映画『荒野の誓い』ネタバレ感想。西部劇にまた一つ名作が誕生。渋さ時々ドンパチもあるよ。

荒野の誓い 映画 ドラマ

原題:Hostiles
2017年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆

【一言説明】
宿敵を護送。

荒野の誓い 映画

劇場公開中に見に行くか悩み、都合がつかずに結局見送った『荒野の誓い』。
それがこの度TSUTAYAで準新作になっていたので、ウホホホイと借りて参りました。

主演はご存知クリスチャン・ベール氏。共演に『ゴーン・ガール』のロザムンド・パイクさんと、『ラスト・オブ・モヒカン』のウェス・ステュディ氏。そして『ドント・ブリーズ』の無敵じいちゃんことスティーブ・ラング氏が出演されています。

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あらすじ

夏草や、兵どもが夢の跡。
戦いに明け暮れたあの頃は遥か遠く――軍人生活も残すところわずかとなったブロッカー大尉は、大佐の執務室を目指して歩いていた。

何故か今日は、調子がよくない。
ひげを剃れば鏡がひび割れ、靴を履けば紐がちぎれ、今しがたは黒猫に堂々と横切られる始末。
「……嫌な予感がする……」

果たしてそれは的中するどころか、予想の斜め上を行くとんでも任務が、彼を待ち受けていたのだった……。

※以下ネタバレです。未見の方はご注意を。

 

 

 

感想

好みドンピシャ。
めっっっっちゃ面白かったです。

かつてこれほどまでに、クリスチャン・ベール兄貴がイケメンだったことがあるだろうか?
ある時は激やせ男、あるときは蝙蝠男、そしてまたある時は真夜中のチェーンソー男と、地力はグンバツながら、単純にイケメンとは言い切れない役に数多く挑むベール氏。
そのベール氏が。
本作ではイメのメン。
開始から終了まで、紛れもないハンサァムとして全編を貫こうとは、誰が思ったであろうか(なんかこう、途中で突如三十キロ激やせもしくは激太りしたり、もしくはヒャッハー顔で大暴れすんじゃねーのとか思ってゴメンナサイ)。
とにかく、ベール氏演じるジョー・ブロッカー大尉が、超かっけーのであります。

加えて、ヒロインを演じるロザムンド・パイクさんの演技力がグンバツで、冒頭のコマンチ族襲撃から、大尉一行合流までの流れは、まさに完璧であったことをご報告申し上げます。

簡単なあらすじとしては、

1.インディアン戦争の英雄ブロッカー大尉の元に、かつての宿敵イエロー・ホーク首長の護送任務が持ち込まれる。
大尉「お断りであります」
大佐「軍法会議にかけるよ」
大尉「どうぞご自由にであります」
大佐「年金ほしいよね、大尉?」
  ↓
ぐうの音も出ない大尉。
誰だって年金は欲しいさ!

2.嫌々ながら、モンタナまでホークを護送することになった大尉。
世論アピール用の華々しい門出から一転、世間の目の届かない場所まで来ると、途端にメンチを切り始める大尉。
馬降りろ。鎖で手を縛れと指示。
いじめか。

3.その途中、コマンチ族によって家族を惨殺された未亡人に出会う一行。
焼けただれた一軒家の中で、物言わぬ赤ん坊を抱き、「家族が寝ているから静かに」と言う未亡人ロザリー
  ↓
家族は自分で埋葬すると主張し、素手で地面を掘る → シャベルで地面を掘るも力足らず → 荒野に響き渡る慟哭。
  ↓
そっと帽子を脱ぎ、黙とうを捧げる兵士一行 → 最高か。

4.ロザリーが加わり、中継地点であるフォート・ウィンズローの町を目指す一行。
その途中、コマンチ族の襲撃を受け、西部劇らしいドンパチがあったり、その中でフランス人兵士があっけなく死に、ティモシー・シャラメ氏の無駄遣いを披露してみたり、「厳しい道中になるから、協力せんといかんよ」というホークの提案を大尉が秒で却下してみたり、夜中にこっそりキャンプを抜け出したホークが、これまたこっそりコマンチ族を始末し、大尉に恥をかかせてみたりと、とにかく盛りだくさん。

