原題:3 Idiots
2009年の映画
おすすめ度:☆☆☆☆☆
【一言説明】
歌って踊れるボリウッド。
Amazon Prime Videoにて配信となっていた本作。
たしか過去に名作だと話題になっていた気がしたな……と見てみたら、こりゃ傑作。インド映画歴代興行収入1位も納得の、素晴らしい映画でした。
主演はボリウッドの人気スター、アーミル・カーン氏。当時44歳と知って目玉が飛び出たほどの若々しさ。共演にR・マドハヴァン氏とシャルマン・ジョシ氏。やはりどちらも30越えなのに、俳優さんってゴイス!
約三時間近くも尺があり、第一部と第二部に分かれる本作。途中に挟まれる休憩の文字に、往年の名作を思い出して、あるあるってなりましたざんす。
タイトルが直球で『三馬鹿』ってのが爽やか。
あらすじ
大学卒業から十年が経ったある日、ファルハーンとラージューの元に、一本の電話が入る。
『ランチョーが帰る』と。
慌ててとある場所へと出向く二人。
そこは、かつて彼らとランチョーとが青春を過ごした、超難関工科大学ICEのキャンパスだった。
現れるはずの友を待ちながら、二人は学生時代を思い起こすのだったが……。
※以下ネタバレ。未見の方注意。
感想
初っ端。一本の電話を受けた中年男性が、仮病を使って飛行機を止めた後に逃亡。身分を偽って別人の出迎え用タクシーに乗り込み、途中でラージューをピックアップ。慌てた様子で大学構内へと走る。
掴みからして興味を引き付けてやまない構成に、こいつは名作の予感だぜ! と思ってからの、学生時代のランチョー登場。
これが稀代の傑物。
頭は切れるし、情にも厚いし、まさに破天荒という言葉がぴったりなランチョーの活躍に、俄然身を乗り出して見入ってしまった次第です。
原題は『三馬鹿』となってますが、中心人物はやはりランチョー。彼に出会わなかったら、ファルハーンもラージューも、ぱっとしないまま落ちこぼれとして学生時代を終えたかもしれない。そのくらい牽引力と行動力のあるランチョー。
物語は卒業して十年近く経ったファルハーンたちと、学生時代のランチョー達を交互に映していきますが、なんと十年後はランチョーが行方不明状態にあることが判明。あれほど仲が良かったのに、彼が今どこに住んでいるかすら知らない……という、学生時代の描写が濃密になればなるほど、現状の信じ難さが加速する内容になっております。
結局、ランチョーとは何者だったのか?というのが物語の肝。
学生時代にファルハーンとラージューの家庭環境が語られ、両家家族も登場すれど、ランチョーだけは一切謎のまま。
あらゆる騒動を巻き起こし、学長に目をつけられ、一時は退学の憂き目に遭いかけたランチョー。けれど入学から卒業まで、一貫して首席であり続けた男、ランチョー。
仲睦まじい恋人ピアも得、最高の友人二人も得、けれど卒業式が終わった後、歓喜に沸く学友を後目に、一人寂しそうにタクシーでどこかへ消えていくランチョー。
大人時代にて彼の隠された事情が明らかになったとき、今まで目にしたすべての出来事が、どれほどかけがえのないものだったのかが、胸に迫る内容となっています。
思うに、確かにランチョーは特別な奴だった。
一見すると、ファルハーンやラージューは、彼の引き起こす騒動に引っ張りまわされているだけの存在に思える。彼ら二人がいなくたって、ランチョーは一人で伝説を打ち立てただろうし、学長と渡り合えもしただろう。
けれど。
やはり、ファルハーンとラージュー。この二人がいたからこそなのだ。
彼らはランチョーに度肝を抜かれ、感服し、時には呆れ、彼の優秀さを妬んで落ち込んだりもする。
だけど、決してランチョーを一人にはしない。ランチョーを孤高の天才にはせず、『三馬鹿』の一人として仲間内に留めてくれる。
二人は一見凡人だが、ランチョーと肩を並べて馬鹿をやれる素質を持っていた。モナの結婚式に乱入して飯を食ってみたり、酔っぱらって学長宅を襲撃してみたり、気取った学友の見せ場を台無しにしてみたり……とにかく、やることなすことアフォだらけ。
けれど、『三馬鹿』でいることの楽しさよ。
青春とは、馬鹿と出会い、馬鹿をやり、馬鹿を卒業……するようでしないまま、大人になることを言うんですかね……とかよくわからんことを書いてみましたが、とにかくめちゃくちゃ面白かったです。
そんな爽やかな感動をくれる本作ですが、何故か勝手に本場ボリウッド製ではないのだろうと高をくくっていました。『スラムドッグ$ミリオネア』のように、インドが舞台だが、製作は外国……みたいな。
だからきっと突然踊りだしたりしないし、主人公は実は大富豪の隠された息子……みたいな設定もないんだろうと勝手に思ってました。
踊りました。
踊ったし、歌ったし、ランチョーの正体はやっぱり大富豪にまつわるものでした。
これぞボリウッド!
