映画『特捜部Q:カルテ番号64』ネタバレ感想。偏屈をこじらせたおじさんの心の防壁は崩れるのか。

特捜部q カルテ番号64 映画 サスペンス

原題:JOURNAL 64
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
46だと思ってた。

特捜部q カール アサド

デンマークの星ユッシ・エーズラ・オールスン氏原作の特捜部Qシリーズ第四弾『カルテ番号64』。
今回も例に漏れず、嫌な感じの人々が嫌な感じのドラマをこれでもかと披露してくれるのですが、そんなことより衝撃なのが予告編にあったアサドのQ離脱!
ちょいちょいちょーーい! まさかアサド君いなくなるの!? それはだめだろ。カール・ザ・デストロイヤーが野放しになっちまうぜ!?

そんなわけで括目すべき本作には、主役のニコライ・リー・コスさんとファレス・ファレス氏、ローセ役のヨハンネ・ルイズ・シュミットさんと課長役のソーレン・ピルマーク氏が続投。やはり彼らでなくては特捜部Qは始まりませんね!

過去シリーズの記事↓

本日の余談:46だと思ってYahoo!大先生で検索したら案の定出てこんかった。

 

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あらすじ

1960年初頭。一人の少女がとある島へと送られた。
島の名はスパロー島。非行少女たちの更生施設という名の地獄である。

そして現在。
特捜部Qに所属するカールと異動願いを出したアサドは、閉店後の飲食店にしつこく居座っていた
アサド「あと一週間ですが、本当に私がいなくなってもいいんですか?」
カール「問題ない」
アサド「後任も決まってないですよね」
カール「問題ない」
アサド「もう二度と私のコーヒーが飲めなくなっても」
カール「問題ない」
アサド「この偏屈人間!」
店員「いいから帰れよおめーら」

その翌日。湖畔横のアパートの一室から現れた隠し部屋にて、二人は凄惨な犯罪現場跡に直面する。
ミイラと化した三人の遺体が仲良く囲むテーブルの横に、四人目を示唆するもう一脚の椅子が転がっていたのだった――。

※以下ネタバレ&グロテスクな表現があるのでご注意ください。

 

 

感想

エグい。

有体に言ってエグいっす。
日本には『イヤミス』=『読んだ後に嫌な気分になるミステリ』という言葉があるそうですが、そういう範疇にも入らなそうな、別方向に尖ったエグ味がお国柄というかなんというか、毎回毎回よくもまあこんな胸糞な人々を作り出せるもんだなと感心しきりです。

冒頭で見つかった三人の遺体……の横にあるホルマリン漬けの瓶。そこにはなんと切り取られたそれぞれの精器が入っているわけですが、問題はそれがいつ切り取られたのか。という会話を真顔で交わす検死医と二人。

やめて。

初っ端からやめてつかーさい。
「相当恨みが深いっすね」とかアサドが言うけどそういう問題じゃねーわ。生前の可能性があるとかお前だってそれマジでどういうことっつーかぬんぎゃー!
ヒヨスという植物の麻薬効果で多少は神経が鈍っていたにしてもあんまりではあるまいか。

そして過去編の主役ニーデ。演じるファニー・ボールネダルさんがまだ十代いうこともあり、なんとも清楚な少女であるのが大変胃に悪い。どうせこの子がひでー目に遭うんでしょう? と身構えていれば、まさにその通りになるので本当にもう容赦なくて馬鹿ん。

今更ながらに気づきましたが、このシリーズは人に勧められる映画ではまったくないですね。勧めたが最後、翌日の「どうだった?」に対して「お前ってああいう映画が好きなそんな奴なんだな」という視線が返ってくる可能性大。
だけど面白いんだからショーガナイゼ。

単なる過去の怨恨による殺人なのかと思いきや、捜査が進むにつれて各界の大物が絡む大規模な事件に発展していくのが興味深いところ。
更生施設に君臨していた変態医師ことクアト・ヴァズ。こやつが『北の民』だかなんだか名付けた要するに優生学に基づいた思想に囚われ、移民や更生の価値のない少女たちに強制不妊手術を実行していたのが今回の元凶。
ニーデ含め年若い女性を襲う容赦のない展開に心も目線もうつむきがちになります。

