映画『バード・ボックス』ネタバレ感想。目隠しで川下りに挑む親子の謎が解き明かされる良質スリラー。『それ』の正体についての考察あり。

バード・ボックス 映画 サスペンス

原題:Bird Box
2018年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆

【一言説明】
パニックホラーの中に光る母の愛。

年末に契約したNetflixにて、新年第一発目に見た映画『バード・ボックス』。
麗しのサンドラ・ブロック女史が主演。しかも何やらサスペンスらしい……というわけで、あらすじもよく読まずに再生ボタンを押した次第です。

共演に、『ムーンライト』のトレヴァンテ・ローズ氏と、我らがジョン・マルコヴィッチ氏。ブロックさんの妹役に、『ミスター・ガラス』のサラ・ポールソンさんが出演されています。

※以下ネタバレです。未見の方注意。何も知らずに見たほうが百倍楽しめます。

 

 

バード・ボックス 目隠し

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あらすじ

それを見たら死ぬ――。
ある日突然、町にやって来た何かを見た人々が、自ら命を落とし始めた。
臨月を間近に控えたマロリーは、それに感染した妹が目の前で死ぬのを目撃してしまう。
ショックを受けるマロリー。
命からがら逃げ込んだ家屋で、生き残った人々と共同生活を始めることに。
だが外には人々の命を奪った何者かが、今も息をひそめている気配がしていた……。

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感想

映画冒頭にて、目隠しをした主人公と二人の子どもが、ボートで川下りを始めるという不穏な始まり。
彼らは何故目をふさぐのか? 何にそんなに怯えているのか? 
その疑問に答えるように、五年前の回想シーンが流れ始める。

産婦人科からの帰り道、突如街中で混乱が勃発した。
飛び交う悲鳴。逃げる人、狂ったように走る人、突如統制を失って追突する車たち。
マロリーの横でハンドルを握っていた妹が、息をのんで呟いた。
「あれは何? ……ああ、なんてこと、なんてこと……!」
突如暴走運転を始める妹。事故ってひっくり返った車から、必死に這い出すマロリー。だが妹は静止を振り切り、何かに憑かれたように、走って来た別の車の前に飛び出して死亡してしまう。

この序盤のシーンがめちゃくちゃ怖い。
妹が一体何を見たのか、マロリー視点に立つ視聴者には謎のまま。まさに混乱のど真ん中に放り込まれた感じで、次々と何かを目にして死んでいく人々に戦慄する。
優しい女性に助けられ、一軒家に逃げ込めた時はほっとするものの、なんとその女性は、炎上する車に自ら乗り込み焼死してしまうのだ。「行かないで、ママ……」とつぶやきながら。
エグい……。

『何か』が町にやって来て、それを見てしまった人は、突如希死念慮に駆られて自ら死を選ぶ。だから冒頭でマロリーとその子供たちは目隠しを巻き、『それ』を目にしないようにして川を下り始めた。

『それ』とは一体何なのか?
めちゃくちゃ気になるのだが、結局本編でその謎が明かされることはない。
現れる際には、不自然な風が巻き起こったり、周囲の木の葉を巻き上げたり、ぶつかった衝撃で植物が揺れたりするので、肉体は持っているようだ。
加えて、防犯カメラの映像や窓に『それ』が接近した際には、地面やガラスに黒い影が落ちていたので、日光を遮る=きちんと目に見える何かであるのは間違いない。
『見たら死ぬ』の仕組みはどんなものか。『それ』を目にした人物は白目が充血し、虹彩が宝石のようにキラキラ輝き始める。『見る』ことで感染する点から自明なように、おそらくは視覚から脳に特殊な信号を送り、希死念慮を引き起こす幻覚を発生させていると思われる。
だから、彼らの視線の先に常にその『何か』がいるわけではなく、一度目にして信号が送られてしまえば、その後は死亡するまで延々と幻覚を見続けるのではないだろうか。
ドラマ『フリンジ』にて、電灯をパターンにそって点灯させるだけで、それを見た人物に特定の行動を取らせるという実験をやっていた。『それ』も似たような電気信号を発しているのでは……と考えられる。