最初に見たボリウッド製は、当時大人気だった『踊るマハラジャ』でしたが、題名通りめちゃくちゃ踊ってましたねー、あれねー。
本作もめちゃくちゃってほどじゃないけど、かなり歌い踊ってましたね。
この画面いっぱいに渦巻くエナジー。
本作ではインドで社会問題となっているエリート思考や自殺の多さなども取り合げていますが、それらを内包して、かつ見るととんでもなく元気になれる。
それがインド。ボリウッド。
最高。ってやつです。
人物紹介
●ランチョー
本作の主人公。十年後は行方知れずの謎多き人物として描かれる。
作中での活躍は枚挙に暇がないが、白眉は序盤における学長との『本』に関するやり取りであろう。言うぞ、言うぞ……からの、「本です」は超スカッ!! 脚本の人は天才か。こんな学友がいたら、尊敬するしかないでしょう。
そして、その正体は大富豪……ではなく、大富豪の息子の身代わりに、超難関大学に入学した使用人の息子だったことが判明する。
ほんとボリウッドは、大富豪と使用人のあれやこれやが大好きだな!
そのため、卒業後はファルハーンたちと連絡を取ることは一切許されず、首席というおまけ付きの学位をドラ息子に献上。遠い地で学校を開き、学んだ技術で様々な研究や開発を行っていた模様。
そっか、そんな事情があったら仕方ないよね……と納得しかけたんですが、おいちょっと待て。まさかピアもそのまま放って行ったのか?
↓
放って行った。
このブアァァァカ! バァーーカ!!
結婚まで意識した恋人を十年放置とか、何考えてんだお前!
そりゃーピアも仕方なく元カレと寄りを戻したりするさ!
でもまあよく考えると、ピアに正体を明かす → 学長にばれる → ドラ息子の学位取り消し、となるだろうから仕方ないっちゃ仕方ないのか。学長は存在自体がバカ高いハードルだからな……。
でもラストはピアと結ばれるわけで、いずれはバレると思うのだが……細けぇことは気にしたらいかんのだ。
紆余曲折はあれど、最後は見事なハッピーエンド。あっぱれ。
●ファルハーン
眼鏡をかけたランチョーの友人。家族――主に父親の要望で技術者を目指し、難関大に入学。
でも実は写真家になるのが夢で、しかもかなり写真が上手。現役時代は落ちこぼれていたとはいえ、国内屈指の難関大に入る地頭の良さがあるうえに、写真上手男とか、スペックはかなり高い。
しかも突然のランチョー帰郷の報に、飛行機を止めて駆け付けるなどの機転と胆力も持ち合わせる。
十年後時点でまだ独身のようだが、彼を放っておくなんて、周囲の女性は何をしとるんじゃいと思ってしまった。
温和で人との衝突を避けたがる傾向にあり、長らく父親に自分の本当の夢を告白できなかった(でも部屋中にめんこい動物の自作写真を飾っていたので、消極的にアピールはしてた → 父は気にしなかった)。
だがランチョーの説得により、初めて父親と真っ向から対立。理解を得ることに成功し、夢をかなえることができた → 歓喜のあまり、ラージューと二人でランチョーを崇める。でもズボンは履け。
●ラージュー
苦労人の学生。ランチョー、ファルハーンと並んで三馬鹿と称される。よく見ると、ファルハーンはそこまでアフォなことはやっておらず、酔っていたとはいえ学長宅に放尿したり、ランチョーを守るためとはいえ、とっさに窓から身を投げたりと、ラージューはかなりのトラブルメーカーな気がしないでもない。
そして家族から受けるプレッシャーがパない。
何せ父は病気で寝たきり。持参金がないために結婚できない姉と、父の代わりに働くが体を壊しつつある母という、三人の未来と期待を一身に背負っている。
そりゃーお守りジャラジャラ持ち歩くのも納得だよ、と思ってしまう。
けれど十年後は中々快適な生活を送っているようなので(美人の嫁さんもいるし)、ランチョーの励ましのおかげで内定獲得した会社は、かなり良い会社だった模様。幸せそうで何より。
でも最終的に、妻帯者の身でありながら、他の女性と駆け落ちするというとんでも行動をかますので、後でもしかすると大変なことになったかもしれない。がんばれ。
●チャトル
通称サイレンサー(音のない極悪な屁をかます所以)。