だがその欝展開を補って余りあるのが、本作最大の肝であるアサド異動問題に関するカールのアフォ行動なんですね。
なんと冒頭からして早くもアフォ。
アサド「推薦状が簡素すぎない? 五年もいたのに」
カール「ただの職場の同僚だろ」
アサド「ただの? 職場の? 同僚?」
カール「ただの。職場の。同僚だ」

馬鹿。マジ馬鹿。

観客どころか多分アサド本人ですらカールの本心に気づいているのに、なんでお前は素直になれんのだ。芋虫め! コートを着た芋虫めが!!
だけどまあここまでねじれ曲がったおっさんの心も、最後にはきっと雪解けするんだろうさ……と思ってからのク●ッタレ発言に、ついにアサドが吠えた……と妙に感慨深い気持ちになりました。

カールとアサド。この二人があっての特捜部Q。
まさかこのまま相棒を行かせはせんじゃろと思ってからの道のりが長い長い。S状結腸並みにひねくれまくったカールが、ついに最後の最後で本心を吐露した場面の感動は、「よくやった! よくぞ言った」と孫を褒めるおじいちゃんのような気持ちでございました。

本作で実写化は最後……という情報をどこかで見たのですが、デンマーク史上最高の興行成績を収めたというし、ぜひぜひまた続編が公開されることを期待しております。
やー、面白かった!

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人物紹介

●カール・マーク
主人公その1。他者を寄せ付けないどうかしてる性格は本作でも健在……どころか、過去最高にどうかしちゃったひねくれ具合を見せる。
アサドを必要としているのは明白なのに、「ただの同僚デス」「お前には関係ないデス」と神経逆なで発言を連発。十代ならともかく四十半ばのおっさんなのでまったくかわいくない。
かわいくないのだが、なんと過去にハート型の鍵を持っていたことが判明。カール・マークにもあった青春時代でアサドと観客を驚愕させた。

そしてさらに自分の子を堕胎させていたことも判明。
「俺の子じゃかわいそうだ」に思わず納得しそうになるがそういう問題じゃない→クラクションパプーという最上級の会話打ち切りテクニックを披露される。そういうとこだぞ。

車のフロントガラスが文字通り炎上しているのに「あの車を追え」と無茶ぶりをかまし、案の定事故る。見えるか。
プライベートはアレだが捜査官としての腕と情熱超一級なので、今回も水面下でニーデの動きを察知し、年を重ねた彼女との接触を果たす。
しかもなんと今回はカールがアサドを助けるという汚名返上の働きをしたのだが、

部下が危機に陥っていた時、本人はヒヨスでラリっていた

ので、どこまでもカール・マークはカール・マークだった。

アサドが生死の境をさまよってようやく「残ってくれ」の台詞が出たが、それでも最初はローセを引き合いに出すあたり、多分素直になったら死ぬ病に罹っている
アサドが目を覚ましたことにほっとしすぎて血迷ったのか、「じゃあ明日また来るわ」と一度は出口を目指しかけるし、そこは心の夜明けを目指せよとツッコみを入れたくなったがカール君はがんばった。
ついに本心を言ったことでわだかまりが消えたのか、バーでナンパを実行した
なんでだよ。

●アサド
主人公その2。カールの隣にあって彼の破滅オーラを八割がた緩和させる好男子だが、ついにギザギザハートに耐えられなくなったのか異動願いを出した模様。
「本当に部署を離れてもいいんですか? 一緒に働けなくなりますよ」と発言するあたり、カールが止めたら戻るつもりだったようだが、これは決して彼がかまってちゃんなわけではなく長年耐えた上での苦渋の決断だったことがうかがい知れる。
どんなにお人よしだろうと、どんなに本心は違うのだとわかっていようと、誰だって一言がほしいのだ。ただ相手がカールだったせいで、本当に本当の崖っぷちぎりぎり……どころか一旦落ちるまでしないと望む言葉を引き出せなかったのだが、あのアフォはまったく