そしてこれは想像なのだが、騒動は欧州から発生してアメリカへと渡っている。その点から、なんとなく『それ』は北極付近から来たのではないかと思った。
おそらくは宇宙人や悪魔などではなく、はるか昔に地球上に存在していた人類の対抗種族だったのではないだろうか。かつての人類は、今ほど精神や負の概念が発達しておらず、彼らの攻撃が効きにくかった。故に人類との覇権争いに負け、生き残りが北極近くに逃げて氷漬けになってしまっていたのが、温暖化によって氷が解け復活。試しに付近の人類に精神攻撃を使ってみたら思いのほか効いたので、よっしゃとばかりに人類に侵攻を開始した……みたいな。知らんけど。

ちなみに『それ』のビジュアルについては、後に公式から正式な発表があったらしく、『ロード・オブ・ザ・リング』のゴラムに似た、ごつごつした毛のない子鬼のような写真がgoogleに出ていた。
監督曰く、出来がいまいちすぎて結局出さずに終わったそうだが、確かにまったく怖くない。多分これを出してたら駄作扱いだったと思われるほど、肩透かしなクリーチャーだった。

本編は川下りに挑む現在のマロリーと、五年前のマロリーとの二つの流れが交互に映され、過去編が進むにつれ、徐々に何が起こって誰が生き残ったのかが分かる仕様となっている。
民家に逃げ込んだマロリーは、そこで生き残った人々と共同生活を送っていた。だが食料調達のために外に出なくてはいけなくなったり、外部から新しい人物がやって来たり……など、新たな出来事が怒るたびに、一人また一人と生存者が減っていく。
『それ』は肉眼で見る以外に、カメラなどの映像を介しても感染するらしく、民家の家主が防犯カメラの映像で敵を見つけようとして死亡してしまう。
その点を踏まえて序盤を見直してみると、欧州で起きた騒動を各テレビ局がこぞって報道している。もしそこに一瞬でも『それ』が映り込んでいたら、画面の向こうで大勢の人が死んだのでは……とぞっとする。おそらくは可能性だけにとどまらず、実際に犠牲者も出たのではないか。なんてことをしてくれるんだ。
ちなみにこのシーンで思い出したのは、藤田和日郎氏作の漫画『邪眼は月輪に飛ぶ』

上記作品は『見たら』死ぬのではなく、ミネルヴァという邪眼の梟に『見られたら』死ぬ仕様。だが、カメラを通して死に感染するのはよく似ている。
めちゃくちゃ面白い漫画なので、未読の方はぜひ手にとってみておくれやす。マタギの老人と田舎の巫女が、軍隊に紛れて梟と対決するという熱い展開なんです。

カメラを通しても死ぬルールの他に、中盤以降では『それ』を見ても死なない人間=精神的な病を抱えている人が出て来る。
思考が闇に囚われている人は、『それ』を見ても死にたくはならず、相手をとても『綺麗』だと感じるらしい。それだけで済めばいいのだが、迷惑なことに「この綺麗なものを、皆にもぜひ見てほしい。むしろ見ろ」と嫌がる相手の瞼をこじ開けてまで見せようとしてくるので、とんでもなく性質が悪い。
ある日妊婦のオリンピアが、同情から民家に引き入れてしまった人物が実はこの人種だった。彼はマロリーたちが産気づいた混乱に乗じ、『それ』を見せようと窓の覆いを全部取っ払って大暴れし始める。結果として、生き残ったのはマロリーとトム、新生児二人のみ。他は全滅という形に。
超・迷・惑!

この『心の闇=見ても死なない』のカラクリだが、精神的病には脳の機能が深く関わっているという。ある物質を阻害しやすかったり、はたまた過剰に分泌してしまったり。
前述した通り、もしも希死念慮が信号によって伝達されるのであれば、病を抱える人の脳は、それを健常者が受け取るのとは違う形に変化させて受容している、と考えられるのではないか。
だから『それ』を見ても死なず、むしろ大多数に見せたいという欲求を抱くのかもしれない。あくまで私見であるが。

避難所が全滅した後は、トムとともに郊外の自然あふれる一軒家へと移り住み、自身の息子ボーイとオリンピアの娘ガールの四人で暮らし始める。そして無事に五年の歳月が経った頃、突如無線で『川を下った先に安全な場所がある』という情報を得る。
そこに行こうと主張するトムに、情報に懐疑的なマロリーは反対するのだったが、『それ』信者の人間たちの襲撃を受け、トムが死亡。残ったマロリーは情報を信じ、子供二人を連れて川を下り始める=冒頭の展開につながる、という構成になっている。

