原題:Unhinged
2020年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆
【一言説明】
安全運転、大事。
2021年は初夏。映画館にて、突如上映された予告編『アオラレ』。
かの御大、ラッセル・クロウ氏がーーなんと我々観客に向け、日本語で「アオってんじゃね!」と叫ぶという衝撃的映像が流れた。
「アオってんじゃねえ!」ではなく、「アオってんじゃね!」と短くなるところが絶妙にKAWAIIとかそういうことではなく、とりあえず、これは見に行かざるを得ないと思わせる求心力がグンのバツ。
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というわけで、アオラレて来たよ!
※エンドクレジット後に特別な映像はなかったね!
[adchord]あらすじ
その日は朝からツイてなかった。
寝坊と渋滞のコンボに見舞われ、大事な顧客を失ったレイチェル。
息子は遅刻が確定し、何もかもが上手くいかない。
おまけに今度は青信号で、前の車が動かないときた。「ちょっと! 邪魔よ!」
二度鳴らしたクラクション。
それでも動かない車に業を煮やし、乱暴に抜き去る。だが、彼女は気づいていなかった。
まさかその車に乗った男が、『超』のつく危険人物であったとは……。
※以下ネタバレです。未見の方ご注意。
感想
思ってたんと違う。
予告編だけを見ると、アオり運転大好き男を間違ってアオってしまった女性が、とにかく車でズンドコ脅かされる話ーーかと思いきや。
予想より、はるかに冷静で落ち着いた展開でした。
なんかこうクロウ氏演じるトム・クーパーが、ひたすらヒャッハーしながら、立ちふさがるものすべてをなぎ倒しつつレイチェルに迫るという、パニックホラー的なものを想像してたんですが、そうではなかった。
原題の『Unhinged』=『動揺した、錯乱した』とあるように、クーパーはその前夜にとんでもない事件を起こし、すでにまともな精神状態ではなかったことが判明している。
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からの、レイチェルのやらかし。
そりゃ怒るし、粘着されるよ! と思うのもやむ無し。
クーパーはもはや失うもののない、死んでもOKな破れかぶれの人間。そこには現在のアメリカの世相や、新型コロナで疲弊、抑圧された人々の姿を重ねることができ、なんというか、他人事……と笑って済ますことのできない切実さがある。
気がする。
多分、邦題が悪いんじゃないかな!
単純なアオリ運転って話じゃないしな!
アオラレちゃった自分が言うことではないけどな!
↓本国版パッケージ。タイトルの後ろにこのおじさんがいることの説得力よ。
もちろん、だからといってつまらなかったわけではなく、めっちゃ面白かったです。
さすがはラッセル・クロウ氏だで!
↓そんな本作の大まかな流れは以下ダヨ。
1.大雨の夜、灰色のトラック内で、何かの薬をキメている大男。
多分向精神薬なのだが、飲み方がどう見ても気分の良くなるお薬にしか見えない男。
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意を決して車外へ → 大雨の中上着を脱ぎ、大雨の中丁寧にたたみ、大雨を吸ったそれを座席に置く男。
降りる前にやったらよかったんじゃないのかな!
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手にした斧で、民家のドアをメッタメタにする男。
ついでに、出てきた住人二人もメッタメタにする男……ってヒェッ。
↓
民家を燃やし、爆発を背にトラックで去る男。
2.目覚ましをかけ忘れ、例によって例のごとく、遅刻寸前に家を飛び出した美容師レイチェル。遅刻が確定した息子のカイルも後部座席で苦笑い。
「ねえ、高速は混んでる?」
「やめなよ、混んでるよ」
「混まないわよ」
「混むよ」
↓
案の定混んでる高速。低速に改名しろと言いたくなる高速。
そこに一番のお得意であるデボラから電話が。
「また遅刻? あんたクビよ」
↓
すごすごと下道に戻るレイチェル。
だが、前に止まった灰色のトラックが青信号になっても一向に動かない。
↓
「動けや、タコが!」
とんでもガラ悪行動で、前のトラックを抜き去るレイチェル。
それを殺意のこもった目で見送る男……ってどう見ても昨夜の男 → 察し。
3.案の定、追ってきたトラックの男に絡まれるレイチェル。
「謝れ」
「やだ」
「謝れ」
「やだ」
↓
鳴り響く戦闘開始のゴング。
↓
アオりというより、度を越す危険運転と化した男の追跡を振り切り、一度は息子を学校へと送ったレイチェル。
だがその後、ガソリンスタンドでまさかの再会。
↓
これって運命?
イイエ、ツケラレタンダヨ!
4.買い物をしている隙に、車からレイチェルのスマホを奪った男。
なんと、このご時世にロックをかけていなかったスマホは、個人情報がだだ漏れ。
↓
始まる男のターン!
離婚弁護士のアンディに始まり、同居中の弟フレッド、その婚約者のメアリー、そして息子カイルと、次々と魔の手にかけようとする男。
もはやアオリ運転ってレベルでないのだが?
果たして、レイチェルは男の魔の手から逃げ延びることができるのだろうか……?