アサド自身も移民のため、中東系のショップにて買い物をしているようだが、きっと例のコーヒーはここで入手しているのだろう。
店主の娘ヌールがよりによってクアト・ヴァズ医師の手で堕胎手術を受けたため、強制不妊手術の犠牲者となり激昂。しかもそのタイミングでカールの「お前には関係ない」発言が飛び出したので、ついに我慢の限界がきて「ク●ッタレ」と叫ぶに至る。
ローセがフォローしていた通り、三人を殺した犯人ニーデと接触するが逮捕するつもりはなかったため、別部署に異動するアサドを巻き込みたくなかったというのが本心なのだろうが、それにしたってあいつのコミュニケ能力はどうなっとるんじゃ。
アサドが単身でクアトの病院に乗り込んだのはそのせいでもあり、結果重傷を負ったので結局カールが元凶ではないかというのは多分気のせい。
危篤状態に陥っていたが、翌朝に意識が回復。そこに来てようやくの「残ってくれ」発言だが、別の機会にしてくれ。
演じるファレス氏の演技力がぴか一で、「……身体が治ってからにしてください……」の弱り具合がまさに迫真でした。

普段温和な人が怒ると怖いというのは本当ですね。
病院に乗り込んで「ヌール? ここにはいないよ」というクアトを押すアサドのトン、が怖い。
しかも二回。トン、って。ヒエッ……。

四作目とあって予算も大幅についたのか、今回はカールと二人、爆発炎上する車から脱出するというド派手な絵面を見せてくれて大満足。なんだかんだとイケメンなお二人です。

●ローセ
特捜部の紅一点。素直になれないおっさん二人と違って本音をぽんぽん言えるのはさすが女性。見習え、お前ら。
だが今作ではまさかの命の危機にさらされる。
というのも彼女のデート相手の警官が、クアト率いる『北の民』秘密結社の一員=つまりはスパイだった。ローセによって情報は敵に筒抜けとなり、カールとアサドは警官本人によって襲撃され(前述の車大爆発)、ローセもたまたま間が悪い場所に居合わせたため、暗殺者の襲撃を受けた。

だが勝った。

さすが特捜部の一員。女傑っぷりに惚れる。
自分がスパイの情報源だったことを後で知ることとなっただろうが、ローセなら大丈夫だろう。カールはアレでもアサド君がフォローしてくれるし。

●課長
「特捜部Qを作ってから、陰惨な事件が起こるようになったな……」と突如疫病神的発言をかます上司。ご挨拶が過ぎる。
中盤で奥さんが不妊治療の末に子どもを授かったことが明かされ、なんと担当した医師がクアト。お世話になったから丁重に扱えよと釘を刺してきたわけだが、言い逃れのできない証拠も挙がったことだし逮捕に踏み切った模様。
今作でもカール君はドアを開けっぱでスタスタ出て行った。

●バク
カールの同僚。
数独で数字以外を書く男というとんでもな紹介をされる。何をどうしたらそんなことになるんだ。あれか。16進数か。16進数なら可能なのか。なんて高次元で戦ってるんだ、こいつは。
だが外から密閉された部屋で死んだ三人について、「一人が二人を殺して自殺したのさ」と推理していたので案外アリなのかもしれない。誰が壁をふさいだっちゅーねん。
結局はカールに事件=手柄を奪われた形になったが、彼が担当だったら確実に迷宮入りしただろうから結果オーライ。

●ニーデ
過去編の主人公。ぶっちゃけ超カワイイ女子。
タイトルの『カルテ番号64』とは、収容所における彼女のカルテのこと。燃え盛る車の中、たった一つだけ確保できた証拠が彼女のカルテだった……という運命っぷり。
従兄との仲を引き裂かれ、スパロー島に送られたばかりにひどい目に遭わされる。
多分かわいかったのがイケナイ。クアトに加え、看護師のギデと同室のリタの関心も引き、ヒヨスでラリってのアーン☆な行為に無理やり引き込まれる。だが従兄の子を妊娠していたため、リタとクアトの嫉妬心を買い、ついには強制堕胎&不妊手術を決行された。
でもって、手術をした数日後に収容所が閉鎖されるというアナウンスが響く。
なんちゅータイミング……この瞬間、いたいけな少女の瞳に宿った殺意にヒエッとなる。