前半が特に面白く、後半は少し地味な印象ではありますが、個人的にはかなり楽しめました。
本作に触発された人々が、『バード・ボックス・チャレンジ』なる無謀な行動を動画に次々とアップするようになったというから、人気のほどがうかがえます。
興味のある方はぜひご覧あれ。

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人物紹介

●マロリー
主人公。職業は画家。名実ともに自立した強い女性だが、突如町を襲った悲劇にはさすがに恐怖を覚え、涙を見せる。
一人、また一人と減っていく中、トムとともに生き残る。無線機で得た情報に希望を託し、川を下ろうかと思った矢先、『それ』信者の襲撃を受け、囮となったトムが死亡。たった一人で二人の子どもを守り抜く決心をする。
信者の襲撃やボート転覆などのハプニングが起きるも、なんとか最後の難関、急流までたどり着いたマロリー。
だがここを越えるには、誰かが目隠しを外して指示を出すしかない。オールを持った自分はどうしても死ねない。ならば二人のうち、どちらの子にそれを任せるのか。
一時は自分の肉親でないガールを選ぼうと考えていたマロリーだったが、土壇場でその選択肢が自分の中にないことを悟る。
からの目隠ししての急流下り。
『それ』を見なくて済むにしても、自殺行為に等しくないか? 道しるべのないままボートは急流にどんちゃら流され、結果転覆するも、なんとか岸辺に三人とも無事に流れ着いた。
けれど、そこからがさらに大変。無線では「鳥の声を頼りに来んしゃい」と告げられたのだが、そんなアバウトな目印で大丈夫なのかと不安になる仕様。
それでも五年の間に聴覚が鍛えられたとみえ、じっくり耳を澄ましてみれば、たしかにチュンコラ鳴く鳥の声が遠くから聞こえてくる。まさに「鬼さんこちら」状態。
ところが、分け入った森にも『それ』が存在するらしく、「マロリー、こっちを見なよ」「目隠し取りなよ」と終始囁いてくるから鬱陶しい。ブチ切れたマロリーが「うるさい!」と叫んだところ、ぴたりと静かになる『それ』たち。なんだよ、案外ビビりなのかよ。

最後はボーイとガールを連れたまま、無事に『安全な場所』に避難。
そこは盲学校だった……というのが結末。
たしかに序盤で「目が見えない人は助かるだろう」という予感はしたが、約束の地は盲学校だったというのは中々いい落としどころだと思った。こういうパンデミック系は、感染者のいない清浄な地が存在するというのが、ある意味お約束になっている。
多分敷地の広さや施設からして、マロリーのたどり着いた学校では、元から目の見えない生徒たちが農作業などで作物を育てていたのではないかと思える。
そして『それ』は何故だか屋内には入って来ないため、時折外に出て食料や物資を調達するのも可能なのだろうなと納得。
ただいずれは限界が来るだろうから、その前に政府や軍が何がしかの対抗策を発見し、いずれは救援が来るのだろうと信じたい。カメラの映像がダメなら熱探知とか、方法は色々ありそうな気がする。

光の差し込む植物の天井に、箱に閉じ込められていた鳥たちが放たれる。楽園のようなその場所で、安息を得て微笑むマロリーたちの姿がとにかく美しいラストでした。

ちなみに作中で出産する妊婦のマロリーだが、演じるブロックさんは結構いい歳なのでは……と思ってwikiを見たら、最早親しみを込めて化け物と呼ぶレベルだったことが判明し、やっぱりブロックさん最高や! ってなった。マジゴイス。

●ボーイとガール
五年前、『それ』の襲撃を受けた後で誕生した子供達。ボーイはマロリーが、ガールはオリンピアという妊婦が産んだ。
生まれて数分で『それ』信者ゲイリーが暴走し、ガールの母は死亡。
この狂った世界で生き延びられるようにと名前を与えず、マロリーが彼らの母親であるという認識もさせず、見えなくても生活できるよう訓練しつつ、厳しく育て上げた。
川下りの道中で様々な困難に遭うが、マロリーとの絆が強かったのか言いつけをよく守り、最後は盲学校までたどり着くことができた。
そこでようやくマロリーを母と呼ぶことを許され、ボーイはトム、ガールにはオリンピアという名が贈られて終わる。