5.たどり着いたフォート・ウィンズローの町で、新たな囚人ウィルスの護送を頼まれる大尉 → なんとかつての自分の部下 → 一波乱ある予感。
加えて、ウィンズローの町でロザリーと別れるつもりが、「あなたの側が一番安心なの」という大胆発言を彼女がかますも、わずかにうなずくだけで済ませる大尉=ポンチキな予感。

6.戦争外でインディアンの一家を惨殺したウィルスに、「あんたは俺と同類だろ」と言われる大尉。
違うしぃ。絶対違うしぃ。
そんな中、突如現れた狩人たちに、ホークの家族とロザリーが誘拐されてしまう。
  ↓
敵のキャンプを見つけた一行は、テントに忍び込み、無言の攻防。
息をのんで見守るロザリー。
  ↓
ぬらり、とテントから現れる人影=ブロッカー大尉。
かっ……かっけぇぇぇぇ!!!
  

自軍のテントに戻り、傷ついたホークの家族を気遣う大尉。
心の雪解けを感じる視聴者。

7.大雨の中、屋外の木にウィルスを縛り付ける大尉。
ウィルス「肺炎にかかって死ぬわ!」
大尉「コーヒー差し入れてやっから」
  ↓
焼け石に水という言葉をご存じか、大尉。
  ↓
自分も外で寝るつもりの大尉に、「二人でテントを使えばいいわ」と提案するロザリー。
相変わらず反応の薄い大尉。
  ↓
心優しいギダー少尉が、ウィルスにコーヒーを差し入れ → 身体を壊している体のウィルス → 「大丈夫か?」と駆け寄る心優しいギダー少尉 → ころっと態度を変え、ギダーに襲い掛かり殺害、逃亡するウィルス。
ブァーーカは風邪ひかないってのは本当だな!
  ↓
大尉の制止を振り切って追ったトミーが、翌朝ウィルスとともに、遺体となって発見される。
戦争のPTSDに悩み、ホークたちにしたことは間違いだったと謝罪を口にしたトミー。
親友の死を前に、静かに涙を流す大尉。
「我々は互いに多くのものを失った」とホークに語る大尉。そして彼を友と認め、自ら握手のための手を差し出す大尉。
握り返すホーク。

8.長かった彼らの旅路も、そろそろ終わりが近づこうとしていた。
果たして、旅の終わりに大尉が目にしたものとは……?

 

西部劇ならではのドンパチはあるものの、どちらかといえば、全編渋いというか、静かな雰囲気で進む本作。
この辺が好みの分かれる点かとは思いますが、前述したように、筆者にはドンピシャな内容でございました。静かではあるものの、決して退屈ではなく、長かった戦争がほぼ終結した後の、いわば円熟期を迎えた西部劇といった感じ。
とにかく大尉と彼の部下たち、そしてイエロー・ホークがかっちょよく、見てよかったぜ! となった作品でした。
個人的には超おすすめ。
面白かったです。

人物紹介

●ジョー・ブロッカー大尉
本作の主人公。インディアン戦争の英雄。かつては先住民たちを相手に相当な大暴れをしたようだが、今は退役直前の、かつてワルだったこともあったかな感をかもしている中年男性。
大佐には年老いた退役軍人とか言われてたけど、まだ四十そこそこなんだから、あんたに言われたくはねーんだずら。
寡黙にして、不言実行な男前。
だがぽんちき。
家族を失ったロザリーに対する、さりげなくも的確な気遣いを連発。そりゃーロザリーも信頼を寄せるよ……からの、わずかに顎を傾斜させる頷きだけを返し続ける後半は、視聴者をして不安にさせ、そのままラストのとんでもポンチキ行動へとなだれ込む。
無事にイエロー・ホークを故郷で看取り、過酷な銃撃戦を生き残った二人。
シカゴへ向かう汽車を前に、別れがたい様子のロザリー。
引き止めてほしい気配満点のロザリー。
最後は目に涙すら浮かべて、別れの言葉を言うロザリー。
だが止めない。
それどころか、またしても顎の傾斜のみというリアクションを取り続けるこのポンチキ男は、戦争の英雄が私生活でも英雄であるとは限らねーんだずらという事実を思いのほか噛みしめさせるいい例……じゃなくてなんか行動したまへよこのアフォは。
  ↓
と思ってからの、最後の最後での汽車飛び乗り行動
監督、最高か。
ポンチキ、ぽんちきと糾弾しましたが、軍人と悲劇に見舞われた未亡人という、自己をこれでもかと抑圧した男女二人の過程と行く末としては、これ以上の描き方はないというくらい、とんでも最高な結末に、目頭を押さえた次第です。
その後の反応を描かないとか、天才か。
もしかしたら無賃乗車で捕まるかもだが。
現代なら、安全な列車の運行を妨害した罪に問われそうだが。

