原題:The Boy Who Harnessed the Wind
2019年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆
【一言説明】
知識って大事。
アフリカにあるマラウイという国で、一人の少年が風力発電装置を独学で作り上げた――。
予告編から漂う感動ドラマの気配。同名の原作小説を基にした実話だそうで、ハンカチ片手に劇場に行ってまいりました。
主演は『それでも夜は明ける』のキウェテル・イジョフォー氏。なんと監督も務めているというから驚き。そして主人公の少年役には、オーディションで抜擢されたというマックスウェル・シンバ君が出演されています。
[adchord]あらすじ
アフリカは最貧国マラウイ。
洪水の後に訪れた干ばつにより記録的な不作が続き、ついに食糧危機が国民を襲った。空腹にあえぐ人々。
増え続ける死者。そんな中、ウィンべ村に住む貧しい少年ウィリアムは、バッテリーと風車を組み合わせれば井戸から自動で水をくみ上げられることに気付き、実践しようとするのだったが――。
※以下ネタバレ。未見の方注意。
感想
原作は未読。
なので予告編を見た限りでは、貧しい村に住む少年が独学で作り上げた風力発電装置によって村を救うサクセス・ストーリーなのかと思っていたのですが、実際には思いのほかシビアな伝記物語でした。
実際に風車を作り上げるのは終盤の十分程度に集約され、それまでは主人公と周囲の人々を襲う貧しい国の現状が延々と映し出されます。
時は2001年。ちょうどアメリカで同時多発テロが起きた時代。
そう昔ではないはずなのに、主人公ウィリアムの住む町の文化レベルに愕然とします。
彼らは風力発電すら知らない。
テレビはなく、情報を収集する手段はラジオのみ。車は村に数台ある程度で、自転車ですら普及していない。
学校に通えるのは学費を払うのが可能なごく少数の生徒たちだけで、大学に行くのは費用の面から見ても容易ではない。
主人公ウィリアムの姉アニーは貧しい故に進学できず、ついには食い扶持を減らすためにと駆け落ちまでしてしまう。そして弟ウィリアムも学費を払えず、学校を退学することとなる。
だが少年はあきらめない。
こっそり学校に忍び込み、図書館での勉強を司書に許される。
日本には山ほどあるであろう知識が詰まったいくつもの本。日が昇っている間だけページを繰ることが許され、夜も明かりさえあれば勉強ができるのに……と考えたことがきっかけで、風力発電に思い当たる。
日本にも月や雪あかりで勉強をした話が残っている。窓から差し込むわずかな光を頼りに、頁をめくり、文字を読み、書き込んだ人たちが大勢いたことだろう。
この国もかつては貧しかった。けれどいつの時代も、あきらめずに前に進み続ける意欲を持った人々が、暮らしを豊かにしていった。
干ばつで作物が減り、略奪に遭い、人々を出し抜くことでしか政府が供給する作物を買えなかったウィリアムたち一家。次々とシビアな現実が襲ってくる中で、それでも時折幸福の火が灯るのは、学ぶということの楽しさと大切さを遺伝子レベルで我々が理解しているからでしょうか。
どれほど古びて汚れたラジオでも、内部が壊れていなければきちんと動く。そしてありあわせの廃品を集めて作った小さな風車が、電気を起こしてラジオを鳴らす。クライマックスへの期待が否が応でも高まるというもの。
けれど少し風車を作るまでが長すぎる気がしました。
おそらく何が起こっていたのか、起こっているのかを伝えたかったのでしょうが、風車作成から完成までのシーンがあっという間すぎて、それまでの辛い現実を払しょくするほどの感動が得られなかったというのが正直なところです。
もちろん、それが監督の意図だったのかもしれませんが。水を引けるようにはなったけれど、まだまだ課題は山積みなんだよ、という。
そして以下は完全に個人的な意見なのですが、風車が完成したことへの感動が非常に薄くなる原因がありました。それは……。
カンバ。
なんでカンバを死なせた……。
序盤からウィリアムに付き添うかわゆいワンコが出て来るんです。だけど終盤になって餓死してしまう。
本当に個人的すぎて申し訳ないのですが、カンバが死んだせいで、風車完成にまったく感動できませんでした。
カンバが死んでから多分七分くらいしか経ってないっすよね?
その衝撃が消えてないのに、「風車を作ろう!」「できた!」「わーーい!」とかやられても、心が追い付いていきませんでした。
原作にはとくに犬の描写はなかったそうなんですが、じゃあ何のために出したのさ。
現実を教えるため?