●トム
マロリーと同じ民家に逃げ込んだ黒人男性。従軍経験もある頼りになる人物。
何かと妊婦のマロリーを気にかけ、ゲイリーが暴れた際は命をかけて彼を倒した。
五年間マロリーや子供達と生活を共にし、一緒に川の下流を目指すはずだったが、『それ』の信者に襲われた為に、自身を囮として愛する者たちを逃した。
信者に対抗するには目隠しを取らざるを得ず、戦いの最中に背後に現れた『それ』を見てしまう。だが襲い来る衝動に抗い、最後の一人を倒すまで踏みとどまるという見事な精神力を見せつける。あっぱれ。

●ダグラス
民家に逃げ込んだメンバーの一人。妻が妊婦のマロリーを助ける為外に出たことで『それ』の犠牲になった為、長らく突っかかってきた。
トラブルメーカーになるかと思いきや、案外有事の際の判断は的確。オリンピアがゲイリーを招き入れることに最後まで反発していたが、結局は彼が正しかった。
最後は本性を表したゲイリーに刺殺されてしまう。
演じるマルコヴィッチ氏の存在感もあり、かなり癖もあるが憎み切れない人物として物語に華を添えていた。ゲイリーこの野郎と思いました。

●オリンピア
民家に後から逃げてきた妊婦。とても感じの良い優しい女性。
マロリーと同時に産気づき、出産を終えて疲れ果てていたところにゲイリーの襲撃を受け、『それ』に感染して窓から身を投げるという悲劇的結末を迎えた。
生前、自分に何かあったら娘をよろしくとマロリーにお願いしていたが、悲しいことに現実となってしまった。

●ゲイリー
オリンピアより後に民家に逃げてきた中年男性。同情したオリンピアが中に入れてやるが、実は健常者を装った『それ』の信者だった。
マロリーたちの出産の混乱に合わせて本性を表し、窓の多いを全て取っ払った上で「ほら、見るんだ。綺麗だろぉぉぉ?」と瞳をキラキラさせて強要する。
やかましいわ。
おかげで民家の生存者がバタバタ死ぬ羽目となり、トムの怒りの銃弾によって息の根を止められた。超迷惑。

●ジェシカ
マロリーの妹。姉を心配し、産婦人科に付き添ったことをきっかけに感染してしまう。引きこもりがちなマロリーを気遣う優しい人物だっただけに悲しい。

●産婦人科にいた若い女子
マロリーが最初に目にした感染者。
おそらく高い位置より外を眺めていた為、往来にいた『それ』を真っ先に目にしてしまったと思われる。病棟が病棟だけに、多分彼女も妊娠していたのだろうと思うと……。

●それ
見ると死ぬ謎の生物。『バードボックス』で画像検索すると、お姿を拝見することができる。
が、多分これがどーんと出てきたら怖さも何もあったものではなかったと思われるので、削除した監督はまさに英断。
やはり「なんだかわからないものは、わからないゆえに怖い」ということを再認識した。
なぜかドアを開けて屋内に入って来ることはできないようで、犠牲者がひたすら外に出て来るのを待ってると思うと笑える。
というか、欧州からアメリカへは何で来たの? 飛行機か? 船か? でも機長や船員に見られたら終わりなので、もしや泳いできた……のか? んふん?

●鳥
『それ』と『それ』に感染した者を感知できるらしく、近づくとチュンチュン鳴く。マロリーが警戒の為に箱に入れて持ち歩いたのが、タイトルの由来。
最後は役目を終え、盲学校の天上へと飛び立っていった。
鳥は放射能が見えるというから、感知できるのはそういった理由でしょうか。個人的には犬は感染せんのかがめちゃ気になるけど、特に言及はなし。TVに馬が映ったときは普通にしてたし、そもそも鳥は感染しないようだし、動物は大丈夫なのかしらん。

●監督
スサンネ・ピアさんという女性の方。怖さの中にも家族愛や繊細さが感じられ、たいへん面白かったです。ありがとうございます。

↓Netflix作品につき、まだ他媒体では見れないようです。なので似た感じの映画をあげておきます。『クワイエット・プレイス』と『ハプニング』。どちらも怖いで。

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