された女性も冷酷に射殺する。

湖近くの隠れ家に移動した後、カールが身代金をもらいに行っている間に「うるさかったから」と人質を殺し、ついでに報酬をめぐって決裂し、自分をなじってきたカール本人も斧で惨殺した。

作中の暴力はほぼほぼ彼によって振るわれている。たいした台詞もなく、何を考えているのかよくわからない。だがその場の問題を、ひたすら暴力によって解決していく。そこに特筆するほどの理由はないし、意味もない。悪意もない。
『ノー・カントリー』のシガーと同じ、無意味でひたすらに凶悪な、膝が震えるほどの暴力の象徴だ。

●ジーン
誘拐されるジェリーの妻。裕福な父親がいる。
彼女の誘拐シーンは一見コメディのように見えるが、笑うに笑えない。シャワーカーテンをかぶったまま走って階段から落下。生死不明のように描写される。その後、車の中でうめき声をあげているのが聞こえるため、生きてはいたようだ。
だが以後は頭に布を被されたままで、顔は二度と映されない。彼女が本当にジーンなのか、もしくは本当に生きているのかどうか、確かなことは何もない。
おそらく自宅で逃げることに失敗した時点で、彼女は死んだも同然だったのだ。

●雪道
それにしてもアメリカは広いですね! ブレーナードの雪道なんて、見渡す限り直線に道がどーーって伸びてますもん。
あと寒い土地は寒いんですね。ジェリーが癇癪起こしつつ、窓の氷を割ってたけど、あっという間にあんなに凍るとは……内陸地、おそるべし。あのシーンはなぜか笑えて面白かったです。何でじゃろ。

●監督
コーエン兄弟。
暴力的な映画は苦手なのですが、不思議とこの方達の作る映画は見られます。ただ残虐なだけでなく、暴力の中にも揺るぎなく立つ人物が出てくるからでしょうか。次の作品も楽しみにしております。ありがとうございます。

↓Amazon Videoにて配信中。あの身代金……どうなったん……?