遺体が発見された部屋の持ち主がギデであり、遺体の一人がニーデの持っていたハートの鍵を身に着けていたため、中盤まで犯人=ギデのミスリードで話が進んでいく。が、どう考えても動機がありそうなのはニーデ。案の定ギデに成りすましたニーデが犯人だったわけだが、明かされる真実はあまりにも業が深くてうへえっとなる。
妊娠を知っていてわざと脱走するように仕向け、しかもそれをチクって懲罰坊入りさせたリタとギデ。そして収容所から帰還後、強制不妊手術の訴訟をもみ消した弁護士フィリップの三人を殺害。ギデの名で借りたアパートの隠し部屋でミイラ化させたが、従兄のテーイと再会したことで憎しみの炎が消える。
「彼と過ごした十二年間は本当に幸せだった」と語る年を重ねたニーデの美しさよ。
ヒヨスでラリっていたカールはニーデが船から身を投げたと勘違いしたが、ちゃんと生きていた模様。さすが女性はしたたか。ニーデの残りの人生が穏やかなものであることを切に願う。

●クアト・ヴァズ
稀代の変態医師。すべての元凶。アフォ。
強制収容所で最初にニーデを出迎えた際、「ここに座りなさい」と言って自分の膝をぽん。
ぽん、じゃねーよ馬ぁぁ鹿。
かわいい子を膝に乗せて何をするかと思いきや、死体の写真を見せてくるので超道化死ている。

でもってニーデのかわいさに目を付けたのか、懲罰坊でここぞとばかりに襲ってくるが、耳を食いちぎられ可愛さ余って憎さ百倍。堕胎どころか不妊手術まで決行するというドクズ行動を取る。
最後はアサドとカールの活躍もあり無事に逮捕と相成った。
オフィスのセンスが前衛的 → 「医者とは悪趣味なものさ」
お前と一緒にしたら失礼だろうが。

●リタ
強制収容所でニーデと同室だった少女。ニーデの魅力にぞっこんラブだったため、妊娠が発覚した際に葛藤があった模様。
「島を脱走できるわよ」とだまくらかして漁師という名のクズの元へ導き、強制手術の原因を作った。
その後の末路は推して知るべし。

一つ気になる点。ポスターによっては主役二人の後ろにおそらくは懲罰坊に入ったリタが座っているものがあるのだが、ニーデの間違いじゃないんでしょうか。
ポスターの子だ! と思って期待したけど、特に何の活躍もなかった。初期はリタ役の子がニーデを演じるはずだったとかそんな事情ですかね。

●ギデ
クアトに次ぐ変態看護師。シャワーシーンを見るに、サディスティックな性癖があるようだ。
ニーデの恨みを買い悲惨な末路をたどるが、収容所に就職さえしなければ彼女もあんな目には遭わなかったのではないかと思う。環境が彼女を狂わせたのか、最初からああだったのか、なんとも言えない気分になる。

●ブラント
現代のスパロー島管理人。祖母が昔収容されていたというつながりで、島を管理している。時間にうるさく、約束に七分遅れたローセに辛く当たる。
おそらく祖母から話を聞かされていたのか、島で起こった悲劇を繰り返さないため、独力で『北の民』の動向を探り証拠を集めようとする。
それを感づかれ、ローセに助力を請う電話をかけた直後に暗殺者によって殺されてしまう。
だが命の危険を感じたなら、もうちょっと戸締りは厳重にしよう。
あと警察呼ぼうぜ!

●ヌール
アサド行きつけの食料品店の娘。冒頭で堕胎手術を受けた先がクアトの病院だったことがブラントの撮った映像に残っており発覚。まさか……と思って別の病院で検査したところ、不妊手術をされていたことが分かる。
ひどすぎて言葉もないが、最後にテレビカメラに向かって同じ立場の女性を出したくないと語り掛ける姿に目頭が熱くなる。

●フィリップ妻
ニーデに殺された弁護士フィリップの奥さん。夫は愛人と蒸発したと思っていたが、殺されたと知るもそこまで悲しんではいない様子。まあ浮気して出てったと思ってたわけだしね。
夫の『北の民』に関する話題は一切禁止しており、彼の所業を知って証拠物件をカールたちに提供してくれるありがたい女性である。

●荒くれもの
冒頭で車から鈍器を持って出てくる荒くれもの二人。あやしげな中年男性と合流し、怪しげなアパートに吸い込まれていった……と思ったら、単に管理人から隠し部屋の壁を壊すよう依頼された建設業者の人間だったことが判明する。
めんご。

●監督
クリストファー・ボーさん。デンマーク出身のまだ四十代とお若い方。
大変面白かったです。ありがとうございます。次回作をぜひ期待しております。

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↓原作はこちら。映画とは色々違うけど、何より結末がアレです。

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