映画は面白かったのですが、一つ気になる点が。どこかの予告編だか何かで、店員がクーパーを指して「気をつけて。あいつはアオリ運転の常習犯よ」と言っている映像があった気がしたんですが……今見てもそんなものどこにもないし、一体アレは何だったんすかね、と狐につままれたような気分になった筆者です。
別の映画と取り違えたのかなー。ふっしぎー。
人物紹介
●トム・クーパー
映画の冒頭で、初っ端登場する大男。ハアハアと息遣いが聞こえるわりに、なかなか顔が正面から映されないのだが、どう見てもラッセル・クロウ氏です。
そんな氏は、マッチ箱の側面を使わずに指の摩擦だけで火をつけたり、マッチが燃え尽きるまで持ったまま離さない我慢比べを披露してみたり、結局それに何かの意味があったかというと特にそんなこともなかったりと、トム・クーパーという男のヤバさを開始数分で見せつけてくれるスバラシさ。
多分、事を起こす前の精神統一もしくは襲われる側の風前の灯的演出だったかと思うんですが、とりあえずBUKIMIさ最高潮!
彼の過去は直接は言及されないが、離婚した妻に何もかも取られた挙げ句、その時の離婚弁護士と浮気され、さらにおそらく別の男と再婚した…ようなことが言動から推察される。
「俺には何もない。暴力だけがすべてだ」
と語る通り、間が悪い時、間が悪い場所で間が悪い行動をとっただけのレイチェルに全身全霊の憎悪を注ぎ、とにかく何もかもをぶっ壊したらぁ! という行動にひた走る。
その姿勢は最後まで揺らぐことはなく、ある意味あっぱれと言いたいくらいなのだが、怖いからやめれ。
あの巨漢で↑の発言とか、リアクション取れんからやめれ。
そんな暴走街道を突き進む彼は、対決する決意を固めたレイチェルに誘い込まれ、左目に美容師用のハサミを☆☆☆されて死亡する。
死に場所を求めていたとかそういうわけではなく、もはや中身をぶちまけずにはいられない、時限爆弾的何かと化していたという感じだろうか。
こんな難役を説得力抜群に演じてしまう、ラッセル・クロウ氏は実に素晴らしい役者さんであります。
[adchord]●レイチェル
クーパーおじさんにアオラレ、ひでー目に遭う主人公。
『レイチェル時間』と評されることから、しょっちゅう遅刻を繰り返しているらしい。
そのせいでデボラにクビにされ、イライラ → クラクションプッパー! → 「私悪くないから謝らないもん」のトリプルコンボ。
正直、このあたりは身から出た錆では……状態だが、その後、クーパーおじさんの奇行は加速。ガソリンスタンドで止めに入ったあんちゃんを撥ねるにあたり、触るな危険おじさん(時すでに遅し)に昇格する。
レイチェルの行いはたしかにアレだが、相手のほうがもっとアレなため、同情票はうなぎのぼり。
でもスマホにロックはかけとけ!
そのせいで、ほぼ無関係の離婚弁護士と、完全に無関係のスタンドのあんちゃんと、血縁はあるが本件には無関係の弟とが犠牲になった。
だがデボラは犠牲にならなかった(なんでや)。
そんなこんなで散々な目に合わされたレイチェルだが、最後はホラーのヒロインらしく覚醒。
母不在の実家にクーパーを誘い込み、罠にかけた……と見せかけて、結局はタイマン勝負に持ち込まれる → 体格差エグくね? → 形勢不利 → 息子に手を出すな! とクリティカルヒット炸裂。見事やりすぎおじさんに引導を渡した。
帰路にて、危険運転の車にクラクションを鳴ら……さない、という選択を実行。
安全運転と他人に思いやりを持つことの大事さを説き、めでたし、めでたしとなる。
だからといって、この映画が交通安全協会のプロモーションに使われるかというと、そんなことはなかった。
だって、まさか前の車に精神の均衡を崩したラッセル・クロウ氏が乗ってるとは誰も思わないもん。
●カイル
レイチェルの一人息子。
若干素行がアレな母と違い、ナイスボーイとしての振る舞いが目立つ。
クーパーおじさんとの初コンタクト時にも、いち早く相手のヤバさを察知。「素直に謝りなよ」と進言するも、却下されたため、事件に巻き込まれることとなった。
思えば、高速に乗るなというのに乗り、ロックをかけろというのにかけず、謝りなよというのに謝らない。
すべてカイルの言う通りにしていれば防げた出来事だったわけで、レイチェルマジ反省しろ。 → 反省し、「あなたの言う事だけを信じるわ」とのたまうのだが、時すでに遅しである。
一度は無事に学校に送り届けられたものの、スマホを奪われたことにより、危険な立場に。
最終的にクーパーとの決戦の場にまで駆り出され、九死に一生を得ることとなった。
無事で何より。
●フレッド
レイチェルの弟。姉の家に婚約者とともに居候している。
冒頭で登場したのみで、てっきり本編に絡むことはないかと思われたのだが、なんとスマホ強奪後のターゲットNo.2に選ばれてしまう。
メアリーを失ったばかりか、可燃性液体をかけられ、ガムテープで拘束 → 「僕がこんな目に遭っているのは、全部レイチェルのせいです」という作文を音読させられる → まさにその通り → 点火!