そして原題となる「Hostiles」は、「敵」という意味があるそうですが、最初はホークを敵として、野蛮なものとして毛嫌いしていた大尉が、最後は彼とその名誉を脅かす同族(白人)に野蛮性を感じ、ホークら家族を守るために敵対するという、見事な結末。
ええもんみた……と、ひたすら目を細めて二週三週した筆者であります。

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●ロザリー
映画冒頭。穏やかな日常の描写から一転。コマンチ族の襲撃を受け、夫と娘二人、そして腕に抱いた赤ん坊を一瞬で奪われるという悲劇に見舞われる。
逃亡 → 木の陰に隠れ、追っ手をやり過ごすシーンは、ロザムンド・パイクさんの演技力がパないせいで、胃が痛くなるような緊迫感に満ち満ちていました。
『ゴーン・ガール』といい、まったく素晴らしい女優さんであります。
その後の荒野での慟哭シーンも凄まじく、兵士たちでなくとも、帽子を脱いで目を背けたくなる悲壮感が。

一度はボロボロになったものの、深い信仰を持った彼女は、大尉たちとの旅で再起する強さを取り戻し、ラストの決戦では先制の一発をお見舞いするという活躍を見せる。
加えて、親友を失くした大尉の心にも寄り添い、支えられる側から支え合う仲へと進展。それが表立ってでなく、じわじわとひそかに進行していくのは、非常に上品で、そのあたりも誠に好みでした。

最後は、生き残ったホークの孫を引き取り、大尉に別れを告げてシカゴ行き列車に乗り込む。
その後の展開は前述の通りですが、淑女たるが故の葛藤を見事に演じきっておられて、ほんにロザムンド・パイクさんは最の高なのであります。
あっぱれ。

●イエロー・ホーク
ブロッカー大尉の宿敵。
大尉同様、かつては相当とんがっていたらしく、漏れ聞く彼の武勇伝はかなりとんでもない内容でヒェッ。
いくら大統領命令だといっても、よくも軍部はこの宿敵同士を一緒に旅させようと思ったもんだよ。おかげでメンチ切られたじゃねーかよ。

そんな彼も、七年もの投獄と加齢により力は衰え、一見するとただの穏やかな老人として護送されることに。
が、コマンチ族を相手に、さらりと夜間の襲撃を行い、しれっとした顔でキャンプに戻っていたと、やはり昔取った杵柄は健在な様子。
ロザリー同様、彼にも信じるものがあり、感じの悪い大尉にもこつこつと協力の意思と思いやりを示し続けた結果、二人は和解。癌に侵されながらも、ついには故郷の地を踏み、家族に見守られながら穏やかな最期を迎えた。
自らも、ネイティブ・アメリカンの血を引いていらっしゃるウェス・ステュディ氏はさすがの貫禄と、歴史を感じさせる演技の重みがあり、いい役者さんばかりが出ているなあ……と幸せを感じた次第です。

●ホークの家族
息子とその妻、娘と孫の総勢四名も、モンタナへの旅に同行する。
当初は兵士たちに囲まれて、若干居心地が悪そうだったものの、家族を亡くしたロザリーに替えの洋服を差し出したり、対コマンチ族に対して協力を申し出たりと、大尉よりもよっぽど好意的な態度を見せるいい人たち。
無事に帰ってほしいなあ……なんぞと思っていたら、なんと最後の最後。ようやくたどり着いた故郷の土地で、「ここは俺の土地なんだぜ」とブイブイ言わせる感じの悪い地元の奴らが現れ、一触即発の事態に。
その後、壮絶な銃撃戦の末、幼いリトル・ベアだけが生き残る結果となった。
家族の死をホークが知らずに逝ったことが幸い……というのはこちらの価値観であり、生と死に独自の信仰を持つ彼らがどう受け止めたかは、想像に任せるしかない。

●ホーク護送隊
ブロッカー大尉の愉快な仲間たち。
出発したときは大所帯だったが、護送の過程でズンバラ死人が出る
フレッシュフェイスでその後の活躍を期待されたものの、初回の銃撃戦であっけなく逝ったティモシー・シャラメ君はもとより、中継地点の町で「頼りになるよ」と折り紙付きで加わったにも関わらず、VS誘拐犯におけるテント内の攻防で、死の瞬間すら映されず、「死んだ」で済まされたマロイ軍曹とか、最終決戦までは生き残ったものの、旧時代の銃という、当たったらめっちゃ痛そうな銃弾で腹を撃ち抜かれたトーマス伍長とか、まあとにかく結局は大尉しか生き残らなかったんダヨ!