ランチョーに主席の座を奪われるものの、次点につけるくらい優秀なライバル学生。ランチョー含む三馬鹿を目の敵にしており、けれどそのせいで結構なひでー目に遭う。
学長をたたえる詩をあちゃちゃーな内容に変えられたり、公衆の面前で自分の屁をたたえる詩を読まされたり、三馬鹿はいつ刺されてもおかしくないと思う。
学生時代もいやなやつだったが、十年経ってもやっぱりいやなやつだった。
そんなだから、最終的なオチを担当する羽目(ようやく探し当てた超大物開発者が実はランチョーだった)になるんだよ、って言ってやりたい。
無事に取引が結べるとよいね。
●ピア
本作のヒロイン。めちゃんこかわゆい医学生……だが学長の娘。あちゃー。
姉共々、学長の遺伝子が入っているとは思えないくらいかわゆく、できた人柄の女性。
卒業間近、学長がラージューを落第させるべく、自ら問題を作ったと知って激怒。学長室の鍵を渡し、問題用紙を盗むようにランチョーを焚き付けるものの、それが発覚したために、ボーイフレンドたちを退学の危機に追い込んでしまう。
そこに起きる突然の停電。偶然、姉のモナが産気づいたため、三馬鹿を筆頭に、その場にいた学生全員で一丸となって吸引機を作成。ピアの的確な指示もあり、無事に出産 → 感謝した学長が退学を取り消す、という大団円を迎える。
……のだが。
赤ちゃんの頭を吸引機で引っ張るとか初めてキイタヨ。
みんな有事すぎて流していたけど、後で思い起こすと、「出産ってすげぇー……」となったのではあるまいか……。
多分誰か一人くらいは、田舎のおっかさんに電話して、「俺……吸引機ベビーじゃないよね……」とか聞いたんじゃないかと想像したくなるが、そこはやはり工科大学の学生諸君。科学のすばらしさに感動したのかもしれない。
それから十年後。さらに別嬪になったピアちゃんは、行方不明のランチョーを諦めて、元カレと結婚しようとしていた。そこにランチョーの居場所を知ったラージューたちが乱入。花嫁をかっさらいその場を後にした → 再会してハッピーエンド。
だが、いくらランチョーが行方知れずでも、あいつはないわー。他に候補いなかったんかい。
●学長
競争主義のICE学長。ランチョーと並ぶ本作の名キャラクター。毎日同じ時間にオペラを聞きながら髭を沿ってもらうことを日課としている。
破天荒で何かと反抗するランチョーを目の敵にしているが、その実力には一目置いている節もあり、娘の出産事件を機に和解。優秀な学生に与えると豪語していた自身の大切なペンをランチョーに与えた。
ランチョーたちとの口約束が原因で、ひげをそり落とされてしまう。
当初は「私の髭がー」と絶叫していたが、十年後も髭なしのままだったので、案外気に入っているのかもしれない。
ピアの結婚式にはもちろん出席。突如荒らされた三馬鹿仲間が娘をさらっていくが、モナとともに「ありゃー」的な顔で見送っていただけだったので、ずいぶんと丸くなった模様。
エリート主義が目立っていたとはいえ、彼もランチョーに劣らぬ傑物なのは確か。決して一方通行ではなく、互いに影響を与え合っていたからこその変化だと思うと、目頭が熱くなります。
●ファルハーン父
長年息子の幸せはエンジニアになることだと信じて疑わなかったおとん。
だが、初めての犯行を前にし、卒業祝いのパソコンを掴んで「返品してくる」と宣言。
からの、「カメラを買ってくる」発言。
親父ぃぃぃぃっ!!
●ラージュー父
中盤で突如体調を崩し、ランチョーとピアによってタンデム+1の状態で病院内を突っ走り、医者の元まで届けられる。
これが図らずもランチョーとピアのなれそめとなり、キューピット役になったわけだが、知るかって話だぜ。
事なきを得てよかったです。
●ピア元カレ
なんでも値段を言う男。
「●●円の●●なのに!」が決め台詞。
だが、自身で購入した商品の値段はすべて覚えている筆者的に、正直嫌いになれない人物であることを告白します。
値段を叫ぶのはやりすぎだと思いますけどね。ええ、ええ。
●監督
ラージクマール・ヒラーニ氏。ボリウッドで活躍中のお方。
大変面白かったです。ありがとうございます。
↓Amazon Videoで好評配信中。見ればわかる三馬鹿具合。