↓
てっきり死んだと思われていたが、最後に一命を取り止めていたことが判明。
ヨカッタネエ! と幕を閉じるのだが、ちっとも良くない気がするのは多分気の所為ではない。
とんだ災難である。
●アンディ
レイチェルが雇った離婚弁護士。遅刻癖のあるクライアントにも寛大な態度を示し、パンケーキセラピーを開催するべく、ダイナーで待ち合わせる。
だが、スマホから待ち合わせ場所を知ったクーパーが来襲 → 離婚弁護士には一家言を持つ彼により、公衆の面前で、パンケーキナイフによって☆☆☆された。
「お前、レイチェルに気があるんだろう?」「俺みたいなやつを食い物にしやがって!」等、何か色々と言っていたような気がするが、知らんがな。
何度もテーブルに叩きつけられ、その度に気を失うので、そのまま死んだふりをしておけと思うも、律儀にもその度に気を取り戻すため、最終的に刺された。気の毒が過ぎる。
●メアリー
フレッドの婚約者。彼とともにレイチェルの家に居候中。
侵入してきたクーパーに人質に取られ、フレッドが構えたナイフに突き刺される形で最期を迎えた。
結果を見れば、レイチェルの血縁以外全滅といった有様……あ、デボラは無事だったか。
●ガソリンスタンドのあんちゃん
一見チャラっとしているが、たまたま居合わせた女性を助けるため、一緒に外に出てきてくれる男気を持つ。
しかも、「悪いことは言わんからやめておけ」と、クーパー自身にも配慮する発言をするなど、かなりのナイスガイ。
なのに轢かれた。
クーパー撥ねられ時はまだ軽傷で済んだものの、その後やってきた対向車に結構な勢いでズンバラ轢かれており、その後の生死は不明である。
多分、命は助かったと信じたい。
●デボラ・ハスケル
レイチェルのお得意様。彼女のあまりの遅刻癖に激怒し、解雇を言い渡す。
↓
次に殺す人物に名前を挙げられる。
↓
レイチェル、お前……。
一応、直後に警察に電話し、デボラを守るように依頼 → パトカー急行 → クーパーの狙いはフレッドだったため、デボラ無事、という流れ……なのだが。
なのだが。
パトカーが血相変えてやってきたため、確実に事情は説明されただろうし、そうすっと、レイチェルが彼女を犠牲に捧げたことはモロバレしただろうし、後のことを考えると、誠に胃の痛い話である。
有事にこそ人の本性が出るというが、レイチェルよ、マジで反省しろ。
●ロージー
レイチェルのお向かいに住む裕福な女性。
新しく買ったミニバンをさり気なく見せびらかし、しかもナンバープレートに自身の名を刻むなど、ハンカチを噛み締めたくなる存在ながら、なんとフレッド襲撃後のクーパーおじさんが乗っているのは、彼女の車である。
単にかっぱらったのか、離婚弁護士同様、富裕層にも何がしかの憎悪を抱いていそうなおじさんのことだから、やはり☆☆☆して奪ったのか、どちらかといったら後者ではないのかと思うが、なんつーか本当にとばっちりが過ぎる。
●警察
救助を求められ、ミキサー車に衝突される人(予告編にも登場)と、フレッドを助け、クーパーに発砲して弱体化させたうえに、弟の生存を告げに来る人とが所属する組織。
上記二人以外は、万事が万事、事が終わった後に現場に駆けつけるだけのヤクタターズ状態なのだが、一応冒頭にて『警察官が大量に解雇され、新しく人を雇う余裕もない』的な説明があるため、こうまで後手後手に回るのは人手不足なセイダヨとフォローされている。
ホラーもしくはサスペンスにおいて、著しい弱体化の弊害を受ける組織である。
●レイチェルの愛車
年季の入っていそうなワインレッドの車。
カイルをして、「新しい車買えば?」と言わしめる性能だが、クーパーおじさんの執拗な追跡と追突にも負けず、最後までレイチェルを乗せて走りきったヒーローである。
いやほんと、頑張ったぞ、君!
次はフレッドのお見舞いに、二人を乗せてやってくれたまえ!
●ミキサー車
予告編の編集だと、あたかもクーパーおじさんが運転し、パトカーをぶっ潰したように見えるのだが、実際はおじさんの無茶ぶり運転に巻き込まれ、止む無く追突してしまった赤の他人の車であることが判明。
予告編あるあるってやつだ!
●邦題
レイチェルと同じ目に遭った人には、笑い事では済まされないタイトル。
余談ですが、邦題の語尾に『て』をつけると、『煽られて』となり、一気に↓のような90年代ラブロマンス映画風になるヨ。だからなんだと聞かれても困るけれども。
●監督
デリック・ボルテ氏。髭の似合う男前なお方。
大変面白い映画をありがとうございます。次回作を楽しみにしております。
↓サントラが出とるらしいので貼っておきます。この髭のおいちゃんがとんでもねーざんす。
↓正体不明のトラックに追いかけられる、名作スリラー。こちらもオススメ。