あっ、胸だか腹部だかを撃ち抜かれたウッドソン伍長は、離脱という形で生き残っていた。軍での人種差別を匂わせてはいたものの、彼との会話で大尉=はぐれ上司人情派なことが決定したので、最後までお供はできなかったけれどもよかったねと言ってやりたい。
やはり、西部開拓時代は過酷ですのう。

●コマンチ族
ロザリーの家族を襲撃した荒ぶる人々。
インディアンは敵の●の●を●ぐという話に聞いていた行為を実演してくれるが、見たかったかというと、誰もそんなことは頼んでなかった。
そこはぼかしてくれてよかったんだす。

冒頭からヒャッハーしつつ襲ってきて、中盤でもヒャッハーしつつ再度襲ってくるわりに、物陰に隠れたロザリーを探しに来るときは静かにガチ顔という、かなりのガチ勢。
怖ェわ。
てっきり前半の脅威になるのかと思いきや、夜間に強襲をかけたホーク氏一家にあっけなく殺害されてしまった。
そう何回もヒャッハーされても困るっちゃ困るが。

●ロザリーの家族
冒頭から大変な目に遭った一家。
人口も少なく、法の整備も整っていない時代に、自分たちだけで安全な暮らしを守るのは、相当大変だったんだろうなと思わせる。
襲撃を察知した時点で、馬に乗って全員で逃げ出せばおそらく助かっただろうとは思うが、努力して築いた家と生活を捨てていけるかと言えば、やはり難しかろうというのが人の常。
せめて子供たちの一人でも助かっていれば慰めだっただろうが、ロザリーを襲う運命はどこまでも過酷だった。
ただただ冥福を祈るのみである。

●ビッグス大佐
大尉の上官。「大統領命令だから」とホークの護送を命じるとんでも上司。
いくら道と言語に明るいとはいえ、「いや俺無理っす」と切々と訴える部下を、最終的には年金を盾に脅すという人外の所業に出る。
「引退した軍人は、せいぜいが木彫りをするくらいだよ」と宣うなど、出番は少ないながらも強烈な印象を残すのはさすがとしか。
木彫りと言われてもピンと来ないのですが、熊とか鳥とか、そんなのを彫るのでしょうか。それともお守りとかでしょうか。

●新聞社的な人
大佐の部屋にいた超絶感じの悪い人物。「戦争の英雄だ」などの皮肉的発言多数。
肉体派の大尉に比べると、どう見ても文系。
だがメンチ対決では引けを取らない胆力を有する。
捕虜もきちんと故郷に帰してあげるよ、をアピールする写真を撮って帰って行った。

●銃
一瞬の苦痛で即死させてくれそうな現代の銃に比べると、中途半端な殺傷力ゆえに、長らく感染症だの激痛だのに苦しんだ後に死ぬことになりそうな技術力の銃。多分照準の精度もさして高そうではない。
なのに、何故か西部劇ではバカスカ当たる。
多分、バカスカ撃つからであろうか? まさに下手な鉄砲もなんとやら。
でもって、当たった場所をバカスカ貫通したりするもんだから、結局のところ痛ぇ~~~~~~って感想しか出て来ない。

余談ですが、東京ディ●ニーランドの『カリブの海賊』にて、最後の最後に砲弾に寄り掛かった海賊たちが、何事かを話ながら鉄砲をランダムにぶっ放す場所があるのですが、あの銃撃音が西部劇の銃を思い起こさせ、鳴るたびに背筋がヒャンッとなるのですが、どうでもいいことを書いて申し訳ないっす。

●汽車の最後尾の乗客
「えっ……今なんか、あっちのドアから人が入って来たけど……?」的な驚きを覚える人が何名かはいそうで、でも案外誰も気にしないような気がしないでもない。

●監督
スコット・クーパー氏。『ブラック・スキャンダル』などを撮っていらっしゃるお方。
大変面白い映画をありがとうございます。次回作を楽しみにしております。

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