知るか、バァァァカ!
安易とまでは言いませんが、動物を犠牲にするのはやめていただきたい。死なせるくらいなら、最初から出さなければいいでしょう。
人が餓死するくらいだから、そりゃ家畜だってたくさん死んだんでしょうが、カンバはそのポジションではないだろーが。
ここは風車で水引いて、その水をカンバが飲んでわーいって使い方じゃろがい!!
というわけで、唯一にして最大の不満点がカンバだったんです。
カンバ役のワンコがやったらめんこかったのもなんというかマイナスというか、ワンコはみんなやたらかわいいんですけどね。
これと続けて『僕のワンダフル・ジャーニー』を見たので、『ジャーニー』のほうは大丈夫だろうと思っていたらあの結末で、なんというかワンコが出て来るけど涙のいらない底抜けにハッピーな映画が見たいです。きぃ。
いえ、映画自体は面白かったですよ。犬好きには辛いってだけで。多分に個人の見解を挟んでサーセン。
[adchord]人物紹介
●ウィリアム
主人公。両親と姉の四人家族。
冒頭で学校の制服を贈られ、喜んで入学するも学費の残りを払えないなら退学だと早々に追い出されてしまう。だが勉学への情熱と才覚を見せ、図書館で学ぶことを許される(こっそりだけど)。
風力発電に目をつけ、ポンプを稼働させることができれば井戸から水をくみ上げ年間を通して収穫が可能となる=食糧危機を脱する、という計画を立てる。
姉との密会を盾に教師を脅してみたり、競争を潜り抜けて穀物をゲットしてみたり、たくましさを必要とする場面が散見されるが、たくましくならざるを得ないのだろうなとしみじみ。
青シャツに赤パンツという制服がとてもよく似合う。
風車の功績が注目され、米国に留学できたというからあっぱれ。
●カンバ
めちゃんこかわゆいウィリアムの犬。女の子。ケナゲンティウス族。
映画冒頭からウィリアムが外に出るたび、周囲をちょこちょこと動いており、過酷な環境の中で癒しの役割を担う。
が、悲しい結末が待っていた。
でも大丈夫。役のワンコは元気ですから。きっと今頃どこぞの大地をのんびり駆け回っているに違いない。うむ。
●ウィリアム父
頑迷という言葉すら浮かびそうな頑固親父。
良くも悪くも昔気質なのだろう。ウィリアムが科学ってゴイスーと何度説得しても首を縦に振らなかったが、家に一台しかない移動手段の自転車を解体させろというのだから、気持ちはわかる。
息子「車輪が必要だからバラバラにするよ」
父「元に戻せんの?」
息子「うんにゃ、無理」
そりゃ怒るわ。しかも集団で来るし。
貧しさというものに作中で最も囚われていた人物。貧困にむしばまれ、貧困故に頑迷になっていたが、彼を再び立ち上がらせたのも貧しさだという点が興味深い。
風車が動き、大地に水が満ちたときはさぞや息子を誇らしく思ったことだろう。
●ウィリアム母
市場で一番のいい女だったと言われるのも納得の美しいお母さん。
貧乏にも耐え、数少ない収穫をやり繰りして二人の子供を育てるも、暴漢の略奪に遭い、倉庫を空にされたときは慟哭した。
「いつまで奪わ続ければいいの?」という彼女の言葉は夫だけでなく観客にも突き刺さる。
●アニー
ウィリアムの姉。ウィリアム同様頭がよく、大学の入学資格を取得するも、家計の都合から進学できず。
食糧難を少しでも回避するため、かねてから恋人関係にあった教師と駆け落ちしてしまう。気持ちが分かるだけに切ない。
●アニー恋人
ウィリアムの通う学校に勤める理科の教師。
力になってくれそうでくれず、けれど最後に自転車のダイナモを提供して風車完成に協力する。
本当にあり合わせのものでできた風車だが、映画を見ると仕組みへの理解が深まる。一度自分でも作ってみようという気になる。
●族長
ウィリアムたちの暮らす村の長。
大統領が訪れた際、面と向かって彼を非難したため、陰に連れていかれ暴行を受ける。事実というのが悲しい。
●監督
キウェテル・イジョフォー氏。なんと才能豊かな方でしょうか。
次回作も楽しみにしております。ありがとうございます。
↓Amazon videoにて配信中。自転車の車輪がポイント。